英雄と美姫の物語   作:ながしながされ

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前回と同じく設定を説明する回なので、話は進みません。次回からドンドコ進めていきます。

前回のあらすじ
モモンガ「恥ずかしい///ナーベとチーム!!」


誤字報告いつもありがとうございます。


七話『人間』

 モモンと共に宿に着くナーベ。先を進むモモンは部屋の扉を開け、中に入っていく。

 あぁ、なんという失態だ。御身自らの手を煩わせ、扉を開けさせてしまった。モモンガ様にお会いしてから、私は失態しかしていない。

 ナーベも部屋の中に入ると、モモンは既に鎧を外し、いつものオーバーロードのお姿になられている。御方がソファーに座るのを待ち、跪くのは禁止されているのでその場で頭を下げて謝罪する。

 

 

「申し訳ございません、モモン様。我が主人である貴方様自らに扉を開けさせてしまうとは、御方に仕えるメイドとして失格です。どうか先程の失態も合わせて罰をお与えください。」

 

 

 え?と聞こえてくるが、そのままの体制でナーベは続きを待つ。

 

 

「コホン。いや良いナーベ、いやナーベラルよ。そなたの失態の全てを許そう。」

 

 

 そうなのだ、このお方はそういう方なのだ。弐式炎雷様からモモンガ様に代わりご慈悲を与えられて七年程。ナーベラルはこの御方のお優しさをその身で経験している。しかしそれに甘えてはならない、今までこの身に余るほどの慈悲を頂いている。それ以上の忠誠を、恩義を返さなくては。

 

 

「いいえ、モモンガ様。罰をお与えになられないのであれば、私の心に刺さった棘は永遠に抜けることはありません。どうか罰を!」

 

 

 ナーベラルは懇願する。ふむ、とモモンガ様は顎に手をやり考える素振りを見せる。

 

 

「そうか、それ程罰を望むのであれば与えよう。だかそれは後にする。今はお前に言いたいことがあるのだ。」

 

 

 罰を与えられることに少しは気が軽くなる。このまま罰を与えられなければ彼女の心の棘はやがて体を腐食し、ご命令に背くことにはなるがその身を滅ぼしていただろう。

 それにしても言いたいこととはなんだろうか。もしかしたらあれ以上の失態をしてしまったのだろうか。だからこそ、そんなことは些末なこととお許しになられたのではないか。

 そんな考えがよぎりナーベラルは震えるが、どんなことを言われようとそれに従うのみと腹を決める。例え不要と棄てられようとも。

 

 

「まず、お前のその喋り方とその態度は何なのだ?」

 

 

 予想外のことを問いかけられる。モモンガ様はどうやらナーベラルの喋り方と態度が気に食わない様子。

 ずっとモモンガ様にご無礼を働いてしまっていたのか。しかしもう後悔しようとも遅い、遅すぎる。

 ナーベラルは何度目かわからない謝罪をする。

 

 

「はっ、ご無礼を──」

 

 

「あ、いやそういうことじゃなくて。うむ、ナーベラルに問おう。お前にとって私はどういう存在なのだ。」

 

 

 途中で言葉を遮られるが無礼を働いていた訳ではなかったことに安堵するが、その質問に対しては、本心を全て述べていたら時間がいくらあっても足りないので、その一端を簡潔に頭を深々と下げ述べる。

 

 

「至高の御方々のまとめ役であり、ナザリックが主人。他の御方々がお隠れになられたあとでもお残りになられ、一介のメイドである私めを慈しんで頂いた慈悲深き御方でございます。」

 

 

 言い終わると、お、おおぅ。と聞こえた気がするのだが、確認するわけにもいかないのでモモンガ様のお返事を待つ。

 

 

「素晴らしいぞ!ナーベラルよ!お前であれば、問題なく事を運べると確信した。」

 

 

 失態ばかりだった私に、忠義もまだ示せていない私に、モモンガ様はそう仰って下さった。私の忠誠を受け取って下さり、私であれば問題ないとおっしゃって下さった。

 喜びで泣きそうになる。

 

 

「時にナーベラルよ。私がお前を慈しんだ、というのはナザリックでの話か?」

 

 

 モモンガ様は更に問いかける。

 

 

「はい。その通りでございます。モモンガ様」

 

 

 なるほどな、と言う声が聞こえる。その質問をした意図はわからないが、何か深淵なるお考えによるものなのだろう。ナーベラルにはその考えの切れ端程度もわからない自分を責める。

 

 

「そろそろ座って良いぞ、ナーベラル」

 

 

 

 はっ!と返事をし座る許可をいただいたので、モモンガ様の下まで行こうとするが、あ、いや。前のソファーにかけてくれ。と仰られるので、少しでもお側にいたかったのだが言う通りにする。それを確認された後、口をお開きになる。

 

 

「ナーベラルお前の忠誠はよく分かった。だがもっと肩の力を抜いてはくれないか?喋り方ももっと砕けた言い方で良い。二人きりの時であればまだ良いのだが、外でその喋り方では疑問を持つものが出てくるだろう。扉を開けるなどといったこともせんでいい。あと、これはさっきも言ったが敬称も不要だ。」

 

 

 そう仰られるが、いくら御方のご命令であれどそのような不敬な振る舞いをする訳にはいかないのではないか。もし他のシモベがそんな私の姿を見れば、許してくれる者はいないはずだ。お言葉にはなってしまうが断ろう。

 

 

「しかしモモンガ様、私は──」

 

 

 モモンガ様は手を挙げられ、言葉を静止するよう振る舞う。

 

 

「で、あるならば。それをお前が欲していた罰としよう。肩の力を抜けナーベラル。敬称くらいであれば私としかいない時のみ許可するが、喋り方はそのままだ。どこで誰が聞いているかわからないし、使い分けるのも難しいだろうからな。しかし今日は練習として、朝まで敬称も許可しない。分かったかナーベラル。」

 

 

 なんとお優しいことなのだろうか、御自らに不敬を働くことを罰とするとは。しかし確かに罰だ。ナーベラルが敬愛する主人に無礼に振る舞わなくてはならないのだから。

 

 

「あぁ、それと、私は今よりアインズ・ウール・ゴウンと名乗る。今後はアインズと呼んでくれ。」

 

 

 

 さらに加えてモモンガ様、いやアインズ様はご自身の名前を改名される。

 ナーベラルにとって「アインズ・ウール・ゴウン」などどうでもいい名称ではあるが、もしかしたらそう名乗ることでこの世界にいるナザリックのシモベたちに自身の存在に気付いてもらうためかもしれない。もちろん、アインズ様がそれしか考えていないはずもないのだが。

 

 

「はっ!ご拝命承りました。アインズ様」

 

 

 新たな名前になった主人の名前を呼ぶ。

 

 

「違う!敬語で喋るにしても「わかりました、アインズ」もしくは「アインズさん」だ。いや、ちょっと待て、そもそも外で私の名前を呼ぶ機会はしばらくないだろうから、モモン、いやこの姿で呼ばせるのも変か。今は名前など呼ばんでも、お前とかあなたとかで良い。」

 

 

 アインズ様から早速叱られ、気を付けなくては、と思うのだがそれでも問題がある。罰であるからアインズ様に不敬な話し方をしなければならないのは仕方ないとして、問題は呼び方だ。アインズ様がお与えになられた二つの選択肢、お前と呼ぶか、あなたと呼ぶか。お前は論外すぎるので残された選択肢は、あなたなのだが、その呼び方では不敬というよりも、まるで…

 ナーベラルは少しずつ顔を赤くしていく。しかしこれは罰なのだ、他に意味などないだろう。意を決し、アインズ様のご命令通りにする。

 

 

「わかりました、あ、あ、あなた」

 

 

 言い終わるとナーベラルの顔は完全に真っ赤になり、その恥ずかしさからか顔を下に向ける。

 

 

ポワーン

 

 

 ナーベラルが知る由はないが、アインズも感情が抑制される。自分で言ったことなのだが、まさかそういう言い方になるとは思っていなかった。

 認識が違ったのだ。アインズは名前は呼ばなくていいと言った。もし自分を呼びたければ「おい」とか「あの」で事足りると思っていたからだ。しかしそれだけだと会話に支障が出ると思い、その場合は「お前」とか「あなた」と呼んでくれ、と言ったつもりだった。

 だがナーベラルは名前の代わりに「あなた」と呼んでくれと言われたと思ったのだ。なので「わかりました、アインズ様」の「アインズ様」の部分が「あなた」へと変わる。仮に選択肢に「あなた」がなければ「わかりました、お前」と言っていたかもしれない。そんなことは絶対にないのだが。

 

 

「う、うむ、いいぞナーベラル。その調子だ。だがしかし、やはりあなたと呼ぶのはやめよう。今はアインズと呼んでくれ。あぁ、敬称も許可する。」

 

 

 流石にむず痒過ぎるのでアインズは呼び方だけは戻してもらおうとする。しかしナーベラルはそれを断る。

 

 

「しかしあなた、私は今罰を受けている身で、慈悲をかけて頂くわけには──」

 

 

「いや、やめてくれ。」

 

 

 最後まで言うことは御方のお声がけにより叶わない。

 言葉を遮ったアインズの命令により今後は呼び方を戻さなくてはならないことにナーベラルはシュンとする。

 そう、実はナーベラルは「あなた」と呼ぶことにハマっていたのだ。初めは、不敬ではないだろうか、シモベである私如きがそのように呼ぶなど、と思っていたのだがいざ呼んでしまえば、なかなかどうして途轍もない特別感に包まれた。恐らく至高の御方を「あなた」と呼んだのはナーベラルだけだろう。しかも勝手に呼んだのではない、罰とはいえ御方のご許可を頂いたのだ。これが至福ではないシモベなどいないだろう。

 しかし今後はもう呼ぶことはできない。

 

 

「かしこまりました。アインズ様。」

 

 

 よろしい、とアインズ様は満足され、次に人間のことはどう思うか聞かれる。ゴミです、と端的に的確に自分の本心を話す。

 

 

「ナーベラル、その考えを捨てよとは言わないがもう少し、、ん?人間?人間か。ナーベラルすまないが、お前のアイテムボックスに入っている足輪を探してくれないか?」

 

 

 アインズはナーベラルを叱責している途中で何かを思い付き、足輪を所望する。どのような足輪か尋ねると、名前は変身の足輪アンクレットオブトランスフォーム。過去に弐式炎雷が変化へんげの術と称して製作してもらったオリジナルアイテムである。

 

 効果は一つの足輪につき一種類の種族に変身することができ、見た目とゲーム内表記をその種族に変えることができる。これだけを聞けばチート級かもと思うのだが、変身中は種族特性は全て無効となる。例えばだが、アンデッドから悪魔に変身しても、悪魔はおろかアンデッドの種族特性ですら無効となる。また専用装備、つまりその種族専用の装備やカルマ値による専用装備などの全てを装備することはできない。複数の職業(クラス)を習得していても、制限がかからないのは一つの職業(クラス)のみで、選択した職業(クラス)以外の能力は使用ができない。スキルも同様に、選択した職業(クラス)に付随するスキルのみ使用ができる。しかしレベルが下がっているわけではないのでステータスのみ制限は受けない。

 弐式炎雷曰く、忍者たるもの変身は必須、とのことだったのでアイテムを作った当初は愛用していたのだが、縛りはキツく、変身しなくてはいけない場面もなく、なにより製作コストはバケモノだったので結局一つのみしか作られなかったのだが、それもすぐに使わなくなり、彼が引退するときにこの足輪もモモンガへと渡し、それをナーベラルのアイテムにボックス仕舞っていた。

 

 ナーベラルは足輪を見つけアインズに差し出す。

 それを装備し、よく見ておけよナーベラル。忍法!変化の術!!と言い効果を発動させる。

 周りは光に包まれアインズのローブから見えていた骨は肉へと変わり、骸骨の顔も人間の顔へと変わる。

 

 

「どうだナーベラルよ。これで私も人間になったぞ。」

 

 

 アインズは、人間はゴミという認識を少しでも変えようと、先ほどの足輪を思い出し自分が人間の姿になれば少しは変わるのでは、と人間の姿になったのだったが、ナーベラルはただ褒めるだけ。

 

 

「はい!流石は至高の御方です!」

 

 

 え?何が流石なんだ?そういうこと聞いてるんじゃないんだけどな。

 アインズはとりあえず自分の姿を確認しようと、姿見鏡を出してその姿を見て驚愕する。

 こ、これは……変態だああああ!!

 顔を確認するよりも先に自分の格好に目がいった。ローブからは上半身がほぼ見えており、露出しているところ以外はむしろその全てを隠すような格好で、より一層上裸であることを際立たせている。指には大量の指輪もつけており、そのアンバランスさはとてもじゃないが常人がする格好ではない。これのどこが流石なのだろうか?

 顔を見たあとすぐ着替えよう、と決心し再び鏡を見て、自分の顔を確認する。

 

 いや、誰。

 その顔は前世の鈴木悟の顔ではあるのだが、リアルとは違い痩せた頬は肉付きもよくなっており、不健康そうに見えた肌も今では健康そのものといった血色もよく、艶のある肌になっている。

 しかしそんなことよりも、である。顔が、以前にも増して整っているのだ。輪郭は完全な左右対称となっており、人畜無害そうな顔ではあるが目には力が籠っていて、鼻筋も綺麗に通っている。それもそのはず、この顔はユグドラシル産であり、リアルから顔を持ってきた訳ではないのだ。

 俺っぽいのが逆に変に感じるなあ、と思いながら着替え、ナーベラルに再び問いかける。

 

 

「そういう事ではない。私は今、お前がゴミと言った人間の姿になったのだ。私がこの姿でもお前の人間に対する認識は変わらないのか?」

 

 

 ナーベラルは一考もせず思う、もちろん変わるはずがない、それとこれとは別なのだ、と。我らが神である至高の御方のお姿が人間になろうとも、そのご威光が変わる事はない。例え、御方が元々人間であったとしても、この世界に住む下賎な者どもとは違うのだ。

 

 

「変わりません、至高の御方はただ存在するだけで尊きもの。この世界のゴミクズどもは我らが創造主に創造されなかった憐れな下等種です。」

 

 

 それを聞いたアインズ様は、そ、そうか、とだけ返し続けて仰る。

 

 

「いきなり認識を変えろと言っても難しいだろうから今はそれでいいが、人間をあまり侮るな。ナザリックを1番窮地に陥れたのも人間なのだ。奴らは愚かにも徒党を組みこちらの寝首を掻こうとしてくる。だからという訳でもないが、外ではあまり人間を蔑んだ発言はするな、思っても口には出すな。どこで恨みを買うかわからんからな。」

 

 

 ナーベラルはその時のことを思い出し、ギリッと歯を鳴らす。

ユグドラシル全盛期──DQNギルドとしての名を欲しいままにしていた頃、約1500人による人間種もしくはそれに類する者どもが侵攻して来たことがあった。階層守護者は全員死亡し、第八階層が突破されれば残るはセバスとプレアデスのみが最後の玉座の間の守り手として戦う事になっていた。──第九階層までたどり着いた者はいなかったが。

 

 あの時ほど人間を憎んだことはなかったわ。アインズ様の仰られる通り人間は愚かな者しかいないから、いつどこで誰が仇なしてくるかわからない。警戒しなくては。

 

 アインズの言葉は彼女に人間を警戒させるには十分だったのだが、今まで以上に人間を蔑むようになる。──しかし発言にだけは気をつけよう、とも考える。もしあの時のようなことがあればナーベラル1人では御身をお守りすることはできないのだから。

 

 

「はい、アインズ様。以後気を付けます。」

 

 

 アインズ様はよろしい、では最後に、と明日のご予定をお決めになられる。

明日はとりあえず組合に行って仕事を受けてみることにするらしい。わかりました、と返事をし話はお開きとなるのだが、ナーベラルはこの後に起こる出来事によって今までのやり取りの大抵を忘れてしまうのだった。

 

 

「ああ、そうだ。ナーベラルにこれを渡しておこう。これは維持する指輪リングオブサステナンスといって、食事、睡眠が不要となる指輪だ。付けておけ。」

 

 

 モモンガ様が私に指輪を…

 頭ではそういう意味ではないとわかっているのだが、指輪を貰うという行為にもしかしたら、と淡い夢を見てしまうのだがその後のアインズによる、「あなた」と呼ばれたり、指輪を渡したりまるで夫婦みたいだな、という言葉に完全に思考停止し、今までのやり取りは指輪を貰ったことと「あなた」と呼んだことしか思い出せなくなるナーベラルだった。

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