ポケモン不思議のダンジョン Drop of Mind 作:アヤ・ノア
お尋ね者集団「非情なる鍵」との戦いが始まる。
ジオは仲間の攻撃力を上げ、コーディリアは先手を取る。
しかし、ルキウスがハロルドの影を縫い付け、兄弟の関係が明らかになる。
ルキウスは「ネバーランド計画」を語り、大人を憎む理由を告げる。
ハロルドは弟を止めようとするが、ルキウスは攻撃を続ける。
激闘の末、ウララのこころのしずくが「非情なる鍵」に奪われてしまった……。
あたしは、絶対に何があってもこころのしずくを取り戻します。
Chapter 22
奪われたこころのしずく 我を忘れた少女の怒り
-Wut-
こころのしずくは、お尋ね者に奪われた。
ネバーランド計画を企てる、ハロルドの弟、ルキウスに。
「そんな……兄様の形見が……」
ウララは首を確認するが、そこにかかっていたものは、ない。
「ああ、なんて事を……あたしのせいで、こころのしずくが……」
こころのしずくを失った事に責任を感じるウララ。
ハロルドはウララを心配の目で見ている。
「でもまさか、ここまで落ち込むなんてね」
「まさか、って……」
「私は、お宝を取られたら怒るわよ。地の果てまで犯人を追いかけるんだから」
コーディリアはこの状況にも関わらず、腕を組んでいる。
ハロルドは彼女の傲岸不遜な態度に、さらに不安になった。
その険悪な雰囲気は、ついにウララにも及んだ。
「皆様は、あたしの事を心配しないんですか?」
「違うよ、ウララ。どうすればいいかをこれから考えようとして……」
「して、じゃありません! どうして守ってくれなかったんですか!
あたしの宝物を! 兄様の形見を!」
ウララはパニック状態になり、ハロルドに掴みかかる。
「や、やめてよ、ウララ……」
「この責任は誰が取るんですか! あたしの宝物は誰が取り返すんですか!」
「だから今、それを考えて……」
「もういい! 知りません! あたし一人でこころのしずくを取り返します!」
そう言って、ウララはコーディリアの屋敷から出ていった。
ハロルドの言葉を聞かず、涙を流しながら。
「ウララ……」
「よほど、失ったものが大きかったのでしょう。
彼女の精神に大きな打撃を与え、あのような行動を起こしてしまった……」
マクベスは冷静にウララの行動の理由を説明した。
大事なものを失い、心に傷がついたウララは、
狂ってこころのしずくを取り返そうと一人で出ていってしまった。
「……ねえ。どうするの、コーディリアさん? あのままだとウララが危険だよ?」
「決まっているでしょう。……ウララを、連れ戻すのよ」
コーディリアは、ウララが去っていった場所を見つめた。
彼女は握り拳を作っており、表情には僅かに怒りの感情が滲み出ている。
その頃、ウララは、奪われたこころのしずくを取り戻すために探索者協会に行こうとしていた。
「どうして、兄様の形見を奪ったんですか……。
命よりも大切な……兄様の形見を! いなくなった兄様が残したものを!」
ウララは感情のままに言葉を吐き出している。
探索者協会の周囲にポケモンはいなかったが、
もし、周囲にポケモンがいれば、迷惑になっていた事だろう。
―こころのしずくを取り戻したいか?
―犯人に復讐したいか?
ウララの頭の中に、少年の声が聞こえてくる。
それは、こころのしずくを奪ったお尋ね者、ルキウスと似た者であった。
理性があれば自作自演と蹴りそうだったが、
兄の形見を失い、理性までも吹っ飛んだウララに、最早心の余裕は無かった。
「あたしは、絶対に何があってもこころのしずくを取り戻します。
あたし以外で持っている人は、容赦しません」
ついにウララは何者であろうと、
こころのしずくを持っている者と戦うという恐ろしい誓いを立ててしまった。
そして、彼女の誓いに応えるかのように、ウララの足元に黒い種が落ちてきた。
―これは、かたきうちのタネだ。
―悲しみを養分とし、瞬く間に憎しみに変え。
―心を復讐心で満たす種だ。
―さあ、受け取るがいい。
「……」
ウララは黒い感情を湧き出しながら、それと同じ色の黒い種を手に取り――
「じゃ、ウララ奪還作戦を実行しよう」
ハロルドは、コーディリアとマクベスをまとめ、いなくなったウララを探す作戦を考えた。
「どうやって?」
「ウララがどこに行ったのかをみんなに聞くんだ」
まずは情報収集、それから行動に移す。
いたって単純だったが、それが一番良い解決方法だとハロルドは判断し、そう提案したのだ。
「もし、ウララの情報が見つかったら、ウララが逃げたダンジョンに乗り込む。
そして、何があってもウララは連れ戻す」
たとえ大きな試練が待ち受けていても、大切な仲間は何があっても取り戻す。
大人しいハロルドの決意が固まった瞬間である。
コーディリア達も彼の勇気に賛同し、ウララ奪還作戦を実行した。
「あの、ウララってラティアスを知りませんか?」
ベシク街でハロルドはポケモン達に尋ねて歩いた。
しかし、ポケモン達は伝説のポケモンをよく知らないのか、まともに答えてくれない。
「ウララって、女の子の名前かい?」
「よく分からないねぇ」
ハロルドは、頑張ってウララの事を探し続けた。
しかし、いくら聞いても、全く情報は得られなかった。
「やっぱり、名前だけじゃそう簡単には見つからないよ」
「伝説のポケモンだし、知っている人は少ないわね」
「それに、彼女は探索者になってから日が浅いですものね……」
「まともな情報は見つかるのかしら……」
四匹が困っていると、傷だらけのドロバンコが身体を引き摺りながらやってきた。
「う、ううぅぅ……」
「どうしたの、ドロバンコ!」
「ラ、ラティアスが、こころのしずくがどこにあるかと襲ってきた……ぐふっ」
ドロバンコが受けた傷は大きく、彼はそのまま瀕死になってしまった。
しかし、襲ってきたのがラティアスと聞き、ハロルドがぴんと閃いた。
「もしかして、そのラティアスって、ウララの事じゃない?」
「こころのしずくを取り戻すって言ってたしね」
「でも、どこに飛んでいったのかしら。聞きたかったけど、瀕死になっちゃったし……」
「……このドロバンコをラッキー達のところに連れていきましょう」
三匹はドロバンコから情報を聞き出すため、彼を探索者協会に連れていく事にした。
しかし、ドロバンコは体重が重いので、マクベスが運ぶのだった。
「ふぅ、助かりました。探索者の皆様、ありがとうございます」
ラッキーに治療してもらったドロバンコは意識を取り戻し、ハロルド達にお礼を言う。
「どういたしまして。それで、そのラティアスはどこに行っちゃったの?」
「ヤングースの洞窟だ……」
「はっ、それって!」
ヤングースの洞窟、それはハロルド達が最初に依頼を受けたダンジョン。
そこにラティアス――ウララが入ったという。
最初の冒険の地で、彼女と再会するなんて、三匹は思ってもいなかったようだ。
「貴重な情報、ありがとうございました」
「どういたしまして。君達も探索者として頑張るんだぞ」
「はい!」
「ヤングースの洞窟かぁ……そこにウララが入ったんだね」
「序盤のダンジョンが終盤のダンジョンになるなんていいじゃないの」
イイ展開ね、と笑みを浮かべるコーディリア。
ハロルドとマクベスは、ははは、と苦笑いする。
しかし、このまま放置しておけばウララが暴走してベシク街が崩壊してしまう可能性がある。
一刻も早く、ウララを助けなければならない。
「……いいかしら、みんな? ウララは必ず取り戻すのよ」
「分かっているよ、コーディリアさん」
「当然ですよ、お嬢様」
三匹はぐっと握り拳を作る。
形見を奪われ、我を忘れたウララの怒りを鎮め、
彼女を闇から取り戻すために、彼らは決意するのだった。
「それじゃ、ヤングースの洞窟へ、行くよ……!」
「ええ……! 待ってなさいよ、ウララ……!」
「貴女の悲しみは分かりますが、それを怒りに変えてはいけません」
そして、三匹はウララが待っている、ヤングースの洞窟へと乗り込むのだった。
次回はウララを止めるためにハロルド達が活躍します。