逃れぬ劫火〜シュレイドの黒龍伝説〜   作:カワード

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 ミルレオスは孤児院の皆に嘘をつき、1人でミゲス邸に向かった。
 ミゲス邸に着き、どう侵入するか悩んでいる時、1台の竜荷車が目の前を通り過ぎようとした。
 その竜荷車に飛び乗って荷物の中に隠れたミルレオスは、そのまま誰にも見つかる事無くミゲス邸に侵入することに成功。
 そして2階に見つけた豪華な部屋に入った時、誰かの話し声が聞こえたので、咄嗟に部屋にあった壺の中に隠れる。
 入って来たのは、ミゲス伯爵とその執事だった。
 2人の話の内容は、
 戦争はミゲス伯爵の策略によって起こされていた事
 武器の大工場を作る事
 そのためにルピナス孤児院を潰す事。
 そして、その話の最中、最後に部屋に入ってきたのは、シュレイド王国軍副長、リヴェであった。


7話「憧れの喪失」

 ミゲス伯爵の部屋に堂々と入って来たのは、シュレイド王国軍、副長、紅裂のリヴェであった。

 

 ミルレオスは大きな壺の中で、口元に手を当てながら溢れ出そうな声を必死にこらえる。

 

 どうか聞き間違いであって欲しかった。

 かつて自分を救ってくれた命の恩人であり、憧れだった兵士でもあるリヴェが、自分勝手な理由で戦争を起こしたミゲス伯爵の事を、主、と呼称したのだ。

 

 瞬きを何度繰り返しても現実は変わらない、見間違いでも、聞き間違いでもない、そこにいるのは正真正銘、リヴェであった。

 裂けた口と気怠そうな目つきが、ミルレオスの胸を刺した。

 

 リヴェはミゲス伯爵の方へ向くと、大理石のテーブルに肘をかけ、その場に腰を下ろした。

 

「何も、毎度あんな面倒な方法で会わなくったっていいだろ?」

 

(面倒な方法?)

 

「正面玄関を開けっ放しにして、この執事以外の使用人を裏口から外へ出させる。んで、アタシは竜荷車の荷物の中に潜んだ状態でここに来る。無駄でしかねぇだろ」

 

 ミルレオスはミゲス邸に来る前に起こった、不可解な出来事の真意を知ったが、それどころではなかった。

 

「ふん、前にも言っただろう。万が一にもこの話が外に漏れれば面倒な事になる。こっちは、お前と違って好き勝手動けないんだよ」

 

「まぁいい。それで、アタシは何すりゃいいんだ?」

 

「城下町にあるルピナス孤児院を潰せ」

 

(こいつ!)

 

「は?そりゃ、こいつの仕事だろ?」

 

 リヴェは眉間に皺を寄せながら、すぐ側で土下座している執事のほうを指さした。

 すると、ミゲス伯爵は憐れむような目を執事に向けた。

 

「そいつは情けない事に、孤児院の連中に追い返されちまってね。何度も同じ事を繰り返して時間と手間を無駄にしたくない。お前が直接赴いて、孤児院の連中を追っ払え。奴らが出て行かなければ、孤児院を壊せばいい」

 

(なんて事を!)

 

「そんなの、アタシがやらなくても他の傭兵がやればいいだろ?なんでアタシが?」

 

「これでも俺は極力、無駄な争い事は避けたくてね。お前はシュレイド王国軍、副長という肩書きと、8年前に孤児院のガキを助けた件で、奴らに顔が利く。上手くいけばあっさりと説得できるかもしれん」

 

(8年前⋯僕がリオレウスに殺されそうになった所をリヴェ副長に助けられた。その時の話か?そんなに前から、こいつはリヴェ副長と繋がりがあったのか)

 

「さぁな。誰を助けたかなんて、そんなんもん、いちいち覚えてねぇよ」

 

 リヴェは部屋に飾ってある、巨大なリオレウスの顔の剥製を見つめていた。

 そのリオレウスの頬には、リヴェと同じように口が裂けたように見える傷が、ハッキリと入っていた。

 立ち上がったミゲス伯爵は、ゆっくりとそこに近づき、剥製を優しくさすりながら語る。

 

「俺はよく覚えている。8年前のあの日、誰が死に、誰が生き残ったのか。あの犠牲が今のシュレイド王国を作り上げたのだ。リヴェ、お前が副長の地位を手に入れたのも、俺が大貴族として愚民どもから多大なる信頼を経たのも、全てあの日の犠牲があったからだ。この剥製を見る度に俺は、犠牲、の大切さを改めて確信する」

 

(当時、リヴェ副長はほぼ1人でリオレウスを討伐し。ミゲスはリオレウス討伐のために、国民の避難誘導の指揮や、大砲やバリスタなどの最新鋭の兵器を導入を進めた。僕がこの事を知ったのは、ついこの前、新兵になった時だ)

 

「⋯ふん。まぁ、よく分かんねぇけど、要するに孤児院を潰せばいいんだろ?他でもない主の頼みだ、やってやるよ。そーすれば、この国がアタシの理想郷に近づくんだろ?」

 

(リヴェ副長の理想郷?)

 

「あぁ、当然だ」

 

 ミゲス伯爵は立ち上がり、部屋の出口まで歩いた後、執事の方に振り返る。

 

「行くぞ、この役立たず!」

 

「うぐっ!」

 

 ミゲス伯爵はうずくまったままの執事の横腹に蹴りを入れ、部屋を出る。

 ヨボヨボと立ち上がった執事は苦しそうに部屋を後にする。

 

 部屋に残っていた、リヴェはリオレウスの剥製を真顔で見つめていた。

 

「⋯⋯くそが」

 

 ボソッと呟くと、足早に部屋から立ち去った。

 

 そして部屋に残っているのはミルレオスだけになった。

 音を立てないようにそーっと、壺の中から顔を出し、周囲を見回す。

 誰かがこの部屋に入ってくる様子は無い。このままミゲス邸から脱出しよう、と思った。

 

(大変な事になった。どうして、リヴェ副長がルピナスを潰すなんて、命令を受けてしまうんだ!それ以前に、なんでミゲスなんてクズ野郎の事を主と呼んでいるんだ!納得できない事ばかりだ。とにかく今は、急いでルピナスに帰らなければ!)

 

 帰るためには、ミゲス邸を脱出しなければならない。

 だが、玄関を通り正門から堂々と出ようとすれば、当然、捕まってしまう。

 窓から外に出て、塀を越えるしか無い。

 そう思い、窓から顔を覗かせた。

 

(よし!ここからなら柱を伝って下に降りれば――)

 

「待ちな」

 

「えっ!?」

 

 誰かに心臓を掴まれたかのように、キュッとしまった感じがした。

 慌てて振り返った先にいたのは、部屋を出たはずのリヴェだった。

 彼女が部屋に戻って来る足音はミルレオスには聞こえなかった。

 

「はぁ⋯新兵、こんな所で何やってんだ?」

 

「ぼ、ぼぼぼ僕は!?その!」

 

「気付かれてないと思ったのか?」

 

「え?⋯い、いつからですか?」

 

「お前が竜荷車に飛び乗った時からバレバレだったぜ。それにアタシは人の視線に敏感なもんでな。どこに隠れていても、そんなに凝視されちまったら、嫌でも分かるわ」

 

「ど、どうして、すぐに言わなかったんですか?」

 

「お前が何者でどんな理由があるのか確かめる必要があった。それに、もしアタシがそのまま告発すれば、ここですぐに殺されていた。ミゲス伯爵はそういう男だ」

 

「また⋯助けられたんですね⋯僕は⋯⋯でも」

 

「でも?」

 

「でも、どうして!?どうして、あなたはミゲス伯爵の言う事なんか聞いているんですか!?ヴェルド王国との戦争を起こしたのも、全部あの男の仕業なんですよ?それを知ってなんで、主と慕ってられるんですか!?」

 

「⋯色々あるんだよ」

 

「色々?色々って何でっ!んぐっ!?んんっ!?」

 

 リヴェは今にも大声をあげそうなミルレオスの口を片手で塞いだ。

 空いた手の人差し指を口元に近づけ、静かにするように促す。

 

「しーっ⋯まだ、奴らは中に居る。ここを出るぞ大人しくしろ」

 

 リヴェは、部屋を出て外にいった。

 ミルレオスがその様子を窓の外から見ていると、竜荷車に掛けてある、大きな布を急いで取り、部屋に戻ってきた。

 

「これに包まってろ」

 

「でも、それじゃ、リヴェ副長の分が」

 

「予備がある。いいから急げ」

 

 言われるがまま、ミルレオスは布に包まれると、それをリヴェは担いで。

 1階に降り、ミゲス伯爵がいる書斎の前を通って玄関に向かった。

 妙に大きな荷物を持ったリヴェの事をミゲス伯爵は、訝しげな顔で見つめた。

 

「さっさと出ていけ。お前が長居すると他の部下への説明が面倒だ」

 

「⋯分かってる」

 

 だが、ミゲス伯爵はミルレオスが包まれた荷物の事を聞くことなく、すんなりとリヴェを通した。

 

 リヴェはミゲス伯爵を横目に、急いで竜荷車に戻ると、すぐさま自分も同じように、布に包まれた。

 

 それを確認した運転手は竜荷車を走らせ、ミゲス邸を後にした。

 

 

 

 しばらく走った竜荷車は、ミゲス邸からある程度離れた森の中で止まった。

 

 リヴェは、自分に掛かった布を捲り、荷車から降りると包まれたミルレオスを出してあげた。

 

「ここまで来れば、問題ないだろう」

 

「⋯ありがとう⋯⋯ございます」

 

「お前が何者かは分かった。次にお前の目的だ、何故こんな危険を犯してまで、ミゲス伯爵に近づいた?」

 

 ミルレオスは拳を握り、震える声で叫んだ。

 

「⋯ルピナス孤児院を守るためです!」

 

「孤児院?⋯そうか!お前が主が言ってた孤児院の--」

 

「さっきから、その主って呼び方なんなんですか!?」

 

 ミルレオスはリヴェの発言を遮るように吠えた。

 

「あの人は⋯いやあいつは!戦争を起こし、両国の兵士たちを犠牲にして、自分の都合のいい国を作ろうとした、極悪人なんですよ!そんな奴をなんで、主と呼ぶんですか!?」

 

「まいったな。よりにもよってお前が孤児院のガキだったとは。いいか、新兵。ミゲス伯爵がどんなクズ野郎だったとしても、アタシには従う理由がある。一概に説明したってお前には理解できないだろう」

 

「そんな精神、僕は理解したくない!」

 

「主やアタシの事を何と言おうが、どう思おうが構わねぇが、命令引き受けた以上、アタシはそれを実行しなきゃならねぇ」

 

「⋯どうしても、孤児院を潰さなきゃならないんですか?」

 

「それが命令だ。アタシは主のいかなる命令も実行してきた。それがどんな汚れ仕事だろうとな」

 

「あなたは、シュレイド王国軍の副長なんですよ!こんな事、王国は認めないはず!」

 

「えぇ加減にせぇ!!!」

 

 リヴェの怒声が静か森を騒めかせる。

 あまりの迫力に、怒りの感情を訴えていたミルレオスは思わず萎縮した。

 

「こっちが下手に出てりゃいい気になりやがって!国情を何も知らねぇ新兵が、いっちょ前にアタシに説教垂れてんじゃねーよ!いいか?お前は竜荷車に飛び乗った時点で、アタシが告発していたら、もうこの世にはいなかったんだぞ!本当に面倒な仕事だ!とっとと孤児院を潰して終わらせる!」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

 

「うるせぇ!おい、新兵!孤児院の場所まで案内しろ!」

 

「⋯違う」

 

「あぁ?」

 

「違う⋯⋯僕が憧れた、紅裂のリヴェはこんな人じゃない!」

 

「お前の憧れなんか知るかよ!勝手に期待して勝手にガッカリしてろ!」

 

「じゃあどうして!あの時、僕に『そんなんじゃ、死ぬぞ』って言ってくれたんですか!?」

 

「ちっ!だから、そんな事いちいち覚えてねぇって!」

 

「あなたにも、人の心はあるはずだ!でなきゃ僕は救われてない!さっきだって!ミゲス伯爵から僕を庇ってくれたじゃないですか!」

 

 それを言われた、リヴェは眉間に物凄い皺を寄せ、口を尖らせたが黙った。

 そして振り返る。

 

「これ以上話しても埒が明かねぇ。続きは孤児院だ」

 

「止めて下さい、孤児院は僕たちにとって、かけがえのない家なんです!今無くなってしまったら、皆路頭に迷ってしまう」

 

「主がなんとかしてくれらぁ!」

 

「それは信用できません!でも、そこまで言うなら分かりました、孤児院に案内します」

 

「あ〜ようやく理解してくれたか」

 

「あなたを説得するためです」

 

「はぁ?アタシを説得?」

 

「えぇ。リヴェ副長は、ルピナス孤児院の事を何も知らないまま、終わらせるつもりですか?」

 

「⋯⋯」

 

「ルピナス孤児院がどんな所で、どんな人がいて、どんな生活をしているのか、それを知らない状態で、ただ命令の赴くままに、潰すつもりですか?」

 

「⋯⋯あぁ」

 

「ミゲス伯爵は、急ぐようには言っていたが、孤児院を潰す期限は言ってはなかった。だったら命令を実行するのは、今すぐじゃなくてもいいはずです!1日、たった1日だけでいいですから、僕たちの事を少しでも理解してから、それからでも、いいんじゃないですか?」

 

「⋯まぁ、お前らがとっとと出ていくってんなら、孤児院はすぐには壊さずに済むだろうな」

 

「だったら、その1日、孤児院の事を紹介させて下さい」

 

 リヴェは口元に指を添えて首を傾げながら、悩んだ。

 そしてすぐに結論を出した。

 

「いいだろう。ただしその1日は、アタシもお前らを出ていくように説得させてもらう。それならいい。だから早く案内しろ」

 

「分かりました。ルピナス孤児院に向かいます」

 

「おい、運転手、新兵の案内に従って孤児院に向かえ」

 

「ほんっと人使い荒いですよね、リヴェ副長」

 

「うるせぇ、はよ出せや」

 

 何故か運転手である、学者のカンピアは渋々、竜荷車を出す用意を始めた。

 

 リヴェはミゲス伯爵の命令で孤児院を潰すため。

 ミルレオスはそんなミゲス伯爵から孤児院を守るために。

 正反対の目的を持つ2人は、互いの事を理解し合うため、孤児院へ向かったのだ。




久々の更新です!
それぞれの登場人物の状況がようやくわかってきたと思います!
もう少しで大きな戦いが起こりそうな予感が!?
次回も楽しみにして置いてくださいね!
それでは!
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