学マス世界に転生したV.Ⅱスネイルが月村手毬をプロデュースする話 作:雪浪夏鶏
(意訳:勉強で忙しく不定期更新にはなりますが、N.I.A編もやります)
定期公演『初』を終えた後、ソロアイドル月村手毬は夏のH.I.Fに向けて順調に実績を重ねて行った。
具体的には、新しく新曲を三つも手にして全てライブで披露した。
元々、月村手毬が持つ実力も知名度も申し分なかった──ただ、それを帳消しにして余りあるほどの絶不調に苛まれていただけで。
その絶不調の原因さえ取り除けば、後は簡単な話である。
月村手毬の性格の悪さがもたらすトラブルも、以前より減ったとはいえ完全に消え去ってはくれないが──しかし、その対処にもスネイルはもはや慣れ切っていた。
結果さえ出してくれるのであれば文句はない──ソロアイドル月村手毬の活躍に紐づけた、アーキバス社の活動も極めて順調なものだった。
アーキバス栄養管理システム──通称『あきけん』を制作する際に背負った借金の返済はとっくに済んでおり、活動を妨げるしがらみはもはや存在しない。
もはや、順調すぎて怖いぐらいだった。
「プロデューサ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」
「……ライブでもないのに、そこまで大きな声を出さずとも結構。手短かに要件を伝えなさい」
そうそう、こうでなくては──ソロアイドル月村手毬とは、お盆と正月が同時にやってきたようなやかましさと忙しなさを伴ってやってくるものだ。
なんのトラブルも起こさない月村手毬なんて、考えるだけでゾッとする──逆に怖い。
スネイルはため息をこぼしつつ、ある程度の余裕を保ちながら月村手毬の話に耳を傾ける。
「えっと……あのね!燐羽とも、仲直りしようとしたんだけど……聞き入れてくれなくってさ……でも、良いことがあったの!」
「……良いこと?」
「うん。燐羽がね──アイドル活動に、復帰してくれるんだって!プロデューサーもついて、またトップアイドルを目指してくれるかもしれないって!」
「そうですか……それは、朗報と言えるのか……?」
表情に出るほどではなかったが、スネイルは僅かに動揺する。
賀陽燐羽──元『SyngUp!』のメンバーであり、そしてセンターの座こそ手毬に譲っていたものの、チームのリーダーは他ならぬ彼女だったと聞く。
おそらく、『SyngUp!』が執っていた『月村手毬を暴れさせて残りの二人で補佐する』という戦略は彼女が考案していたものであり、セルフプロデュース能力が高くチームを動かす頭脳としてリーダーの座に君臨していたのだろうと、スネイルは推測していた。
ユニット結成後に行った大胆なイメージチェンジも、彼女自身の判断だろう。
過去の『SyngUp!』のライブ映像を見た限りでは、現状そこまでの脅威であるとは思えなかったが、その戦略性を相手にするのは少し骨が折れそうだ──と、賀陽燐羽について一通り調べた後にスネイルはそう結論づけていた。
しかし、その警戒とは裏腹に──『SyngUp!』解散後の賀陽燐羽は、一切アイドル活動を行おうとはしていなかった。
一体どういう事情があるのかは知らないが、少なくとも賀陽燐羽はもうアイドル活動に興味はないらしい──月村手毬がよくそれに関しての愚痴を語っていたし、スネイルもそうなのだろうと判断した。
だが──ここに来て今更、心変わりをしたという。
ソロアイドル月村手毬の活動に触発されて、アイドル活動を復帰しようと思ったのだろうか?しかし──これはそんなに、単純な話なのだろうか?
「…………賀陽燐羽と契約したプロデューサーが誰かなのか、まずはそれ次第となるでしょう」
スネイルは取り敢えず、賀陽燐羽がアイドル復帰を志した理由の一つだと思われる存在──彼女と契約を結んだ、プロデューサーについて重点的に調べるべきだろうと判断する。
そしてそれに関しては既に心当たりがあったのか、即座に手毬は答えを返した。
「あ、それなら私、もう見かけたよ。燐羽の新しいプロデューサー──以前、保健室に行く時に会ったことあるフロイトって人だった」
「────────は」
ピシッ、という音が部屋に響いた。
「…………すごい、触ってもないのにメガネが割れた……こんな事あるんだ…………」
フロイトに関する思いもよらぬ情報──それは、平穏な日々に退屈し切っていたスネイルの目を覚まさせるのに十分な火力を誇っていた。
スネイルの生涯の宿敵ともいうべき存在──フロイト。
それが、賀陽燐羽が新しく契約したプロデューサーの正体だった。