未知なる触手を夢に求めて 作: るるいえ
その日は、自分以外にも旅客が沢山いて賑やかだった。
金銀の髪と黒き双角が美しい夜魔が用意してくれた様々な種類のパイを囲み、様々な種族がテーブルを囲んで賑やかに語り合った。
縁もたけなわという事でひとり、また1人とその場を去り、さてそろそろ自分もまた夜の散策に出ようか、と思い立った。
未だ未練がましくパイの容器にしがみついていた触手ちゃんをひっぺがしていると、宴席の際に少し離れたところで静かに笑っていたS.がパイの入った容器に手を出していた。
「…甘いな。悪くない……」
三角形の黒い、恐らくチョコパイであろう物を口にして、嬉しそうに微笑むS.。
今日の宴席も会話にほんの少ししか混じって来ず、後は後ろで楽しそうにうんうんと頷くだけであった事を思い出し、交流のチャンスと、私はにこにこと声をかけた。自分と同じ甘党仲間で嬉しかったのもあるが。
「Sさんももしかして甘党ですかぁ〜?」
話しかけてきた事に驚いたのかそれとも別の要因か、S.は少しだけ動きを止めると、微笑んだまま答えてくれた。
「…甘党。……フフ、そうかもしれんな…」
曖昧な答えに私は首を傾げた。
こんなにも幸せそうに食べているのに。
「んぅ?かもしれない、とはぁ?」
首を傾げて尋ねる。
さらにもう一口パイを齧ってS.は続けた。
「昔に糖分が必要だと言われ無理矢理食べさせられていた時があった……それが原因かもしれんな……」
何か遠い昔を思い出すような、懐かしそうな。
言っている事とほぼ真逆の表情と雰囲気に、暫く私は考えた。そして閃く。
(無理矢理食べさせられ…?トラウマになる気がしますがぁ…その割には何か表情がぁ………うぅん……ははぁん?さてはぁ、惚気ですねぇ?)
この寡黙な武人にも、春はあるのだろう。
普段殆ど見せないであろう一面を垣間見た事に嬉しく思いながら、そして顔面のニヤつきをそっと抑えながら、私はなんでもない様な風を装って言った。
「それはぁ…甘党、なのですぅ?まぁでもぉ、こんなに美味しそうに食べてるのでぇ、きっと嫌いでは無いんでしょぉねぇ〜」
S.はゆっくりとパイを食べ終わると、ふと何かを思い出したようにポケットをまさぐり、中から包装された小さなお菓子をこちらに見せてきた。
「……嫌いでは無いな。今では俺も作る側だ……」
小さな透明な袋で丁寧にラッピングされたクッキーだった。細いがしっかりしたS.の手のひらにちょこりと可愛らしく鎮座している。
シンプルではあるがいくつか種類もあるようだ。
思わず歓声をあげる。
「わぁ!可愛いお菓子ですぅ!」
「…そうか、ならいい。」
少しだけ、彼が照れているように感じた。
なんだ、この武人、存外感情豊かではないか。
そう思うと途端に親近感が湧き、触手の髪がわさわさと揺れた。
「もしよければぁ、1つ頂いてもぉ?」
「配るように持ってきているからな…食べるといい…」
頷くと、S.は袋を1つ差し出してきた。有難くそれを頂くと、早速袋をあけて1つ、食べてみた。
ふわりとした甘さだ。華美な甘さではない。どこか安心するような、作り手の思いやりが感じられるような。
記憶の奥にとっくにしまいこんだ思い出のような、懐かしいような味だった。
「優しい味がしますねぇ…甘くて優しくて、あったかさを感じますよぉ…美味しいですぅ!」
「フフ…そうか……そうか……」
何か琴線に触れたのか、機嫌よさげに、染み入るように微笑み、頷くS.が不思議であったがクッキーは美味しいのでそれでよかった。
煌々とした月明かりに窓越しに目を細めながら、この2日の旅程を思い出す。
私はぽつりと心情を吐露した。
「異種族同士手を取り合って仲良く協力してぇ…この国は本当にすごいですねぇ…」
「…そうだろう。異種差別もなく家なき者を迎え入れ、平和に暮らす……。これ程に幸せなことは無い…」
S.が語る。静かな口調ではあったが、同時にこの上なく誇らしげで、この国を愛しているという事がハッキリと伝わってくるものであった。
「それはもう、幸せでしょぉねぇ…」
私は目を閉じ、同意する。
「……そろそろ、片付けるとするか。るるいえも寝るといい……」
幸せそうに爆睡している魔獣の少女をそっと抱き上げながら、S.が声をかけてきた。
私は閉じていた目を開き、元気に手伝いを始めた。
「あぁいやぁ、私寝なくても大丈夫なのでぇ、手伝いますよぉ〜!」
ゆっくりと、夜が明けていく。
優しい日差しが、山肌を照らし、エステレラという国を温めていくのであった。
S.さんはいいぞぉの気持ちですぅ
キャラお借りした方
S.