学マス世界に転生したV.Ⅱスネイルが月村手毬をプロデュースする話   作:雪浪夏鶏

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よろしくお願いします


親密度12「キャンパスモード習得支援」

 

 

 

 N.I.Aを勝ち抜くにあたって、無策のまま挑むわけには行かない。

 フロイト側の実力は未だ未知数であり、注目度も低い──故にこそ、決して負けてはならなかった。

 もし既に高い注目度を有するスネイル側が、N.I.Aの舞台でフロイト側と戦って敗北してしまった場合──こちらが有していた注目度という武器が、一気にフロイト側に奪われてしまうためである。

 新参者がいきなり強敵を打ち破った──という、古今東西親しまれてきたテンプレートは話題性という面では非常に効果的だ。

 

 ファンを奪い合うシステムで成り立つN.I.Aは、ハイリスクハイリターンな舞台なのである。

 もしN.I.Aで敗北した場合、今後の活動における大きな支障となり──月村手毬を一番星(プリマステラ)にするという目的の達成は極めて困難なものとなる。

 敢えて過酷な環境へと身を置きたがるような酔狂者でもない限り、N.I.Aに参加すると決めた以上は確実に勝つためにも、まずは堅実に作戦を立てておくべきだろう──出たとこ勝負など、もっての外である。

 そして、そのためにスネイルが用意した作戦とは──

 

「なるほど『Campus mode!!』、ですか……」

 

 ──スネイルが取り出した、『Campus mode!!』の衣装を見て手毬が呟く。

 『Campus mode!!』──それは、初星学園の伝統曲である。

 初星学園生であれば、その曲を知らない者は居ないとすら言って良い。

 歴代の卒業生たちが歌ってきた『Campus mode!!』のライブ映像を見て、アイドルに対する強い憧れを抱いた事で初星学園への入学を志した事例だって存在する事だろう。

 いつか自分だけの舞台で、『Campus mode!!』の衣装を着て歌って踊る事を夢見る生徒も少なくはないのだが──しかし、その衣装を見せられた月村手毬のリアクションは思いの外落ち着いたものだった。

 

「……不服ですか?」

 

「いえ、そんなことはないです。ただ──少し、意外だったなって。今回もまた、新しい曲を持ってくると思っていました」

 

「……あぁ、なるほど。そういう事ですか」

 

 月村手毬は定期公演『初』を終えてから、新しく三曲──『Open Faith』も含めれば四曲の持ち歌を有しており、そのいずれもが高い評価を得ていた。

 それはスネイルが経営するアーキバス社を中心とした幅広い人脈で、優れたクリエイターの力を借りることができ、楽曲に関して高いクオリティを担保し続けることが可能となったためである(無論、月村手毬にそれを歌いこなす実力があるからという大前提も忘れてはならない)。

 プロデューサーが企業(スネイル)だったからこそ出来る戦略であり、その流れに乗って今回もまた新しい専用曲を持ってくるという考えも自然な物だった。

 

「……元より、N.I.Aは『Campus mode!!』で行くと早い段階で決めていました。具体的には、ソロアイドル月村手毬のセカンドライブを迎える頃には、既に」

 

「えっ、そうだったんですか?」

 

 私、何も聞かされてなかったんだけど──やや不満気に、表情でそう訴える手毬を無視してスネイルは話を続ける。

 

「新曲の披露は刺激として十分な手段ですが、使い過ぎれば飽きられてしまいます。俗に言えば、マンネリです──四曲も連続で披露すれば十分でしょう。アーキバス社でCDを発売したことで、ひとまずの区切りもつきました。なので、この辺りでそろそろ流れを変えておきたかったのです」

 

 毎回毎回とっておきを披露していれば、その有り難みも薄れてしまうものである。

 それに、ライブをする度に新曲を披露することが『当たり前』になってしまうのも好ましくなかった──あまりハードルを上げすぎると、それを越えられなかった際の落胆はより大きなものとなってしまう。

 常に予測不可能である事が、長く大衆の目を惹きつける上で欠かせない在り方だった。

 

「それに、この辺りで『Campus mode!! 』を歌っておくのはH.I.Fへの布石としても極めて効果的です。N.I.Aという注目度の高い舞台で完璧な『Campus mode!!』を披露すれば、『Campus mode!!といえば月村手毬である』という認識を大衆に植え付けることが可能となります」

 

 歌や踊りに正解はないが、しかし完成度の違いというものは存在する。

 そして完成度の高い『Campus mode!!』はそのまま初星学園内での見本──スタンダードとなっていく。

 

「『Campus mode!!』は初星学園の全体プロモーションでも用いられる楽曲──そのイメージが月村手毬の物となれば、初星学園内で行われる大会であるH.I.Fで極めて有利に働くのは言うまでもない事です」

 

 世代が変わっていくごとに『Campus mode!!』のスタンダードは流行り廃りと共に更新されていき、正しく初星学園の歴史の象徴とも言える楽曲となる。

 そして、夏のH.I.Fに備えて今世代の『Campus mode!!』のスタンダードの座を手にするのが、今回のN.I.Aで達成すべき目的の一つだった。

 

「つまり、私が初星学園の顔になれば良いんですね。初星学園といえば『Campus mode!!』──そして、『Campus mode!!』といえば月村手毬であると!」

 

「…………まぁ、その通りです」

 

 まだレッスンを始めてもいないのに、大それた事を口にする月村手毬──ただ、結論として間違っては居ないのでスネイルは呆れながらも首肯する。

 ひとまず、N.I.Aで『Campus mode!!』を披露する事の意義は理解してもらえたようだった。

 

「そして、『Campus mode!!』を完璧に歌いこなすための布石は既に打ってあります──『Open Faith』の後に出した三つの新曲は、『Campus mode!!』を歌いこなす上で必要となるテクニックを専門家の協力のもと、大きく三つに纏めたものをそれぞれ取り入れていたのです」

 

「えっ──そうだったんですか!?」

 

「言ったでしょう──N.I.Aは『Campus mode!!』で行くと早い段階で決めていた、と。『Campus mode!!』を土台として作られた、三つの新曲を歌いこなして得たノウハウがあれば、キャンパスモードの習得は容易いものとなるでしょう」

 

 フロイトが賀陽燐羽と組んで立ち塞がってくるとは予想できていなかったが、しかしN.I.Aという舞台の重要性をスネイルは事前に良く理解していた。

 そのため、レッスン内容としては既にノウハウが蓄積された状態のまま、『Campus mode!!』の練度を上げて行って本番に備えるのみとなる。

 

「あぁ、なるほど──だから全部、とても歌いやすかったんだ」

 

 納得したような口ぶりで、手毬は言う。

 

「……どういうことですか?」

 

「──見れば分かるよ、プロデューサー。試しに一度、私の『Campus mode!!』を披露してあげるから」

 

 スネイルの疑問に対してそう答えながら、手毬はトレーニングルームへと歩いて行った。

 

 

 ────────────

 

 

「……なるほど、随分と手慣れている。既に『Campus mode!!』をマスターしていたのか」

 

 月村手毬のパフォーマンスを見て、スネイルは感心してそう呟いた。

 彼女の動きは隅から隅に至るまで洗練されており、その完成度の高さから絶え間ない努力の累積を感じ取る事ができた。

 この仕上がりならば、『Campus mode!!』のスタンダードの座を手にするのも難しくはないだろう。

 

「……実は、『Campus mode!!』は燐羽に教わっていたんです」

 

「……賀陽燐羽に?」

 

 突然、思いもよらぬ人物の名前が出てきたため、思わずスネイルはそう尋ねた。

 

「はい。私たちが憧れていたアイドルが歌っていて……だから、三人でよく真似してたんです」

 

 その三人とはつまり、元『SyngUp!』メンバーである月村手毬、秦谷美鈴、賀陽燐羽の三人の事だろう。

 どうやら彼女たちにとって、『Campus mode!!』は深く思い入れのある楽曲だったらしい。

 手毬は『SyngUp!』時代の思い出を懐かしみながら、しみじみと語り始める。

 

「私たちの中では、特に燐羽が覚えるのが上手で、一番下手だった私にも、分かりやすく教えてくれて──だから今も、『Campus mode!!』はとても得意なんです」

 

「なるほど……」

 

「……やっぱり、ピンと来ない?」

 

「えぇ……今まで私は、彼女が本領を発揮している様子を見た事がありませんので」

 

 現存する賀陽燐羽の『SyngUp!』メンバーとしての活動映像では、どれも月村手毬のサポートに徹しているものばかりであり、彼女単体での実力は未だによく分からないままである。

 てっきりスネイルは、アイドル活動を長らく休止していた事も踏まえ、そこまで警戒すべき存在ではないのだろうと考えていたが──しかし月村手毬の話を聞く限りでは、その認識を早急に改める必要がありそうだった。

 

「仕方ないよね。燐羽の本気を知っている人は、この学園でも一握りで……でも、良いんです。私が……覚え続けていれば」

 

 そして手毬はそのまま、賀陽燐羽に対して抱え続けてきた想いを吐露し始めた。

 賀陽燐羽は、月村手毬がいつまでも尊敬し続けるリーダーであり──そして、最後まで越えられなかった壁の一つである事。

 当時一番下手だった自分が、当時一番上手だった相手に同じ『Campus mode!!』でリベンジしてやるという心意気。

 古巣からの独り立ち──つまりは、ソロアイドル月村手毬の存在証明。

 それらについて語る彼女の表情はとても活き活きとしており、強い志を感じさせる物だった。

 そして──彼女が持つ熱意の原動力でもあるその感情について、スネイルは良く知っている。

 

(憧れ、か……)

 

 届かない星に、手を伸ばし続ける様に──憧れに向かって懸命に足掻き、突き進んで行くその在り方は、ソロアイドル月村手毬の根幹とも言うべきものでもある。

 

(……私が奴に向けた感情は、そこまで綺麗なものではなかったが──目標があるからこそ頑張れるという気持ちは、理解できなくもない)

 

 太陽に向かって手を掲げながら、スネイルはそう思うのだった。

 

 

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