学マス世界に転生したV.Ⅱスネイルが月村手毬をプロデュースする話   作:雪浪夏鶏

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STEP1「定期公演『初』」
親愛度1「決行」


 

 

 

 接続していた機体──アーキバス•バルテウスから逆流してくるエネルギーの奔流、そして爆発。

 尋常ならざる苦痛が肉体の内側を走り抜け、破壊していき──この上ない苦悶の表情を浮かべながら、スネイルは絶叫する。

 

「うあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 暁の空の下で発せられたその壮絶なる断末魔が、彼の残した最後の言葉となる──筈だった。

 

(っ、頭が痛む……まだ私は、生きているのか……?ここは、一体……)

 

 自分が上を向いているのか下を向いているのか、重力すらも定かではない空間の中でスネイルは思考を巡らせる。

 今現在の状況を測りかねていたその時──突如としてスネイルの頭の中に、知らない人物の声が響いた。

 

『プロデューサーとしてアイドルを育成し、一番星(プリマステラ)にまで育て上げなさい──そうしなければ、元の世界に戻ることはできません』

 

(プロデューサー……アイドル……?そもそも、貴様は一体──)

 

 訳の分からない状況が続く中、目の前に光が差すような感覚がスネイルを襲い──そして気づいたら、彼はベッドの上で目を覚ましていた。

 見覚えのない空間、見覚えのない服装、そして──自分の肉体の、異様な若さ。

 そもそも若さ以前に、体の感覚がどこかおかしい──ベッドの上である程度体を動かし、そしてスネイルは気づく。

 

「強化手術の影響が無くなっている、これでは普通の人間と大差がない……これもコーラルの影響なのか……?」

 

 鏡を見ると、そこには確かに自分の顔が映し出されていた──以前のそれよりも、やや若々しい顔が。

 どうやら自分の肉体は若返り、そして強化人間ですら無くなっている──そこまで状況を把握して、そして先ほど見ていた夢の声を思い出す。

 プロデューサー、アイドル、一番星(プリマステラ)──まず、それらの単語の意味を理解しなければならないだろう。

 都合の良いことに、スネイルが目覚めた部屋にはパソコンや資料などが置かれていた──スネイルは小一時間ほどそれらを用いて、知るべき事を知った。

 

「どうやら私は、全く違う世界へと何らかの現象で連れ去られてしまったようですね……ご丁寧に、プロデューサー科の生徒としての立場まで用意されている……まぁ良いでしょう。企業として、恥じない結果を見せるまでです」

 

 結局、バスキュラープラントへのザイレムの突撃は阻止されたのか──無事にアーキバスは、コーラルの回収を済ませたのか。

 そしてその後、企業たる自分が居なくなりアーキバスはキチンと回っているのか。

 そもそもこうしている今、元の世界で時間が進んでいるのかすらも定かではない──そしてそれらを確認するためにも、今は夢の声の指示に従わざるを得ないだろう。

 

「なんであろうと構いません──プロデューサーとして担当アイドルを一番星(プリマステラ)にまで導き、元の世界へと帰還する。それが今の私がすべき事です」

 

 スネイルはメガネのずり落ちを直すように、指でクイっと持ち上げながらそう宣言した。

 

 

 ─────────

 

 

 スネイルがプロデュースするアイドルを選ぶにあたって、必須となる条件の一つとしてまず、『一年生である』というのがあった。

 この初星学園でのトップアイドルの称号である、一番星(プリマステラ)を決めるための大会── Hatsuboshi Idol Festival。

 通称H.I.Fは年に二回、夏と冬に行われている──今から三年生のアイドルをプロデュースした場合、一番星(プリマステラ)を目指すチャンスは今年の夏と冬の二回に限られてしまう形となる。

 だが一年生のアイドルをプロデュースすればそのチャンスは三倍に、つまりは六回となる。

 一刻も早く元の世界に戻るためにも、可能なら今年の夏には一番星の称号を手にしておきたい所ではあったが、予備のプランは多いに越したことは無い──確実に元の世界へと戻るためにも、プロデュースするアイドルは一年生にしておくに越した事はないだろう。

 そして一年生の中で未だにプロデューサーがついておらず、その上で一番星(プリマステラ)になり得る才能を秘めていると思われるアイドル科の生徒たちという候補の中から、更に厳選していき──それぞれの過去の実績なども加味して、スネイルは一つの結論に辿り着いた。

 

「月村手毬──彼女には、トップアイドルになり得る素質がある」

 

 そう呟いたスネイルが持つタブレット端末には、この学園の生徒──月村手毬の過去のライブ映像が映し出されていた。

 彼女が、『SyngUp!』と呼ばれるユニットに所属していた頃のライブ映像──その中での月村手毬のパフォーマンスが、妙に印象に残る。

 自分でも何故、そう思ったのかよく分からない──ただ、彼女のライブ映像からは確かにスネイルにそう思わせるだけの何かがあった事には違いない。

 彼女を選べば間違いないと思わせる、何かが。

 上手くその感覚を言語化できないのが、スネイルにとってはもどかしかった──合理的な判断を取るべき立場の自分が直感に頼ろうなどと、本来あってはならない事だ。

 だが────

 

「いえ──私はヴェスパー、アーキバスです。直感とは、今までの経験などを踏まえた統計に基づく、無意識の計算によって働くもの。直感は直感でも、企業たるこの私の直感であるのなら間違いはないでしょう」

 

 自分なりの理屈を捏ねて己の直感を都合よく解釈し、スネイルは席を立つ。

 自分が目をつけたアイドル──月村手毬を、スカウトするために。

 

 

 ────────────

 

 

「率直に言いましょう──私が貴方を、プロデュースして差し上げます」

 

 トレーニングルームに堂々と入ってきたスネイルは、部屋の中で一人鍛錬に励んでいた月村手毬に対し、いきなりそう宣言した。

 大学生基準にまで外見が若返っているとはいえ、それでもスネイルの体格の良さは平均以上のものである──その上眉間に皺が寄っているのもあって、その顔は常に不機嫌そうに見えた。

 故に、いきなりそんな外見をした彼に話しかけられて、大抵の人物はまず萎縮してしまうものだと思われるが──

 

「……お断りします。私の事をよく調べもせずに来た方を、信用できません」

 

 ──月村手毬は突然訪れた人物に対して、毅然とした対応を行う。

 彼女のその冷淡な振る舞いから、スネイルの事を全く恐れていないように見えるが──しかし、実際はそんなことも無かった。

 

(突然現れて何、この人!?怖……!)

 

 ──内心ではスネイルの事を恐れつつも、それを表に出さず咄嗟に言葉で切り返しただけである。

 だがその内心が伝わる事は無く、スネイルは『月村手毬は胆力のある人物らしい』と認識したまま言葉をかける。

 

「……不服ですね。私が事前の情報収集を欠かす様な愚か者に見えましたか?」

 

「……え?」

 

「全く……私を誰だと思っているのです。V.Ⅱ、スネイル──アーキバスですよ?」

 

「いや、知りませんけど」

 

「なっ──」

 

「それに自己紹介、少し遅過ぎません?」

 

「っ…………」

 

 これでも月村手毬は、内心では怯えたままである──ただ、咄嗟に返す言葉の刃の切れ味が鋭すぎるだけで。

 それに、これに関してはスネイルが悪いと言えるだろう──元の世界での立場による権威は、この世界では一切通用しない。

 今のスネイルは、誰も知らないただの初星学園プロデューサー科の一生徒に過ぎないのだから。

 

「……まぁ良いでしょう。とにかく、貴方の過去の経歴は騒動などの問題点も含めて、既に調べ上げています」

 

「それは……本当に?」

 

「えぇ、素行に問題があり、悪い噂が多いトラブルメーカー──しかし過去に結成していたユニット、『SyngUp!』時代の映像を見たところ、あなたの実力は既に高い。適切なプロデュースを行えば一番星(プリマステラ)を目指すのも夢ではないと判断しました」

 

「…………少し、考えさせてください」

 

 スネイルの発言を聞いて、どうやら彼は本気で自分をプロデュースしに来たようだと手毬は気づく。

 手毬はスネイルの提案を受け入れるか思案を始め──そして、その様子をスネイルは観察する。

 

(黙々と一人で考え込んでいる──他者の干渉を許さぬ空気を身に纏っており、まさに孤高の覇者と呼ぶに相応しい佇まいです。私がプロデュースするアイドルとは、そうでなくては)

 

(今の私をプロデュースしようなんて思う人、他にいない……けどなんかあの人、私の事を凄い怖い目で見てる……!何か、失礼な事しちゃったかな……とにかく、あの人の圧に負けないようにしないと……!)

 

 なんとも言えない沈黙が続く中、手毬は意を決して口を開いた。

 

「……考えが決まりました。私のプロデュースをさせてあげます──精々、私の足を引っ張るような事だけはしないでくださいね」

 

 ──それはあまりにも高慢で、喧嘩を売っているようにも聞こえる発言だった。

 

(って、なんでこんなに偉そうに言ってるの、私!?これじゃあ怒らせて──)

 

「……まぁ良いでしょう。私が選んだアイドルです、自分の価値をよく理解しているようで何よりだ」

 

「えっ?」

 

(扱いづらそうではありますが、構いません。他と一線を画すアイドルの振る舞いとは、こういうものなのでしょう。この振る舞いは武器になる──現時点で、無理して再教育を行う必要もなさそうだ)

 

 危うく、スネイルを酷く怒らせてしまうかもしれないと危惧していた手毬だったが──スネイルはスネイルで、トップアイドルの逸材とはそういうものなのだろうと解釈して受け入れていた。

 そもそも彼がアイドルについて、パソコンで少し調べた程度の知識しか持ち得ていなかったが故の幸運だった。

 もしこれが元の世界でいう、傭兵と雇い主の関係だったとすれば、手毬の危惧通りにスネイルは苛立ちを見せていた事だろう──このギリギリのバランスで、二人の会話は続いていくことになる。

 

「……コ、コホン!私には目標があるの、必ず達成すると決めた目標が──だから、その……私の期待を裏切らないで」

 

「それはこちらのセリフです──私のプロデュースの元でアイドル活動を行える事、光栄に思いなさい」

 

「(怖っ!?)……ふっ、今に見せてあげるよ──私の実力を」

 

「それは楽しみです。それではまた明日、このトレーニングルームで実力を見せてもらうとしましょう──」

 

 こうしてスネイルは無事に、月村手毬のスカウトに成功したのだった。

 

 

 ────────────

 

 

 スネイルはその後、一旦自分の部屋へと戻りパソコンを立ち上げて、今日の出来事についての記録を行う事にする。

 

(私を前にして怯みもしないあの胆力──そして、冷静かつ堂々とした立ち振る舞い。やはり彼女は、トップアイドルを目指すのに相応しい逸材だ)

 

 この世界にいきなり連れてこられて、未知の分野に首を突っ込む形となり──企業戦士としての経験が豊富なスネイルでも、流石に不安感を抱いていた。

 だが無事に月村手毬というアイドルの原石とも言える人物のスカウトを済ませ、スネイルの不安は自信へと変わっていく。

 

(異なる世界に連れ去られようとも関係はない──私の目に、狂いはなかった!)

 

 ──約一週間後、スネイルはこの時の判断を深く後悔することになるのだったが、それは今はまだ知る由もない事だった。

 

 

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