ポケモン不思議のダンジョン Drop of Mind 作:アヤ・ノア
ウララは五感を失いながらも、こころのしずくを作るため試練を続ける。
ハロルド達は彼女を心配するが、ウララの意思は揺るがない。
玉虫の森でカプ・ブルルの試練に挑む中、自らの感覚が消えていく運命に葛藤する。
仲間と協力し敵を打ち破るが、喜びに満ちた顔は見えない。
カプ・ブルルの言葉から、五感を犠牲にする理由に疑念が生じる。
一行は次なる試練へ向かうが、清らかさの真実が影を落とすのだった。
こんな試練なんて受けるんじゃなかった。
あたしはただ、こころのしずくを取り戻したかっただけなのに。
Chapter 27
最後の試練 縹色の優しき守護神
-Meer-
カプ・コケコ、カプ・テテフ、カプ・ブルルの試練を達成し、
四匹はいよいよ最後の地、カプ・レヒレが待ち受ける
「……」
ウララはリンゴを食べようとして、手が止まる。
「何の匂いもしませんし、何の味もしないリンゴ。こんなのを食べていいんですか?」
「お腹は膨らむからいいんじゃない?」
「……分かりました」
ウララは味覚・嗅覚・触覚の三つの感覚を失いながらも、リンゴをかじって腹を満たした。
「何の味もしませんし、硬さも感じません。でも、空腹は満たされた気がします」
「ウララ……」
徐々にポケモンらしさを失っていくウララ。
こころのしずくを作るには、これが本当に必要なのだろうか。
その答えは、最後の試練を達成しなければ、分からない。
「……行こう。縹の湖に。ここで、決めよう」
「ハロルドさん……」
「ウララは絶対に死なせない。どんな真実が待ち受けようとも、ウララはボクが守るから」
「……はい。本当に、ありがとうございます……」
そして、ハロルド、コーディリア、マクベス、ウララは、
カプ・レヒレが待ち受ける
入り口一帯に、触手をうねらせたドククラゲがたくさんいた。
もし捕まったら物凄い力で締め上げられてしまうだろう。
「はっ!」
マクベスはじしんを使い、邪魔なドククラゲを一掃した。
「やるじゃない、マクベス」
「ありがとうございます」
「……」
喜ぶコーディリアとマクベスだったが、ハロルドとウララは浮かない顔をしていた。
この試練を達成すれば、五感のうち四つが消える。
それはすなわち、ウララがウララでなくなってしまうという事なのだ。
「こんな試練なんて受けるんじゃなかった。
あたしはただ、こころのしずくを取り戻したかっただけなのに」
「ウララ……」
試練を受けるたびに、ポケモンとしての感覚を失うウララ。
ルキウスを止めるためには、ウララを犠牲にするしかないのか。
ハロルドは、ダンジョンの攻略をためらっていた。
「でも、中途半端なまま試練をやめちゃって、ウララの五感が戻らないままでいいの?」
「それは嫌だよ」
それを打ち破ったのが、コーディリアだった。
彼女はハロルドが最初に出会ったポケモンであり、彼女との信頼関係は強い。
だから、コーディリアの言う事は信用できる。
「もっと気を強く持って行かなくちゃね。みんなが悲しんじゃうからね」
「そうね。行くわよ、みんな」
「はい!」
四匹はヒドイデとドヒドイデの群れを素通りし、道具を拾いながら縹の湖を進んでいく。
ダンジョンも終盤というだけあって、
拾った道具はピーピーマックスやふっかつのタネなど、強力なものばかりだった。
「ん……っ」
「泳げればいいんだけど」
コーディリアとマクベスは、水辺では動きにくい。
ハロルドとウララを、ほんの少し羨ましがった。
「
「
「
しかも、かたきうちのタネで操られたみずタイプのポケモンも襲ってくる。
ポケモン達は皆、復讐をするように語り掛ける。
「かたきうちのタネ、取り除けるんですか?」
「……この様子ですと、私の力では取り除けそうにありませんね」
「……」
戦わなければならないという事実に、四匹は少しずつ精神を削られていく。
空しさと悲しさが、どんどん溜まっていった。
「……」
そして……四匹は悲しみを抱えながら、カプ・レヒレが待ち受ける場所に辿り着いた。
そこには、魚を思わせる不思議な雰囲気のポケモンがいた。
「私はカプ・レヒレと申します。……皆様、どうしたのですか?」
カプ・レヒレは静かに自己紹介をした。
彼女(?)はその後、沈んでいる四匹を見て、心配そうに声をかける。
「ウララは試練を受けたくないそうなんです」
「何故ですか?」
「ただいま、ウララ……私の仲間のラティアスは
お尋ね者に奪われたこころのしずくを取り戻すために
カプ・コケコ、カプ・テテフ、カプ・ブルルの三つの試練を達成しました。
しかし、そのたびに味覚・嗅覚・触覚などの五感を失っています。
一体どうすれば、ウララの五感が戻るのですか?」
マクベスは今までの事情をカプ・レヒレに話した。
ウララの失われた五感を取り戻すには、どうすればいいのかを。
すると、カプ・レヒレは悲しげにこう言った。
「こころのしずくは、ラティアス、もしくはラティオスの魂が変化したものなのです」
「「「え……!?」」」
カプ・レヒレからこころのしずくの真実を聞いたハロルド、コーディリア、ウララは驚愕した。
「お尋ね者が奪ったというこころのしずくも、恐らくは貴女かラティオスが変化したものでしょう。しかし、どちらもまだ生きています。すなわち、効果は完全ではないでしょう」
「……そうだったんですね……。……でも! 諦めるわけにはいきません!
あれはあたしの兄様の形見ですから!」
ウララは強い口調でカプ・レヒレにそう言った。
何としてでも、兄が残したこころのしずくをウララ自身の手で取り戻したいのだ。
「そこまで覚悟があるのであれば……私はそれを飲みましょう。
そして彼女の三匹の仲間も、私に全力で挑みなさい」
「当然だよ……!」
「それでは、いきますよ――!」
カプ・レヒレはミストフィールドを展開し、最後の試練を受ける四匹を迎え撃った。
「それっ!」
コーディリアはゴローンのいしを投げつけ、カプ・レヒレを遠距離から攻撃する。
「……」
「危ないですよ、お嬢様!」
カプ・レヒレはムーンフォースをコーディリアに放つが、
マクベスが庇ったためコーディリア自身にダメージはなかった。
マクベスはすぐにコメットパンチで反撃するも、
効果が今一つかつ防御力が高いためカプ・レヒレには効果的なダメージにはならない。
さらに、ミストフィールドの効果で霧が立ち込め、カプ・レヒレの姿が見えなくなる。
「姿が消えた!?」
「なみのり」
カプ・レヒレは大波を起こし、ハロルド達をまとめて攻撃する。
「ううっ……!」
「何という威力ですか……!」
みずタイプのハロルドとドラゴンタイプのウララは何とか耐え切った。
「よく、私の攻撃を耐えましたね」
「たとえ何があろうと、あたし達は勝ちます。……そこですね!」
「おや……」
ウララはそう言って、サイコキネシスでカプ・レヒレが出した霧を払った。
きりばらいをしなくても霧を払った事に対してカプ・レヒレは驚くが、すぐに平常心に戻る。
「いきます! ミストボール!」
ウララはミストボールを弾幕のように放った。
カプ・レヒレは再び霧の中に紛れ込もうとするが、
そうはさせまいとマクベスがカプ・レヒレにコメットパンチを放つ。
「ムーンフォース」
「はぁーっ!」
カプ・レヒレはすぐにムーンフォースで反撃する。
ウララはもうげきのタネを食べて攻撃力を高め、サイコキネシスを放った。
カプ・レヒレは遠くに吹き飛ばされ、ウララは悲しみと憎しみが混ざった表情だ。
「倒しても、倒しても、倒しても。あたしの五感とこころのしずくは戻らない。
敵討ちは無駄だと知りましたが、せめて……試練を達成しなければ……!」
「……」
しかし、カプ・レヒレは冷静な態度を崩さず、憎しみに染まったウララを哀れんでいる。
「貴女は何と哀れな事をしているのでしょう。
怒り、憎しみ、苦しみ、悲しみ、まだやり足りないという貴女の心の中で、
それらの負の感情が渦を巻いています」
「黙りなさい! こころのしずくを渡すのです!」
「自分の運命が何だとしても、それを受け入れる覚悟も必要なのです」
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして、ウララの渾身の力を込めたミストボールがカプ・レヒレに命中すると、
彼女(?)は一撃で戦闘不能になった。
「……はぁ、はぁ、はぁ……」
「……ウララ……」
ウララのただならぬ様子を見たコーディリアは、急いで彼女に駆け寄った。
「あたしにはもう五感はありません。ですが、せめてもの試練は達成しました。
コーディリアさん、あたしはこれから祝福を受けます」
祝福を受けると言ったウララを、コーディリアはビンタした。
「な、何をするんですかコーディリアさん!」
「あなたは勝手すぎるわ。ハロルドの意志、ガン無視だったでしょ。
ウララは自分が良ければそれでいいのね。ハロルドに守られたくないのね!」
「う……うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
コーディリアに叱責されたウララは、急いで前に飛び出していった。
そして、復活したカプ・レヒレの前に進み、祈りを捧げ、
天から青色の光が降り、彼女を祝福するように包み込んだ。
「よし、これで試練は達……」
ウララがそう言いかけた瞬間、彼女は墜落し、ばたりと倒れた。
「「ウ……ウララーーーーーーッ!!」」
試練を受けるごとにヒロインが感覚を失うという設定は、
テイルズオブシンフォニアを参考にしました。