ポケモン不思議のダンジョン Drop of Mind 作:アヤ・ノア
ウララはハロルド達とこころのしずくを探し、兄ノゾムと運命の再会を果たす。
だが、失った感覚の代償とこころのしずくの秘密に悲劇が交錯する。
それでもウララはノゾムと共に犠牲を選び、二匹は最後の希望として姿を消す運命を受け入れる。
ハロルド達はその犠牲を胸に秘め、ウララ達の意志を受け継ぎ未来を目指すのだった。
ウララ……ノゾム……どうしてキミ達は……
うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
Chapter 29
星に願いを 兄の声を塔に届けて
-Gebet-
「ウララ……ノゾム……どうしてキミ達は……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
こうして、ウララの物語は終わった。
兄・ノゾムと再会したウララは、最後の感覚である「視覚」を捧げ、
ノゾムと共にこころのしずくとなった。
ハロルドは兄妹が変化したこころのしずくを手にした後、
声が嗄れるまでコーディリアの屋敷で泣き続けた。
「もう落ち着いたわよね?」
「うん……」
ようやく泣き止んだハロルドを、コーディリアは優しく撫でる。
せっかく兄と出会えたのに、こんな形で兄妹と別れるのは、
ハロルドにとってとても悲しい出来事だったようだ。
まだ子供の彼が泣きたくなるのも、当然だ。
「だって、ウララがいなくなったら、ボクはどうすればいいんだって……」
「ウララがいなくなって、何ですって? 私とマクベスがいるでしょ?」
「あっ……!」
ハロルドが初めてポケモンの世界で出会ったのは、コーディリアとマクベスだった。
それは一番重要な事だったが、コーディリアに言われるまでハロルドは気づかなかった。
「どうしてボク、今まで気が付かなかったんだろう。
コーディリアさんに初めて出会って、そこから冒険が始まったのに」
「そうよ。ウララは私達に世界を救う鍵を与えてくれたのよ」
「コーディリアさん……」
「ネバーランド計画は、絶対に止めましょう。血塗られた子供だけの世界には絶対にさせないわ」
ルキウスが持っているあのこころのしずくは、不完全なものだとノゾムは言っていた。
これでルキウスの願いが叶った場合、この世界だけでなく、
ハロルドが住んでいた世界まで秩序が崩れ去る。
「ルキウス……ボクは、キミを兄として止めたい。嘘のネバーランドなんて、望まない。
もう、こんな事はやめて!」
父の死をきっかけに歪んでしまったルキウス。
大人に対する憎しみを、凶行に変えてはならない。
ハロルドはそう、思っていた。
「……そのルキウスという方は、ハロルドの心が分かるのでしょうか」
「ボクだけの力じゃ無理だと思うけど、ルキウスを信じる人がいてくれたら……
弟は、自分の過ちに気づくかもしれない。ルキウスは倒さない。『止める』んだ」
異変の元凶、非情なる鍵のリーダー、そしてハロルドの弟、ルキウス。
彼は許されない事をしたが、だからこそ憎しみを断ち切りたいのだ。
「……じゃあ、探索者協会に行きましょう」
「うん。これが、最後の冒険になるから」
「最後とは……まさか!」
「うん。ボク、ルキウスを止めたら、元の世界に帰るんだ」
ハロルドは、元は“外”からやってきた人間だ。
この冒険が終われば、コーディリアとマクベスと別れる事になる。
それに気づいたコーディリアとマクベスは、慌ててハロルドを引き留めようとした。
「お待ちなさい、ハロルド!」
「ずっとここにいてもいいのよ?」
「コーディリア、マクベス……気持ちは分かるけど、ボクはルキウスと一緒に帰りたいんだ。
だから、申し訳ないけど、ボクは元の世界に帰る」
しかし、ハロルドは首を横に振った。
彼はコーディリアやマクベスを大事にしつつも、あくまで元の世界に帰りたいと言った。
ハロルドの表情は真剣そのものであり、これは止めても無駄だなと二匹は判断した。
「……分かったわ。でも、最後まで貴方の冒険にはついていくからね」
「だから、私達を信じてください」
「当然だよ!」
そして、三匹はついに最後のダンジョン、精神電波塔へ行くために探索者協会に行った。
「……いよいよ精神電波塔へ行くんだな」
「うん……」
最後の冒険という事で、一行は皆、真剣な表情をしていた。
「ここに入ったら、もう後戻りはできないぞ。勝つか負けるか、答えは1つだ」
「登るよ。ルキウスが待ってるんだ。世界を救うためにも、ボクは塔を登る!」
「私もよ。ここまで来たんだから、最後までやり遂げるわ」
「私にとってはお嬢様が全て。故に私の答えはお嬢様の答えです」
全員の決意に満ちた表情を見たアーマルドは、よし、と頷き、精神電波塔がある地図を出した。
「ここから精神電波塔に行けるぞ。俺は、あんた達が勝つのを信じているぞ」
「もちろんです! 必ず勝って、世界を平和にします!!」
「……じゃあ、行ってこい」
「あなた達なら必ずできると信じていますよ」
アーマルドとユレイドルは、ハロルド、コーディリア、マクベスを信じている。
ハロルド達もまた、彼らの期待に応えようとした。
「それじゃあ、行ってきます」
「絶対に帰ってくるわ。世界は平和にする」
「私にとってはお嬢様が全てです。世界もお嬢様もお守りいたします」
そして、三匹はこころのしずくと共に、精神電波塔へ向かっていった。
ネバーランド計画を阻止し、世界を平和に導くために。
「うわっ!」
「鳥ポケモンが飛び回っていますね」
精神電波塔へ入った瞬間、入り口でたくさんの鳥ポケモンが飛び回っていた。
ここで消耗するわけにはいかないと、三匹は鳥ポケモンを慎重に避けたが、
避けた先には二匹のアイアントがいた。
「せやっ!」
「コメットパンチ!」
アイアントは、コーディリアのとびひざげりとコメットパンチにより一撃で倒れた。
二匹の思いは、技の威力を大幅に強化していた。
「ボクだって! ハイドロポンプ!!」
ハロルドはゴルーグを、ようやく覚えたハイドロポンプで撃破する。
先の道は暗くなっていて、周囲の状況が良く分からない。
それでも三匹は立ち止まらずに、精神電波塔を攻略していく。
「外の光が全く届かない……」
「みやぶる!」
暗闇が広がるエリアは、コーディリアがみやぶるを使って明るくしていく。
さらに、遠くにいる敵ポケモンは、ゴローンのいしやきんのハリで遠距離から仕留めた。
「やられる前にやる。これが戦場の鉄則です」
「ハロルド、貴方もやるのよ!」
「あの、ボクはそういうの、あまり好きじゃないな……」
コーディリアとマクベスが前に出て、ハロルドが後方から援護する。
最後の冒険でも、これだけは変わらなかった。
そして、三匹が五階に上がると、サーナイトが待ち構えていた。
お尋ね者集団「非情なる鍵」のミリアだ。
「あなた達……ここから先に行くつもりなの?」
「そうだ! そしてボクは、ルキウスを止める!」
ハロルドはミリアに強い口調でそう言った。
彼はもう、か弱いアシマリではないのだ。
ミリアは不快さを隠さず、すぐに戦闘態勢を取る。
「ならば、私が相手してあげるわ。最上階にも行けずに、あなた達はここで私に倒されるのよ!」
「そうはさせるか!」
「行くわよ、みんな!」
「かしこまりました!」
ミリアとの最後の戦いが、始まった。
「ねこだまし!」
「くっ!」
コーディリアはミリアに先制してねこだましを放ち、怯ませる。
「みずでっぽう!」
「コメットパンチ!」
「きゃああぁぁぁぁぁ!」
その隙に、ハロルドはみずでっぽうで遠距離から攻撃し、
マクベスはコメットパンチでミリアの弱点を突いた。
「ふふ、ふふふふふふ……」
ミリアは何度も攻撃を受けても余裕の表情を崩さない。
「さいみんじゅつ……!」
「うっ!」
「きゃっ!」
「Zzzzzz……」
ミリアはさいみんじゅつを広範囲に放ち、ハロルド、コーディリア、マクベスを眠らせた。
「ゆめくい」
ミリアは眠っている三人の生気をゆめくいで吸い取り、体力を回復した。
「……う」
「あら、おはよう。目が覚めたのね」
眠りから覚めたハロルドはゆっくりと立ち上がる。
コーディリアとマクベスも、続けて立ち上がった。
「身体に力が入りません……」
「しばらくボクがやるよ、ハイドロポンプ!」
ハロルドはコーディリアとマクベスの前に立ち、ミリアをハイドロポンプで攻撃する。
ミリアはムーンフォースで反撃し、しばらくハロルドとミリアの特殊技合戦が続いた。
そしてそれが終わった後、コーディリアとマクベスは調子を取り戻してミリアに突っ込み、
コーディリアはばくれつのタネ、マクベスはコメットパンチで攻撃した。
「やるわね……でも私にはこれもある! おにび!」
ミリアは不気味で怪しい炎をマクベスに放つ。
「熱い、身体に力が入りません……」
火傷を負ったマクベスは、思うように力が入らなくなる。
「ハイドロポンプ!」
「よくもマクベスを! 吹っ飛びなさい!」
ハロルドはハイドロポンプ、コーディリアはばくれつのタネで攻撃する。
ミリアはクスッと微笑み、マクベスにゴローンのいしを投げつける。
「ぐううっ!」
「大丈夫、マクベス? これを食べなさい!」
コーディリアはマクベスにオボンのみをあげて体力を回復させた。
「ありがとうございます、お嬢様」
「あらあら仲がよろしいわね、ムーンフォース!」
ミリアは火傷しているマクベスにムーンフォースを放つ。
マクベスは力が出ないまま攻撃をまともに食らう。
「ちょっと! マクベスがそんなじゃ勝てないわ!」
「お嬢様、申し訳ありません……。ですが、もう平気です。コメットパンチ!」
コーディリアは何とかチーゴのみでマクベスの火傷を治し、
マクベスはコメットパンチでミリアに大ダメージを与える。
三匹はピーピーマックスでPPを回復しつつ、強力な技でミリアを攻撃していく。
その甲斐あってミリアの体力は残り僅かになった。
「何故、ここまで来た!? 何故、諦めない!?」
追い詰められたミリアの表情に焦りが見えてきた。
ハロルドは動じず、ミリアにこう言った。
「ボク達はルキウスを止めるためにこの塔を登っているんだ。
キミに負けて、冒険を終わらせるわけにはいかない。
だから、ボク達は勝つ! ハイドロポンプ!!」
「ムーンフォース!!」
ハロルドのハイドロポンプとミリアのムーンフォースが押し合いになる。
「頑張って、ハロルド!」
「自分にも相手にも打ち勝ってください!」
コーディリアとマクベスはハロルドを応援した。
その応援があって、最初は押されていたハロルドだったが、徐々にミリアを押していく。
「これで……終わりだあああああああああ!!」
「きゃあああああああああああああああ!!」
そして、ハロルドの最大パワーのハイドロポンプがミリアのサイコキネシスを打ち消すと、
そのまま命中し、ミリアを瀕死状態にした。
「うぐっ……!」
ミリアは戦う気力を失いながらも、口元には笑みを浮かべていた。
そして、途切れ途切れにハロルドに言った。
「あなた、達を、止められ、なかった、私、に、生きる、価値は、ない。
さあ、とどめ、を、刺しな、さい」
それは、とどめを刺してほしいという願いだった。
だが、ハロルドはミリアの問いに首を横に振る。
「キミがやった事は許さないけど、キミは許す。
罪を憎んで人を憎まず、これから少しずつ罪を償っていけばいいよ」
ハロルドはミリアの良心を信じ、彼女を瀕死にするに留めた。
敵に情けをかけられ、ミリアは舌打ちする。
「まさか、見逃されるとは、ね。でも、敵は私だけじゃ、ないわ。ジオも、ルキウス様も、いる。
終わっては、いないわ……!」
ミリアはそう言い残し、倒れた。
「……では、彼女は私が送っていきましょう」
マクベスは気を失ったミリアをサイコキネシスで拘束し、彼女にあなぬけのたまを投げる。
もちろん、行き先はジバコイル警察だ。
「ハロルドの言う通り、罪を償ってくださいね」
「生かしておいたってのを忘れないでよね。……さて、ハロルド」
「うん。次は、六階だ! 待っててね、ルキウス。必ず、ボク達がキミを止めるから……!」
ハロルド達は、弟が待つ最上階に進むべく、階段を駆け上がるのだった。
ラストダンジョンはまだまだ続きますよ。