学マス世界に転生したV.Ⅱスネイルが月村手毬をプロデュースする話 作:雪浪夏鶏
「プロデューサ〜〜〜〜!見て!私のN.I.Aランキングが、上がってる〜〜〜〜!」
いつも通り、喧しい大声を出しながらドタバタとスネイルの元へと駆け寄る手毬。
わざわざ何か報告を行うたびに、そこまで大袈裟な振る舞いをされては良い迷惑である──今までスネイルが接してきたヴェスパー部隊員たちとは、異なるタイプの面倒臭さを感じさせられた。
だがそんな彼女の振る舞いにも慣れ、スネイルはいつもの事かとため息を吐き、作業中のパソコンから目を離す事なく返事をする。
「当然です。そうでなくては困ります──あれほど手間をかけてイメージコントロールに専念したのですから。極月学園は、もはや敵ではありません」
今回の件で月村手毬のただでさえ高かった注目度は跳ね上がり、話題性という点ではもはや敵う者が居ないレベルにまで達していた──アイドルを詳しく知らない層にまで、その認知が及んでいる程である。
一方で、極月学園側は既に元々悪い噂が流れていた中で、スネイルのイメージコントロールにより今回の件で凄まじい規模の炎上騒動にまで発展している。
そして騒動の中心者である白草四音に至っては、しばらくアイドル活動を謹慎せざるを得ない状況にまで追い込まれていた。
そして極月学園そのものの印象が最悪になった事で、白草四音のとばっちりを受ける様な形でN.I.Aに参加する極月学園生たちのランキングは底の底にまで下落した。
ファンの投票者数が鍵となるN.I.Aのシステムにおいて、言うまでもなくそれは致命的な損失である──以降のN.I.Aの出場を、辞退する生徒たちも少なくはなかった。
ここまで来ると、いっそ哀れな程である──白草四音は今頃、極月学園内で居場所がなくなっているに違いない。
けれどまぁ、スネイルにとってそれは知った事ではなかった。
先にこちらを攻撃してきたのが悪い、それだけの話である。
「凄い……プロデューサーって、本当に仕事ができるんだ!」
「…………とにかく、これで警戒すべき相手を絞る事ができました。そして──ついに、賀陽燐羽と当たる時が来ました」
「……やっと、ですか」
「えぇ──彼女は今、次々とオーディションで勝ち星をあげています。私が当初想定していた以上の実力を秘めている……賀陽燐羽に関しては、貴方の見立てが正しかったようです。ライブ映像を見せましょう」
そう言ってスネイルは仕事を切り上げ、パソコンを操作して直近での賀陽燐羽のライブ映像を再生した。
手毬はスネイルの後ろから、パソコンの映像を覗き込む形で視聴する──賀陽燐羽のライブパフォーマンスは圧巻であり、『SyngUp!』時代で手毬のサポートに専念していた頃とは比べ物にならない程の実力を披露していた。
しばらく手毬はそのライブ映像をじっくりと観察し──そして、神妙な顔つきで何か深く考え込み始めた。
「……どうかしましたか?」
その様子を見て、スネイルは尋ねる。
確かに賀陽燐羽の恐るべき能力が発揮されてはいたが、ファン数の後押しも考えれば決して勝てない相手ではない。
思い悩む事など、何もないはずだが──
「分かった気がするんです──燐羽が考えている、ふざけた事」
──そう呟く手毬の表情は、ここではないどこかに居る人物に対する憤りに満ちたものだった。
────────────
「極月学園のランキングが軒並み下がっている中で、月村手毬のランキングは急上昇……まさに破竹の勢いね」
賀陽燐羽は自らの携帯に表示された、最新のN.I.Aランキングの順位表を見ながらそう呟く。
普段から身に纏っている張り詰めた空気が嘘であるかのように、その表情は穏やかで──そして、口元は優しく綻んでいた。
「スネイルはそういうのが上手いからな。事後対応が良かったんだろう」
いつも通りフロイトは、燐羽の方を見ることなくロボットゲームで遊びながら、興味なさそうに返事をする。
元から白草四音と月村手毬の口論の現場を収めた盗撮動画は凄まじい勢いで拡散されていたものの、それを元にしてこれ程の成果を叩き出すほどのイメージコントロールを行うのは流石というべき手腕である。
だがフロイトからすれば、スネイルが居るのであればそれは特に不思議な事とは思えないようだった。
「……しかし、随分と嬉しそうだな?未だに月村手毬とは折り合いがついていないと聞いていたが」
「……まぁ、そうね。あの子とは今も喧嘩中よ。でも──」
──瞬間、燐羽の脳裏に浮かぶのは『SyngUp!』を結成するよりも前からの記憶。
当時、能力がありすぎた自分に対して疎むそぶりを見せる事なく、ただただ純粋に憧れ続けてくれた友達の話。
その時の事を思い出すと、心に穏やかなものが満ちていく──それはとても楽しくて、充実した日々の思い出だった。
「──私の事をずっと、追いかけてくれてたんだもの。そんな彼女の活躍を知ることができて、悪い気はしないわ」
「……追いかけてくれた、か──それは確かに、悪くない友達だな」
ゲームを遊ぶ手を止めて、フロイトは呟く。
彼にとってそれは、とても身に覚えのある感慨だった。
天才であるが故に疎まれ、そして孤独を味わう──別にフロイトは、積極的に誰かと親しくなりたいタイプでもなかったし、ただひたすらに
だが──彼だけは、自分の事を追いかけ続けてくれていた。
他の人と同じく諦めて仕舞えば良いだけの話なのに、スネイルだけは──自らの身に強化人間手術をなん度も何度も施して、フロイトを越えようと奮起し続けていた。
その常軌を逸した執念は、強化人間に関する技術の発展にも大きく貢献するほどだった──まぁ生憎、フロイトはその恩恵を授かろうとはしなかったが。
スネイルはおそらく、フロイトに対して一切好意的な感情を抱いてはいまい。
彼に対して親しげに話しかけたとしても、冷たくあしらわれるのがオチだ──自由に生き続けるこちらに対して、時折敵意に満ちた視線を送られた事もあった。
まぁそれは、好き勝手に行動しすぎたフロイトの自業自得だったりもするが──しかし、向こうがどれほどこちらの事を嫌っていようとも、フロイトはかなりスネイルの事を気に入っていた。
ずっとどこか、腫れ物扱いされてきた人生だったが──彼だけが、自分の事を見て真正面から向き合い続けてくれていた。
向こうからすればたまったものではないだろうが、フロイトにとってはそれがとても心地良かった。
あわよくば──彼と友達になりたいと、そう思うぐらいには。
「次のオーディションで、あの子との戦いになる。その後は──予定通り、事を進めるわ」
「分かってる──
なんて事ないように、とんでもない言葉を口にするフロイト。
だがその内容は、二人が当初から決めていた手筈通りの物である──それを聞いた燐羽が、特に驚く様子を見せる事はない。
「……えぇ、その通りね」
ただ、なんだかんだで一緒にいて楽しかったと──終わりを目前にして、少し物思いに耽るだけで。