学マス世界に転生したV.Ⅱスネイルが月村手毬をプロデュースする話   作:雪浪夏鶏

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親密度19「飲食店086来店」

 

 

「全く……急の呼び出しで何かと思えば、このような場で私を迎えようなどとは……それほどまでに資金に困っていたのですか」

 

 N.I.Aの最終オーディションである『FINALE』に備える必要がある頃。

 スネイルとしては自らの会社運営もあり多忙ではあったが、やむおえずフロイトからの呼び出しに応えることとした。

 彼の指定した店舗は飲食店086──なんて事ない雑多なファミリーレストランである。

 

「そう言うなよスネイル。つい最近まで普通の大学生だったやつが、今では日常的に会食を行っている方がおかしい──それに、下積みっぽさが出て悪くないだろう?」

 

「……全く、あなたの奇行には困り果てたものです」

 

 呆れた口調でそう言いながらも、スネイルはフロイトの対面の席に座る。

 フロイトは既に食事を始めていたらしく、テーブルにはステーキなどの定番料理が並んでいた。

 

「安っぽい店の食事でも、レーションに比べれば遥かに美味い。ACが存在しないこの世界に於ける、俺の数少ない楽しみの一つだ」

 

「同感ですね。この世界の食事レベルは非常に高い──この世界におけるアーキバス社の製品開発過程で、その壁の高さは痛感しました」

 

 ゆくゆくはこの世界での経験を活かして、元の世界で飲食店ビジネスを始めるのも良いかもしれない。

 そんな事を思いながら、スネイルは料理を注文した。

 

「だから思うんだ、スネイル。この世界で飲める酒はきっと美味いだろう、とな。そしてこの世界に於ける俺とお前の、今年の肉体年齢は18から19歳。法律的にまだ酒が飲めない歳だ」

 

「……何が言いたい」

 

「つまり、だ──今年で元の世界に戻るお前はこの世界の酒を飲む事ができないが、残された俺がこの世界で20歳になれば、お前が飲めなかった酒の味が分かるようになるというわけだ」

 

「…………なんという事だ」

 

「ふふ──元の世界に戻った後は、お前にこの世界の酒の味をたっぷり自慢してやろう」

 

 そんな他愛のない会話をしながら、二人は食事を行う。

 前の世界でも、こんなに和気藹々とした時間を過ごした事は中々なかった──フロイトはいつになく上機嫌な様子であり、そしてスネイルも満更ではなさそうにしている。

 

「それとお前のアイドルのチャンネルの動画を見たが、担当アイドルだけじゃなくてお前自身の人気も結構凄いんだな。突然時代劇っぽいセリフが出てくるのが面白いとか、色々コメントが来ていたぞ」

 

「……不本意な形で注目を浴びているのは気に入りませんが、アーキバスにとっては得になる以上甘んじて受け入れる他にない」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をしながら、スネイルは答える。

 実益に勝るものは何もないが、しかしスネイルにもプライドというものがある──視聴者に存在そのものを面白がられている状況は、彼にとっては中々受け入れ難いものだった。

 

「……元の世界に戻ったら、お前がアイドルをやってみるのはどうだ?アーキバスの技術力で、体を女性にしてみるとかはどうだろう」

 

「どうだろう、ではありません。貴方はアーキバスを、なんだと思って……メーテルリンクあたりに歌って踊らせればそれで良いでしょう」

 

「メーテルリンクはお前が使い捨てにして死なせただろう」

 

「それもそうですね」

 

 なんて事ないように肯定するスネイル。

 この世界に来て多少はマシになったかと思えば、悪い意味でスネイルらしい部分もまだ残されているらしい──草葉の陰でメーテルリンクも嘆いているに違いなかった。

 

「お前に友達が少ないの、多分そういう所だろうな──しかし、性転換は抜きにしてもこの世界には男性アイドルというのもあるらしい。割と真面目に考慮してみたら良いんじゃないか?」

 

「……元の世界に戻った後のプランの一つとして、適切な人材を選んでアイドルという形で運用する、というのは考えていました」

 

「へぇ?」

 

「ルビコン解放戦線ではリトル•ツィイーという人物が、士気高揚の要となっていたという実例もあります。余裕ができれば、アーキバスにも同じような人材を用意しておくのも悪くはないのかもしれません。戦争のみならず、経済面でも役に立つのは既に実証済みですので。もっとも、その人材に私が選ばれる事はないでしょうが──」

 

 現実的な話として、『アイドル』という概念を元の世界に戻ってからも上手く扱えないかと検討するスネイル。

 だがフロイトは、そんな堅苦しい話を聞くためにスネイルを呼んだわけではない。

 

「──アイドルスネイルのファンネーム、駄犬。ファンクラブ名は再教育センター」

 

「ぶはっ……!」

 

「おいおい吹くんじゃない、店に失礼だろう」

 

 フロイトの冗談がくだらなすぎたのか、それとも結構面白かったのか。

 思わず飲み物を吹き出してしまったスネイルの姿を見て、フロイトは笑いを堪えきれない様子だった。

 

「どの口が…………そろそろ本題に入りなさい。まさか──こうしてただ、談笑するためだけに私を呼んだわけではないだろう」

 

「ふっ──そのまさか、だと言ったら?」

 

「……………………はぁ。企業たる私の時間を甘く見積もりすぎです。暇を潰すよりも先に、貴様は次にプロデュースするアイドルを見繕うべきだろう」

 

 スネイルは心の底からの呆れ顔を見せながら、フロイトにプロデューサーとしての仕事に専念する様に促す。

 昔からフロイトは、いまいち真剣味が足りず常に遊び気分でいる様な男だった。

 ヴェスパー部隊の中では比較的人格者であり、温厚だったラスティでさえフロイトの態度には苦言を呈していた記憶がある。

 ひとまずは直近のオーディションでの件は水に流したとはいえ、次にH.I.Fで戦う時も情けなく張り合いのないままでは困る──もう少し、真面目にプロデューサー業に向き合ってほしいものだった。

 

「それもそうだな……しかし、中々逸材が見つからなくてな。賀陽燐羽を越える能力の持ち主とは、まだ巡り会えそうにない」

 

「そうですか……それはそうでしょうね」

 

 しかし、フロイトのプロデューサー業が捗らない理由は確かに納得させられるものだった。

 何せ賀陽燐羽は、あの月村手毬が憧れて目標としていた人物だ──『SyngUp!』解散後のブランクがあっても尚、N.I.Aでかなりの成績を叩き出してきた程の逸材。

 彼女と接した後では、中々他にスカウトすべきアイドルが見つからないのも無理はなかった。

 

「電話が来ました。待ちなさい」

 

「了解」

 

 スネイルはフロイトの返事を聞くより先に携帯を取り出し、そして電話をかけてきた人物の名前を確認する。

 表示されている名前は月村手毬──早めに出なければ面倒なことになる。

 スネイルは早速電話に出ると、携帯からは周りにも聞こえるほどの大きさの手毬の声が発せられた。

 

『プロデューサー!燐羽が──アイドルに、復帰するって!さっき美鈴と三人で話してた時に、言ってたの!』

 

「……との事ですよ、フロイト」

 

「…………はは!しばらく退屈せずに済みそうだ……!」

 

 その後、スネイルは携帯の音量を下げて手毬と一言二言会話する。

 もう二度と見れないと思っていた燐羽とフロイトの組み合わせだったが──しかし、少なくとも夏頃にはまた見る事ができそうだった。

 手毬との通話を終えた後、再びスネイルとフロイトは他愛のない談笑を行い──そしてしばらくの時が経過して、先に料理を全て食べ終えたフロイトが席を立った。

  

「悪いがスネイル、俺は担当アイドルと連絡を取りに行く──次は、H.I.Fで会おう。」

 

「えぇ──また、H.I.Fで」

 

 そう言ってスネイルは、離れていくフロイトの後ろ姿を見て──そして彼が、レジを素通りして会計を行う事なく去っていったのを目視した。

 因みに、この飲食店086は後払いである。

 

「………………」

 

 何やらフロイトは去り際に一言、レジの店員に何かを伝えていたように見えたが、おそらくはテーブルに残っている人物が全て支払うといった内容の発言を行ったのだろう。

 

「フロイトめ、さては私に支払わせるためだけに呼んだな…………?」

 

 スネイルの耳元で、『たくさんお金を持っているんだから、別に良いだろう』と言い訳する男の声が聞こえたような気がした。

 

 

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