ポケモン不思議のダンジョン Drop of Mind 作:アヤ・ノア
精神電波塔でハロルド達はミリアを倒した。
迷宮のような塔で敵をかわし、仲間の絆で困難を乗り越える。
ワープ罠で離ればなれになったハロルドは、勇気と風に導かれ再び仲間と合流する。
塔の最上階では非情なる敵ジオとの死闘が始まる。
心を操る力に翻弄されながらも、希望の光こころのしずくに導かれ、彼らは前へ進む。
困難と不安の中で、絆の力が彼らを未来へと繋ぐのだった。
やっぱり、こころのしずくが導いてくれたんだ。
……ありがとう、ウララ、ノゾム。
Chapter 31
親なき楽園 約束されたネバーランド
-Paradies-
ハロルド達は不安になりながらも、ルキウスの下に辿り着くために精神電波塔を登っていく。
「しまった! モンスターハウスだ!」
道中でモンスターハウスに入ってしまい、ストライクの群れに襲われる。
コーディリアはねこだましでストライクに先制攻撃を仕掛ける。
だが、ストライクの群れを止める事はできず、れんぞくぎりやつばめがえしを食らう。
「いたたたた……!」
「チャームボイス!」
「しねんのずつき!」
「みんなまとめて、吹っ飛びなさい!」
それでも、三匹は技を繰り出し、ストライクの群れを手早く倒した。
「敵の攻撃が激しくなってきたわね」
「ルキウス、来てほしくなくて追い返しているのかも……」
ハロルドはポケモンの攻撃が激しくなっていく理由を想像する。
しかし、こんなところで立ち止まっているハロルドではなかった。
「だけど、ここを乗り越えて、世界を救うんだ。みんな、前を向いて進もう!」
「ええ!」
「はい!」
三匹はルキウスを止めるべく、階段を探していく。
ある部屋の周囲には敵や罠の気配はなく、ゆっくりと休憩を取って心身を癒した。
ある部屋に行くための通路は、
ちょっとでも触れるとすぐに崩れそうなレンガで組み上げられている。
マクベスは上手く通路を通り抜け、ハロルドとコーディリアも慎重に通っていった。
そんな彼らを応援するように、こころのしずくが光る。
「あ、こころのしずくが光ったわ!」
コーディリアが喜んでいると、こころのしずくの光は真っ直ぐに伸びた。
「ボク達を案内するって事かな?」
こころのしずくは黙して語らず。
ハロルドは素直に光の道を辿っていき、コーディリアとマクベスも彼についていった。
「あれ……?」
「ベシク街だわ」
「どうしてこんなところに……」
すると、ハロルド達の周囲にベシク街の状景が浮かび上がった。
しかし、そこには何故かポケモンが一匹もいない。
「みんな、どこに行っちゃったの?」
「私達以外に誰もいないなんて……」
「もしかすると、これは……」
マクベスは、光っているこころのしずくをじっと見つめていた。
そして、訝しむ三匹の前で幻影は静かに消え失せ、
そこにテープレコーダーが落ちているのに気付く。
「これは……ボクにくれるって事?」
ハロルドがテープレコーダーを拾うと、突然、音声が聞こえてきた。
―える……しら?
「……何、この声?」
―たしは……あな……よ。
その声は、途切れ途切れだったが、ハロルドにはどこか懐かしかった。
―い……どう……ル……を……。
「もしかして、この声は、ボクの……」
そして、声が完全に消えると、ハロルド達の目の前に階段が現れた。
「あっ、階段だわ!」
「どうやら、ここが正解の部屋みたいですね」
「やっぱり、こころのしずくが導いてくれたんだ。……ありがとう、ウララ、ノゾム」
ハロルドは階段に導いてくれたこころのしずくに感謝した。
すると、こころのしずくはそれに喜ぶかのように一際強く光った。
「ウララ……ノゾム……本当に、ありがとう……」
ハロルドは嬉しさのあまり、ぽたぽたとこころのしずくに涙を落とす。
ポケモンとしては消えても、彼らの意志は決して消えていないのだ。
「……さあ、みんな、登るわよ! ルキウスがいるところまであと少しなんだから!」
「はい!」
「うん!」
ハロルド、コーディリア、マクベスは、現れた階段を上っていった。
あの裏切りフラグを消し去るかのように、三匹の絆は強くなっていた。
三匹は次々と精神電波塔を攻略していく。
十二階、十三階と、罠や敵は増えていったが、こころのしずくの導きでそれらを退けていく。
そして十四階では最後のあがきと言わんばかりに大量のズバット、ゴルバット、クロバット、
そしてリグレー、オーベムが現れるが、
ルキウスの下に行こうとするハロルド達の敵ではなかった。
「待っててね、ルキウス……キミは、絶対にボクが止める!
このテープレコーダーとこころのしずくが、キミを止めると信じているよ」
「ハロルド……随分、逞しくなったのね。
あんなに弱いポケモンだと思ったのに、弟の事になると熱くなるのね」
「だって、ボクの家族なんだから、コーディリア」
「えっ!?」
自分を初めて呼び捨てにしたハロルドに、コーディリアは驚いて手を口に当てる。
「今……私の事を、呼び捨てにしなかった?」
「だって、なんだかんだで最後まで一緒にいてくれたのはコーディリアだもん。
キミは確かにお嬢様だけど、今はボク達と同じ、心の友だよ」
「なか……ま……あ……うあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
コーディリアは自分を仲間として見てくれたハロルドに、泣きながら抱きつこうとする。
当然、体格差はあったが、コーディリアはハロルドを何とか抱きしめる事に成功する。
「私の事を心の友って、認めてくれたのね!
ああ、こんな事になるなんて、夢にも思っていなかったわ!」
「あはははは……それはボクだって同じだよ、コーディリア。
キミを呼び捨てにするなんて、夢にも思ってなかったからね」
「うんうん……良い絆ですよ。本当に、本当に」
ハロルドとコーディリアの絆が強まっていく中、執事のマクベスは何故か、泣いていた。
そして三匹は十四階を探索し続け、ついに十五階へ行くための階段を発見する。
「さあ、階段が見えたところで、上りましょう!」
「うん……いよいよ、ルキウスが待っている場所だね……!」
「行きましょ、ネバーランド計画なんて潰すのよ!」
「ルキウス……」
ハロルド達は一歩一歩、階段を上っていく。
この先にいよいよ、ルキウスが待ち受けている。
彼を止め、世界を救う……それが三匹の使命だ。
そして、ついにハロルド達は精神電波塔の最上階、十五階に辿り着いた。
そこには、管がたくさんある巨大な装置があった。
ルキウスはその装置のくぼんだ部分に、こころのしずくを取りつけようとしていた。
「ルキウス!!」
そこに、ハロルド達が割って入った。
ルキウスは彼らに気づき、こころのしずくを持った手を止める。
「一体、何をしようとしているんだ!」
「決まっているだろう。未来を奪う大人への復讐だ。
かたきうちのタネを使って復讐心を呼び起こし、父さんを奪った犯人を消し去る。
そして、こころのしずくを使い、
子供達の未来を守るために全ての大人を抹消する――ネバーランド計画を実行する」
ルキウスは怒りに震えながら、自分の目的を三匹に全て話した。
復讐のため、ネバーランド計画によって、全ての世界から大人を消し去る。
それは当然許せない事だったが、ハロルドは意を決してテープレコーダーをルキウスに見せる。
「ルキウス! このテープレコーダーを聞いて!」
「テープレコーダーだと……?」
ルキウスがテープレコーダーを起動すると、そこから女性の声が聞こえてきた。
『ルキウス、聞こえるかしら?』
「母さん!」
その女性の正体は、ハロルドとルキウスの母親、イリアだった。
「えっ、この人が、ハロルドのお母さん?」
「そうみたいですね……」
テープレコーダーの中のイリアは、か細くも強い声で話しかける。
ハロルド、コーディリア、マクベス、ルキウスは、真剣な表情で音声記録を聞いた。
『きっと、この音声が届いている頃には、
ルキウスはもう、とんでもない事をしているのかもしれません。
でも、私は母親として、ルキウスに言います。
あなたがやろうとしている事は間違っている。
確かにあの事故でルキウスとハロルドのお父さん――私の夫はこの世を去り、
報道機関は私に謝罪を申しました。
でも、たとえ
復讐をするのは、空しい事なのです。
それどころか、全ての大人の人権を踏みにじり、
抹消する形で子供を守った時、生き残った子供はどうなると思いますか?
大人達を皆殺しにした時点で、あなたはお父さんを轢き殺した人と同じになってしまいます。
どんな命も身勝手で失われていいものではない。
それは子供も、若者も、大人も、年老いた者も、みんな同じです。
私は、ルキウスを復讐のために産んだのではありません』
イリアは、ルキウスのネバーランド計画が過ちである事を伝えるために
テープレコーダー越しで彼に訴える。
彼女は、父親を失ったルキウスが復讐鬼に堕ちる事を望んでいなかったのだ。
「……母さん……。俺は……」
自分がやろうとしていた計画を、母親が拒絶した。
その事実に、ルキウスは呆然としていた。
『それから、ルキウス、私の最後のお願いです。どうか、大人を憎まないで。
大人も子供も、仲良く暮らしている世界……。それが、私の心からの望みです。
そして、ハロルドも……どうかルキウスがこれ以上過ちを犯さないように、
ルキウスを兄として止めてください』
その言葉を最後に、テープレコーダーの音声はぷつりと切れた。
ルキウスは黙りこくっていたが、しばらくして、さらに怒りに声を震わせる。
「……でも、今更後には引けない。
たとえ母さんが否定したとしても、俺のネバーランドは永久に不滅だ。
このこころのしずくで、全ての大人を抹消する!!」
「……ルキウス……。……そうか、やるしかないみたいだね」
「これが最後の戦いってわけね。いいわ、受けてやろうじゃないの!」
「私もお嬢様の執事として、この戦いに必ず勝ちます!」
ルキウスの狂気に歪んだ表情を見たハロルドは、もう彼を倒すしかない、と覚悟を決める。
コーディリアとマクベスも、覚悟を決めて構える。
「この世界の全ての大人に、復讐を!」
「この世界の全ての生命に、救済を!」
そして、世界の運命をかけた戦いが、今、まさに始まろうとするのだった。
次回がラスボス戦となります。
最後まで見守ってください。