学マス世界に転生したV.Ⅱスネイルが月村手毬をプロデュースする話   作:雪浪夏鶏

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親愛度2「体重増加阻止」

 

 

 

「ぜぇ、はぁ……プロデューサー、釘を刺させてください。私のプロデュースをさせてあげるって言いましたけど……納得できない指示を聞くつもりはありませんから」

 

 トレーニングルームにて、己の実力を披露し終えた手毬はスネイルに対してそう言った。

 自分の実力を思い知らせるために、全力を費やして──そしてその末に、明らかに疲弊した状態のまま手毬はスネイルの事を睨みつけている。

 

「……まぁ良いでしょう。今の私はただの大学生に過ぎません。信頼されていない事など、分かりきっています──なので信頼を得るために、早速プロデューサーとしての仕事を行うとしましょう」

 

 スネイルはそう言って、手毬の方を向いて語りかける。

 

「言うまでもない事ですが、貴方のパフォーマンスは中等部の頃よりも圧倒的に劣っています──その自覚ぐらいはあるでしょう」

 

「っ……」

 

 図星だった。

 中等部の頃、トップクラスを誇っていた実力は今では見る影もなく──そして他ならぬ月村手毬本人が、その事をよく理解していた。

 

「去年の貴方のパフォーマンスと先ほどのパフォーマンスを比べれば、誰の目から見ても明らかな事実です──月村手毬というアイドルに、不調が生じている」

 

「…………」

 

「それも、予算をケチって安いジェネレータを採用したが如き単純なエネルギー不足──そうなってしまった原因について、私から説明するとしましょう」

 

「(ジェネレータ……?)……勿体ぶらずに説明してください。私の不調の原因はなんなんですか!?」

 

 不調である事を指摘された恥を誤魔化す様に、怒鳴りかける様な勢いで手毬が尋ねる。

 スネイルはそれを前にして物怖じする事なく、淡々と事実だけを伝えた。

 

「月村手毬の不調の原因──それは、急激な体重の増加です」

 

「────────」

 

 そして──その事実は、月村手毬にとって受け入れ難いものだった。

 本人はそれなりに、そう、それなりに危機感を抱いて気をつけていたつもりでもあったが──月村手毬の不調の原因の一つとして、まず間違いなく急激な体重の増加が挙げられる。

 

「────ですが、原因は単純であればあるほど対処がしやすいもの。適切な食事さえ行っていれば、自ずと解決していくでしょう」

 

 だが、スネイルにとってそれは微々たる問題だった。

 体重が増えたのなら、ダイエットメニューを調節して痩せる様に努力すれば良い──少なくともスネイルにとってそれは、『一度そうと分かれば簡単に解決できる事』という認識だった。

 

「私はこれから、一週間近く初星学園を離れます──なのでその間、しっかりと自己管理を行って私に報告するに相応しい成果を残してください」

 

「い、いきなり学園から離れるんですか……?」

 

 手毬の疑問も尤もである。

 アイドルをプロデュースし始めて、いきなり一週間近く放置するという選択肢を取るプロデューサーはまず居ないだろう。

 

「今後のプロデュース活動のために、必要な事です。それに貴方の、現時点での自己管理能力を確認しておきたい──そして確認が終わり次第、プロデュース方針を練り直します。それではもう時間がないので、この辺りで」

 

 だがスネイルは彼女の疑問を切り捨て、そのまま背を向けてトレーニングルームを立ち去っていった。

 

「あっ………………行っちゃった」

 

 ただ一人残された手毬はポカーンとした表情を浮かべるも、しばらく経ってスネイルとの会話を振り返り始めた。

 彼から与えられた課題はたった一つ──適切な自己管理を行い、一週間後に戻ってくるプロデューサーにその成果を発表する事。

 

(ふふっ。舐めないでよね、プロデューサー──まさか、初心者じゃあるまいし。自己管理ぐらいしっかりできるよ。目にもの見せてあげるから!)

 

 自信に満ち溢れた表情を浮かべながら、月村手毬は心の中でそう宣言するのだった。

 

 

 ─────────────

 

 

 そして一週間が経ち、スネイルは初星学園に戻り担当アイドルである月村手毬の様子を見に行っていた。

 たった一週間で落とせる体重の量などたかが知れているが、まぁ少なくともある程度はマシになっている事だろう。

 そう判断し、スネイルは早速手毬と相対するが──

 

「プロデューサー……その、体重管理の事なんだけど……」

 

「……なんでしょう」

 

 らしくない程に気弱な様子で、申し訳なさそうに口を開く手毬。

 そんな彼女を見て、スネイルは嫌な予感を抱き──

 

「その………………太っちゃった」

 

 ──そして、その予感が正しかったことが証明された。

 

「…………貴方の不調の原因は体重の増加によるものだと、既に伝えていた筈ですが……?」

 

「でも……太っちゃったの」

 

「…………」

 

「…………」

 

 スネイルは天を仰ぎ、途方に暮れる──が、途方に暮れてばかりも居られない。

 プロデュースしたアイドルが一番星(プリマステラ)にならなければ、スネイルは元の世界には戻れないのだから──プロデューサーとして、目の前の問題を片付けなければならなかった。

 

「……まずは状況把握です。ここ一週間での食事内容を伝えなさい」

 

「うぅぅ……分かりました……」

 

 そして、月村手毬の口から次々と一週間での食事内容が語られる。

 スネイルはスマホを開き、それぞれの食事で摂取されるカロリー量などの計算を始め──段々と彼の表情は青ざめていき、やがてその絶望はどうしようもない怒りへと変わっていった。

 

「何故だ……何故太ると分かっておきながら間食を行う……聞き分けのない問題児め、途方もない頭の悪さだ……!」

 

「うぅ、ごめんなさい……」

 

 スネイルは徹底的な合理主義ゆえに、普段から食事は栄養効率の良いものばかりを選んでおり、味など二の次の生活を行っている。

 そんな彼にとってはコッテリとした豚骨ラーメンなど論外の中の論外であり、もっての外としか言いようのない選択──そして自分の担当アイドルが、ダイエット中にも関わらずそれを好んで食しているという事実は到底受け入れ難いものだった。

 

「…………まぁ良いでしょう。少々想定外ではありましたが、ダイエットプランはまだ二重三重に残されていますので」

 

 メガネをクイッと持ち上げながら、スネイルはそう言った──自己管理が出来ないという事実が確認できただけでも、収穫はある。

 その場合の対応策もしっかりと用意している以上、なんの問題もなかった。

 

「……!ほんと!?」

 

「えぇ。まず、貴方の毎日のトレーニング量であれば、それだけで十分なダイエット効果が望めます。痩せようと思う強い意志もある──その果てに考えもなく食事を抜いてしまえばまるで意味はないが──にも関わず、体重は増え続ける一方」

 

「うぐ……」

 

「これは、月村手毬の自制心の無さがもたらした結果なのか?いや違う、貴様が飯とあらば喰らい付かんとする駄犬であるという点も問題の一つではあるが、何よりの問題は──それは、貴様の頭がどうしようもないほどに劣っている点にある!」

 

「ひどぉ!」

 

 手毬から抗議の声が発せられるが、もはやスネイルの中では手毬に対する期待値は底の底まで沈み切っているため知ったことではなかった。

 スネイルはそのまま、月村手毬の問題点について説明を続ける。

 

「貴様の今までのダイエット方法はこうだ。まず欲に負けて豚骨ラーメンとかいうふざけた物を喰らった後に、その埋め合わせと言わんばかりに断食を行う──結果としてただ不健康なものを食べた後に、ただ不健康な事をしただけで終わっているのですよ」

 

「うぅ……」

 

「そして何より、貴様はこの愚行に意味があると思い込んでそれを延々と実行し続けてきた──これを、頭が悪いと言わずしてなんというのだ」

 

 スネイルの言い方は厳しかったが、しかしその指摘の内容は正しいものだった。

 欲に負けて間食を行なってしまうことがあるとはいえ──彼女には、ダイエットをしっかりと行おうとする意志はある。

 だがしかし、間食の分の埋め合わせとして断食という極端な手段を取ってしまうのが良くなかった──これでは到底、求める結果が得られるはずもない。

 圧倒的な自己管理能力の低さ、スネイルに言わせればまさしく頭の悪さを裏付ける愚行である。

 

「身の程を弁えない問題児には教育が必要です──誰かが付きっきりで貴方の食生活に介入し、しっかりと管理さえしていればそれだけで解決へと導けるでしょう」

 

 逆に言ってしまえば──彼女の空回りした努力を正しい方向に修正することさえできれば、きちんとした体重管理が行われダイエットは確実に成功するという事でもある。

 

「──しかし生憎、企業たる私は貴方の専属栄養士をしてあげられるほど暇ではありません」

 

「じゃ、じゃあどうすれば良いっていうんですか!」

 

「ダイエットプランはまだ残されていると、そう言ったでしょう──こうなった際の対処法も、勿論用意してあります」

 

「……!本当ですか!」

 

 手毬はかつてないほどの尊敬の眼差しをスネイルに向ける──あれだけ偉そうに、子犬の様に反発していた相手から純粋な評価の眼差しを受けるというのは、中々どうして悪くない気分だった。

 

「当然です、何のためにわざわざ貴方を放置して学園から離れていたと思っているのですか」

 

 スネイルは少し機嫌を良くして、そして用意していた秘策について自慢げに語り始めた。

 

「このスマホの画面を見なさい。我が社が開発したアプリ──アーキバス健康管理システム、通称『あきけん』です」

 

 スネイルに言われた通りに、手毬は『あきけん』とやらを確認する──彼が見せるスマホの画面には、灰色のおにぎりの様な形をした異様な外見のマスコットキャラクターの姿が映し出されていた。

 

「『あきけん』……それを使えば、痩せられるんですか?」

 

「えぇ。毎日摂取する食事の内訳をここに記載し表示されたデータを元に自己管理を行えば、求める結果が得られるはずです。カロリー計算も自動で済ませてくれる為、定期的に好物を摂取していてもそれを前提にしたダイエットメニューを算出することができます」

 

「……!」

 

 仮に間食を行ったとしても、すぐさま適切な代案を提示してくれるアプリ──間食を前提としたダイエット方針。

 それは、今現在の月村手毬にとって必要不可欠と言えるものだった。

 

「技術者集団が私の指示に従順だったおかげで、求めていた通りの素晴らしい仕上がりのアプリが完成しました──全く、シュナイダーの者にも見習ってほしいものです」

 

「シュナイダー……?って、ちょっと待ってください。わざわざ会社を立ち上げて、アプリを作ったんですか?このためだけに!?」

 

「えぇ、会社を立ち上げました──その名もアーキバス。あなたを一番星(プリマステラ)にする上で、ゆくゆくはファンクラブなどの活動を行う必要があるでしょう。そして、その為の資金力が今後の要となるのは目に見えています。定期公演『初』を乗り越えた後は、アイドルの力量だけでなくその裏に立つ組織の財力なども試されてくる──それに備えて、今のうちに会社を立ち上げておいたのです」

 

「…………」

 

 もはや、言葉が出てこなかった。

 確かに彼は、初めて見た時からどことなく只者ではない雰囲気を身に纏っていたが──しかし、まさかここまで大掛かりな施策を可能とするとは。

 手毬がそのスケールの大きさに驚愕し、何も言えなくなっている中でもスネイルは語るのをやめない。

 

「この『あきけん』は、この世界におけるアーキバスの最初の商品として売り出していきます──あなたにはそのβテスター兼、広告塔になってもらわなければなりません。早速、そのアプリの使い方から説明しましょう──」

 

 手毬はわけがわからない状況の中、言われるがままにアプリの使い方を覚えて──そして彼の言う通り、『あきけん』の健康管理アプリとしての質が高い事を理解する。

 

「凄い……」

 

 予想以上にこのプロデューサーは、頼れる人なのかもしれない──月村手毬は、そう思わざるを得なかった。

 

「当然です──アーキバスですから」

 

 やや想定外の事態もあったが──こうしてスネイルは、担当アイドルからひとまずの信頼を得るという目的を達成する事ができたのだった。

 

 

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