ラオシャンロンはヴェルドの凱旋門を破壊し峡谷の底を辿ってシュレイド王国に向かっている。
それを周知したスバリとカンピアは王国中の兵士と技術者を緊急招集して、ラオシャンロン迎撃作戦の説明を行った。
それはシュレイド王国に到達する前にドローマの砦で、決着をつける作戦であった。
説明の途中、ラオシャンロンといち早く戦う為に一人で抜け出したリヴェは、城を抜け出し、峡谷の底を通ってラオシャンロンと対峙した。
だが、その圧倒的な体格差と強固な外殻に翻弄され、日暮れとともに敗北してしまった。
緊急招集令の件から既に一日が経過した。
そこで集められた兵士たちは、スバリとカンピアが立てたラオシャンロン迎撃作戦の準備を進めるため、本部隊長のスバリを筆頭にドローマの砦へと向かった。
一方、カンピアやガンダロス、駄ロス工房のメンバーのような技術者たちは、シュレイド城にあるカンピアの研究部屋に集まり、机の上にある一枚の大きな設計図を見つめていた。当然、この設計図は兵器開発者であるカンピアが描きあげたものだ。
その設計図の中央に両手を着いたカンピアが不安げな表情で首を傾げている。
その目元にできたクマとやつれた顔は、この設計図を書き上げるのに一晩中悩み抜いた証である。
夜間に作業をするために、その机の上に設置した灯火がまだ強く灯っている。
「この作戦が成功するかどうかは私たちにかかっています、ですが…」
言いかけた言葉を飲み込み顔を伏せるカンピア。
「あぁ、んなこたぁ分かってる。だがなんだ?」
「時間が無いんです!絶望的に!この設計では間に合わない!」
バンっ!と手を叩きつけた設計図に書かれていたのは、大砲の発射台と巨大なドリルの形をした槍の図形だ。細々とした数字や、様々な実線がいくつも書かれており、その右上には太字で『撃龍槍』と書かれていた。
これはラオシャンロンを迎撃するために作製している、新たな兵器である。
「だから、早く作製に取り掛かからなきゃならねーんだろ!おい!お前ら!」
「へい!」
ガンダロスの掛け声と共に、駄ロス工房のメンバーは雄叫びをあげる。
「待って下さい!やっぱりこのままじゃダメだ!」
その一言で一気に眉間に皺を寄せたガンダロスは、カンピアの胸ぐらを掴んで顔を近づける。
「何がいけねぇんだ!今できる事をやらなきゃ間に合わねぇだろうが!例え完全に作成できなくても、それでもやるしかねぇ!」
だがそれに対し、カンピアも胸ぐらをつかみ返した。
「不完全な兵器のせいでこの作戦が失敗したら、どうするんですか!?絶対に失敗は許されないんですよ!」
「だが、何もやらねぇんじゃ、それこそ意味ねぇだろうが!」
ガンダロスは怒鳴りつけると、胸ぐらを掴んでいた手を急に突き離した。
カンピアは後ろに突き飛ばされ、そこに立てかけてあった大きな何かに背中をぶつけた。
それはカンピアが現在研究中である、ヴェルド王国に落下したモンスターの部位だった。
振り返ったカンピアは、一瞬、それが倒れてこないか不安になって両手を前に出したが、倒れてはこなかった。もし本当に倒れてきてもカンピアの力では、到底支えられないので無駄な行為である。
「ガンさん……私だっていち早く兵器を完成させるべきだとは思います。ですが、不完全では意味が無い。完全で時間以内に作製する必要があるんです。作戦が失敗して街が破壊され、最悪、あなたの家族が亡くなってしまったら、どう思います?」
「そりゃ……お前ぇ…」
「右目を怪我したあの日に奥さんと喧嘩してから疎遠になって、産まれてきた娘の顔さえ知らない。こんな状態のまま別れたくは無いでしょう」
「てめぇ!誰から聞いた!?」
ガンダロスが右目を怪我したのは、駄ロス工房での出来事だった。
当時、仕事に熱中していたガンダロスに子どもができた事を伝えようとした奥さんだったが、話しかけた途端、ガンダロスの手元が狂ってしまい、熱された鉄が右目に当たって失明してしまったのだ。
利き目を失ったガンダロスは、仕事に支障が出る、とその場で大激怒、だが奥さんの方もいち早く子どもの事を伝えたかっただけ、と逆ギレして大喧嘩に発展。
その大喧嘩の末、奥さんはガンダロスの元を離れ別々に暮らしを始めた。
それ以来、ガンダロスは奥さんと会っていない。
娘が無事産まれたことは部下から聞いていたが、長い間顔も合わせていないため、どんな言葉をかけたらいいのか分からなかった。
カンピアはこの事を駄ロス工房のメンバーの一人から聞いていた。
「制限時間以内に完全な兵器を作成する。それしか、この国を守る方法はないんです。だから別の方法を――」
「だったら尚更、動くべきじゃねぇか!この野郎っ!」
ガンダロスはまたしても、怒号と共にカンピアの胸ぐらを掴んで揺さぶってきた。当然、カンピアも負けじと掴み返した。
「だから、こんな事してる時間も無いんですって!」
「うるせぇ!」
「旦那!親方!やめて下さい!」
「落ち着いて!一旦冷静になりましょう!」
「こりゃ、やびゃー」
2人の言い合いを駄ロス工房のメンバーが止めようとするも、一向にやめる気配はない。
バギッ!ガッシャーン!
お互いを強く揺さぶり合った結果、ガンダロスは背後にあったモンスターの部位に激突し、カンピアは設計図が置かれていた机に叩きつけられ、その机が大きく破損した。
そして、その机の上に置かれていた灯火が床に落下し、周囲が炎上した。たちまち部屋は焦げ臭くなり、熱気が部屋に充満する。
「あーっ!火事だ!」
「おい!消せ消せ!」
駄ロス工房のメンバー達が慌てて火を消そうとしている。
そんな中、ガンダロスは目を瞑ったまま背中をさすって痛そうにしていた。
またカンピアも強打した背中に痛みを感じていると、ヒラヒラと撃龍槍の設計図が自分の顔面に舞い落ちてきた。自分の足元が燃えているにも関わらず、その設計図を掴んで凝視した、その瞬間、炎の明かりが設計図を照らし、向こう側が透けて見えた。
設計図の槍の部分と同じ形をした影が重なった。
カンピアはそれを認知した瞬間、目を丸めた。
「これだ……」
「おい!お前燃えてっぞ!誰か水持ってこい!」
「へい!」
ガンダロスに言われた通り、足元の火は既にカンピアの服に引火していたが、関係ないと言わんばかりに話を続けた。
「これしかない!」
「はぁ!?」
「ガンさん!その通り!私の心は今非常に燃えています!これなら時間以内に完璧な撃龍槍の作成ができる!より強力な物がね!」
服に引火してみるみるうちに炎が燃え上がってきているが、それでもカンピアは気づかないままだった。
それどころかガンダロスの方にずんずんと迫ってきた。
「だから、早く消せって!」
「何を言っているんですか!?この案は絶対に消せませんよ!」
「火だよ火!」
「親方!そこどいてちょ!」
後ろからガンダロスの部下の1人が溢れそうな程の水を汲んだバケツを持って走ってきた。
バッシャーン!
そしてカンピアに思いっきり水をかけた。
興奮していたカンピアの動きがピタッと止まって、濡れた手を前に出して水を切るため振り払う。
「あーっ!設計図が濡れたじゃないですか!」
当然、その手に持っていた設計図は濡れて、しわくちゃになっていた。
「頭冷やせって!……んで、どうやるんだ?その設計図じゃ間に合わねぇんだろ?」
カンピアはしわくちゃになった設計図を見て、すぐにパッと手放した。
「えぇ、それもそうですね。新しい撃龍槍は
するとカンピアは研究部屋の中で一際目立っていた物を指差した。
「あれって……おいおい!マジか!?」
「ちょっ!本気ですか!?」
「ありえねーでぇ…」
一同はカンピアが撃龍槍の作成に使用する
今回は撃龍槍を制作する過程の話です。
本編に繋がる大事な場面なのですが、ラオシャンロン戦と一緒にしてしまうと長くなりそうだったので、こういう形にしました!
さて、カンピアが閃いた新たな撃龍槍のアイデアは一体何だったのか?楽しみにしておいて下さい!
では、また次回で会いましょう!ありがとうございました!