クソほど強しかっこいいけど金の亡者でボケ倒す糸目なお姉さんは好きやろがい 作:テムテムLvMAX
一人の女が森から勢い良く飛び出してくる、その肩には枯れ葉や枝が絡まり散らかしたミノムシのような人物が放心状態で振り落とされないように捕まっていた。
その人を担いでいる女は口角をわずかに引き上げ余裕の笑みを浮かべて走る、その装いからこの世界での一般的な職業である冒険者であることが見て取れた。
「ぎゃぁ〜あーあーぁぁ!?」
「口閉じとかんと舌噛むで」
「ぎぁ!? ……噛んだぁ……!」
「自分のタンは美味いか?」
さてその女を追いかけて森から飛び出すのは、巨大な体を持つ熊の魔物、恐ろしくパワフルで森の木々を豆腐のように砕いて突進してきていた。狙いはもちろん女であった。
女は持ち前の脚力で逃げるのだが体躯で勝る熊の魔物がじわじわと距離詰めている、距離が詰まることに女は目を細め、舌打ちした、糸目な女の目が更に細くなった。
「この先でやり合うんは辛いなぁ、しゃーなしやここで受けて立つか……ちょーここで待っててや、すぐ終わらせるでな」
「ゴロゴロゴロぐへあぇ!?」
ミノムシの人物を無造作に転がすと、女は熊の魔物に対峙する、熊の魔物は標的が止まった事を気に止まることはない、むしろ好都合だとその突進の勢いが増した、女と熊の体格差はゾウに挑むアリに例えられる。まさに絶体絶命、かすり傷でも致命傷になってしまう。
さて、そんな事実に気が付いているのにも関わらず女から笑いが消えなかった、もっともこの女は熊の魔物よりも自分語りに忙しいみたいだが。
「なぁクマ公? 君て注射受けたことある? 痛いんやであれ、今だに慣れんのよあれだけは……うぅ、思い出すだけで身の毛がよだつって感覚アレホントに好きだって言い張る人いるよね? まったく信じられへん……ほんま無くならんかな注射……」
熊の魔物が地面を蹴るたび振動が伝わってくる、もうすぐ目と鼻の先に迫ろうとする脅威は女の余裕を僅かなりとも削る、と言うこともなくまだ喋る女、熊の魔物もそれを挑発と受け取ったのか鼓膜を突き破る雄叫びと共に巨体で女にぶちかます!
「グルルゥゥアォォォォォ!」
全体重が熊の魔物の頭に集中し素晴らしい破壊力を生み出している、風圧ですらひ弱な人間を殺せる圧を感じさせ女にあたる、その瞬間、女の腕は突き出され、掌底は熊の魔物の頭部にピッタリ合わさると轟音と共に砂煙が舞い上がる!
「人の話をきかん子はこうやで」
「グ……オォォォ!!??」
女はなんと無事だった! 自分の倍以上ある熊の魔物を腕一本で受け止めてみせたのだ、逆に受け止められた熊の魔物の方が大きな痛手を受けているようにすら見える、外傷はないが頭をしきりに振り回す熊の魔物の様子から内部へダメージが発生していた事が分かる。
対照的に女は余裕の笑みで乱れた髪を手で整える。女は一切のダメージを負っていない、一体何をしたのか、その答えはミノムシの人物が知っていた。
「凄い……僕が教えた発勁を完璧にものにしているじゃないか!? 良くあんなあやふやな説明で出来たね?!」
「ボクの得意な事はモノマネと騙しや、足りん所は発想で補うんやで? まぁこれも生まれ持った才能のなせる技……ちゅー事やなぁいやぁ、自分の才能に惚れ惚れするわ」
「むちゃ腹立つぅ〜……!」
余裕たっぷりな女はミノムシの人物に言われたことに饒舌に上乗せしていく、今その話をまともに聞いていられるのは誰もいないに、そのおかげで熊の魔物は脳震盪から回復してしまい戦闘復帰し、舐め腐った女の態度で闘争心を更に増した状態で女に立ち向かう。毛皮の上から青筋見えていた。
「グァァァ!」
「まだやんの……?」
熊の魔物は女に人の頭より巨大な爪が並んだ前足で大ぶりな振り下ろしの攻撃を仕掛けるが、その糸目で振り下ろしのコースを見定め半歩前へ進み先ほどと同じ方法で受け止める、受け止められた側は叩きつけたはずの前足がそれ以上の力で弾かれ仰け反る。
女はこれを勝機と見てとり、更に一歩前へ踏み出し熊の魔物の心臓部に掌底を置き、一気に力を込める!
「往生せいや、えいっ」
ドゴン! と女の足元の地面が弾け飛ぶと同時に熊の魔物の心臓部に女の掌底から爆裂する衝撃波と弾ける魔力の一撃がぶち当たり、熊の魔物の心臓まで衝撃が浸透し内臓が全てズタズタに破裂した。まさに四肢噴血、派手に血しぶきが舞い散りあたりは血の海が広がり熊の魔物はぶっ倒れ、ピクリとも動かなくなった。
もちろん返り血を女は受けていたが気にしていないのか、笑みは崩れていなかった、むしろ少し深まっている。
「クンフー足りとらんとちゃいます? って言うんやろ?」
「へ……? あ、うんそうです……」
「自分その顔ボクのこと狂人や思てる?」
「いやだってあんなブラッディーファイトした後に笑顔でボケるんだもの……」
「かっちーんきたで、料金2倍増し」
「えぇーっ! ぼったくり!」
「何とでも言うてみぃ〜アイデンティティ否定したんやでその分上乗せしたるでぇ〜」
「鬼! 悪魔! 腹黒糸目!」
「……ぃ……糸目は関係あらへんやろがい!!!!」
「なんで糸目が沸点なんだよっ!!!」
やいのやいのと二人がふざけているとその後ろでは死んだはずの熊の魔物が立ち上がり目、鼻、口、耳、穴という穴から血を噴き出しもはやどう見ても死んでいるが、だからこそか最後の最後に一矢報いるために意地と気合で体を動かし、その剛腕を振るい女の顔目掛け鋭い巨爪が光る!
「うっとおしい男と虫は昔から嫌われてるっちゅーのに、学ばん男の多いこと……昨日だってボクのことバカにしちゃやり返されてたんもう忘れてるのバカじゃない? もう哀れや哀れ」
「いやいや昨日のことはいいから後ろォ!」
「後ろ?」
女が振り返る、その瞬間人の顔の数倍大きい熊の手が顔面を捉え張り倒す、爆薬の炸裂に似た轟音がありえない程響き渡り、女は遥か右方向へ飛んでいく。
「あ、あ、あ、おま……ひぃぃぃぃ! お助けぇ!」
ミノムシの人物は腰が抜けたが、命が掛かっているため熊の魔物からじわりじわりと離れる、熊の魔物は当然、女の仲間も許してはない、確実にぶち殺すつもりでぶっとい前足を振り上げるとそのまま叩き潰した。
「むぎゃ」
むぎゃ? 熊の魔物は人間を確かに潰した、ならこの音は……? しかしその音の正体を考える前に女の絶叫が熊に突き刺さる!
「お〜ど〜れ〜っ!!!! このメイクなんぼ時間食った思ったんやぶち殺すぅぁぅぅ!!!!!」
女は超ご機嫌斜めで地球斜面論者も青ざめるほどブチギレていた、もはや止める物はなく、一歩踏み込み熊の魔物までぶっ飛んだ女はその大顎に拳をぶっ込み天高くかちあげるとそれを追って飛び上がり追い越して、空中で一回転、そして踵を熊の魔物の脳天に突き刺し再び大地へ帰還させる。
「お前がボクのメイク時間返してくれるんかボケーっ! 死ねぇぇぇぇぇカスぅぅぅぅ!」
熊の魔物の巨体が軽々と打ち上げられ叩きつけられる、そこはもう爆心地と言って差し支えなく、もう熊の魔物は地面に叩きつけられた時点で絶命していたが更に追い討ち、落下エネルギー+空中を蹴って速度を増した女は弾丸となり熊の魔物の頭部へ飛び降りる。
「脳髄ぶちまけ惨たらしく死にさらせぇぇぇ!!」
「ストップ! ストォォォォップ!」
しかしそれに割り込んだのはミノムシの人物! 女の一撃を全身で受け止めたのだ! 死んだはずの人物だが生き返り、女の一撃を受け止めてもう死にそうだった。
「あ……死ぬ……」
「なんで邪魔したんやおどれぇぇぇ! 百回ぶち殺すぞゴラァ!」
「あのこいつ……討伐……依頼の……証拠……」
「討伐依頼の……証拠、あっそうか、首がいるんやったなぁ……あのまま潰したらタダ働きやわ」
「あふん」
「あっ死んだ、次の蘇生いつやろか、先に街まで戻ってるか」
女は男の死体と熊の魔物の首を両方引っ提げ街に歩いて帰った。
これは凸凹コンビがそれぞれの生活のために戦う異世界ファンタジーなのだ! そうなるはずなのだ!