学マス世界に転生したV.Ⅱスネイルが月村手毬をプロデュースする話 作:雪浪夏鶏
「……どうしてでしょうか?」
秦谷美鈴は自分の提案をスネイルに否定され、本気で理解できていなさそうな声色で尋ねる。
その様子を見てスネイルは、やはり彼女は月村手毬の適切な動かし方を知らないのだろうと確信した。
「それは──」
故に、それを教えようとして──
「──見つけた!プロデューサ〜〜〜〜〜!」
「………………」
──他ならぬ月村手毬本人に、邪魔される形となった。
心の底から呆れ果てた視線を向けるスネイルに対し、手毬は怒鳴る様に尋ねる。
「なんで何度も何度も電話をかけているのに、応答してくれないんですか!」
「……貴様にしては鼻が利く、どうやってここを知った?」
「人に尋ね回りながら、走ってきました!」
「…………余計なトラブルを招く様な行いは控えろと言っていただろう……」
頭を抑えながら、スネイルは疲れ切った声を出す。
そのうち、胃薬を増やさなければならなくなるだろう。
「やっぱり、怒ってる……!」
「逆に何故怒っていないと思った……?」
「……驚きました。まさかまりちゃんが、こんなにも心を開いているなんて」
「心を開いたら、こうなってしまうのか……」
過去に月村手毬と携わっていた人物の評価を聞いて、今の手毬の取り扱いの難しさが生来のものだという事実が発覚し、スネイルは密かに絶望する。
そしてそのやり取りを経て、ようやく手毬はスネイルの隣に美鈴が居ることに気づいた。
「み、美鈴!?なんで、ここに……プロデューサー、まさか浮気したの!?」
「どんな解釈だ……」
ただでさえ疲れ切っていた所に、パニックになった手毬からの詰問──スネイルは自分の精神がやすりで削られていくのを感じていた。
流石にその様子を見て責任を感じたのか、スネイルの代わりに美鈴が手毬に対して説明を行う。
「まりちゃん……実は私の方から、『SyngUp!』の再結成に協力して欲しいって、お願いをしていたんです」
「えっ……再結成って、なんでそんなこと……プロデューサーは……?」
「断られちゃいました──けど、まだ理由を聞いていませんでしたね。どうして『SyngUp!』のプロデュースの提案を、断ったんですか?」
駆けつけてきた手毬がひとまずは大人しくなったのを確認し、スネイルは美鈴の方を見て質問に答えることにする。
「おおかた、例のファーストライブを見て『月村手毬にはやはりユニットメンバーの助けが必要だ』と確信してしまったのでしょう」
「…………」
事実、その通りだった。
体力を使い果たして散々な結果に終わり、疲労困憊な手毬の姿を見て、美鈴はこのまま彼女に無理をさせるわけにはいかないと考えていたのである。
「だが、そもそも月村手毬にはその在り方の問題から、ユニットを解散にまで追い込んだ過去がある──同じ過ちを繰り返すのが、賢明であるとは思えない……他ならぬ本人も、そう語っていた」
定期公演『初』の中間試験を終わらせてすぐに、プロデュース方針を練っていた時の事を思い出す。
月村手毬はスネイルが『SyngUp!』の映像を見ていた際に、ユニットを再結成させられるのではないかと過剰反応を起こしていた。
そんな彼女に対して、ユニットの再結成の話を持ちかけるのが賢明であるとは思えない。
「月村手毬の在り方を再教育し、変わる事を求めるのは不可能だ──月村手毬の矯正しきれない我の強さを、貴方はよく理解している筈でしょう」
「それは……そうですね……」
もしスネイルが提案を受け入れたとしても、手毬がそれに納得するかどうかは話が別だろう。
仮にひとまずは納得したとしても、前と同じ様に方向性の違いで反発し合い、互いの関係が悪くなっていくのは目に見えていた。
「故に彼女に必要なのは、その在り方を長所として受け入れ、共に高みへと駆け抜けられる存在だ。野心の火を絶やす事なく、同じペースで進んで行ける誰か──つまり、私です」
「プロデューサー……!」
保健室での問答を思い出す。
あの時、本当の意味でスネイルは月村手毬の存在を理解して──そして、自分にも通ずるものがあったのだと気づいた。
故に、互いに協力して頂点の座を手にすると約束したのである。
「……本当に、驚きました。おふたりはお互いに、とても信頼しあっているんですね」
普段は反発し合っている様に見えて、互いに同じ方向を見て肩を組み協力し合っている。
その関係性の一端に触れて、確かに自分には見誤っていた部分もあったのだろうと美鈴は思う。
「けれどもやはり、上手くいくとは……」
だが、それで安心できるのかといえばそれはまた別の話だった。
月村手毬がファーストライブで、散々な結果を残したという事実は変わらないのだから。
「……どうやら貴方は月村手毬のファーストライブでの、リハーサルを見ていない様だ」
「ええ……それが、どうしましたか?」
「……一つ、提案があります──貴方が月村手毬のセカンドライブを見て、それでも尚ソロアイドルとしての月村手毬の存在を受け入れられない様であれば、私は貴方の提案を受け入れることにします」
「プ、プロデューサー!?」
スネイルのその発言を聞いて、手毬が驚きの声をあげる。
スネイルは自分自身でも、気が狂った提案をするものだと思っていた──だが、この選択で間違いはないのだと直感が告げている。
それは、月村手毬をプロデュースすると決めた時と同じ直感だった──故に、その判断を信じる事ができた。
「ですが、貴方が賭けに負けたら──『SyngUp!』の再結成は諦めることです」
「……その条件だと、私が有利すぎるのではないでしょうか……?」
美鈴の言う通り、この条件では彼女が有利すぎる。
セカンドライブを見終わった後、ただ『やっぱり受け入れられない』と言えば、それだけで彼女は自分の要求を通す事ができてしまう。
だが──
「私は確信しているのです──ソロアイドルとしての、月村手毬の可能性を。それを知れば、貴方はきっと諦めるはずだ」
「…………」
──ソロアイドル月村手毬の輝きを見て、その存在を受け入れられない者は居ない。
一人のプロデューサーとして、スネイルはそう確信していた。
「前回は不都合があってその可能性を見せる事はできませんでしたが、今回は違う。次のライブを楽しみにする事です」
そうして、賭けが始まった。
月村手毬のセカンドライブ──全ては、その結果にかかっている。
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■親愛度8.5「
美鈴との賭けの話をした後、スネイルはすぐさま手毬が起こしたトラブルの対応や、学園外への遠征の仕事などを片付けに向かった。
本当はもう少し休憩していく予定だったものの、美鈴との賭けで勝つと決めた後は不思議と活力が湧いたのである。
だが、散々動き回れば必然と肉体には疲労が蓄積されていく。
今日すべき事を全て済ませたスネイルは疲弊し、もう休もうかと思っていたが──
「プロデューサ〜〜〜〜!どうしてあんな事言ったんですか!私、ユニットの再結成なんて……」
「全く、騒々しい…………」
──手毬の手によって、再びスネイルの休息は邪魔される形となる。
とはいえ、手毬の怒りも尤もではある──勝手に賭けの対象にされたのだから、言いたいことの一つや二つあって当然というものだ。
「ただ、勝てば良いだけの話でしょう。貴方にはそれだけの能力が備わっている……それに、セカンドライブの為の秘策も既に用意してあります」
「秘策……ひょっとしてそれが、今日やってた仕事に繋がってるの?」
「えぇ──次のライブのために、ソロアイドル月村手毬の為だけの楽曲を用意しました」
「……つまり、新曲って事?」
「えぇ。曲は時間と金を費やし、妥協せずに選んだ優れた作曲家に依頼し──そして、歌詞は私が書きました。貴方の想いを乗せるには、うってつけの物に仕上がった筈です」
そう言ってスネイルは、パソコンを開く──その中には、彼の言う楽曲のデモ音源が入っていた。
今回の学外への遠征は、作曲家との交渉なども含めたものだったのである。
その作曲家が気難しい人物だった故に、直接顔を合わせて交渉しなければならなかった為かなりの手間を強いられたが──その甲斐もあって、極めて質の高い曲に仕上がっている。
その曲に見合うだけの歌詞が書けたかは分からなかったが、少なくとも自分なりの全力は費やせたはずだとスネイルは思う。
「貴方の為にこの私が用意した、至高の楽曲──その名も、『
セカンドライブの為の布石は全て打たれた。
あとはこの、新たなる武器を携えて──ただ、本番で勝利を掴むだけである。