未知なる触手を夢に求めて 作: るるいえ
とある日。
たまにはいいか、と持ち込んだお酒で酒場で飲んだくれていると、酒臭さに嫌気がさしたのか、頭の触手ちゃんがバンダナを解いて逃げ出した。
「あぁ!いけませんよぉ触手ちゃん!戻ってきてくださぁい!」
慌てて追いかけるが、触手ちゃんは最近ますますごった返すようになってきた酒場の人ごみをするすると器用にすり抜け、私から逃げ続ける。
酔っているせいで足元がおぼつかなくなっていた私は、別の卓の人に思い切りぶつかってしまった。
「あぁ…すみませぇん…。飲み物零してたりとかないですかぁ?お怪我ないですかぁ?」
「む……?あぁ、大事無い。そちらは、怪我は無いか?」
そう言った見目麗しい金髪の男性には、角が生えていた。酔っ払っていてぶつかった直後はよく見えなかったが薔薇色の、美しい鱗がびっしりと生えた尻尾もある。
こちらを心配そうに見ていて、かなり緊張しているようにも伺える。
「私は大丈夫ですよぉ〜。体が柔らかいのでぇ。」
ぴらぴらと手を振って平気なのをアピールすると、少しだけ彼の眉尻が下がった気がした。
「そうか。ならばよかった。……随分酔っ払っているようだな。暫しそこに座って休んだ方がいい。」
「いやぁ、まだ元気ですよぉ?」
心配ご無用、とばかりにむん、と胸を張ってしっかりと立って見せる。が、大丈夫に見えなかったのか卓の空いている椅子までエスコートされた。
酔っ払って気分が良かった私は流されるままに席に着く。
卓には角の生えた彼の他にも、数人の男女が座っていた。
「私はミハイルと言う。エステレラ望郷国に所属している。ここにいるのは全員エステレラ望郷国の者達だ。」
「…ん、Victoriaです。よろしく…。」
「いやぁ…ご迷惑おかけしますねぇ。私はるるいえと申しますぅ。こっちは私の分け身の触手ちゃん…は今お酒臭さに家出してるんでしたぁ…。」
その言葉に静かに酒を嗜んでいた1人の男性が反応し、口を開いた。
「……探さなくていいのか……。相棒なのだろう……」
「大丈夫ですよぉ。時々お出かけしてるんです。そのうち私のところに帰ってくるかぁ、触手ランドに戻ってきますよぉ。」
だから大丈夫です、と頬をかきながらにへら、と笑うと男性は、安心したような、ほんの少しだけ寂しそうな顔をして頷いた。
「ならいい……だが別れはふいに、そして嫌でも来てしまう物だ……心しておくといい……」
「触手ちゃんが死ぬ時…は、私が死ぬ時なのでぇ…最期まで、一緒にいますよぉ。…いえ、居なきゃいけないんですぅ。」
「…ふ。そうか……少しばかり貴殿が…いや、止めておこう……」
そういうと、彼はグラスを一息に干した。
「すまない……酒場には似つかわしく無い話題だったな……俺はS.と言う……お詫びと言ってはなんだが、全員に1杯奢ろう……何でも好きなものを頼むといい……」
「誰も気にしてないぞ、S.殿。」
「いや……そういう気分なんだ薔薇の竜……」
ミハイルと話すS.に、そんな彼らを見ながら静かに飲み続けるVictoria。
実に良い雰囲気である。そのまま奢り酒をいつもなら喜んで頂くのだが、今日は少々事情が違う。
幾分か柔らかい顔になったS.に少々申し訳なさそうに言った。
「いやぁ…今日は実は持ち込みのお酒で飲んでましてぇ…あ、酒場に許可はもらってますよぉ?少々お待ちを…っとぉ。」
自分の席から大きな酒の瓶を持ってくる。
まだ半分以上残っているそれは、美しい黄金色をしている蜂蜜酒であった。
「これですこれぇ!私ちゃんぽんするとすぐ倒れるのでぇ、ちょぉっとこれでご一緒させていただきますねぇ〜」
「それは…蜂蜜酒(ミード)か?」
「そうですぅ〜!自家製なんですけど、私の好物ででしてぇ…あ、試してみますぅ?」
酔っ払いらしくえへえへ笑いながら、ずいずいと大瓶を望郷国の面々に押し出すと、全員が押しに負けたように少しずつ、賞味してくれる運びとなった。
「甘い、な。」
「濃くて甘い…です。」
「……酒精が濃い、な……」
感想は概ね同じであった。まぁ妥当な感想だし、自分もその位の感想しか出てこない。
寧ろ酒精の濃さに気づいて貰えたのは嬉しかった。
そのまま酒が抜けるまで休んでいく、という目的を忘れ、和やかに飲みながら望郷国の面々と会話をする。
「エステレラ望郷国ってどんな所なんですかぁ?行ってみようと思ってたら国王になっちゃいまして…美味しいものとか、綺麗なものとか、教えてくれると嬉しいですよぉ。」
「そうだな。綺麗な花が沢山咲いている。美しいぞ。」
「…お芋がおいしい。そのままじゃ硬いけどあっためるとほくほくでいい。」
「…賑やかだ……人も色彩も。とても、住み良い国だ…少なくとも、俺に取っては、な……。」
「綺麗な景色に美味しいご飯、素敵な人々…いいですねぇ〜。」
そんな話をしていると、不意に大きな影が卓を覆った。
「すまぬ。遅れて馳せ参じる事となった…そちらの女性は?」
大柄でがっしりとした体型の大剣を背負った男性がやってきていた。
どこか見覚えのあるその男性に朗らかに挨拶をする。
「るるいえと申しますよぉ〜。わくわく触手ランドの園長やってますぅ!!…どこかでお会いした事がありましたよねぇ?」
「しぃずまと言う。貴殿と会った事があるかどうか、か。うむ…。確かこの世界に貴殿が降り立った日に1度。」
ようやく思い出した。
しぃずまとは私があるけみすとの世界に来た初日、何も分からぬまま訪れた闘技場で邂逅していた。
当時は右も左もわからなかったのだが、そんな私をきっちり吹っ飛ばしたのが彼である。
冷徹な、しかし野性的な表情で首に刃を当ててきたのを鮮明に思い出し、少々身震いした。
それを見た彼は歯をむき出して笑った。
「武者震いか。よいな、貴殿とはまた手合わせしたいものだ。」
「闘技場でお会いしたらまたぜひお手合わせ願いたいですよぉ〜。私、強くなりましたからぁ!」
にかっと笑った彼にこちらも挑発的な笑みで返し、まぁどうぞと最後にひとつ空いていた席を勧める。
このままエステレラ望郷国の話を聞きながら酔いつぶれようか、と思っていると、顔面になにかがへばりついて来た。
「ピギューッッ!!」
「もがもがもがもが……」
へばりついた覚えのある感触を引き剥がそうとしていると少し面白そうにそれを見ながらS.が言った。
「………相方のようだな……そろそろ帰った方がいい……」
やっとの事で引き剥がし、吸盤の跡がついた顔を擦りながら仕方なさそうに言った。
「うーん…そうですねぇ…帰りまぁす……またぜひご一緒させてくださぁい!」
ひらり、と手を振ったS.に続くように、他の方々もそれぞれ別れに応じてくれる。
「また機会があれば杯を共にしよう。よき夢を。」
「…また、飲みましょうね。」
「うむ。貴殿との闘争、楽しみにしている。」
名残惜しくも酒場を後にし、触手ランドへの帰路を行く。
「触手ちゃぁん、もう少し飲んでちゃダメだったんですかぁ?」
触手は何も答えずにべちべちと頭を叩いた。
「そうですかぁ…酒臭いのは嫌ですかぁ…。まぁ、じゃあ次はノンアルコールで楽しみますよぉ…」
有無を言わさぬ触手の答えに私は肩を落とすのだった。
まだ触手ちゃんの方が強く出てた頃の話ですねぇ〜
今だったら生意気言うなって〆てますぅ
キャラお借りした方々
Victoria
しぃずま
ミハイル・R
S.