学マス世界に転生したV.Ⅱスネイルが月村手毬をプロデュースする話 作:雪浪夏鶏
タイトルの後ろの方に(1/2)って付いてるのはそういう事です。
よろしくお願いします。
追記 誤字報告を適応しました!感謝です
「──私にもうアイドルをやる気がないって事、知ってるでしょ?プロデュースはお断りよ」
賀陽燐羽は自分に声をかけてきた、フロイトという名のプロデューサー科の生徒に対してそう言い放つ。
もうアイドル活動を行う気はないと散々示し続けてきたつもりだったが、それでも自分をその道に連れ戻そうとする者は多い。
もう良い加減、鬱陶しかった。
「いや、違う。俺が今日ここにきたのは、別の要求を通すためだ」
「……別の要求?」
意表をつかれて、燐羽は困惑の声をこぼす。
今まで自分に声をかけてきたプロデューサー科の生徒は、ほぼ全てがプロデュースの契約を結ぶためのものだった。
それ以外の目的で、今の自分に声をかける理由など考えられない。
「あぁ──俺に、プロデュースのやり方を教えて欲しい。俺がお前にする要求は、それだけだ」
──それが、フロイトが賀陽燐羽に対して行った要求。
別の場所で、スネイルと月村手毬が契約を交わしている裏で──もう一つの物語が、幕を開けていた。
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「──フロイト、先ほどのオーディションは何のつもりだ」
スネイルはオーディション会場の舞台裏、その廊下でフロイトを見つけて問いただす。
汗をかき、息切れしている様子から急いでフロイトを探して駆けつけてきた事が分かる──なんとなくそうなるだろうとは予想していたが、本当に急いできたスネイルを見てフロイトは思わず笑ってしまう。
スネイルからすればその態度はふざけている様にしか見えず、より一層彼の抱える怒りは増していく──このまま怒り狂う彼の様子を観察するのも面白くはあったが、ちゃんと話がしたいなら早いうちに弁明しておく必要があるだろう。
フロイトは、ありのまま自分の考えている事をスネイルに告げる。
「何のつもりもなにも、お前がプロデュースしたアイドルの方が輝いていた──そして、勝利した。それだけの話だろう?」
「っ、貴様……!そんなわけがあるか!?お前はいつも私の上を行っていて、だというのに……!」
ヘラヘラと笑いながら敗北宣言を行うフロイトを見て、やりきれない思いを語るスネイル。
感情を露わにするのも無理はない──彼に取ってそれは、積年の想いをバカにされたも同然なのだから。
「……何か勘違いしているようだが、ACの操縦技術とプロデューサーとしての能力は別だ。以前お前も電話越しに、そう言っていただろう」
「っ、それは──」
「俺が持っているのが『ACの操縦という限られた分野で一位を取る才能』だとすれば、お前が持っていたのは『全ての分野で二位を取る才能』とでも言うべきか──要するに、
「…………」
彼の言っている事は尤もだった。
否定できないぐらい、しっかりとした理屈が通っている──スネイルはヴェスパー部隊の中で欠員が出た場合、その人物が勤めていた仕事を代行し、結果として複数の職務を同時並行で完璧にこなし続けるという偉業を見せていた。
それはおよそ、フロイトには達成し得ないものである──スネイルがAC操縦という分野で、どうしてもフロイトに勝てないのと同じように。
「お前が俺に勝てなかった要因はそれだけじゃない。俺は四六時中ACの事ばかり考えていて、そして自由に時間をそれに使う事ができていた──そして、お前が本気でACという分野で俺に勝つには
「…………」
「まぁ、企業を円滑に動かすための適材適所ではあるがな……お前が俺に勝てないのは、使える時間の差も大きかった筈だ」
これもまた、ごもっともな見解だった。
フロイトは数多くの戦闘任務による実戦経験やトレーニングなどを積んでいた一方で、スネイルはヴェスパー部隊の管理やら欠員者の分の仕事の肩代わりやらで時間を取られていた。
戦闘力で差が出るのも当然の話である。
「……違う、そうでは無い。それぐらいの事は私にも分かっていた──だからこそ私は
「だからこそ、この結果は必然だったとも言える──俺よりも、お前の方がプロデューサーの才能はあったんだ」
そして、結局はその話に戻ってくる。
アイドルのプロデュースという分野の中では、フロイトよりもスネイルの方が圧倒的に素質があった。
才能の話を抜きにしても、今までの経験値の差──社会人としての経験の差を踏まえても、自由人だったフロイトよりも勤労意欲の高かったスネイルの方が圧倒的にプロデューサー稼業に向いていた。
そして、それが今回の勝敗を決める要因の一つとなった。
「……ふざけるな。やっと自分より上の存在に立ち向かう立場になったと思ったらそれか!?私が今まで、どんな思いで!お前を……!お前の居ない世界で一番になって、一体何の意味が……ッ!?」
「……お前がもしこの世界に残って、俺が元の世界に戻る為の敵として立ちはだかり続けるなら勝つまで足掻き続けたさ」
「だったら何故──!?」
「だが現実問題、先に
努力で格上の天才に勝つと言っても、その努力をさせてもらう時間すら貰えないのだから仕方のない話だ。
プロデューサーとしては未だ凡才にすぎないフロイトが、夏のH.I.Fまでにスネイルと月村手毬のペアを超えるのは、無茶を通り越して不可能である。
フロイトがプロデューサーとして成長する頃には、スネイルはもう元の世界に帰還している。
スネイルが望んだ通りの、フロイトとの張り合いのある劇的な勝負は実現し得ない。
「っ……だが……だが…………!」
「だから俺は、夏のH.I.F勝者の座をお前に譲って早々にこの世界から退場してもらう事にした。俺が元の世界に戻るのは冬のH.I.Fか、来年か、再来年かの話になるだろう」
「ッ……」
「それに──アーキバスの事を考えるなら、俺よりもお前が先に戻った方が良い。お前は、誰よりも企業に尽くしていたからな」
──それが、この世界に来たフロイトが思い描いていた計画。
今年の夏のH.I.Fは諦めてスネイルに取らせて、自分はプロデューサーとしての経験を堅実に積んでいきスネイルが居なくなった世界で確実に勝つ。
それが自分の為にも、企業の為にも最善だという判断だった。
「……貴様のアイドルは、承知していたのか?……賀陽燐羽は、私たちに負ける前提で動くことを承知していたと?」
「当然だ。俺が最初っからお前に勝つ気が無かったのと同じように、あいつには最初っからアイドル活動を復帰するつもりはなかった。だからこそ声をかけたのさ──俺のプロデュース能力を、鍛えてもらえないかとな」
「……どういう意味だ?」
「…………ここまで話しておいて今更ではあるが、長い話になる。そして──こういう時はオキーフに倣って、缶コーヒーを片手に座りながらゆっくりするべきだと思わないか?しかし今の俺には金がない。そしてお前は、企業を立ち上げた事で懐に余裕ができただろうな」
先程まで真面目な話をしていたのに、フロイトは途端にわざとらしい声色で缶コーヒーを購入する為の金の話をする。
因みに、今フロイトに金がないのはゲームの購入に使いすぎた為だった。
気になるものがあったら片っ端から買って何でも試してしまうのは、彼の悪い癖の一つである。
「……私に、買ってこいと?」
「解釈は自由だ」
「…………まぁ良いでしょう。私も、喉が乾いてきた頃ですので」
彼にお使い要員として利用されるのは非常に癪ではあったが、ここで二人分の缶コーヒーを買ってこなければ話の続きを聞けそうになかった。
やむを得ずスネイルは、会場内にある自動販売機へと向かう事にした。