ポケモン不思議のダンジョン Drop of Mind 作:アヤ・ノア
ウララは失われた兄の形見である「こころのしずく」を取り戻すため、
仲間と共に四つの試練に挑む事を決意する。
カプ・コケコが守る朽葉の山に向かい、数々のポケモンとの戦闘を経て、守護神と対峙する。
カプ・コケコとの激闘の末、ハロルド達は勝利を収め、試練を達成する。
その後、カプ・コケコはウララに祈りを捧げるよう促し、彼女を祝福する。
試練を終えたウララは、こころのしずくを手に入れる希望を抱く。
彼女の心には、兄との再会への強い願いが宿っていた。
試練を達成して、五感が戻って、こころのしずくを手に入れればバンバンジー、
じゃなくて万々歳です!
Chapter 25
二つ目の試練 山吹色の無邪気な守護神
-Leben-
カプ・コケコの試練を何とか無事に達成したハロルド、コーディリア、マクベス、ウララ。
「お疲れ様、ウララ。はい、リンゴ」
「はい。いただきます」
ウララはハロルドからリンゴを受け取り、一口かじった。
しかし、ウララの表情は変わらなかった。
「どうしたの? ウララ」
「何の味もしません……」
どうやら、ウララはリンゴの味を感じないようだ。
ハロルドは、ウララが食べたリンゴをかじるが、しっかりとリンゴの味が口の中に広がる。
「おかしいな。どうしてウララだけ……」
「分かりません、でも味がしないんです」
カプ・コケコの試練を達成した時、ウララは味を感じなくなった。
すなわち、ウララの身体機能のうち「味覚」が失われたという事になる。
「試練を達成して、ウララだけが何の味もしなくなった。
これと、こころのしずくを作るのにどういう関係があるんだろう?」
「今はまだ分かりません。ですが、試練を達成して、ウララが感覚を失ったのは確かです」
このまま試練を達成し続ければ、ウララは取り返しのつかない事態に発展してしまうのか。
ハロルド、コーディリア、マクベスはその不安から震えた。
しかし、ウララは堂々とした態度でこう言った。
「大丈夫です。試練を達成して、五感が戻って、こころのしずくを手に入れればバンバンジー、じゃなくて万々歳です!」
「そう、だね……ウララ。ありがとう」
「ありがとね、元気にしてくれて!」
根拠のない自信ではあったが、落ち込んでいる三匹を元気づけるのには十分な言葉だった。
「じゃあ、次はここに行こう!」
「ああ、いってらっしゃい」
「無事に帰って来てね」
アーマルドとユレイドルに見送られてハロルド達が次に行ったダンジョンは、
カプ・テテフが守護する
ここにはエスパータイプのポケモンが多くいて、四匹はなかなか弱点を突けずに苦戦する。
「道具も使った方がいいかもね」
「それ!」
ハロルドは拾ったぎんのハリを投げ、スリープを遠くから撃退する。
「……んっ」
マクベスは道を塞いでいる岩をどかし、モンスターハウスを避けながら山吹の谷を歩いていく。
コーディリアは警戒しながら歩き、罠を慎重に解除していった。
「いくらエスパータイプといっても」
「このパーティーには二匹いますからね」
はがね・エスパータイプのマクベスと、ドラゴン・エスパータイプのウララが呟く。
彼らなら、エスパータイプの攻撃を受けても平気なので、
ハロルドとコーディリアは頼りにしていた。
“谷”というだけあって、一行は下へ下へと進んでいった。
コーディリアが用意したロープを使い、ゆっくりと下へと向かっていく。
「きゃっ!」
「お嬢様、危ない!」
不意に、突風が吹いてコーディリアは足を踏み外しかける。
だが、マクベスがサイコキネシスを使ったため、何とか体勢を持ち直した。
ハロルドは浮遊しているウララの背中に乗り、カプ・テテフがいる場所へ向かっていった。
「カプ・テテフってどんな姿なんだろう……」
「分からないけど、楽しみだわ」
「着いたぁ~~~」
そして数分後、ハロルド達は山吹の谷の一番奥へと辿り着いた。
ウララはハロルドを降ろし、コーディリアはロープを使って降り、マクベスが最後に降りた。
「ここが、山吹の谷の一番奥かな?」
ハロルドは辺りを見渡す。
桃色の花が咲き誇る地面、思わず眠ってしまいそうな花粉……。
ここは、他と特徴が全く違っていた。
コーディリア、マクベス、ウララも、見入ったように動けなくなっている。
「やあ、よく来たわね!」
すると、どこかからカールした髪のような部位を持つ
とちがみポケモン――カプ・テテフが姿を現した。
性別は不明だが、その口調から♀寄りと思われる。
「……あ、ここは……?」
「ここが、山吹の谷の一番奥。そしてあたしは守護神のカプ・テテフよ」
「あなたが……カプ・テテフ……!」
カプ・テテフは、可愛らしい容姿と声だが、れっきとした伝説のポケモンだ。
ウララは恍惚の表情で彼女(?)を見た後、
正気に戻りカプ・コケコの試練を達成した事を報告する。
「カプ・コケコの試練を達成したのね。おめでとう。次の試練のボスは、あたしよ」
エスパー・フェアリータイプのカプ・テテフは、かくとうタイプの攻撃が非常に通りづらい。
コーディリアの自慢のとびひざげりがほとんど通用しないため、彼女は歯を食いしばっている。
「そこのミミロップがなんか悔しそうだけど、それはそれ。あたしを倒せば、試練は達成」
カプ・テテフは無邪気にふわふわと宙に浮く。
こんなお調子者が、伝説のポケモンであるとは思えなかったが、
ハロルド達は油断せずに戦闘態勢を取る。
「エスパー技に翻弄されないでね」
「ふ、ふん! 分かってるわよ! マクベスの技は見てるんだから!」
強がるコーディリアを見て、カプ・テテフはくすくすと笑っている。
「矢鱈と強がってる子って、見てて楽しいわ。さあ、あたしを楽しませてよね!」
「……来るよ!」
カプ・テテフがサイコフィールドを展開し、ハロルド達に襲い掛かると同時に、
第二の試練の最終戦が始まった。
「やっ!」
コーディリアは先制してカプ・テテフをねこだましで攻撃する。
ハロルドはみずでっぽうを放射線状に撃って、カプ・テテフの行動を制限する。
「ミストボール!」
「当たらないよ!」
ウララはミストボールをカプ・テテフに放つが、カプ・テテフは優雅に動いて攻撃をかわす。
さらに、サイコフィールドで強化されたサイコキネシスでウララは反撃を受ける。
「きゃぁぁぁぁっ!」
「どう? 痛いでしょ?」
「流石は伝説のポケモン……侮れません」
「しかし弱点を突けば!」
マクベスはカプ・テテフの弱点であるはがねタイプの技、コメットパンチをぶちかます。
大ダメージを受けたカプ・テテフは吹っ飛ぶが、カプ・テテフはすぐに体勢を整え直す。
「いたた……やるじゃないの」
「これもお嬢様のために磨いたのです」
「いっくよー!」
すぐに拳を引き、間合いを取るマクベス。
ハロルドはマクベスに続くように、ゴローンのいしを投げて攻撃した。
「私も負けてはいられないわ!」
コーディリアはきんのハリをカプ・テテフ目掛けて投げる。
とびひざげりがほとんど効かないため、拾った道具を使って攻撃しているのだ。
「サイコキネシス!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
「ひかりのかべ!」
カプ・テテフの強烈なサイコキネシスがハロルドを襲う。
しかし、ウララがひかりのかべを張ったため、何とか致命傷にはならずに済む。
「もう一度、コメットパンチ!」
マクベスは再び、カプ・テテフにコメットパンチをぶちかます。
「えいっ!」
ウララはゴローンのいしをサイコキネシスで浮かせ、動き回るカプ・テテフに確実に当てる。
カプ・テテフは周りにある石をサイコキネシスで操り、弾幕のようにハロルド達に放った。
ウララはそれをサイコキネシスで全て防ぎ、逆にカプ・テテフに反射した。
「今だよ、マクベス!」
「これで最後です! コメットパンチ!!」
そして、マクベスは石がカプ・テテフに全て命中したのを確認すると、
コメットパンチでカプ・テテフにとどめを刺した。
「よく、頑張ったわね!」
ハロルド達に倒されたカプ・テテフは、ぱちぱちと四匹を称賛する。
「カプ・コケコを倒したあなた達ならやってくれるって思ったわよ」
「ボク達はこころのしずくを取り戻すために、四つの試練をこなしているんです」
こころのしずく、という言葉を聞いたカプ・テテフの目が少しだけ動いた。
その意味深な態度をハロルドは訝しんでいる。
カプ・テテフはコホン、と咳払いした後、一変して真剣な表情になりウララに話す。
「あなたは、自分を育ててくれた人がいた場所が誰かに燃やされて、
その人が場所諸共なくなってしまったら、かたきうちのタネで犯人を殺す?」
「あの、かたきうちのタネってなんですか?」
「倒れた味方のかたきを討つ、かたきうちって技があるでしょ?
あれを現実世界にも反映させるものよ。養分は被害者の悲しみや悔しさなどの負の感情よ。
最近まではなかったんだけど、今、何故かこのタネが増えちゃったのよね」
「あ……!」
カプ・テテフの説明で、ウララは思い出した。
自分が拾ったあの黒い種は、かたきうちのタネだったのだ……。
「じゃあ、改めて聞くよ。
誰かに大切なものを奪われたら、かたきうちのタネを使って犯人に復讐する?」
カプ・テテフはもう一度ウララに質問する。
それを聞いたウララは改めて首を横に振った。
「……敵討ちは、もうしません。
たとえ仇を討っても、死んだ人は現実世界では二度と帰ってこないから……」
ウララは呪われて暴走したのがきっかけで、復讐は二度としないと誓った。
確かに大切なものを理不尽に奪われれば、悲しみと無念の気持ちは沸き上がる。
しかし、もっと許せないのは、その気持ちを冒涜し、心を歪めてしまう「闇」だ。
彼女の言葉を聞いたカプ・テテフはニッコリと笑みを浮かべた。
「うん!
大切なものを失って悲しくて悔しいのは分かるけど復讐なんかしたら世界が乱れちゃうからね。
それじゃあ、あたしに祈りを捧げてね。これで、試練は達成よ!」
「……はい!」
ウララはカプ・テテフの前に進み、祈りを捧げる。
すると、天から桃色の光が降り、彼女を祝福するように包み込んだ。
そして光が消え、カプ・テテフの試練は達成した。
「それじゃあ、帰ろうか!」
「ええ!」
「はい」
こうして、カプ・テテフの試練は終わった。
そして、去っていく四匹の背中を見て、カプ・テテフは呟く。
「もう、これであなたは、熱さも寒さも感じない。
握手しても温かくないし、ビンタされても痛くない。でも、それは大事なものなのよ……」
カプ・テテフの最後の言葉は、現実では最早きれいごととしか言えないかもしれません。
それでも、法律で、そうしなければならないのですから。