逃れぬ劫火〜シュレイドの黒龍伝説〜   作:カワード

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 〜新大陸調査団の手記より〜

 

 私は、新大陸古龍調査団の4期団に所属している、しがない書記だ。

 今、我々は、調査拠点である新大陸を立ち、シュレイド地方を目指して航海をしている。

 そこには、かつてシュレイド王国と言う、栄華を誇った国があった。

 だが、その国は、突如、たった一夜にして、滅んでしまった。

 その原因は、とてつもないモンスターが、一夜にしてシュレイド王国を焼き尽くしたから。

 と言うおとぎ話がある。

 だが、シュレイド王国は、ギルドが禁域に指定していた。

 その理由は、そこに、とてつもないモンスターが実在していたからだ。
 そのモンスターは人々に、こう呼ばれている。

 黒龍 ミラボレアス

「地は揺れ」
「木々は焼け」
「小鳥と竜は消え」
「日は消え」
「古の災いは消え」
「これらが続いて数ヶ月後、シュレイドは滅びた」

 各地に残された、古い言い伝えは、おとぎ話ではなく、本当の話だった。

 この存在に、古の人々は関わらないように生きてきた。
 その次の代にも、その次の次の代にも、何度もそう言い伝えてきた。
 そうやって、人々はこの厄災から、目を逸らし続けた。

 その代償は、どこかの代で誰かが償わなければならない。

 我々はミラボレアスを討伐する、そのためにこの船に乗っているのだ。


 ここに、我々の戦いの全てを記録する。




 
 シュレイド王国にて

 現地に着いた我々は、一つの問題にぶつかった。

 主戦力として期待していた、現地の兵器である、撃龍槍、その真ん前に、防護壁が増築されていた。

 当時のシュレイド城の人々が急ごしらえで作った物のようだ。

 これでは、撃龍槍は、使えない。

 その現状を見た、本作戦の最高責任者の将軍が呟いた。

「よもや、シュレイド城の人々は撃龍槍を活かさなかった。攻めを放棄すれば、滅ぶは理……」

 シュレイド王国が滅びて何年も経った今、我々の観点からしても強力な兵器である、撃龍槍。

 それを常備しながら、何故、このような行為をしたのか?
 本当に攻めを放棄したのか?
 戦うことすら、できなかったのか?

 真相はこの場の誰にも分からない。

 だが、ミラボレアスは、ここにいる
   』


 手記はここで途切れている。


シュレイド王国戦争編
1話「シュレイド王国」


 約1000年以上前、現大陸の西側に位置する場所に、シュレイド王国はあった。

 

 人口、領土、文明、それら全てが、他国を圧倒的に凌駕する、栄華を誇った大国だった。

 

 国の周りを切り立った山々が囲んでいるため、南方にある峡谷の底が、他国からの唯一の入口だ。

 

 その入り組んだ地形のお陰で他国や、モンスターの被害を受けずに独自の文化を発展できたのだ。

 

 モンスターは他国にとっても脅威だったが、シュレイド王国は、大砲やバリスタなどの優れた兵器を開発し、対処してきた。

 

 その甲斐あってか、今ではモンスターは絶滅したかのように、その存在自体が全く観測されなくなっていた。

 

 だが、それだけでは平和は訪れない。

 

 モンスターの脅威が無くなった今、シュレイド王国は近隣のヴェルド王国に狙われていたのだ。

 

 かつて同じように、モンスターに苦しめられた人々はその脅威が収まった時、今度は同じ人間同士で争いを始めてしまう。なんとも言い難い状況に陥った。

 

 ヴェルド王国は、大砲やバリスタなどの兵器を、シュレイド王国から盗み、戦争を仕掛けてきた。

 

 その理由は、国の食糧難にあった。

 

 シュレイド王国がモンスターの数を多く減らしすぎたため、生態系のバランスが崩れ、食糧となる動植物が同じように減ってしまったのだ。

 

 だが、山々に囲まれたシュレイド王国を攻めるためには、ヴェルド王国とも繋がっている、南方にある峡谷の底から行くしかない。

 

 その事はシュレイド王国側も理解しているため、峡谷の底の途中、シュレイド、ヴェルド、両国の中間に位置する所に、迎撃用の砦を建設していた。

 

 その砦の名は、ドローマの砦。

 

 シュレイド王国への侵入者を徹底的に防ぐために、横幅は峡谷の壁に張り付くように、横に広がり、三階建てのそれぞれの階層には、大砲やバリスタが常備されていた。

 

 だがこの砦の役割は、実戦では無い。

 峡谷の底にある、その存在だけで、ヴェルド王国に対する圧力をかけていたのだ。

 

 わが国に攻め込める道は無いと。

 

 だが今、このドローマの砦では、両国の激しい戦争が始まっていた。

 ヴェルド王国の奇襲だ。

 

 大砲の轟音が双方から響き、兵士たちの怒号と絶叫が絶えず、砦の至る所から硝煙が上がっていた。

 

 砦には、戦争ができるほどの人員は配置されていないため、戦況はシュレイド側が不利であった。

 

 そんな日に運悪く砦に配属された、新兵のミルレオス。

 

 彼はまだ16歳で、体格は一般の兵士より小柄で、明らからに力不足に見えた、とても戦場に立てるような兵士ではない。

 ホワイトブロンドの短髪は汗でびっしょりと濡れていて、今日新調されたばかりの皮の鎧には、擦り傷や焦げ跡や破損がかなり目立っていた。

 その顔や腕にも、小さいが切り傷が至る所にあった。

 首にぶら下げた、カラフルな二枚の鉄製のネームプレートが首の後で宙に舞う。

 このネームプレートは、シュレイド王国の兵士が、自身の名前と地位を合わすために、全員が身につけている。

 

 戦争という状況がミルレオスの目に闘志を宿し、歯を食いしばらせる。

 その目線の先に捉えているのは、もちろん敵兵だ。

 

 自分よりも体の大きな相手は、力任せにその剣を押し付けてくる。

 ギチギチと互いの刃が音を立てる中、ミルレオスは押し込まれていた。

 

 新兵の自分とは違い、相手はゴツイ身体に、額に大きな古傷があり、それなりの戦闘経験もあるようだった。

 

 押し込まれたミルレオスは、ついに片膝を着いた。

 刃が眼前に迫る。

 目を見開いた相手の荒い鼻息が、ミルレオスにも伝わってきた。

 

 でもここで死ぬわけにはいかない。

 僕がルピナスのみんなを助けるんだ。

 

 その想いが追い込まれたミルレオスをつき動かす。

 

「くっ!」

 

 片膝を着いた状態から、もう片方の足で相手の腹部を蹴りつけ、突き離した。

 

「ぐわっ!」

 

 突き離された相手は、そのまま後ろに倒れ込んだ。

 

 その隙は逃せない。体勢を立て直したミルレオスは果敢に斬りかかっていった。

 相手も倒れたままミルレオスに対し同じように剣を振った。

 

 一ッ!二ッ!三ッ!と間髪入れずに全力で剣を振るった、その三撃目が、ザクッ!と相手の手の甲を切りつけ、その痛みで剣を離してしまった。

 

「うがぁっ!」

 

 切られた箇所を抑えて悶絶する相手に、ミルレオスはとどめを刺そうと刃先を頭に向け、そのまま剣で頭を突き刺そうとした。

 

 だが、動き出した瞬間、相手がもがき苦しんでる顔がミルレオスの目に映る。

 

 目を瞑り、涙を流しながら、声にならない声を上げているその様子を見た、ミルレオスは剣を止めてしまった。いや、止まってしまったのだ。

 

 ここで、殺すことは本当に正しいのか?

 

 この人は確かに敵兵だ、僕を殺そうとした、兵士である自分の役目は、シュレイド王国を守る事。

 でもどうしても、僕が殺さなきゃならないのか?

 

 抱いた疑念で、剣を握る手に力が入り、震える。

 

 ここで、この人を殺してしまったら、一生後悔してしまうかもしれない。

 人を殺して、ルピナスに胸を張って帰れるのか?

 それでも、殺さなきゃ、戦争は終わらない。

 

 覚悟が揺らぐのは、相手の苦しむ顔が見えるせいだ。

 そう思ったミルレオスは震えながら目を瞑る。

 

 仕方なかった、これは仕方なかったんだ。

 

 そう何度も自分に言い聞かせ、止めていた剣を動かそうとした。

 

「はああぁぁ!」

 

 でも、動けなかった。

 

 ザクっ!

 

「がっ⋯⋯ぁ」

 

 何かが起きた、でもミルレオスは目を瞑って震えたまま動けていない。

 

「そんなんじゃ、死ぬぞ?新兵」

 

 その声で、震えが止まった。

 目を開けると、目の前にいた相手は既に刃で切られていて、頭から血が吹きだしていた。

 

 声が聞こえてきた方を向くと、そこにいたのは、頬に口が大きく裂けたように見える傷跡を持つ、女性の兵士だった。

 

 それはミルレオスにとって、見覚えのある顔だった。

 

「あなたは⋯!?」

 

 それは、かつてシュレイド王国がモンスターによって危機に晒された時、それに誰よりも強く果敢に挑み、そのモンスターの討伐作戦において、一番の成果を挙げた、最強の兵士の一人。

 刻んだ傷が紅く染まり、傍若無人に戦う、そんな彼女の通り名は、

 

 紅裂(べにざけ)のリヴェ。

 

 深紅のボサボサした長髪、鎧ではなく動きやすそうな朱色の毛皮の軽装で、男勝りで屈強な肉体が目立つ。

 血の着いた長刀を堂々と携えたその姿は、どの兵士と比べても、非常にたくましい。

 

 銀色のネームプレートが二枚、首にぶら下がっていた。

 これが示すのは、シュレイド王国軍、副長の証。

 

「ヴェルドの軍勢が砦の中まで、もう押し寄せてきたか。いいねぇ」

 

「リ、リヴェ副長!助けて頂き、ありがとうございます!」

 

 ミルレオスはすぐに、かしこまって頭を下げた。

 

「は?礼なら生き残ってから言え。じゃあな新兵、もう待ちきれない!」

 

 リヴェは長刀を掲げ、怒号と轟音が鳴り止まぬ砦の外、戦場へと駆けていく。

 砦の二階層から、身を乗り出し、戦いを繰り広げている敵兵目がけて跳躍した。

 

 リヴェの後を追うように様子を見ていたミルレオスは、紅裂の名に恥じぬ、凄まじい戦闘を目撃した。

 

 上空から獲物を狙う鳥のように、長刀の刃先を突き出し、敵兵の元へ着地。

 刺さった長刀を抜きながら弧を描き、近くにいた他の敵兵を斬殺。

 

「何だ!?」

 

 その一瞬の出来事で、動揺した敵兵の肩を掴み、みぞおちに、長刀の柄を打ち込んで怯ませ、掴んだ肩を下へ押す。

 強制的に膝立ちの状態になった敵兵の肩に、足を乗せ、上へ跳躍した。

 敵兵を踏み台として利用したのだ。

 

 リヴェは再度、空中で次の狙いを定める。

 

 できるだけ多くの軍勢が密集していた、大砲の周辺が目に入る。

 そこに、ありったけの力を込めて、振りかぶった長刀を叩きつけた。

 その衝撃は地面を穿ち、そこに密集していた全ての、敵兵をぶっ飛ばした。

 漂う土煙が、強者の風格を印象づける。

 

「な、何者だ!?」

 

 その問いに、頬の傷跡を指先でやさしく擦りながら、敵兵一人一人の目を凝視した。

 

「⋯はぁ⋯つまんない目」

 

 と、ため息混じりにボヤいた。

 

 その発言とは裏腹にリヴェは、大軍相手にたった一人で嬉しそうに立ち向かい、まるで戦いを楽しむように、圧倒していた。

 槍の突きは空を切り。

 放たれた弓矢は尽く斬り落とされ。

 剣戟は弾かれ、躱され。

 敵を斬り伏せ、踏みつけ、何度も空へ跳ぶ。

 血飛沫が激しく舞う空中を、跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する。

 殺された敵兵は、口がバックリと裂かれた傷が多い。

 

 リヴェが敵の密集している所で暴れているので、ヴェルド軍の大砲やバリスタなどの兵器は、とても使える状況ではなかった。

 

 砦でその様子を見ているミルレオスは、人間離れした動きで、容赦なく敵を蹂躙するリヴェに、憧れを抱きながらも同時に恐怖も感じていた。

 

 どうしてあんなに躊躇無く、敵とはいえ同じ人間が殺せるのだろうか?

 自分がやろうとしたら、手が震えて何も出来なかったのに。

 

 ミルレオスがリヴェの戦いを見たのは、まだ幼い少年時代の頃だ。

 シュレイド王国内の都市部で暴れていた一体の火竜リオレウスを狩猟した時だ。

 街を守るために無力だった自分達を庇いながら、火を吐き、空に舞う強力なモンスター、リオレウスを、どうにか討伐したのだ。

 それから彼女は、その功績を国王に称えられ、名も無き狩人から国軍の副長へと任命されたのだ。

 当時の彼女は、丁度、今のミルレオスと同じくらいの歳だった。

 少年のミルレオスにとって、命の恩人であり、憧れの存在となった。

 

 今もその時とやっている事は同じだ。

 国を守るために敵と戦っている。

 相手が同じ人間なだけだ。

 なのに。

 

「こんな事⋯⋯間違ってる」

 

「全く、同感するよ」

 

「っ!?」

 

 ミルレオスは声が聞こえた方に振り返る。

 目に入ってきたのは、金色のネームプレート。

 そして、火竜の素材で作られた赤くゴツイ防具。

 細身だが高身長、白髪のロングストレートで、ダンディで男前な顔立ち。

 それでも渋くて低い声が、老いてなお厳格な雰囲気を演出している。

 

「本部隊長!?」

 

 金のネームプレートが示す通り、彼はシュレイド王国軍、最高司令官にして本部隊長の、スバリだ。

 

 そして、その後ろからゾロゾロと大勢の兵士が走ってきた。

 先導に立っていた兵士の首のネームプレートは銅色だった。

 

「本隊到着!これよりヴェルド王国軍と交戦を開始します!」

 

「あぁ、総員、突撃せよ!」

 

「はっ!」

 

 スバリの号令で、兵士達は、ヴェルド王国軍の元へ向かった。

 

「どうして、本隊がこんなに早く応援に?」

 

「この戦争はいつ起こってもおかしくなかった。それに、このドローマの砦にはシュレイド王国に繋がる坑道がある。それを使えば、峡谷の底を通るより、早く到着できる」

 

「なるほど、そのおかげで僕達は助かりました。ありがとうございます!では、僕も加勢に!」

 

「いや、君にはまず先にこの状況を、報告してもらう。ヴェルド王国が強襲をした事は、他の兵士から聞いているが、あれから現状はどうだ?」

 

「はい!僕達はどうにか応戦しようとしましたが、敵は大軍で攻めてきており、戦況は厳しく、砦内部にも敵の侵入を許してしました。ですが、僕自身も危うく死ぬ所でしたが、駆けつけたリヴェ副長に救われました」

 

「そうか。間に合って良かった」

 

「いえ⋯⋯僕があの時、殺すのを躊躇ったせいで殺されそうになっただけで⋯⋯」

 

「君のような若い新兵に、この戦争を経験させてしまったのは、私に責任がある。すまなかった。君はもう下がっていたまえ。後は我々の仕事だ」

 

「しかし!僕はこのまま何もせず、黙って見ている訳にはいかないです!」

 

「⋯その震える手で、誰を殺せる?」

 

 ミルレオスはスバリに指摘されて、自分の手を直視するまで、震えている事に気が付かなかった。

 

「⋯分かり⋯ました」

 

「懸命な判断だ⋯⋯な?」

 

 その会話が一段落した時、外で戦っている兵士たちに変化があった。

 スバリが外の様子を確認すると、大軍で攻めてきていたヴェルド王国軍は、全員、砦から離れていったのだ。

 

「どういうことだ?これは?」

 

 ミルレオスもスバリの後を追い、同じく外の様子を見た。

 

「ヴェルド王国軍が⋯撤退してる!?」

 

「この戦争は、始まったばかりだ。我々の軍勢は今、加勢に入ったばかりだぞ。どうなってる?」

 

 大砲やバリスタなどの兵器や、仲間の死体までもを放棄したまま、敵軍は一斉に撤退を始めていた。

 

「どうした!?もう終わりか!?」

 

「てめぇらが仕掛けた戦争だろうがよぉ!」

 

「このまま逃げるつもりか!」

 

 リヴェや、シュレイド王国軍は始まったばかりなのに撤退してく敵軍に対して煽るような言葉を浴びせるが、それでも撤退は止まらなかった。




人間同士の争いは、いつの時代でも発生するらしいですね。
これは、モンハン小説なので、戦争はちょっとどうかと思ったんですけど、過去作で合体ロボとモンスター化人間を出してるので、今更遅いですね。
もう吹っ切れてます!
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