逃れぬ劫火〜シュレイドの黒龍伝説〜   作:カワード

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 撃龍槍の制作に取り掛かったカンピア達だったが、ラオシャンロンがシュレイド王国に到達する前に完成させる事が不可能だった。
 不完全でもできる所まで作成しようと主張するするガンダロスと、完全な物でなければ意味が無いと主張するカンピア。
 二人の意見は真っ向から対立し、ついには掴み合いの喧嘩に発展する。その喧嘩のせいで研究部屋に火がつき、現場の全員が大慌で火を消そうとしている中、カンピアはその火に照らされた影と設計図を見て、新たな撃龍槍のアイデアを思いついたのだった。


10話「災山」

 カンピアやガンダロス達が撃龍槍の制作をし始めて一日が経過した。その頃、スバリ率いる王国軍兵士隊はドローマの砦にて、来たるラオシャンロンとの決戦に備えてあらゆる兵器を設置していた。

 

 一つ目の作戦はラオシャンロンが峡谷の底を辿って砦に到達すると予測し、その道中に大量の大タル爆弾(爆薬が詰められた樽型の爆弾)を運び、峡谷の崖上で待機、対象(ラオシャンロン)がそこを通った時、崖上から大タル爆弾を落として爆撃する。

 

 2つ目、切り立った崖の見通しが良さそうな場所を見つけ、そこに砲弾やバリスタを設置し、対象が射程範囲に入った瞬間、砲撃を開始する。

 大砲の射程範囲は非常に広いが、全てを遠距離用で使用するのではなく、その大半はドローマの砦に設置している。

 

 3つ目、バリスタ弾の改良品である単発式拘束弾。

 この兵器はただ鉄製の大きな槍を発射する通常のバリスタ弾とは違い、槍の後方部に長いロープを括りつけており、対象の一時的な拘束を狙う兵器である。

 これはあらゆる角度から一斉に発射し、何百発ものロープで対象をがんじがらめにして、動きを封じる。

 そして動けなくなった対象を砦に設置した大量の大砲で一斉砲撃するのが作戦だ。

 

 4つ目、大砲の一斉射撃を行った後、更に追撃を加えるのが今現在、カンピア達が作っている撃龍槍だ。

 その名の通り、対超巨大モンスター迎撃を想定して現在進行形で作成している強力で巨大な槍である。

 大砲の発射台を通常よりも大きく制作し、大砲の弾を発射する要領で巨大な槍を射出する――カンピアが考案した最強の兵器である。

 もしこの兵器までもが通用しなかった場合、ドローマの砦は破壊され、ラオシャンロンはシュレイド王国に到達してしまうため、勝負はこの撃龍槍で決まる。

 

・ 崖の上の大タル爆弾

・ 遠距離射撃用の大砲、バリスタ

・ 単発式拘束弾と砦に設置した多くの大砲

・ 撃龍槍

 

 そして、ラオシャンロンの到達位置を示す目印の設置も同時に行っていた。

 

 

最初の目印として、大きな青旗を峡谷の崖に設置。

 この地点に対象の頭が入った時点で作戦が開始する。

 そこは大砲の弾やバリスタ弾が狙った所へ安定して着弾する範囲でもある。開戦と同時に砲撃を行う。

 

 

 次は黄旗である。

 この場所は砦から少し離れた場所にあり、対象と砦の距離がかなり近い。ここに到達した時、単発式拘束弾を発射して対象の動きを封じた後、大砲の一斉砲撃を浴びせる。

 

 

 最後に赤旗が砦に掲げてある。

 これが最終防衛ラインであり、ここを突破されることは、砦を突破されたということになる。

 この赤旗に到達する前に撃龍槍を喰らわせ、勝負を決めるのが今回の作戦だ。

 

 青→黄→赤の順番でそれぞれの場所に到達するごとに、各作戦を決行する。

 

 これらを駆使し、ラオシャンロンを迎撃する。

 

 本部隊長のスバリは砦内の大砲の整備を部下の兵士と一緒に行っていた。

 部下に命令するのだけではなく、自らも進んで作業に協力するのがスバリのやり方だった。

 そこに銅のネームプレートを首にかけた、1人の兵士が作業中のスバリに話しかける。彼は小隊長の一人でもあった。

 

「隊長、青旗から砦側に近い崖に、岩の一部が他より突出している箇所を見つけました。そこにいくつかの大タル爆弾を仕掛ければ、対象が通過する際に爆破させて落石を起こせるので、更なるダメージが期待できそうなのですが、いいかが致しましょうか?」

 

「そうだな、その案を採用しよう。大タル爆弾を直接ぶつけるよりも、そっちの方がより高威力が出せる。すぐに取り掛かってくれ」

 

「はっ!!」

 

「待った、そこにも目印が必要だな。緑旗を立てておいてくれ。ここからタイミングを見て合図を送る」

 

「了解です!」

 

 小隊長は命令を実行するため、キビキビと動いてその場を立ち去った。

 

「合図?それはどうやって送るんですか?」

 

 大砲を一緒に整備していたのは、新兵のミルレオスだった。

 

「この大銅鑼を鳴らして、合図を送る」

 

 スバリが立ち上がって自身の後ろを指す。

 そこにあったのは人の背よりも倍程の大きさの大銅鑼が用意されてあった。

 

「これを強く叩けば、ここから遠く離れた場所にも銅鑼の音が響き渡る。この音を合図にそれぞれの配置についた兵士たちが作戦を実行する。まぁ、君がこの事を知らなかったのは無理もない、元々この作戦に参加させるつもりは無かったからな」

 

 ミルレオスはまだ若く兵士としての経験も少ないが、彼はラオシャンロンの存在を兵士の中で唯一知っていたため、有益な情報の保持者として今回の作戦に参加することになった。

 

「いえ!僕は自分から望んでこの作戦に参加したんです!この前、ヴェルド王国軍が襲来した時、自分は何もできませんでした。ですが、今回はどんな形でも兵士としての責務を全うします!」

 

「なら、できる限り生き残ってくれ。例えこの砦が突破されたとしてもな」

 

「え?それはどういう――?」

 

 ミルレオスが言い切る前に、スバリは彼の両肩をがっしりと掴んだ。

 

「私は本作戦の最高責任者だが、今回の作戦が絶対に成功する保証は無いと思っている。だが、作戦が失敗しても、シュレイド王国がラオシャンロンに蹂躙されても、生きてさえいれば大切な人を守れる。君もそのために兵士になったんだろ?だったら最後まで生き抜いてみろ」

 

「分かり⋯⋯ました」

 

 兵士として自分の命に変えても国を守る、とか、何があっても砦を通させない、とか、そういった言葉を想像したミルレオスだったが、スバリが言いたかったことは、最後まで生き抜く事だった。

 

「今回の作戦での君の役目は後方砲撃部隊だ、決して前線に出てはならん。だが砦が破壊されそうになったらすぐに脱出するんだ」

 

「っ!?了解です!」

 

 自分の命を優先する。

 兵士としての義務よりも果たすべき内容は、自分の生存であった。

 

 ズシン。

 

 何かの振動が整備中の大砲の部品の一部を落とした。

 

「今⋯⋯揺れましたよね?」

 

「君も感じたか。まずいな、まだ作戦準備の途中だと言うのに」

 

 ミルレオスとスバリは砦の外を急いで確認するが、ラオシャンロンの姿はどこにもない。

 

「ラオシャンロンの姿、どこにもありません!」

 

「まだ離れているんだろう」

 

 ズシン。

 

「だが、こっちにも振動が伝わってきている。確実に近づいてきてるはずだ」

 

「あぁ、もうじき来るぜ」

 

「っ!!!???リヴェ!?」

 

 二人の後ろからふらっと現れたのは、ラオシャンロンに先に1人で挑みに行ったはずのリヴェであった。

 彼女は砦内の屋根の上で寝ていたが、ラオシャンロンの振動のせいか起きて下に降りてきた。

 

「お前!生きていたのか!あの時、何故一人で行った!?いや、言わなくても分かる!どうせ奴にいち早く挑みたかったんだろ!?」

 

「ご名答♪」

 

 突然出てきてご機嫌そうに答えるリヴェに対し、スバリは拳を振り上げ、胸ぐらを掴む。

 その動作にミルレオスは、思わず尻すぼみになった。

 

「お前のその無責任な行動が、他の兵士に、いや祖国にどれだけ迷惑をかけているのか、分からんのか!?このっ!」

 

 スバリは容赦なくリヴェを殴った。

 

「っち!痛ってぇな!あぁ、そうだよ。アタシはいち早くあいつとやり合いたかった。だから城を抜けて駆け出した!だが、今はそんな気も無くなってね」

 

「何!?」

 

 ズシン。

 

「アタシの攻撃は全て奴には通じなかった。おまけに奴の体に押し潰されかけて死ぬところだった。本当に最悪だ。こんなつまらない戦いは初めてだ」

 

「ふん。お前でも殺されそうになれば、流石に懲りただろ?」

 

「違う!勘違いすんじゃねぇ!アタシが失望したのは死にそうなったからじゃない。あのデカブツは、最初から戦う気がなかった!いや、それどころじゃねぇ!何かに強く怯えていた!そんな目をしていやがった!アタシの事なんて眼中に全くねぇのにな!」

 

「何!?」

 

「奴の土手っ腹に刃をぶっ刺して、それが抜けんくなって、そのまま押し潰されそうになった時、奴は急に動きを止めやがった⋯」

 

 リヴェはその思いと共に握り拳を強く握る。

 

「夜だ。完全に日が沈んだ瞬間、奴の動きがピタリと止まりやがったんだ!」

 

 ズシンっ。

 

「動きが止まった?」

 

「そっから夜明けまで、怯えたガキみてーに小刻みに震えたまんま1歩も動かなかった。外殻が硬すぎてアタシの攻撃は一切通用しねぇから、これ以上戦う意味もねぇと思ってな、砦で休んでた」

 

「リ、リヴェ副長⋯⋯僕はまだ諦めていませんから!ルピナスの事を!」

 

 ミルレオスは足を踏ん張って、鋭い目つきで自分の意見を主張した。

 彼が育ったルピナス孤児院は、ミゲス伯爵の自分勝手な政略により解体の危機にあり、それを促してきたのがミゲス伯爵と繋がりがあったリヴェだ。

 

「新兵?⋯⋯なんでお前が?」

 

 ズシンっ!

 

 その時、小隊長の一人が慌ててスバリの元へ近寄ってきた。

 

「隊長!現れました!ラオシャンロンです!」

 

 砦から遥かに離れた峡谷の底にラオシャンロンはその大きな緋色の顔を覗かせた。

 鼻先の歪な形をした平たい角がゆっくりと前へ進むと

 

 ズシンっ!

 

 その度に大地は揺れる。

 

 遠くから見てもはっきりと分かる程、巨大な頭が迎撃作戦の目印として立てた青旗に到達した。

 

 カァァアアン!

 

 スバリはすぐさま持っていた鳴らし棒で大銅鑼を打ち、大声で叫ぶ。

 

 ズシンっ!

 

「総員!配置に着け!」

 

 

 そこに他の小隊長が砦の階段をダッシュで登ってきた。

 

「隊長!まだ緑旗の大タル爆弾設置が完了してません!」

 

「もう間に合わん!中止だ!すぐに伝えろ!」

 

「いえ!できません!彼らはもう既に落石の場所で設置している最中です!」

 

「何ぃ!?」

 

 砦から見て、青旗よりも手前の崖際の突出した箇所で二人の兵士がせっせと大タル爆弾を運んでいた。

 そこには既に2つの大タル爆弾が設置されていて、合計3つ設置するつもりだ。

 だがそれを設置している途中で作戦開始を告げる大銅鑼の音が聞こえてきたため、二人は慌て始める。

 

「早くしろ!もう作戦は始まっている!」

 

 ズシンっ!

 

「分かってる!でも揺れが――あっ!」

 

 ラオシャンロンの歩く振動で大きくバランスを崩した片方の兵士が足を滑らせ、峡谷の底へ落下した。

 

「うわああああ!!!」

 

「カイっ!?」

 

 すぐさまもう1人が名前を叫びながら前のめりになっては手を伸ばすも、落ちゆく同胞のその手を掴めなかった。

 べちゃりと鈍い音を立てて地面に叩きつけられる。

 

「くそっ!」

 

 ズシンっ!

 

「あっ」

 

 突起した崖から身を乗り出したもう1人も、次に来た振動で前に落ちてしまった。

 それと同時に2つの既に設置した大タル爆弾も落下する。

 瞬間、誰の手も届かない場所で、逃れらぬ死が炸裂する。

 

 ドガァァン!

 

 二人の兵士が大爆発に晒され、無惨な血肉片となり辺りに散る。

 その一瞬の轟音と凍りつくような静寂が、兵士たちの動きを止める。

 崖の上にポツンと残された大タル爆弾が、この一連の虚しさを醸し出していた。

 

 あまりに衝撃的で凄惨な出来事にミルレオスは、脳が理解を拒んでいた。目を見開いたままただ一点を見つめている。

 

 ズシンっ!

 

 静寂を打ち壊す振動が起こっても、兵士たちは動揺して動けずにいた。

 

 二人の兵士を無駄死にさせた、その責任を一番感じていたのはスバリだった。自分が安易にあの命令を許可したせいで、こんな結果を招いてしまった。

 

 命は重い。

 それを背負い、命令して動かすのはとても苦しい。

 できることなら、誰1人死なせずに作戦を遂行したい。

 そんな甘い戯言では、誰も報われない、本当に守るべきものも守れない。

 

 だからこそ司令塔であるスバリだけは、止まるわけにはいかなかった。

 

カァァアアン!

 

 再度、大銅鑼を強く鳴らし、己と部下を奮い立たせるため、吠える。

 

「止まるな!既に戦いは始まっている!これはシュレイド王国の存亡をかけた戦いだ!何があっても、誰が犠牲になっても!ここを絶対に通してはならん!決して止まってはならん!あの山のような災を我々が押し返す!災山(やま)返し作戦、開始ぃ!」

 

「はっ!」

 

「撃てっ!」

 

 ドカンっ!バシュっ!

 ドカンっ!バシュっ!

 ドカンっ!バシュっ!

 

 掛け声と共に大砲部隊による砲撃とバリスタ弾の掃射が始まった。

 1つの大砲に二人の兵士が付き、一人が弾を込めもう一人が点火して発射するやり方だ。バリスタは一人でバリスタ弾を装填し弦を引いて発射する。

 放たれた数多の砲弾とバリスタ弾が顔、首、肩から背中にかけて、その多くがラオシャンロンに命中したが、いずれも効果が薄く、前進は止まらない。

 ついにその体の全貌が明らかになった。

 扇状に広がる背中の外殻がその歩みとともにブルっと震える。

 

 ズシンっ!

 

 緋色の巨体の至る所から土煙が立ち込んでも、尚、砲撃は止まない。

 

 

 

 その光景は砦から見ているスバリにもよく分かった。

 隣のリヴェがやっぱりな、と言わんばかりに首を横に振る。

 

「無駄だぜ。大砲なんて、泥団子でもぶつけてるようなもんさ」

 

「そんな事は当然理解している。今の砲撃はあくまでも時間稼ぎが目的だ。勝負はカンピア達が作る撃龍槍で決まる。それまでに少しでも奴にダメージを与える。リヴェ副長。お前にも戦ってもらうぞ」

 

「はぁ?何すりゃいんだよ?」

 

※※※

 

 砲弾とバリスタ弾が降り注ぎ峡谷の底を叩く、爆発音と大きな振動が辺りを支配した。

 ラオシャンロンはとっくに青旗を抜き、次の作戦箇所である黄旗に迫りつつあった。

 

 ドシンっ!

 

 これでもかという程浴びせた砲撃とバリスタの甲斐あってか、非常に頑丈だった外殻が徐々に傷つき始めていた。

 だが、遠距離射撃用の砲弾とバリスタ弾は残りわずかだ。じきにこの砲弾の雨も止む。

 

 崖上から落とした大タル爆弾も全て落としきった。

 効果は砲撃と同じで薄かった。

 

 作戦は次の黄旗にさしかかろうとしている。

 

 そんな中、ラオシャンロンに向かってタッタッタッと地面を強く蹴り走るリヴェの姿があった。

 前傾姿勢で両手を後ろにして、颯爽と大地を駆ける。

 その右手には長刀が握られていた。

 

 間もなく、リヴェはラオシャンロンの顎の下へ到達する。

 

「デカブツが⋯」

 

 ポツリと言い放ち、顎の下から首へ、首から腹部へとどんどん下側に入っていく。

 

 ドシンっ!

 

 リヴェが近づいても変わらずラオシャンロンは歩き続けていた。

 

 初戦と同様に、リヴェはラオシャンロンの左前脚によじ登り、唯一斬撃が通った腹部を目指す。

 

『お前は奴の土手っ腹に刃を突き刺したと言ったな?だが血も出ず、無反応だったと。恐らくそれは奴の皮膜が尋常ではない程分厚かったからだ。だったら同じ箇所に何度も斬撃を重ねればいい。そうすれば、いずれ神経に到達する。奴の腹部に攻撃を仕掛けるのは、並大抵の兵士には不可能だ。だがお前ならそれが出来る。奴を裏側から斬れ』

 

「ったく、簡単に言ってくれるぜ」

 

 リヴェは砦でスバリに言われた助言を思い出し、険しい表情になる。

 

 ドシンっ!

 

 それでも狙いは外さない。

 鋭い眼光がそのたわんだ腹部を捉えた。

 

「おらぁっ!」ザシュッ!

 

 勇ましい発声と共に飛び込みながら長刀を横に振るう。

 一閃がラオシャンロンの胸部を切り裂き、今までのどの攻撃よりも大きな切り傷ができた。

 だが、やはり血は流れない。まだ傷は浅い。

 

「まだだ!」

 

 そのまま左前脚から右前脚に斬撃と同時に飛び移り、素早く攻撃態勢を取って次の斬撃を仕掛ける。

 

 ドシンっ!

 

 振動は空中で躱し、また一閃走る。

 

「しゃあっ!」ジュバッ!

 

 正確な長刀の剣戟が、ほぼ同じ箇所を刻んだ。

 だがリヴェは歯を食いしばり、舌打ちする。

 

「ちっ!ズレたか!」

 

 よく見てみると、切り傷は僅かにズレた場所に2箇所できており、斬撃の軌道は完全には重なっていなかった。

 

 ドシンっ!

 

 前脚に飛び移ろうとしたタイミングで丁度起きた振動で、リヴェは地面に落下する。

 低姿勢のまま手足の3点で華麗に着地し、真上を見上げる。

 

「アタシの恐怖も分からせてやる!ひゃハハっ!」

 

 狂気にも似た笑みを浮かべながら、ラオシャンロンの前脚目掛けて突っ走る。

 

 ※※※

 

 砦のスバリはいつでも大銅鑼を鳴らせるように、鳴らし棒を構える。

 ミルレオスも大砲の傍で待機している。

 砦には最も多くの大砲が設置されており、全部で20門。来たる時、それらが一斉に火を噴く。

 

 間もなく、ラオシャンロンは次の作戦箇所である黄旗に迫ろうとしていた。

 

「隊長!単発式拘束弾、いつでも発射可能です!」

 

 後ろの小隊長が敬礼しながらハキハキと喋る。

 彼の額に大粒の汗が流れた。

 

 ドシンっ!

 

「あぁ、ここまで奴が接近してしまった以上、もうカンピア達の撃龍槍を待ってはいられない。覚悟を決めろ!」

 

「はっ!」

 

 既に、遠距離用の砲弾もバリスタ弾も底を尽き、今はラオシャンロンが黄旗に迫るのをただ待っている状態だ。

 

 ドシンっ!

 

 そしてついに、その巨大な頭部がゆっくりと黄旗の位置に到達した。

 

「対象、目標地点に到達!合図を!」

 

「いや、まだだ!」

 

 作戦では黄旗に到達した時点で、単発式拘束弾が一斉に放たれる手筈だったが、何故かスバリは大銅鑼を鳴らさなかった。

 

「えっ!?」

 

「今じゃない」

 

「あっ、はい!」

 

 スバリの予想外の判断に呆気にとられかけた小隊長だったが、特に反論せず待機する。

 ミルレオスもスバリに疑いの目を向けるが、すぐに前に向き直った。

 

 ドジィンっ!

 

 砦が大きく揺れる。

 ラオシャンロンは黄旗を超え、砦に大接近した。

 

「た、隊長!もう目の前です!やりましょう!」

 

「いや、まだ待機だ!私を信じろ!」

 

「は、はいっ!」

 

 鼻先の歪な台形の角が砦の壁に密接した。

 その時、ラオシャンロンは初めて、その歩みを止めた。

 

「と、止まった!?」

 

「っ!?」

 

 巨大な前脚が両方ともゆっくりと宙に浮く。

 それに合わせてぐぐぐっと巨体が起き上がっていく。

 そして、背筋を伸ばし立ち上がった。

 

「な⋯⋯」

 

 小隊長を含む砦にいる兵士たちは全員、二足歩行で完全に立ち上がったラオシャンロンを見て、その超巨大で圧巻の立ち姿に言葉を失った。だがスバリの表情は変わらない。その目には静かな闘志が宿っていた。

 

 立ち上がったラオシャンロンの背丈は峡谷から、頭がはみ出る程の高さにあり、太陽が後光のように差し込み、もはや神々しさすら漂う。

 砦を見下ろす巨顔、腹部の白くたわんだ鱗、体格にそぐわない小さすぎる目は、未だに何処か遠くを見つめている。

 

 そして巨体は砦に向かって傾き始め、両方の前脚がこっちに落ちてくる。

 

「隊長ぉ!」

 

「まだ!」

 

 大砲で待機している兵士たちの顔が引き攣る。

 迫る脅威を前に、攻撃の命令はまだだ。

 

「はあぁぁぁぁっ!アタシはぁ!」

 

 その時、リヴェがラオシャンロンの後脚に飛び乗り、腹部に軽く長刀を突き刺し、それを軸に身体を一回転させ更に上に飛び上がる。

 

 ザクっ!

 

 上昇するのと同時に回転しながら素早く長刀を抜き、さらに突き刺し上へ、上へ昇る。

 

 ザシュっ!ザシュっ!ザシュっ!

 

 目指すは、ラオシャンロンが黄旗に迫る前に何度も切り裂いた胸部の切り傷だ。

 その高さまで到達したリヴェは空中で長刀を構える。

 

 そして本当に口が裂けてしまいそうな程の大きな声を荒らげる。

 

「紅裂のリヴェだぁ!」

 

 叫びと共に傷口に長刀を思いっきり突き刺した。

 

 ジュバァァンっ!

 

 その斬撃で傷口からザッバァァァァン!と鮮血が滝のように溢れてきた。それに巻き込まれたリヴェは地面に落下する。

 

 グオアアアアァァァァァァァァァァァ!!!

 

 ラオシャンロンが初めて怯み、痛みのせいで叫びを上げる。

 

 それを確認したスバリがめいっぱい目を見開き、鳴らし棒を振る。

 

「今だ!撃てっ!」

 

 カァァアアン!

 

「合図だ!単発式拘束弾、発射っ!」

 

 ピシュンっ!ピシュンっ!

 シュババババババババっ!

 

 大銅鑼が鳴り響き、単発式拘束弾が発射された。

 放たれた幾つものロープがラオシャンロンをギュルギュルギュルっ!とがんじがらめにしてバシィっ!と何重にも巻き付けて動きを封じた。

 

 カァァアアン!

 

「大砲撃てっ!」

 

「発射っ!」

 

 ドカンっ!ダンダンダダダダダダダダダダっ!!!!

 

 スバリの掛け声と同時に、激しい砲撃がラオシャンロンを襲う。

 

「いけぇええええ!」

 

 ダダダダダダダダダダダダっ!!!!

 

 流星群のような砲撃は全ての砲弾を打ち尽くすまで続いた。

 撃龍槍はまだ来ない。

 今この砲撃で倒すしかない。

 

 ラオシャンロンの外殻は頑丈でも、腹部なら攻撃が通じる。そう信じたスバリは大砲を撃つタイミングをギリギリまで粘ったのだ。

 

 砲撃は止み、大量の土煙が舞い上がってラオシャンロンの姿が見えなくなった。

 

「や⋯やった⋯⋯⋯っ!?」

 

 ロープがブチブチと千切れる音が響いた。

 その時、土煙を掻き分け、巨大な黒い影が砦に迫る。

 巨体が急激に落ちてきて、土煙が一瞬で晴れていく。

 スバリは瞬時に作戦の失敗を悟った。

 

「総員!退避せよっ!」

 

「退避ぃ!潰されるぞ!」

 

「うわぁぁぁぁぁ!」

 

 兵士たちは一斉に砦から外に飛び出した。

 

 ドッシンッ!ガラガラガッシャーンっ!

 

 現れた前脚が砦の柱をバラバラに砕き、巨体が砦の上に乗っかった。

 砦の多くが破壊され、目印の赤旗は倒れた、逃げ遅れた多くの兵士が瓦礫の下敷きになってしまった。

 

 巨体の重さで砦全体が軋む。

 

 当然、ラオシャンロンの方も全身に多くの傷を負った。

 リヴェに切られた傷口から血がドバドバと溢れており、頑丈だった外殻の一部に亀裂が走っている。

 大量の砲撃を受けた腹部の大半は黒い痣となっている。

 

 それでも、砦を乗り越え、その前へ進もうとしている。

 

 小さな目は、今もまだ小刻みに震えていた。

 

「と、砦が!」

「間に合わなかったか⋯」

 

 ガラガラガラ。

 

 そこに、竜荷車が走る音と誰かの声が小さく響いた。

 その荷車をけん引しているアプトノスはなんと10体だ。

 荷車は普通よりとても大きい。

 そこには、大きな布に包まれた巨大な何かが積まれていた。一緒にガンダロスと駄ロス工房のメンバーが乗っていた。

 

 瓦礫からどうにか這い出たスバリは、頭から血を流しながらも、片目でそれを確認して微かな笑みを浮かべた。

 

「来た⋯⋯か」

 

「はい!これで食い止めます!」

 

 運転手のカンピアが荷車の布に手をかけ布をバサッと捲る。

 

 現れたのはヴェルド王国に落下してきたモンスターの部位を、巨大な発射台に取り付けた、予想外の撃龍槍だった。




はい!ラオシャンロン前半戦が終了しました!
ハーフタイム挟まず後半戦書いていきたいと思います!
第2話でヴェルド王国に落下したモンスターの部位を、使用した全く新しい撃龍槍です!これで、この部位が何なのか分かった方も多いと思います!
次回後半戦、めちゃくちゃハードな話となっておりますので乞うご期待下さい!それでは次回で会いましょう。
いつも読んで下さりありがとうございます!
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