逃れぬ劫火〜シュレイドの黒龍伝説〜   作:カワード

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 来たるラオシャンロン襲来に備えて、ドローマの砦ではスバリ隊長の指揮の元、迎え撃つ準備を行っていた。
 大砲とバリスタ、大タル爆弾や、単発式拘束弾、などを主戦力とし、それぞれが青、黄、赤の順番で発動する作戦だった。
 しかし、ラオシャンロンは想定よりも早く襲来しため、大タル爆弾を準備中の兵士たちが不慮の事故に巻き込まれ命を落としてしまった。
 それでも作戦を続行したスバリ隊長。
 大砲とバリスタ弾の雨を浴びせ、リヴェの斬撃で生まれた大きな隙に単発式拘束弾で拘束、そして至近距離で大量の大砲をくらわせたが、ラオシャンロンは倒せず、その巨体で砦が落し潰されてしまう。
 そこに駆けつけたのは、空から落下した謎のモンスターの部位を用いて作成した、予想外の撃龍槍を運んできたカンピアたちだった。


11話「返し」

※※※

 

 砦がラオシャンロンの攻撃によって半壊した時、多くの兵士たちがその崩壊に巻き込まれたが、砦内に繋がっている坑道は奇跡的に崩れてはいなかった。

 

 瓦礫の隙間から射す光に照らされた砂埃。

 湿った土の匂いと閉鎖的な空間。

 息が詰まりそうな劣悪な環境だが、そこにしか逃げられる場所はなかった。

 

 だが、うまくそこに逃げ込めた兵士はたった二人、リヴェとミルレオスだけだった。

 

「何で助けた?」

 

「⋯⋯」

 

「てめぇはアタシのことなんてどうでも良かったはずだ!なのに、なんでだ!?」

 

 リヴェの怒号は、頭から血を流して倒れているミルレオスに向けられていた。

 ミルレオスは目を閉じたまま、呻くようにその問いに答える。

 

「僕を⋯⋯助けてくれた⋯⋯⋯から」

 

 大砲撃が始まった瞬間、ミルレオスが砦の下で目撃したのは、倒れているリヴェだった。

 ミルレオスは砲撃の最中、下に飛び降り、リヴェを担いで、砦内の坑道に向かった。

 だが、その途中で落ちてきた瓦礫で頭を強打し、怪我を負い倒れてしまう。

 そのタイミングで目を覚ましたリヴェが今度は逆にミルレオスを担ぎ坑道内に運び込んだのだった。

 

 皮肉にも彼らは坑道に向かった事で、崩壊に巻き込まれずに済んだのだ。

 

「関係ねぇだろ!てめぇの家を潰そうとした奴を命懸けで助ける理由がどこにある!?」

 

「目の前で⋯人が死ぬのは⋯⋯もう見たくない⋯⋯誰も!」

 

 ミルレオスは苦悶の表情で右手を前にかざす。

 

「ミゲス伯爵にも同じこと言えんのかよ⋯⋯」

 

 リヴェは掌でデコをパンパンと叩き、頭を横にブルブルと振って立ち上がった。

 

「あぁもう!てめぇといい、あのデカブツといい、何がしてぇのか訳分からん奴ばっかりだ!だが、今はとにかくあのデカブツにアタシの恐怖を思い知らせてやる!」

 

 リヴェは入り口を塞いでいた瓦礫を荒々しくどかし、外へ向かった。

 坑道を出る直前で振り返り、ミルレオスに言葉を投げかける。

 

「そっから動くなよ。てめぇとは孤児院の話に決着をつける必要があるからな」

 

「⋯⋯⋯分かりました」

 

 倒れたまま静かに頷いたミルレオスを置いて、リヴェは坑道の外へ駆けていく。

 

※※※ 

 

 砦の崩壊という絶体絶命の窮地に現れた、予想外の撃龍槍。

 それはヴェルド王国に落下したモンスターの部位を用いて作成された撃龍槍だった。

 射出台に取り付けた巨大な槍は、褪せた緋色でナイフの先端のような形状をしているため、槍の部品としては適していた。

 これまでのどの素材より優れた硬度で、その重量は岩や鉄よりも遥かに重い。

 それを大砲と同じ機構を利用し、莫大な勢いで前方へ射出する――単純だが強力な構造だった。槍の部分が離れて飛び出さないように、射出口にはストッパーが付いている。

 

 そして、カンピアはラオシャンロンと初めて対峙したこの瞬間、確かにその圧倒的な大きさに驚愕したが、同時に撃龍槍の作成に使用したモンスターの部位が何なのかハッキリと理解できた。

 

「鼻先に妙な突起?⋯いや、そうか!そこから折れている。この部位はお前の角だったんだな。ラオシャンロン!」

 

 ラオシャンロンの鼻先の突起は平面は岩のようにゴツゴツと歪んでいた。

 同じように撃龍槍の後端の断面も、ゴツゴツとして歪んでいるし、その大きさもほとんど同じだった。

 

「だから言ったろ!ぜってぇこいつの素材だってな!!」

 

 ガンダロスが、な?俺が言ってる事は正しかったろ?的なことを言わんばかりの表情を浮かべる。

 

「親方ぁ!旦那ぁ!感心するのはええですけど、このままじゃ砦が完全に潰されてしまーやす!」

「射出角度、良好!この位置なら充分、射程範囲です!いつでも撃てます!」

 

 駄ロス工房のメンバーは大きな荷車で、いつでも撃龍槍を発射する配置に着いていた。

 本来なら砦に到達する前に撃龍槍を持ってくるはずだったが、既に砦は半分以上が崩壊していて、反対側まで吹き抜けている状態だ。

 辺りには単発式拘束弾で使用したロープの残骸と、多くの崩壊に巻き込まれた兵士たちがいた。

 一人でも多くの人を助けるためには、一刻も早くこの状況を打開しなければならない。

 それに、ここを突破されてしまうと、シュレイド王国に辿り着くまでにラオシャンロンを止める手段はない。

 

 つまり、この撃龍槍でラオシャンロンを仕留める必要がある。

 災山返し作戦はこの時、最終段階を迎える赤旗に到達したのだ。

 

 ドシンっ!

 

 ラオシャンロンの後脚が大地を揺らす。

 満身創痍の状態でも、それでも尚進み続ける意思は変わることは無かった。

 砦から大きく乗り出したその巨顔が、ずずずっと前に出る。

 

「これで決めます!」

 

 カンピアはラオシャンロンを睨み、右手を上げて、後ろに振りかぶる。

 

「撃龍槍!撃てっ!」

 

 バシッ!と迫真の命令と共に手を掲げ、勝負に出る。

 

「角を返すぜぇ!おらァ!」

 

 ドカンっ!ジュバっ!バギッ!

 

 掛け声を合図にガンダロスが撃龍槍の根元の撃鉄を自分のハンマーで思いっきり叩くと、その下で激しい爆発音と駆動音を上げ、撃龍槍が射出する。

 射出された撃龍槍は、凄まじい程にきりもみ回転しながら、目と鼻の先にいるラオシャンロンの顔面にズギャン!と命中した。

 だが、射出される威力が想定以上だったため、射出口のストッパーが壊れ、そのまま砲筒から抜け、槍が放たれてしまった。

 

 ズギャガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガっ!

 

「押し切れぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!」

 

 ズシンっ!ズシンっ!ズシンっ!

 

 射出台から離れてもなお、凄まじい回転力が止まらず、ゴリゴリと顔面を押し抉る。

 あまりの威力に正面を向いていた顔は、堪らず横に向きになり、頑丈だった外殻にもビキビキっ!と幾つもの大きな亀裂が走った。そして砦から脚を退け、一、二、三歩と後ずさりした。

 

 そこでようやく撃龍槍の回転は収まり、ドンッ!とラオシャンロンの顔の真横に落下する。鋭利な先端から落下したため、地面に斜めに突き刺さった。

 

 グオォ⋯⋯⋯ォォォォォォ⋯ォォ!

 

 その痛みのせいか、小さな目をめいっぱい強く瞑り、外殻の亀裂から溢れる鮮血と共に、慟哭を上げた。

 ドッシン!と重力にすら負けた顔は地面を打ち、身体は大地に沈んだ。

 

 前脚を両方とも前に伸ばした状態で、完全にダウンしたラオシャンロンは、もう立ち上がる気配を見せなかった。

 

 その様子を見ていた遠距離砲撃部隊の兵士たちや、砦の崩壊から逃れた兵士たちの顔が、徐々に喜びの表情に変わっていった。

 

「た、倒した⋯のか?」

「おお!あのとんでもなく巨大なモンスターを押し返したぞ!」

「俺たちの勝利だ!」

「とにかくギリギリだった⋯」

 

 カンピアは手を前に出したまま、前を見据えて震えていた。

 撃龍槍の設計から制作、砦までの移送と射出、それら全ての行程において、最前線で指揮してきた責任の重圧から解放され、緊張感が一気に解けそうになった。

 全てはこの災山(やま)を乗り越え、シュレイド王国を守るためにやってきた事だ。

 

「やったじゃねぇか!お前ぇ!」

 

 ガンダロスに背中を叩かれ、笑みを浮かべてようやく手を下ろしたカンピア。

 

「⋯⋯⋯⋯はい!」

 

「親方!旦那!感心するのは後にして――」

 

 ドシンっ!

 

「っ!?」

 

 揺れる大地が戦闘継続の合図となり、兵士たちに恐怖を与える。

 

「う⋯⋯嘘だろ⋯」

「まだ⋯⋯動けるのか!?」

 

 バキバキに割れた顔面の外殻と、破損部位が目立つ身体でゆっくり立ち上がり、再び前進を始めるラオシャンロン。

 相変わらず震える瞳で前方を見つめていた。

 これだけの猛攻を浴びせても、ラオシャンロン自身が、感じている恐怖にはまだ届かないのか。

 そんな疑問を浮かべる暇もなく、ラオシャンロンは向かってくる。

 

「あの野郎!まだ来る気か!?」

 

 ガンダロスが直ぐに撃龍槍の撃鉄部分の火薬室を開ける。

 だが、すぐ隣にいたカンピアは唖然としたまま動かなかった。

 

「⋯」

 

「おい!再装填だ!もう1発ぶち込んでやる!」

 

「⋯⋯です」

 

「はぁ!?」

 

「⋯⋯⋯もう無理です!」

 

「何ぃ!?」

 

 カンピアが悲観的な表情で、ガンダロスに訴える。

 

「ガンさん!撃龍槍はもう射出できません!あなただって分かってるでしょ!射出に必要な爆薬の予備はもう無いし!そもそも撃龍槍本体が砲筒から飛び出してあんな所にあるんですよ!」

 

 カンピアが指差したのは、再び動き始めたラオシャンロンの近くに地面に刺さったままの撃龍槍だった。

 

「そりゃ――」

 

 ドシンっ!

 

「どうするんですか!?こんな状況でどうやって撃龍槍を射出するんですか!?」

 

「うるせぇ!それでもやるんだよ!」

 

 動けなくなっているのはカンピアだけではなく、他の兵士たちも同様だった。

 

 大砲、バリスタ、紅裂のリヴェ、単発式拘束弾、シュレイド王国の持つ最高戦力と、さらにそれを超えた新兵器、撃龍槍を用いてもなおラオシャンロンの進行を止めることは叶わなかった。

 

 ドシンっ!

 

 大地が揺れる度、それを実感する。

 これは、人類が決して抗うことの出来ない強大な災山(やま)であると。

 

 そんな現実を前にしても、ガンダロスは止まらなかった。

 散らばった単発式拘束弾のロープをかき集め、刺さったままの撃龍槍に次々と括り付けていく。

 

 その光景を見ていられなくなったカンピアは、必死に止めにかかった。

 ガンダロスの両肩を揺すり、その場から引き離そうとした。

 

「止めて下さい!ガンさん!あなたまで踏み潰されてしまう!これじゃ無駄死にだ!そんな事望んでないでしょ!?私たちは負けたんだ!」

 

「負けだと!?ふざけんな!やつはまだ砦を超えてねぇ!俺たちの作った撃龍槍が効いたからだ!」

 

「だからもう撃龍槍は――」

 

「それがぼーっと突っ立ってる理由になんのか!てめぇら国の命背負ってんだろ!?俺は何があっても諦めねぇ!撃龍槍をもう一度ぶち込めば、こいつは確実に倒せる!そのために手ぇ貸せ!」

 

「ガンさん⋯」

 

「ガンダロスの言う通りだ⋯」

 

「スバリさん!?」

 

 肩を押さえながら来たスバリは頭から血を流しており、片目は閉じられたままで、ギリギリ歩けている状態だった。

 そんな状態でもなお、ガンダロスと同じ作業を始める。

 

「我々が止まる訳にはいかない」

 

 すぅーっとめいっぱいの空気を吸い込んで、閉じていた片目をかっぴらく。

 

「生き残った全兵士たちに告ぐ!ただちに撃龍槍を再装填せよ!」

 

 ドシンっ!

 

「了解!」

 

 振動から伝わってくる恐怖に打ち勝つ声が響いた。

 それを皮切りに、次々と了解!と声を上げ、兵士たちや駄ロス工房のメンバーが撃龍槍の元に集まってきた。

 

 ラオシャンロンはこの時点で撃龍槍の上を通過中だが、兵士たちに恐れはない。

 

「お前ら⋯!」

 

「全員で引っ張れば、発射台まで戻せる!」

 

「よしっ!全員で引くぞ!」

 

「せーっの!」

 

 ロープをしっかりと撃龍槍に固定させ、綱引きの要領で地面からズボッ!と引っこ抜いた。

 しかしカンピアはそんな状況を見てもなお、希望を抱けずにいた。

 

「でも、爆薬は!?あれがないと発射できない!」

 

「爆薬ならあれを使えばいい!」

 

 スバリが指さしたのは不発のまま崖上に放置されていた大タル爆弾だった。

 

「あんな所の物をどうやって!?」

 

「アタシが行く」

 

「リヴェさん!?」

 

 坑道から出たリヴェがそこに集合した。

 

 ドシンっ!

 

「リヴェ、まだ戦えるな?」

 

「はぁ?こっからだろ!」

 

 スバリの問いに対し、闘志をむき出しにして答えたリヴェは掌に拳を打った。

 

「なら、災山(やま)返し作戦!続行だ!」

 

「はっ!」

 

 再起した兵士たちが集結し、災山返し作戦は真の最終段階を迎える。




はい!
災山返し作戦の「返し」のパートでした!
ここはラオシャンロン後半戦です。シュレイド王国軍も、ラオシャンロンも満身創痍の状態になりました!次回、ついに決着の時が来ます。
乞うご期待!
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