逃れぬ劫火〜シュレイドの黒龍伝説〜   作:カワード

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撃龍槍の一撃がラオシャンロンの外殻をひび割れさせ、倒したかのように思えたが、再び起きたその振動が兵士たちを絶望に追い込む。既に撃龍槍は再射出不可能な状態であった。
 誰もが諦めかけたその時、ガンダロスは諦めずに兵士たちを鼓舞する。
 その言葉に励まされた兵士たちは、わずかな望みをかけ次々と動き出す。
 そこにリヴェも合流し、災山(やま)返し作戦は真の最終段階に突入した。


12話「決着」

災山(やま)返し作戦は真の最終段階に突入した。

 ラオシャンロンを討伐、あるいは撃退するためにもう一度、撃龍槍を撃つ必要がある。

 そのためにやるべき事は二つ。

 

▪️飛び出した撃龍槍本体を射出台に戻す。

▪️火薬室に大タル爆弾の爆薬をセットする。

 

 ガンダロスたちは撃龍槍本体を射出台に戻すために、ちぎれたロープを集め本体に括りつけて、それを綱引きの要領で必死に引っ張っている。

 

 その一方で崖上に放置されている大タル爆弾の元へ、ラオシャンロンの巨体を横切り、颯爽と駆けていくのはリヴェだ。

 その手には竜荷車に備え付けてあった大きな布を握っている。

 

 ドシン!

 

 前脚、腹部、後脚と順に過ぎていき、宙でしなる長い尻尾に到達する。

 この崖上に大タル爆弾が放置されていた。

 そこには崖から落下して爆発に巻き込まれた兵士たちの無惨なぐちゃぐちゃの遺体が放置されたままだった。

 だがリヴェはそんなことを気に留める様子もなく、手に持っていた布を咥えて崖を登り始めた。

 その動きはまるで虫のようにカサカサと素早い動きだ。

 あっという間に崖上に到達し、大タル爆弾の横に布を広げ、力ずくでタルをこじ開けて、中の爆薬を布の上にザラっとこぼした。

 そしてすぐさまそれを包むように布を括り、背中に担いだ。

 

 ドシン!

 

 予測していた振動がおさまると、ほぼ垂直の崖からズサーっと滑るように地面に降りていく。

 かなりの高さから降りているが、リヴェは下を見ていた。

 その時、ブォンッ!と妙な風切り音がしたため、一瞬、正面を向いた。

 

「っ!?」

 

 ムチのようにしなる尻尾の外殻が、リヴェの視界を緋色に埋め尽くす。

 巨体の一番細いであろう尻尾の部位ではあったが、それでも通常のモンスターよりも何十倍も大きく、猛スピードで迫っているため、崖に叩きつけられたらひとたまりもない。

 

 紙一重の判断で背の崖を蹴って、前へ飛び出すリヴェ。

 

 バシンっ!

 

 リヴェの背後で巨大な尻尾が崖を激しく叩きつける。

 当然その代償でバランスを崩し、激しく地面に落下してしまう。

 

「がはっ!」

 

 弾むように地面を転がり、その時、手に持っていた爆薬袋は手元から離れ、遠くに放り投げてしまった。

 

「⋯くそっ!早くしねぇと――っ!?」

 

 落下したリヴェは、地面を拳で叩いて起き上がり、すぐさま爆薬袋を拾いに行こうとしたが、目の前でビタンっ!と叩きつけられた尻尾に阻まれてしまう。

 

 爆薬袋は尻尾を挟んで反対側の崖際付近にあったため、すぐには取りに行けなかった。

 もどかしさと、ほんの少しの判断ミスが死に繋がる状況がリヴェを焦らせた。

 背負った長刀を手に取ろうとしたが、すぐに無意味だと判断し、手を下ろす。

 その尻尾も当然、あの頑丈な緋色の外殻に覆われているため、長刀による切断も困難だ。

 

「たかだか、あれを運ぶごときで――ぐっ!」

 

 ドシンっ!

 

 それまで何ともなかった振動だったが、思わず片膝を着いたリヴェ。

 いくら人間離れした身体能力を持っている彼女であったとしても、これまでの戦闘のダメージは身体に蓄積され、その影響が現れ始めていた。

 

 ここまで追い込まれたのはシュレイド王国でリオレウスと戦闘して以来だが、今の自分が止まる訳にはいかない。

 動きの読めない巨大な尻尾が宙でしなるこの空間で、爆薬袋を取りに行けるのはどう考えても自分しかいなかった。

 

「ちっ!」

 

 一か八か、意を決して踏み込んだ。

 

「リヴェ副長!ここは自分が!」

 

「は!?」

 

 リヴェと同時に爆薬袋の元へ向かったのは、遠距離砲撃部隊の一人だった。

 彼もまたラオシャンロンの脅威を間近で感じていたがその恐怖を乗り越え、動き出していた。

 また、放られた爆薬袋がある方の崖にいたので、リヴェよりもすぐにそこにたどり着き、掴んだ。

 

 だがそこは、荒れ狂う尻尾が無差別に無慈悲な断罪を下す処刑場でもある。

 

「おい、離れろ!」

 

 立ち止まったリヴェが手を前に出して止めようと促すが、彼の目にゆらぎはない。

 爆薬袋を抱え前に走――ビタンっ!――叩きつけられた尻尾が大地を打つ。

 彼は一瞬で為す術もなく尻尾と大地の間にぺシャリと潰えた。

 

 だがその手から離れた爆薬袋はリヴェの方に飛んできた。

 

「くそっ!」

 

 今ここで思考を停止させるのならば、それは彼の命を賭した行為を無下にするようなもの。

 

 リヴェは宙に舞う爆薬袋をその手に掴むために、前に飛び込んだ。

 

 ビタンっ!

 

 叩きつけられた断罪の尻尾、それに対し対角ではなく、平行に前転して避けたリヴェ。

 そこは尻尾の付け根の部位だったため、地面と接触してはいない。

 逃れる唯一の隙だった。

 

 前転の後にすぐに立ち上がったリヴェは爆薬袋をしっかりと抱えていた。

 

 止まるな、走り続けろ。

 

 自身にそう言い聞かせて、今度はラオシャンロンの下腹部の下を走り始める。

 

 尻尾から離れ、後脚を通過し――ドっジンっ!――間近での踏みつけがより大きな振動を発生させ、リヴェの体を大きく跳ね上げた。

 

「ぐはっ!」

 

 背中をラオシャンロンの下腹部に強打し、またしてもその手から爆薬袋を手放してしまう。

 

 今度は、振り上げられたもう一方の後脚の所に放られた。

 間もなくその脚が踏み下ろされ、爆薬袋は潰されてしまう。

 だが地面に伏したリヴェは拾うどころかすぐに立ち上がれない。

 

「うおぉぉぉ!」

 

 そこにまた一人、同じ部隊の兵士が叫びながら駆け寄り、爆薬袋を掴んで前に投げた。

 

 ドシンっ!グシャっ!

 

 振動とともにその兵士は脚に潰されたが、爆薬袋は踏み潰されなかった。

 だがすかさず、その場所の影が濃くなってきた。

 それはラオシャンロンが体を伏せていたからだ。

 

 ズズズっと迫る体と爆薬袋の距離が迫ってきたその瞬間、稲妻のような赤い眼光のリヴェが、爆薬袋を抱えて外に飛び出した。

 

 ズっシンっ!

 

 ラオシャンロンは体を屈めて、完全に伏せた。

 

 リヴェは飛び出して、正面にある崖を蹴り、ラオシャンロンの体高の低くなったその背に飛び乗った。

 

「うぉおおおおおお!!」

 

 叫び声を上げ、斜めになった外殻の上を驚異的なバランス感覚で駆ける。

 両手は爆薬袋でふさがっているため、安定させてるのは自分自身の足と、絶対に届けてやる!という意地だ。

 

 ラオシャンロンがズズズっと体を持ち上げる。

 

 リヴェが走る外殻がブルっと震え、大きくよろめいたが何とか持ちこたえ、前に――ドシンっ!――前脚に差し掛かったタイミングで起きた振動でまたしても体が宙に舞う。

 

 だがもう落とさない。

 

 空中で爆薬袋を再び掴み、もう片方の手を黒ずんだ外殻の突起を掴んで一回転。

 その遠心力を利用し前へ飛ぶ。

 

 撃龍槍はその先にある。

 

 ※※※

 

「もう少しだぁ!歯ぁ食いしばれ!」

 

「せーのっ!」

 

 生き残った兵士たちが全力で引っ張り、なんとか射出台付近まで撃龍槍を持ってこれたガンダロスたち。

 

「カンピアの旦那!破損したストッパーを取り除きました!」

 

「了解です!それじゃ射出角度を下げます!ガンさんこのまま再装填してください!」

 

「あぁ!ずっとやってるだろ!」

 

 ガンダロスの切りれそうなほど真っ赤な手で歯を食いしばり、そのツルツルの頭部には何本もの血管が浮き出ていた。

 黒い眼帯は汗でぐっしょりと濡れている。

 

 撃龍槍を引く多くの兵士たちがめいっぱい力を込めているため、ガンダロスと同じ表情になっていた。

 

 カンピアが射出台のハンドルを回すと、キュルキュルキュルと徐々に砲筒の射角が下がり、その先がコツンと地面に着いた。

 

 間もなく撃龍槍の後端が砲筒に接触しそうな距離にくる。

 

「後は爆薬さえ間に合えば⋯」

 

「旦那ぁ!上!」

 

 カンピアが見上げるやいなや、そこには、ひび割れた緋色の外殻に覆われた顎を限界まで開け、上から喰らいつこうと勢いよく迫ってくるラオシャンロンの巨頭があった。

 

 瞬間、カンピアは心の底から己の死を悟り、恐怖で硬直した。

 

 時間の流れがとてもゆっくりに感じる。

 

 限界まで開いたその大きな口は間違いなく、自分たちに向けられていることを鮮明に理解していった。

 

 ひび割れた緋色の外殻、小さすぎる目、滴る鮮血、生え揃った凶悪そうな牙、外殻の延長にある黒い突起、そこに引っかかっていた白い布⋯⋯。

 

 その白い布が、恐怖したカンピアに疑問を抱かせる。

 

 あれは⋯?

 

 すると、ラオシャンロンの目の上からチラッと長刀の先端が見えた。

 

 そしてゆっくりとした時間の中でスラッと現れた、リヴェがその長刀をラオシャンロンの小さな目にザクッ!と勢いよく突き刺し、時は加速する。

 

「おらァ!」 

 

「グォォァァアアアアアア!!!」

 

 目を刺されたラオシャンロンは痛みのあまり上半身をのけぞらせ、グワングワンと長い首をあちらこちら振り回し、大暴れし始める。

 

「リヴェさん!」

 

「拾え!カンピア!それが爆薬だ!」

 

 黒い突起に引っ掛かっていた爆薬袋はその反動で近くの地面に落下していた。

 

 間髪入れずにカンピアは爆薬袋を取りに走り出す。

 

 ドシン!ドシン!ドシン!

 

 ラオシャンロンが地団駄を踏み、振り回す首が両端の崖際を何度も叩いて、周囲に落石を振らせた。

 

「急げ!うぉおおお!」

 

 ガンダロスは気合いの一声で砲筒に撃龍槍を押し込んだ。

 

「はぁ――はぁ――射角上げて!」

 

 カンピアは爆薬袋を抱えて走りながら、射出台の近くいる駄ロス工房のメンバーの一人に叫んだ。

 

「はい!」

 

 ハンドルを回して射角がどんどん上がっていく。

 

「旦那ぁ!早く!」

 

「っ!?危ない!」

 

 回していたハンドルの近くに巨大な岩が落下し――作業員は為す術もなく潰され、ハンドルは破損した。

 

 それでも十分な射角は確保できた。

 

「そんな⋯!」

 

「止まるな!行けぇ!」

 

 スバリが叫んだ。

 彼らは撃龍槍に括り付けたロープ引っ張ったまま撃龍槍が落ちないように固定していた。

 

「――くっ!」

 

 カンピアは爆薬袋を開け、中身を火薬室に放り込む。

 そして蓋を閉め、力の入らない手でガンダロスのハンマーを持ち、振り上げる。

 

 これで発射準備は全て整った。

 

 だが暴れ狂うラオシャンロンを見て、ある事が脳裏をよぎった。

 

 ドカン!ドカン!ダンダンダン!

 

 今も落石はどんどん落ちてきているため、いつ撃龍槍の上に落ちてきてもおかしくはない。

 

「カンピアぁあ!」

 

「⋯⋯ぅ⋯く⋯狙いが!」

 

 もし外してしまったらという不安が、カンピアの動きを止める。

 

 でも、やるしかない!意を決し、ハンマーを振り下ろ――ジュバっ!その時、天から落雷のような一閃走る。

 その一閃でラオシャンロンの動きがピタッと止まった。

 

 それは、暴れ狂うラオシャンロンに、はるか高く打ち上げられたリヴェの怒りを込めた頬裂き斬撃だった。

 

 その斬撃は頑丈だった外殻のひびの間に入り込み、奥深くにある肉を切り裂いて、顎を断裂させた。

 傷口から鮮血がほとばしる。

 

「うおぁぁぁぁ!」

 

 今だ!

 

「発射!」

 

 カンピアの振り下ろしたハンマーが爆発を起こし撃龍槍が勢いよく射出する。

 

 スギャン!バキっ!

 

 グサッ!

 ズギャガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!

 

 またしてもストッパーを壊し、放たれたが撃龍槍はラオシャンロンの胸部を激しく抉る。

 

「グギャアアアアアアアアアアアア!」

 

「今度こそ!やれぇええええええええええええええええ!」

 

 ズギャガガガガ――ガツンっ!

 

 凄まじい回転の威力が収まる前に、撃龍槍は胸部から逸れ、空を切った。だがそれは、ラオシャンロンが後ろに倒れ始めたことによるものだった。

 

「倒れた――!?」

 

「まずい!避けろ!」

 

 巨大な身体が倒れ、後ろにあったはずの断罪の尻尾が、全てを薙ぎ払うようにカンピアたちに迫った。

 

 射出台の上に立っていたカンピアの眼前が緋色に染まった。

 

「うぐっ!」

 

 その時、誰かがカンピアを後ろに押し倒し、直撃は免れた。

 

 振り切った尻尾は瓦礫も崖も人も多くを巻き込み、地面に着く。

 

 ドッシーン!

 

 巨体はその後ようやく地面に着き、落石と崩壊は次第に収まった。

 

 ※※※

 

 砂煙が晴れ、先程までの争いが嘘のように鎮まった時、ボロボロになったカンピアは這いずりながら、前を見た。

 左目が見えず、さらに強烈な痛みを感じたため、手で抑えるとその手には血がべっとりと着いていた。

 

 ズシン。

 

「あ⋯⋯⋯あぁ!」

 

 起き上がったラオシャンロンは、なんとまだ歩いていたのだ。

 

 フラフラとだがそれでも前に歩いていた。でもそれはカンピアたちの方ではなく、反対側だった。

 

「倒⋯せなかった⋯⋯でも撃退――」

 

「ふっ⋯⋯⋯くくくっ⋯⋯見てみなぁ⋯⋯⋯あいつ⋯尻尾巻いて逃げてくぜ⋯⋯⋯俺たちの⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯勝ちだな」

 

「っ!?ガンさん!」

 

 隣に倒れているガンダロスは、吐血していて、左肩から腕が無く、腹部に大きな瓦礫が突き刺さっており、苦しそうだった。

 

「なんで!?どうしてこんな――まさかあの時、私を庇って!?」

 

「⋯⋯」

 

「なんで!?なんで、私なんかを庇ったんですか!?あなたには、会うべき人が!守るべき人がいたのに!なんで!?」

 

「⋯⋯⋯お前ぇはシュレイドの脳だ⋯⋯⋯俺は精々⋯シュレイドの腕だ⋯⋯⋯脳を守るのに腕を犠牲に⋯⋯⋯するのは当たりめぇだろ⋯⋯⋯」

 

「でも⋯⋯⋯こんなのって⋯!」

 

「この争いで⋯⋯⋯大勢死んだ⋯⋯大した差じゃねぇよ⋯⋯」

 

「⋯⋯⋯」

 

 するとガンダロスは、ゆっくりと後頭部に手を伸ばし自分の眼帯を外し始める。

 

「お前⋯⋯⋯そんな目じゃ⋯⋯カッコつかねぇだろ?」

 

「⋯⋯え?」

 

 ガンダロスは震える手で外した眼帯をカンピアに渡した。

 その眼帯は血と汗でぐっしょりと濡れていたが、そこにガンダロスの魂の一部が込められている気がした。

 

 カンピアがそれを左目に付けると、目の傷に汗が染み込んできてとても痛い。

 でも、顔をしかめずに真っ直ぐガンダロスを見つめた。

 

「へっ⋯⋯⋯やっぱ俺の方が似合ってるな⋯⋯⋯それ」

 

 ガンダロスの眼帯が取れた方の目は、大きな火傷跡が残っており、白目になっている。

 

 カンピアはその目の火傷跡と、身体中にできた新たな傷を見て、彼の人生は傷だらけであったと、過去を振り返りながら、死にゆく彼を託された目で見送った。

 

 こうして、多大なる犠牲を出し、ドローマの砦を崩壊させてしまったが、シュレイド王国軍はラオシャンロンの撃退に成功したのだった。




はい!いかがだったでしょうか?
ラオシャンロン戦はこれにて終了です!
次回からよーーーーーーーやく本当にやりたかった話に入っていきます!今回も読んでくださってありがとうございました!
次回以降もよろしくお願いします!
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