学マス世界に転生したV.Ⅱスネイルが月村手毬をプロデュースする話   作:雪浪夏鶏

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親密度13「営業方針探査」

 

 

 N.I.Aに向けての方針が定まってから、月村手毬は自主レッスンに専念して着実に自らの『Campus mode!!』の完成度を上げていった。

 体重管理のみならず、レッスンもまた自主的にこなせる様になり──必然的にそれは、スネイルが使える時間も増えるという事である。

 スネイルはその分アーキバス社の経営に時間を割きつつも、更に優れたプロデュース方法はないだろうかと思案する。

 

 N.I.Aはただ実力が高ければ評価されるといった、単純なオーディションとは訳が違う──ファンを奪い合う仕組みが前提として存在する以上、実力を身につけるだけでなく元となるファンの数を事前にかき集めておく必要があった。

 これからはアーキバス社の商品だけでなく、月村手毬そのものを売り出していく営業方針に切り替える必要があるだろう。

 幸い、今は資金に余裕がある──この資金を元手にして、効率よくファンを集めていきたい。

 

 そしてそのためにも、まず『月村手毬というアイドルがファンに何を期待されているのか』を理解しておく必要があるだろう。

 需要を理解して正しく供給を行う事ができれば、それはファンたちの満足度へと繋がっていき、やがて勝手に彼らが周りに対して宣伝を行ってくれる様になる。

 ファン心理を把握するためにも、スネイルは経営活動の隙間時間で月村手毬について情報収集を行うが──

 

「……なんですかこれは、なんなんですかこれは」

 

 情報収集を開始して早速、到底看過できない情報が目に止まってスネイルは思わずそう呟いた。

 それは──SNSで月村手毬のアカウント(当然スネイルは認可していない)が問題発言を行い、凄まじい勢いで拡散され賛否両論の嵐となっている件についてだった。

 

 

 ────────────

 

 

「だって……みんなが間違ってる事言ってたから、私が訂正しなきゃって思って……」

 

 被告人Tの供述によれば、SNSである事ない事呟かれているのが気に食わなかった。

 だから、片っ端から全ての発言に突っかかってレスバトルへと発展させた──というものである。

 彼女ほどSNSに向いていないアイドルは中々居ないに違いないだろう。

 

「でも、プロデューサーの事だって悪く言われてたんですよ!?」

 

「だからと言ってアンチと真正面から喧嘩し続けるな……!はぁ、全く……何故SNSを始めようと……」

 

「プロデューサーのためになると、思ったので」

 

 感謝しても良いんだよ?──という声が聞こえてきそうな程の、自慢げな笑みを浮かべてそう宣う手毬。

 どうやら彼女には反省の意思がないようで──その振る舞いが余計にスネイルの怒りを買ったのは、言うまでもないことだろう。

 

「……月村手毬のプロデュースを行なって、私には一つ理解できた事がある──貴様が良かれと思って実行に移した行いは、その尽くが裏目に出るという事だ!」

 

「えぇ!?」

 

 思えば──ソロアイドル月村手毬のファーストライブで、リハーサルでは七割の力でと言われたのに何故か全力を出してしまった時もそうだった。

 彼女は彼女なりに相手のために尽くそうとはするのだが、しかしそれがきちんと相手の意に沿ったものとは限らない。

 彼女を正しくコントロールするという事は、幼稚園児の思考を常に完璧に把握し続けるのと同義である──つまりは不可能。

 

「──まぁ、過ぎた事は良いよ」

 

「問題を起こした側が言うセリフか……?」

 

「今はまず、この状況をどうにかしないと……」

 

「あぁ、流石にこれが対処すべきトラブルであるという事は把握できているのですね……安心しました」

 

「流石にそのくらいは分かります……早く、みんなを落ち着かせなきゃ……」

 

 スネイルの中で月村手毬に対する期待値のハードルが底の底まで下がっていく──が、確かに彼女の言う通りだった。

 というか、これは『月村手毬が独断でSNSアカウントを開設して動く』という事態を予測できなかったスネイル側の落ち度とも言える──起きてしまった事実は変えられない以上、今は一刻も早くこの事態を収束に導く方法を模索するべきだろう。

 

「……どうせ取り繕ってもすぐにボロが出るでしょう。もはやありのままの月村手毬を理解してもらい、受け入れてもらうしかありません」

 

 どの様なイメージで月村手毬を売り出して行くのか、その魅せ方について沢山のプランを練っていたものの、これでその殆どが無意味となった──しかし、早い段階でそれが分かったのは良い事だったのかもしれない。

 

「仕方ない──例のプランを、動かす時が来ましたか」

 

「……!どうにかできるの!?プロデューサー!」

 

 そして──問題の発生自体は予見できなかったものの、こういう時のために使えそうな策を既にスネイルは考案していた。

 

「うまくいくかは分かりませんが──動画配信サイトでチャンネルを開設し、そこで謝罪動画を投稿します。私がそこで、月村手毬の人間性についてのプレゼンテーションを行い、以降の営業方針への布石へと変えて行くのです」

 

「なるほど……なんだか、大変そうだね」

 

「……そうですね、主に私が大変な作業です」

 

 もはや月村手毬の発言に一々怒りを露わにしていては、進む話も進まない。

 ひとまずは流して、スネイルはそのまま話を続ける。

 説明したところで、炎上騒動の渦中にある人物たちが受け入れてもらえるかは分からないが──今まで初星学園内で、月村手毬関連のトラブルを解決し続けてきた実績がスネイルにはあった。

 その甲斐あって、学園内では『色々と言動があれだけど、まぁ悪いやつじゃないよね。いや、シンプルに性格が悪いなぁって思うことはあるけど、チワワが吠えていると考えればまぁ……』と思われるぐらいにまでは月村手毬のイメージを変えることはできた。

 その前例を踏まえれば、あながちこれも無茶な策略とは言えないのかもしれない。

 

「今回の様にトラブルを起こされてはたまったものではありませんが、しかしたった一日でトラブルを起こせるのは逆にSNSの才能があると言わざるを得ません──あなたは良くも悪くも、話題になりやすい」

 

 事実、今回は悪い意味での注目の浴び方だったが──本来SNSで話題性を生む、つまりはバズりを狙うのは非常に難しい事である。

 スネイルもアーキバス社の存在を広く知らしめるために様々な手段を用いたが、しかしどれも今回の月村手毬の件ほどの注目度を得るには至らなかった──やはり、月村手毬にはSNSの才能があると言わざるを得ない。

 

「あなたのその発言力を上手く扱う事ができれば、それは強力な武器となるに違いない──そのため、謝罪動画をキッカケに動画配信活動を行うのです。チャンネルの管理は私が行いましょう──知らないところで問題を起こされるよりは、自分の手元で問題を起こしてもらった方が都合が良い」

 

 そう言いながらスネイルは、早速パソコンを操作してチャンネル開設作業を行なっていく。

 元より、月村手毬を売り出すための手段の一つとして考えてはいたのだ──今回の炎上騒動は、それを始めるための良いキッカケとなった。

 これから撮る謝罪動画の反響が、どう転ぶかは分からないが──しかし、少なくとも話題にはなる。

 そして、その勢いを維持したまま動画配信活動に繋げる事ができれば御の字だろう。

 

 それに、今回の謝罪動画や今後の配信活動に於けるスネイルの振る舞いを見て、手毬にネットでの立ち回り方を学習してもらうという狙いもあった。

 最終的に、スネイルが関与するまでもなく一人で安定して動画配信活動を行える様になれば完璧である。

 流石にそれはまぁ、高望みのしすぎだとも思うが──ネットでの立ち回り方を学べれば、今回のようなバズりを意図的に連発できる様になるかもしれない。

 やがてそれはファン数の増加にも繋がり、N.I.Aに挑む上で欠かせない武器へと変わるだろう。

 

 

 ───────────

 

 

 結論から言うと、謝罪動画は無事に成功を収めた。

 スネイルがおおよそ視聴者が言ってほしいことを動画内で全て言っていたのと、そして動画内での月村手毬の様子があまりにも弱々しくしょぼくれていたのが、小動物の様な愛おしさを有していると良い意味での話題を呼んだのだった。

 

 それはスネイルによる『月村手毬は精神性が女児に近い。次からはちゃんと管理するので、ここは多めに見てやってほしい』と言う発言に強い説得力を持たせ、『あるがままの月村手毬を受け入れてもらう』という目的はおおよそ達成できたと言えるだろう。

 

 ひとまずはこのまま、月村手毬に常識を教えていくという名目で動画配信活動を続けていき、やがてゲーム実況や歌唱配信にも手をつけていく流れとなる。

 そして二人はしばらくの間、自主レッスンや経営活動の時間を削って動画配信活動に専念する事にした。

 

「……なんですか?それは」

 

「メガネです──17000円ぐらいで売ってました。プロデューサーだっていつもつけてるじゃないですか。これをつけたら次の配信で──視聴者たちに、賢く見えるかもしれないので」

 

「その発言が既に頭が悪いのですが……まぁ良いだろう。案外ファンにも受け入れられるかもしれません──どうせなら、メガネをテーマにした企画も考えてみましょう」

 

 アーキバス社の資金を元手に様々な企画を立案し、動画化していく事で他の動画チャンネルとも差別化を図っていき、やがて月村手毬の動画チャンネルはアーキバス社の後ろ盾の下で高い評価を得る様になっていく。

 最初は炎上騒動から始まった動画配信活動だったが、最終的には良い方向へと進んだのだった。

 

「経営を題材としたゲームですか……面白い。企業たるこの私の力を知らしめてみせましょう」

 

「プロデューサー、やっぱりたまに変な事言うよね……」

 

 また、動画配信活動が高い評価を得た一因として、月村手毬だけでなくスネイル自身のキャラが濃かったからというのもあった。

 ツッコミをこなせる上にリアクションも良く、そしてたまに意図しない形で本人もボケる。

 案外スネイルは、動画配信映えする役者としての才能も秘めていたのである。

 

「次の対戦相手のプレイヤーネームは………………フロイトだと…………?」

 

 特に、賀陽燐羽のプロデューサーとして知られるフロイトとロボットゲームで対戦した回でのリアクションは話題となり、月村手毬ではなくスネイルそのものに対するファンが現れる事態にまで発展した。

 

「これで……良かったのか……?」

 

 やがて月村手毬のファンクラブ内では何故だかスネイル単体のグッズまで売られる様になり、スネイルにとっては非常に度し難い話ではあったものの、確かに月村手毬のアイドル活動の一助にはなっているため、プロデューサーとして黙認せざるを得ない状況にまで追い込まれたりしたのだった。

 

 

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