逃れぬ劫火〜シュレイドの黒龍伝説〜   作:カワード

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 ヴェルド王国との対談を終え、シュレイド王国にはいつもの平和を取り戻した。
 だが、ミルレオスの生まれ育ったルピナス孤児院では新たな問題が発生していた。
 大貴族、ミゲス伯爵の執事が、孤児院を立ち退くように、脅迫してきたのだ。
 その現場を目撃したミルレオスは、執事を論破して撃退させる事に成功。
 だが、ミゲス伯爵が何故、孤児院を狙うのか?
 それを確かめるために、ミゲス邸へ侵入する事を決意するミルレオスだった。


6話「仕組まれた戦争」

 ミルレオスは、ルピナス孤児院に帰宅して早々、ミゲス邸に乗り込もうとしていることをゼフィアとマザーに話した。

 その理由は、ミゲス伯爵がルピナス孤児院の場所を無理やり移設させようとしたからだ。

 

「ミル、それ本気で言ってるの?」

 

「本気だ」

 

「ダメ!無謀すぎる!」

 

「何も奴らに面と向かって話せって脅しに行くわけじゃない、ミゲス邸にこっそり忍び込んで、話を聞くだけさ」

 

「余計ダメでしょ!あぁもう!どうしちゃったのミル?帰ってからずっと、様子が変よ」

 

 近くでその会話を聞いていたマザーも同意するように深く頷いた。

 

「⋯変じゃないよ。8年前のあの日からずっと、僕は兵士になることだけを目指していたんだ」

 

 8年前、シュレイド王国の城下町に突如、火竜リオレウスが出現し、ヴェルド王国と同様に窮地に陥った。

 大砲やバリスタ、紅裂のリヴェの活躍により、どうにかリオレウスの討伐に至ったが、その日、多くの国民が犠牲になった。

 

 当時、少年少女だったミルレオスとゼフィアは、その日、リオレウスと出くわし、命の危機に瀕した。

 

「もしもあの日、僕たちはリヴェ副長に助けてもらえなかったら、あのままリオレウスに殺されていた。迫り来る炎に対して恐怖のあまり、逃げることさえできなかった。あの時は自分の無力さを思い知ったよ。それと、何よりリヴェ副長が強くてかっこよかった。僕にとって憧れの存在になったんだ」

 

「⋯えぇ。よく覚えているわ、あの頃のあなたはリヴェさんの事ばっかり話していた」

 

 リヴェに憧れたミルレオスは、ルピナスの皆には内緒で兵士になる事を目指していた。

 

「だが新兵になって、いざ敵兵と対峙してみると、僕の体は動かなくなった。殺らなきゃ殺られる状況になっても、その時どれだけ自分を奮い立たせても、相手を殺せなかった。だけどリヴェ副長は違った。またしても僕を救って、その後容赦なく敵兵を次々と斬り伏せていった。人々が殺し合う凄惨な光景に、狂気さえ感じたが、それでもやらなきゃ、みんな殺されていた」

 

「色々あったようね」

 

「僕が兵士になったのは、ルピナスを守るためだ。今がその時なんだ!このままじっとしていれば、奴らの思う壺だ!ルピナスを奪われてしまう!」

 

「だからって、ミル1人でそれを全部抱え込まなくてもいいでしょ!ルピナスの問題はルピナスの皆で解決しようよ!」

 

「ゼフィアの言う通りよ、ミル、1回みんなで話し合いましょ?」

 

 ミルレオスは納得がいかなかったのか腕を組み頭を傾げて、悩んだ。

 

「あなたが勝手に兵士になった事も、私はさっき知ったばっかりなのよ?説明する事がまだあるんじゃない?」

 

「はぁ、分かったよ。とりあえず皆と朝食を済ませて、ゆっくり話すよ」

 

 ゼフィア達の必死の説得に堪忍したのか、ミルレオスは諦めた顔で肩を落とした。

 

「飯の前に、ちょっとトイレ」

 

「はいはい」

 

 朝食の準備をするために台所に向かおうとしたゼフィアは愛想の無い返事をした。

 

「遅れてごめんね!皆朝食の時間よ~」

 

 マザーが子どもたちに呼びかける。

 

「ミル~まだ椅子とテーブル並べてないから、後でこっち来て手伝って~」

 

 すぐ後ろにいるはずのミルに話しかけたが、返事はすぐに返ってこなかった。

 

「ミル~?」

 

 もう一度声をかけるが、またしても返事は無い。

 

「ちょっと聞いてるの~?」

 

 若干苛立ちながら、トイレの方に向かってみると、廊下の窓が不自然に開いている事に気づいた。

 

 窓開けたっけ?なんて思いながら見つめていると、何か嫌な予感が脳裏をよぎる。

 

「⋯まさか!」

 

 急いで窓をのぞき込むと、その先でミルレオスが走っている姿が見えた。

 

「ちょっと!ミル!?」

 

「すぐ戻る!」

 

「何考えてんのよ!?もう!」

 

 窓から顔を出して心配そうに覗くゼフィアを横目に、ミルレオスは、そのまま走ってミゲス伯爵の元へ向かったのだった。

 

 

 

 そこからミルレオスはミゲス邸まで突っ走っていった。

 

 ミゲス邸は城下町の外れにある、小高い丘にポツンと建っている。

 豪華な装飾の柵がぐるっと囲った敷地内に、白い壁と赤い屋根で、その頂上には金色の翼が輝かしく飾ってあり、誰が見ても明らかに豪邸だ。

 

 正門には当然、門番であろう傭兵が2人立っている。

 

(さて、どうやって侵入したものか?)

 

 ミゲス邸に続く道の側に生えている木陰に身を潜めてそう考えていると、後ろからズシンズシンと響く足音と、荷車が走る音が聞こえてきた。

 

 来たのは2頭の草食竜アプトノスがけん引する荷車、通称、竜荷車(りゅうしゃ)である。

 アプトノスは四足歩行で大人しい草食竜で、シュレイド王国では主に家畜として多く飼われている。

 人懐っこい生態と容易に飼育しやすい事から、その用途は食料や物資の運搬、など多岐にわたる。

 

 荷車には手綱を持つ運転手と、その後ろに幾つかの大きな荷物に布がブカブカで被さっている。

 

(よし!これに乗り込めば中に入れる)

 

 竜荷車が低速でミルレオスの目の前を通過すると、バレないように後ろの荷車に近づき、そのままこっそりと飛び乗って、素早く布の中に隠れた。

 

 自分の体が布にすっぽりと覆われる程余裕があったため、外見だけでは見分けがつかなかった。

 それでも、荷物を確認されれば一瞬でバレてしまう。

 内心はとてもじゃないが穏やかでは居られなかった。

 

 乗り込んですぐに、竜荷車は停止した。

 恐らくミゲス邸の正門に着いたのだろう。

 

(荷車を開けるか?)

 

 その心配を他所に、運転手と門番は軽く会話した後、再び進み出した。

 どんな内容の会話か聞こえなかったが、ひとまず敷地内に入ったのであろう。

 

 竜荷車が停まる前にどこかで降りなければならない。

 停まった時に降りた場合、音や動きでバレるうえ、じっとしていても、いずれ荷を下ろす時に見つかってしまう。

 そのため竜荷車が走っている今しか、降りる時はない。

 

 ミルレオスはバレないようにチラッと布をめくり、外の様子を確認する。

 どうやら、門番達は既に持ち場に戻っていたようだった。

 

(今なら!)

 

 荷車から思いっきり身を乗り出し、外に転がり落ちた。

 竜荷車は大して速くないため、落ちた時の衝撃は少なかったが、転げ落ちた状態から素早く身を隠す必要がある。

 立ち上がって周囲を確認すると、近くに無駄に大きなミゲス伯爵の銅像があった。隠れるには絶好の場所であり、ここからなら玄関が良く見える。急いで銅像の影に移動すると、その時、玄関が開いた。

 

(誰か出てくるのか?)

 

 だが、扉が開いただけでそこからは誰も出て来なかった。

 

 開けっ放しのまま放置される扉を見ていると、その横の窓に何人かが、ぞろぞろ玄関とは反対方向に歩いていくのが確認できた。

 

(これは一体何をしているんだ?)

 

 外にいるのは、荷車に括り付けた紐を解く運転手しか見えておらず、ミゲス邸の中にいた人は(ここから見えた限り)恐らく玄関からは離れている。

 

 このまま外にいても誰かに見つかってしまうため、危険だが、思い切って玄関に近づいた。

 恐る恐る中を覗くと、やはり誰もいない。

 

(このまま入ろうか?)

 

 と思っていると、後ろから足音が聞こえてきた。

 まずい、運転手がこっちに向かって来ている!

 そう感じたミルレオスは躊躇わずミゲス邸に入っていった。

 

 どうにか侵入できたが、ミルレオスは違和感を覚えた。

 まず、正門でろくに調べもせず通した、荷車。

 そして開けっ放しの玄関と、反対方向へ進む使用人達。

 

 だがここまで来てしまった以上、引くわけにはいかない。

 

 ミルレオスは、屋敷中に居るであろうミゲス伯爵を探し始める。

 身をかがめながら慎重に各部屋を見て回ったが、ミゲス伯爵どころか、1階には誰1人おらず、がらんと静まり返っていた。

 

(となると2階か)

 

 階段を登り、一際大きな部屋があったので、そこに入ってみた。

 誰もいないと思ってしまったのか、堂々とドアを開けて中を見渡す。

 その部屋には、正面に火竜リオレウスの顔の剥製が飾ってあり、その周りには、奇抜なデザインの大きな壺、モンスターの素材と鉱石で作った椅子、大理石のテーブルなど、沢山の豪華な家具が飾ってあった。

 

 金があるから当然の事だろうが、これだけ多くの高級な物が必要なのだろうか?

 

「この役たたずが!」

 

「も、申し訳ございません!」

 

 屋敷に入って、初めて声が聞こえた。すぐ隣の部屋からだ。

 それも怒声。謝っている方の声が妙に甲高い、間違いなくルピナスで聞いた、あの悪徳執事の声だ。

 

(やばい、こっちに向かって来てる!)

 

 ミルレオスは辺りを見回して、身を隠せそうな大きな壺の中に入った。

 その壺の奇抜なデザインのおかげで丁度、目の部分に隙間があったため、ここから外の様子が丸わかりだった。

 

(運がいい、このままミゲス伯爵の話を聞ける!)

 

 バンッ!とドアが勢いよく開き、絶賛苛立ち中のミゲス伯爵が中に入ってきた。

 その顔はヴェルド王国にいた時とはまるで別人の様に、怒りが全面に現れていた。

 その後ろにはなよなよしく、覇気の失った、執事がゆっくりと入ってきた。

 

「たかが、孤児院さえ、奪う事ができないのか!お前は!?」

 

 顔だけではなく、体の動きで怒りを表現していた。

 それを言われた、執事は青ざめた顔をして速攻で土下座した。

 

「いえ、今回はダメでしたが、次こそは必ず!」

 

「次だと!?またお前がしくじれば、俺の計画に大きな支障が出る、ただでさえ、戦争の件で滞っているのにな!」

 

 声を荒らげたミゲス伯爵は、近くにあった木彫りの置物を執事に向かって乱雑に投げつける。

 

「ひぃぃ!」

 

(奪う⋯か。あれが、ミゲス伯爵⋯普段は明るく優しい態度で国民と接していると聞いていたが、ここまで荒々しい性格とはな)

 

「もうこっちに余裕は無い。ここいらの土地権を全て獲得しなければ、武器の大工場は建てられねぇんだ!分かってるのか!?」

 

(武器の大工場!?なんだそれは?)

 

「は、はいぃ...」

 

「脅威だったモンスターがいなくなって、平和ボケした愚民どもがこのシュレイド王国には溢れている。そんな奴らに危機感を抱かせるため、わざわざ起こした戦争も結局、ヴェルド王国だけにしか被害が出なかった!それじゃ、意味無ぇんだよ!」

 

「⋯⋯」

 

(わざわざ起こした戦争!?じゃあ、僕たちが必死になって戦っていた、誰も望んでいない戦争をこいつらが!?)

 

「犠牲無くして、教訓は得られない。愚民どもが戦争という大きな犠牲を経験しなければ、この国は軟弱なままだ!だがもう、戦争は終わってしまった⋯まるでこの国では何事も無かったかのようにな!」

 

 ミゲス伯爵は苛立ちながら、土下座している執事の頭を容赦なくグリグリと踏みつけた。

 痛みと罪悪感で執事の歪んだ顔がさらに歪む。

 

「ぐっ⋯」

 

「この武器の大工場は、戦争の犠牲で危機感を覚えた愚民どもの後押しで、正当に成り立つ計画だったんだよ。それが頓挫した今、無理やりにでもこの辺りの土地権を取り尽くし、早急に建設に取り掛かる事だ。それすら、今のお前の失態で、またしても遅れをとっているんだよ!お前に俺の怒りが分かるか!?あぁ!?」

 

 ミゲス伯爵は、話しながらどんどん強く踏みつけてきた。

 

「うがぁぁぁ!!」

 

 執事は口答えするどころか、痛みのあまり悶絶した。

 

(なんて事だ⋯戦争がミゲス伯爵によって起きていた上に、武器の大工場を作るためにルピナスを奪おうとしていた!大貴族の威厳を利用し、自分たちにとって都合のいい国を作ろうと裏で暗躍していた。シュレイド王国の人々を愚民と蔑みながら!そこまでして、人々に犠牲を求める必要がどこにある!?)

 

 ミルレオスには衝撃の事実に、ミゲス伯爵以上の苛立ちを覚え、震えが抑えられなかった。

 自分の唯一の居場所を、こんなくだらない事で奪おうとするその魂胆が理解できず、どうしても許せなかった。

 

「武器の大工場は、今後のシュレイド王国にとって無くてはならない物だ。いずれ来る食糧難を凌ぐためにも、ヴェルド王国は我々が支配しなければならない。そのためにも武器の生産体制は確固たる物にしていく。誰に反対されてもな」

 

(この計画を阻止しなければ、ルピナスは狙われ続ける上に、また無駄な戦争が起こってしまう!とにかく、この件はスバリ本部隊長かリヴェ副長に報告しよう!大貴族だろうが関係ない!こんな狂気じみた男は、王国の制裁を受けさせるべきだ!)

 

「くっ!⋯で、ですから⋯⋯!わ、私が、あの孤児院を!」

 

 踏みつけられた状態の中、力を込めて何とか喋り始めた執事だったが、ミゲス伯爵は無愛想にあしらった。

 

「ふん、お前にはとっくに失望している。孤児院はあいつに任せることにした」

 

「え?」

 

(あいつ?)

 

 その時、新たに階段を登る足音が聞こえてきた。

 その足取りは、どこか気怠いのかゆっくりで不安定なリズムで階段を上がっていく。

 足音に気付いた、ミゲス伯爵がドアの方に振り向く。

 

「やっと来たか。ここにはとっくに着いてたろうに」

 

(え⋯⋯どうして!?)

 

 ドアが開き、ある人物が入ってきた。

 それは、ミゲス伯爵は当然、ミルレオスさえも知っている人物だった。

 ミルレオスはその事実を容易には受け入れられなかった。

 

「来たぜ。主さんよぉ」

 

 裂けた口に、女性の低めの声、朱色の毛皮の装備、その特徴から正体が分かった。

 

 彼女は間違いなく、シュレイド王国軍、リヴェ副長、だった。




6話でした!
ミゲス邸に潜入ミッションでしたね。
次回はリヴェとミゲス伯爵の関係について深堀したいと思います!
ここまで読んでくれてありがとうございました!それでは次回会いましょう!
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