その理由は、ヴェルド王国に、絶滅したと思われていたモンスター火竜リオレウスが出現し、街を壊滅させていたからだった。
適軍隊を追い越しヴェルド王国に到着した、リヴェはリオレウスを見て興奮したまま、戦闘を開始した。
人間離れした技で、リオレウスを翻弄し、そのまま討伐した。
そこに、スバリが到着し、戦争は集結したかに思われたが、突如、天空から正体不明の落下物が落ちてきたのだった。
ヴェルド王国の凱旋門付近で、正体不明の物体がリオレウスの死体の上に落下してから三日後。
戦争を仕掛けたヴェルド王国は、この一件でドローマの砦への侵攻を止め、被害が多かった凱旋門付近の街の復旧作業に取り掛かった。
この復旧作業に協力を申し出たのは、シュレイド王国のスバリ本部隊長だった。
スバリは、ヴェルド王国の惨状を見て、被災した現地の人達を憐れみ、深く同情した。
そこで戦争を仕掛けたのにも関わらず、復旧作業にシュレイド王国軍を手配するよう、提案したのだ。
この申し入れをヴェルド王国は断る事は出来なかった。
理由は復旧作業に必要な人員が足りていない事と、敵とは言え、街の危機を救ったシュレイド王国軍の頼みだったからだ。
ヴェルド王国は、今更戦争を再開する所の問題では無かったのだ。
だが、スバリもただ単に街の復旧の為に、ここまで親切に協力したのではない。
正体不明の落下物の調査。
これが大きな目的だった。
手筈を整え、早速落下物の回収に取り掛かろうとしたが、その落下物はリオレウスの死体を貫通し、その下の地面に深く刺さっていたため、両国の兵士達が尽力して引き抜こうとしたが、ビクともしなかった。
兵士達だけでは、丸1日作業が進まなかったので、スバリはシュレイド王国から兵士ではなく、別の団体を派遣した。
それは、シュレイド王国のきっての鍛冶師、ガンダロスを筆頭に構成された兵器製作に長けた凄腕の鍛冶師の集団、通称、駄ロス工房、制作班。
シュレイド王国の強力な兵器である、大砲やバリスタは駄ロス工房の人達によって作られた傑作であった。
武器制作の専門である彼らが何故、呼ばれたのか?
その理由はシュレイド王国から、ドローマの砦へ続く長い坑道、それを作ったのも駄ロス工房のメンバーであったからだ。
掘削の技術が、落下物の引き抜き作業にうってつけだと、スバリは考えた。
そんな彼らは、スバリの派遣命令により、シュレイド王国から遠路はるばる、ヴェルド王国にやってきたのだ。
今、落下物の周りでは駄ロス工房のメンバー四人が引き抜き作業に当たっており、現場の指揮を執っているのは当然、リーダーのガンダロスだ。
ガンダロスは、非常に大柄の男で、肩がけのつなぎを着た、熱血漢である。
歳の数(50)と同じくらいありそうな顔のシワと、右目には黒い眼帯、剛毛でたくましい顎髭の、怒ったら非常に怖そうなイメージの顔をしている。
頭の毛は生えていない。
その右手には、この現場に必要なさそうな、持ち手が妙に長いハンマーを持っている。
作業している駄ロス工房のメンバーは、全員が若い男であり、半袖長ズボンの格好で、首に汗ふき用の布を掛けている。頭には保護具を着用し、安全第一で作業をしている。
「親方ぁ〜、こりゃあ、どえりゃー深う刺さってますで!」
落下物の周りの地面を掘っていた、喋り方に癖のある作業員がガンダロスに伝えた。
「どえりゃー、じゃ分かんねーよ!ちゃんと言え!ちゃんと!」
ガンダロスは元々シワがある眉間に、更にシワを寄せて大声で返答した。
「うーん、見えとる部分で大体三分の一ぐりゃーですかね」
その見えている部分だけでも、大人の背丈を優に越している。
となると、その倍以上が地面に埋まっているという事になる。
「こりゃ急がねぇと、日が暮れちまうな」
「任せて下さい親方!こんなもんとっと掘っておわらせまっせ!」
「馬鹿野郎!急いでやって、怪我するんじゃねーぞ!声掛けをしっかりやれよ!」
「へい!」
作業員達は、その言葉で機敏に動き出す。
「へぇ、これが例の巨大な落石ですか」
そんなガンダロスの横に、モジャモジャ頭で、華奢に見える男が歩いて来て、話しかけた。
彼の名はカンピア。
服装から見ても、駄ロス工房のメンバーでも、兵士でもない、これと言って特徴がない一般的な庶民服を着ている。
だがこの時代では、珍しいガラスを使った高級品である眼鏡を着用してる。
その容姿と丁寧な言葉遣いから見て取れるのは、彼がとても知性的であるという事だった。
その顔を見たガンダロスが訝しげな表情を浮かべ、首を傾げる。
「はぁ?なんでお前がここに?」
「これの調査のためですよ」
「まだ、全然掘れてねぇんだよ。調査するんなら、城に持って帰った後の方がいいだろ。今は作業中だ。邪魔になるから帰ってな」
ガンダロスは、しっしっ、とカンピアに対して手で払った。
「そう邪険に扱わないでくださいよ。本部隊長のスバリさんの頼みで来たんですから」
「あの人も、せっかちだな。だがよ、調査するって言っても、こんな一部分で何が分かるんだよ」
「岩石や木材は、表面の質感や強度、形や色でどんなものかある程度の鑑定は可能です。見えてる部分だけでも、分かることは多々ありますよ」
カンピアは淡々と語りながらガンダロスの前に出て、落下物に歩き寄る。
そして近くまで行くと、歩みを一旦止め、大きく息を吸い込んだ。
「駄ロスのみなさーん!これからこの落石の調査をするので、作業を中断して下さーい!」
「おい!勝手に仕切んなって!」
親方である、ガンダロスが突っ込んだが、作業員達はカンピアの言葉の方を聞いた。
「あっ!カンピアの旦那!ご無沙汰です!」
「調査だなも、分っかりました!おい!一旦中止だ」
意外にもガンダロスと駄ロス工房のメンバーは、カンピアとは長い付き合いである。
シュレイド王国の兵器である大砲やバリスタを制作したのは駄ロス工房であるが、その設計図を作ったのは彼である。
彼はそれだけではなく、武器や日常生活に必要な様々な用品の開発を担っている。
その功績が称えられ、シュレイド城に彼の研究部屋を備えてつけてもらえた。
今やシュレイド王国にとって無くてはならない、偉大な学者だ。
困った事があったら、大体この人に相談すれば大抵なんとかなる。
次々と作業を止め始める光景を見た、ガンダロスは左手を頭に当て、肩を落とした。
「お前らなぁ…」
「ご協力どうも」
礼を言ったカンピアは、早速調査に取り掛かった。
触ったり、模様を確認したり、あらゆる手法で調査する。それで分かったのは、
・ 飛び出している部分だけでも大人の背丈を越えている
・ 黒ずんだ茶色の、大小様々なブツがある表面
・ 上から見た形は辺がゴツゴツしたひし形
・ 上底に木目のような跡
・ 正面から見ると柱のような形状
・ 鉱石以上の硬度
異質すぎるその落下物の正体が中々見抜けず、腕を組み、悩み、長考し始める。
「…………?」
それを見た、ガンダロスが横に並んで、カンピアの肩に手を当てる。
「こんな仕事やってんだ。俺だって材料は、腐るほど見てきたんだ。だから、どんな物でも大体の目星は着くと思ってたんだ。だが、この落石?は、岩石や木材でも無ぇ」
「…そうですね、我々が皆目見当もつかない、未知の物質です」
「それに、まだ全体像が分かってねぇ。それが分かれば、何か掴めそうなんだが…」
「何か思い当たる節でもあるんですか?」
「全体さえ分かればな」
「はぁ……となると私の方から言えるのは、この落下物が何処から落ちてきたのか、くらいですね。まぁ、言うまでもないですが」
そう言ったカンピアは凱旋門から見て東南の空を見上げる。
そこには、雲を突き抜ける円柱のような形状をした巨大で高い山があった。
その山は、絶壁のようになっており、人類には登頂どころか立ち入る事すら不可能であり、生物が住める環境ではない。
ヴェルド王国の人々はその山を、神嶺域しんれいいき、と呼んでおり、そのはるか上空にそびえる頂上には何があるか誰も分からない。
「神嶺域か……確かに、あんだけ高い所から落っこちてきたんだったら、こんだけ深く刺さるのも納得できるな」
「えぇ。ですが、今日まで、神嶺域から何かが落ちてきた事なんて、聞いたことありません」
「だから、早く掘ってこれが何なのか確かめなきゃならねぇ。分かったか?」
「はぁ……分かりましたよ…邪魔して悪かったですね。私はとりあえずこの現状を、ミゲス伯爵に報告して来ますよ」
「ミゲス伯爵?お前と一緒に来たのか?」
「外交官として、私と同様に派遣されたんです」
ミゲス伯爵は、シュレイド王国の大貴族で、国内で大きな権力を持つ人物だ。
大貴族とはシュレイド王国の各地域の代表者で、街の活性化や経済活動を主に行っている。
シュレイド王国の政治は、主に大貴族たちが中心で回っているため、副長のリヴェや、本部隊長のスバリよりも立場は上である。
特にこのミゲス伯爵は大貴族の中でも最上位の領土と財産を持ち、城下町に暮らす人々の様々な問題に対し、持ち前の知識と経済力を用いて解決してきた。
そのためミゲス伯爵は多くの国民に信頼されている。
「外交官としてか……」
「ヴェルド王国との対談ですからね。この対談次第で、今後どういう関係を築けるか、が掛かってきます。重要な場面なんですよ」
「そんな重役は、俺らにゃ荷が重いな。確かに、お偉いさんに任せるとするか」
「それじゃ、私はこれで。あ、できれば対談が終わるまでに掘り終えて貰えるとありがたいんですが……」
「簡単に言うな!結構深く刺さってんだぞこれ!」
ガンダロスが落下物を指さして吠える。
「あれれ?ガンさんにしては弱気な発言ですね、何か調子でも悪いんですか?」
「何だと!?」
ガンダロスはその発言を聞いて拳を握り、ツルツルの頭に太い血管が何本も浮き出てきた。
それを見た、駄ロスのメンバー全員は、あたふたし始める。
そして全員が悲観そうな眼差しをカンピアに向ける。
「旦那、勘弁して下さいよ!」
「これじゃ、親方が怒りゃーすがね!」
「まさか、旦那の狙いって…」
ガンダロスが一発足を踏み鳴らすと、持っていたハンマーを足元にドンと置いて、落下物の方に大股でズンズンと歩き出した。
そして近くに置いてあった掘削用の道具を乱雑に持ち、落下物の前で駄ロスのメンバーの方に振り返る。
「おし!作業再開だ、野郎ども!一瞬で終わらせるぞ!」
「ほら、こうなった〜!」
駄ロスのメンバー、全員が声を揃えて言った。
「お前ら!つべこべ言わずに、早く持ち場に付け!サボってんじゃねぇ!」
「駄ロスの皆さん、作業頑張って下さいね!」
「旦那……やってくれましたね…あだっ!」
ボヤいた作業員が速攻でガンダロスに叩かれた。
道具を強く突き出して、作業を強要する。
「ほら!早く道具を持て、バカが!」
「安全作業はどうしたんですか!?」
「んなもん関係ねぇよ!」
頭に血が上ったガンダロスは、誰よりも気合いが入ったのか、叫びながら物凄い勢いで作業を行っている。
駄ロスのメンバーはそんなガンダロスに怯えながら、渋々作業を再開した。
その様子を見たカンピアは真顔で頷くと、「よし、任務完了ですね」と呟いた。
そして、ヴェルド城で、国王と対談しているミゲス伯爵の元へ向かったのだった。
ワイルズ発売までに、どうにか滑り込み投稿しました〜!
ここからしばらく戦闘が無いのですが、魅力的キャラクターが増えていきますので。
次の投稿まで、しばらく期間が空きますが、是非待っといて下さい!
それじゃ、ワイルズに行ってきます!