ポケモン不思議のダンジョン Drop of Mind 作:アヤ・ノア
ハロルド達は、命を懸けてこころのしずくを取り戻す試練に挑む。
試練を通じてウララはポケモンとしての感覚を失い、心の葛藤に苦しむ。
最後の試練で彼らはカプ・レヒレと対決し、真実を突きつけられる。
こころのしずくは命そのものと知りつつ、ウララの覚悟は揺るがなかった。
……その様子だと、もう後戻りはできないだろ?
Chapter 28
無限の塔 蒸発した兄との出会いと別れ
-Wiedersehen-
次の日。
「……少し、言い過ぎたかしら」
コーディリアは、ウララをきつく叱責した事を少し反省していた。
ウララはソファでぐっすりと眠っている。
「お嬢様は結局、ウララの五感かこころのしずくか、どちらを取りたかったのですか?」
「ウララの五感よ。他のポケモンを犠牲にして世界を救うなんて、本末転倒だわ」
コーディリアはウララも世界も失いたくない。
しかし、試練を達成するごとにウララの五感は失われていく……。
それが、コーディリアにとって辛い事だった。
「でも、世界を救うためにはこころのしずくが必要。この矛盾、どうしたら解決するの?」
「う~ん、分からないなぁ」
「……」
ハロルド、コーディリア、マクベスがこれからについて考えている間、
ウララは何も反応しなかった。
「おーい、ウララ。そろそろ起きてー」
数分後、ハロルドはウララを起こすためにソファで眠っている彼女に声をかけた。
しかし、ウララは何も聞こえていないかのように、ハロルドの声に全く反応しなかった。
「ウララー?」
呼びかけに反応しないウララ。
「……ウララ、どうしましたか?」
マクベスがウララに近寄って声をかけるが、やはり、反応しなかった。
仕方なくマクベスが彼女を持ち上げると、ウララは驚いたように飛び回った。
「……! ……!」
「ウララ!?」
何も言わず、パニックになりながら飛び回る。
「どうしたの、ウララ!」
「ウララ、どうしたんですか!」
「……!!」
ウララは紙と筆記用具を探すため、屋敷中を飛んでいった。
そしてそれらを取った後、ウララは話したい事を紙に書いた。
【何も聞こえません。何も感じません。あたしはどうなっちゃいましたか?】
【分からないけど、カプ・レヒレの試練を達成した時から?】
【そうです】
ハロルドもウララが持ってきた紙と筆記用具を使い、彼女と筆談で話した。
【慌てないで、ウララ。まずは、探索者協会に行こう】
【はい】
突然、何も聞こえなくなったウララ。
彼女を落ち着かせるため、ハロルド達は彼女を連れて探索者協会に行った。
「一体何があったんだい?」
「実はかくかくしかじか……」
ハロルド達はアーマルドとユレイドルにこれまでの事情を話した。
「なるほど……今度は耳が聞こえなくなったんだね」
「はい。それで、どうすればいいんですか?」
「……その様子だと、もう後戻りはできないだろ?」
アーマルドは落ち込んでいるウララを見て言う。
ウララは何も言わない、いや、何も言えない。
「聞こえないのか。じゃあ、こうしよう」
アーマルドは聴覚を失ったウララのために、どこからか紙と筆記用具を取り出した。
【もう、君には視覚以外の感覚がないだろ? 感覚が戻るかどうかも分からない。
だから俺は、会長として話す。その視覚を捧げろ】
「……!!」
なんと、アーマルドは五感を全て捧げろと言った。
どういう事、とハロルドが尋ねると、アーマルドは険しい表情をした。
【お前はこころのしずくを取り戻すために頑張ってきたんだろう?】
【はい、たとえどんな事があっても、です】
【そうだ。だからお前はこころのしずくを取り戻すという事に言っちゃ悪いが全てを捧げるんだ】
【あたしが最後の感覚、視覚を捧げる事で、あたしの物語は終わるんですか?】
【そういう事になるな】
アーマルドとウララは、筆談だけで会話した。
ハロルド達はそれをじっと見ているが、筆圧から、かなり真剣な様子だという事が分かった。
【じゃあ、俺は君達が最後に行く2つのダンジョンを紹介するよ】
アーマルドは2つの地図をウララに渡した。
1つ目の地図は「無限の塔」、2つ目の地図は「精神電波塔」が書かれてある。
【無限の塔は、ラティオスが守っている塔だ。
そして精神電波塔は、こころのしずくを使う事で全ての心を操る事ができる塔だ】
「心を操る……」
こころのしずくを使えば、そんな事ができるのだろうか。
ハロルドはごくりと唾をのむ。
【そして君達は、無限の塔に行ってこころのしずくを完成させるんだ】
ルキウスはウララから奪ったこころのしずくを使って恐ろしい計画を立てようとしている。
彼の野望を阻止するためには、無限の塔に行き、こころのしずくを完成させなければならない。
もう、覚悟を決めるしかないようだ。
「……分かりました。ボク達は無限の塔に行きます」
「ウララの五感が治らない以上、もう、覚悟を決めるしかないみたいね」
「私はお嬢様に付き従う者。故に、お嬢様が全てを決めます」
もう、三匹は覚悟を決めたようだ。
ウララは不安になりながらも、何とか見える目でアーマルドを見つめた。
【その目は覚悟を決めた目だ。いいだろう。では、ここが無限の塔だ。行ってこい】
「……はい!」
こうして、ハロルド達はラティオスがいるという無限の塔に向かった。
彼がウララの蒸発した兄かどうかは、行ってみないと分からない。
「……なんだか、みんな大人しいね……」
敵は、近づかなければハロルド達を襲わないほど大人しかった。
ハロルドは少し不気味に思うが、かたきうちのタネで操られたポケモンほどではないと思った。
「おや、間欠泉が出ていますね」
途中の通路は、酸を吹き上げる間欠泉に覆われている。
見た事のないワナにマクベスは驚くが、すぐに平常心を取り戻し慎重にワナを解除する。
「どうして、こんなに静かかしら」
「確かに、敵は襲ってこないし、カクレオンの商店も無いし……」
「……」
コーディリアは静寂な雰囲気の塔に疑問を抱く。
五感のうち四つを失ったウララには、何も分からなかった。
「静かというよりは、これは今のウララを再現しているのかもしれません」
マクベスはこの塔が静かな理由を推測する。
確かに今のウララは、耳が聞こえず声も出ない。
ポケモンも襲わず、ワナの数も少ない。
……まさに、今の何も感じないウララを表しているといっても過言ではない。
「それでも、ボク達は先に進むよ。こころのしずくを完成させるために……!」
「ええ……!」
四匹は無限の塔を登り続けた。
階が進むにつれて攻撃も激しくなるとハロルドは身構えたが、
どんなに塔を登っても敵は大人しいままだった。
カクレオンの商店も、強力なワナも無いまま。
まるで、この塔に住むポケモンがこころのしずくで操られているかのようだった。
そして、ついに四匹は、ラティオスがいる塔の最上階に辿り着いた。
彼の左側には、青いリボンが巻かれている。
「待っていたよ、ウララ」
「ラティオスさん、ウララを知ってたんですか? じゃあ、つまり、貴方は……」
ウララを知っているラティオス、という事は彼の正体は……。
「そう、僕はウララの兄、ノゾムなのさ」
「「ええええええええええええええええ!!?」」
「驚きました……」
そう、そのラティオスこそが、ウララの蒸発した兄、ノゾムだったのだ。
ハロルド、コーディリア、マクベスは驚愕した。
だが、ウララには当然、何も聞こえていない。
―ウララ、聞こえるかい?
―兄、様……? 兄様ですか?
―ああ、そうさ。僕は君の兄さ。
ノゾムは、感覚を失ったウララにテレパシーで語り掛けた。
声も音も聞こえないウララだったが、兄のテレパシーだけは聞こえたようだ。
―ああ、兄様、兄様だったのですね!
―やっと会えたね……僕の妹、ウララ。
―本当に、ありがとうございました!
―そういえば、こころのしずくはどうしたんだい?
―それが……なくしちゃって……。
―ちょっと待っててね、今から話すから。
ウララとノゾムのテレパシー会話が終わった後、
ノゾムはふぅ、と一息つき、こころのしずくについて話した。
「そういえば、こころのしずくについて話をしていなかったね。
ウララには聞こえないけど、彼女は聞かない方が身のためだ。
……ウララがお尋ね者に取られたあのこころのしずくは、
本来の半分しか力がない、不完全なものだ」
「えっ……不完……全!?」
ノゾムから真実を聞いたハロルドは驚いた。
「完全なこころのしずくは、ヒトやポケモンの心を操る事ができる。
それを作るには、不浄なものを消し去ったラティアス、もしくはラティオスの魂が必要だ。
そのために必要なカプの試練を達成すると、五感のうち四つが失われる。
朽葉の山で、味覚。山吹の谷で、触覚。玉虫の森で、嗅覚。そして……縹の湖では、聴覚」
ノゾムは悲しい表情でそう言った。
こころのしずく、そしてカプの試練の真実を聞いた三匹は愕然とする。
つまり、ウララにポケモンらしさが残っていれば、完全なこころのしずくは生まれないのだ。
「僕だって妹を犠牲にしたくはなかった。でも、仕方のない事なんだ。
僕達が、この世に生まれてこなかったら、こんな悲劇は起こらなかったのに……」
「ノゾム……」
話しているノゾムは、悲しい表情のままだった。
生まれてこなければよかったと、絶望する。
その悲しみを感じ取ったハロルドは、ウララを犠牲にしたくないと改めて思った。
「……」
ようやく兄と再会したウララも、兄同様に悲しい顔をした。
兄の声は聞こえなかったが、表情を見て兄の悲しみを分かっているようだ。
―兄様。
―なんだい? ウララ。
―兄様もこころのしずくになれば……悲しみを分かち合う事ができます。
だから一緒に、こころのしずくになりましょう。
ウララはテレパシーで、兄と共にこころのしずくになるように語り掛けた。
妹がこころのしずくになったら、残された兄は悲しんでしまう。
そんな事は、妹は望んでいなかった。
―でも、こころのしずくを作るには不浄なものを消し去った魂が必要なんだ。
僕だと、不完全なこころのしずくになるかもしれない。それでもいいの?
―構いません。あたしは兄様といつまでも一緒ですから……!
―分かった。
テレパシーでの会話が終わると、ウララとノゾムは同時に手を合わせる。
すると、二匹の身体を白いオーラが包み込み、二匹の身体は真っ白になっていく。
白い光が消えると二匹はこころのしずくとなり、
そのこころのしずくがハロルドの手に落ち、ハロルドはこの塔全体を包むかのように叫んだ。
「ウララーーーーーーーーーーーッ!!」
ウララの永久離脱はここで決めていました。
いつまでも伝説のポケモンに頼るわけにはいきませんからね。
次回はいよいよラストダンジョンです。