学マス世界に転生したV.Ⅱスネイルが月村手毬をプロデュースする話   作:雪浪夏鶏

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親愛度9「秦谷美鈴説得-深度3」

 

 

 

「そろそろ時間です──準備はできていますね?」

 

「はい──準備万端です」

 

「結構。ファーストライブの時とは違い、リハーサルで体力を使い切っていないようで何よりです」

 

「その話はやめてください!全くもう……」

 

 運命のセカンドライブ──それが始まる直前で、プロデューサーとアイドルは舞台袖で軽い会話を行う。

 最初の頃では考えられないほどに、二人の距離は縮まりつつあった。

 

「美鈴との賭けに……私は、勝てるでしょうか」

 

 アイドルはプロデューサーに対して、不安そうに尋ねる。

 

「無論です。勝ってもらわねば困ります──『あきけん』による体重管理、『アーキバスプロテイン』による体力の増強、そして鍛錬に次ぐ鍛錬によって新曲、『Open Faith(オープンフェイス)』を短期間で習得してみせるなど──最新の調整を幾重にも重ねてきたこの月村手毬の力があれば、問題はありません」

 

 それに対してプロデューサーは、不安なんて全く感じさせない様な自信満々な態度で、メガネをクイッと指で押し上げながらそう言った。

 その振る舞いがあまりにもいつも通りすぎたので、アイドルにとっては頼もしくはあったが、同時に少し面白くも感じてしまう。

 

「プロデューサーって、たまにちょっと変な言い回ししますよね……まぁ、良いですけど」

 

 これから運命を左右するライブが始まるというのに、笑わせないでほしかった。

 だけど、おかげで無用な心配は全て吹き飛んだ──あとは、こんな自分を信じてくれた人の分まで羽ばたくだけだ。

 

「見ててね──プロデューサー。私の、全力のライブを」

 

「よろしい──見せてもらうとしましょう。やがてトップアイドルとなる月村手毬による、全力の姿を!」

 

「──はいっ!行ってきます……プロデューサー!」

 

 プロデューサーに見送られて、そのアイドルは舞台袖から羽ばたいていく。

 その堂々たる振る舞いからは、もはや不安の色は感じ取れなかった。

 

 

 ────────────

 

 

 ステージの上で月村手毬は、己の身を顧みぬまま限界を超えて歌い続ける──それはさながら、天をも焦がす野心の炎。

 彼女のひたむきな想いの発露は、観客たちの視線を釘付けにして離さない。

 

「…………凄まじい」

 

 思わず、そう呟かざるを得なかった。

 自分がプロデュースしたアイドル、月村手毬のライブを見て──まるで、巨大な惑星が有する引力に引かれているようだとスネイルは思う。

 誰よりも懸命に足掻いて、足掻いて、足掻き続けて──そして今、彼女は必死に叫んでいる。

 その有様を目の当たりにして、一体誰が無視する事ができようか。

 

 誰も彼もが圧倒され、決して彼女から目を離せない──まさしくあの日、思わず『選ばされた』と感じた通りの魅力が遺憾無く発揮されていた。

 心の内に響き続けるその歌声は、さながら天啓のようなものである。

 

(素晴らしい……)

 

 フロイトに勝つだとか、企業の躍進だとか、その為に元の世界に帰るだとか──スネイルという存在を構成する上で欠かせない核の部分を、今だけは手放してしまおう。

 

(本当に……素晴らしいライブだ、月村手毬……!)

 

 このライブの時間に限っては──ただ全ての思考を、彼女に対してのみ向けておくべきだ。

 自分が見出した──いや、見出した以上の魅力を放つアイドルが、今目の前に存在しているのだから。

 

 

 ────────────

 

 

「全てを出し切りましたね──月村手毬」

 

「うん──もう、動けそうにないや」

 

 全ての力を費やした、セカンドライブ──その楽屋。

 アイドルは、疲労困憊ながらも満足そうな笑顔を浮かべており──そして、そんな彼女を見つめるプロデューサーの目も普段よりどこか穏やかだった。

 二人はそのあと少し余韻に浸った後に、そのまま反省会を行おうとしたが──

 

「──まりちゃん!」

 

 手毬の身を案じる声が、二人の間に割って入る。

 秦谷美鈴の姿を見て──そういえば、まだ賭けの話がまだだったとスネイルは思い出す。

 ソロアイドル月村手毬の存在を、秦谷美鈴がただ一言受け入れられないと口にしたら、スネイルはその時点で彼女の要求を飲まざるを得なくなる。

 まぁ、もっとも──あのライブを見せられた後なら、何の心配も要らないだろうとスネイルは思っていた。

 

「どうだった?私の、全力のライブ!……あなたを、安心させる事ができたかな?」

 

「ちっともできてません……!今にも倒れちゃいそうで、体力を限界まで出し尽くすような、あんなライブ……プロデューサーは、なにも思わなかったんですか……?」

 

 美鈴は半ば非難するような目をスネイルに向けるが、スネイルは動じる事なく淡々と質問に答える。

 

「全く心配しなかった、といえば嘘になります──最後の方は完全に力が尽きていました。ちょうど今、その反省会を行おうとしていたぐらいです」

 

「うっ……やっぱり、バレてた……」

 

「ですが──あの程度であれば改善は容易です。また努力を重ねましょう」

 

「うん……頑張る!」

 

 二人はどこか楽しそうに、今後の話を行う──二人の間から確かなる信頼が感じ取れる事は、もはや説明するまでもない事だろう。

 

「………………」

 

 手毬がプロデューサーに対して向ける視線を見て、美鈴は理解する。

 

「よく、分かりました……あの全力のライブが、まりちゃんのマイペースだったんですね」

 

 彼ならば、ありのままの手毬をアイドルとして導くことができる──それは確かに、かつての自分たちでは出来なかったことだった。

 手毬に対して、してあげられなかったことだった。

 その事実に気付かされた時点で、もはや美鈴はソロアイドルとしての月村手毬の存在を、認めざるを得なかった。

 

 かつて『SyngUp!』のメンバーとして共に活動していた二人は、今まで出来なかった分のそれを埋め合わせるように謝りあって──そして、お互いの想いを確かめる様に語りあう。

 祝うべき門出を迎えた相手と、自分の事を想ってくれている相手と、過ごした過去を懐かしむ様に──長かった喧嘩の、仲直りを済ませた。

 

「プロデューサー、まりちゃんを──あなたに託しても、よろしいですか?」

 

 そして、美鈴はスネイルの方を向いて語りかける。

 正しくそれが、彼女がソロアイドルとしての手毬の存在を受け入れるための最後の儀式となる。

 

「勿論です──仮に自滅したとして、頂点を目指して共に挑戦し続けるのみです」

 

「プロデューサー……!」

 

 手毬は何やら感銘を受けている様だったが、そもそも自滅すらもして欲しくない美鈴としては心配で仕方ない発言だった。

 

「私、もっと不安になってきました……まりちゃん、本当にこの人で大丈夫なんですか?」

 

 極限まで自分を追い込んでいくのが手毬のスタイルで、それを理解して尊重し、共に支え合うプロデューサーが居て──結局のところそれは、プロデューサーである彼もまた、手毬と同じ様に無理をするタイプの性格という事に他ならないのだ。

 美鈴の危惧通り、二人揃って自滅してしまうリスクは十分に高い。

 だが──

 

「うん……羨ましくても、あげないから──私のための、プロデューサーなんだから」

 

 そう言い切った手毬の、心の底から誇らしげに──そして嬉しそうな姿を見れば、それすらも二人の間では些事にすぎないのだろうと思わされた。

 

 

 ────────────

 

 

■True End

 

 

 ライブ会場の外周のベンチに座り、スネイルは今日のライブの事を思い返す──本当に素晴らしい、圧巻のライブだった。

 これ程の多幸感を最後に得たのは、果たしていつの事だっただろうか──ひょっとしたら、人生で初めての事だったのかもしれない。

 どこか夢心地な気分のまま黄昏ていると、突然スネイルの携帯から着信音が鳴る──また、手毬だろうか。

 スネイルは携帯を取り出して発信者の名前を確認すると、そこには意外な人物の名が記されていた。

 

「V.Ⅰ、フロイト……」

 

 少しの間だけ、躊躇って──そして、意を決して電話に出る。

 もはやスネイルには、彼を恐れる理由はどこにもないのだから。

 

『見たぞ、お前がプロデュースしたアイドルのライブを──随分と磨き上げたものじゃないか』

 

 携帯から発せられたフロイトの第一声は、賞賛の声だった。

 スネイルは少しだけ安堵して──そして、新しく更新された幸せを得て口角を上げる。

 

「当然です──彼女であれば確実に一番星(プリマステラ)になる事ができます。あなたのアイドルを相手にしても、負けることはないでしょう」

 

『そうか──ふふっ、そうか!それはまた楽しみだ……お前のそんなに自信があって、楽しそうな声を聞くのは初めてだしな』

 

「……そうですか」

 

 フロイトに指摘されて初めて、自分の声がいつもよりも弾んでいる事に気づく。

 だが、構うまい──そうなってしまうのも無理もないぐらいに、あのライブは本当に素晴らしかったのだから。

 

「AC戦であるのならばともかく、プロデュースの力量に於いては負ける気がしませんね。今回、プロデュース対象として選んだ相手が良かったというのもあるでしょう──今度はあなたが、挑戦者になる番です」

 

 そして気づけば──スネイルはあのフロイトに対して、とても挑発的な言葉を口にしていた。

 少しの沈黙が生じ、そして──

 

『ふっ、ははは!言ってくれる……!』

 

 ──とても嬉しそうに、フロイトは笑う。

 彼からその笑い声を引き出せただけでも、スネイルにとってあのライブにはかなりの価値があったと言える。

 

『お前がそこまで入れ込んでいるアイドルとやり合える機会が待ち遠しい──直近であれば、N.I.Aだったか。その日までに俺も、担当アイドルを磨き上げるとしよう』

 

「えぇ──私も楽しみです。では、また」

 

 そして、二人の通話は終わった。

 満足そうに携帯をしまうスネイルに対して、途中から近くで様子を見ていた手毬が話しかける。

 

「プロデューサー……電話、終わった?」

 

「……居たのですか。気づきませんでした──えぇ、たった今終わったところです」

 

 スネイルは手毬の方を向いて、そしてプロデューサーとしてかけるべき言葉をかける。

 

「──お疲れ様でした。今回のライブはこの上ない程に、大成功だったと言えるでしょう」

 

「うん……とても、大成功だった」

 

 ライブが終わっても尚、その余韻は二人の間で残り続けている。

 観客たちは圧倒され、全員の心に月村手毬の存在が刻みつけられた──文句のつけようのない、大成功だ。

 

「……えっと、肝心な事を、まだ聞いてなかったよね」

 

「ほう。肝心な事、とは?」

 

「その…………プロデューサーは今日の私のライブ……どうだった?感想、聞かせて」

 

 恐る恐るといった様子で、手毬が問いかける。

 それは言わずとも伝わっていた事だと思っていたので、スネイルは少し呆気に取られた後に──そして、素直に答えてあげる事にした。

 

「全く、何かと思えばそんな事ですか──言うまでもないことです。ですが、敢えて口にするとしましょう────本当に、素晴らしかった」

 

「…………そっか。なら、よかった……あれが今の私の、全力だったから──それじゃあ次は、もっと先に進むための相談をさせてよ」

 

 手毬は嬉しそうにはにかんだ後、すぐに表情を切り替えて次の話を始めようとする。

 

「よろしい──ちょうど先ほど、次の舞台について思いを馳せていたところです。その相談に付き合うとしましょう」

 

 あまりの切り替えの速さに、普通なら振り落とされてしまいそうなものだったが、スネイルは特にそれを気にする事はなかった。

 むしろその切り替えの速さは、スネイルにとって好ましいものでもある。

 

「うん……ありがとう」

 

 そんなスネイルの振る舞いを見て、やはりこの人がプロデューサーで良かったと手毬は思う。

 

「えっと……一回しか、言わないから──」

 

 そして、せっかくだから────

 

「あのね、プロデューサー────」

 

 ────たまには素直に、その気持ちを伝えてみる事にした。

 

 

 




今回でトゥルーエンドまでやった分、次回はちょっと短め
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