未知なる触手を夢に求めて 作: るるいえ
1.赤リンゴさん
「ふんふんふぅ〜ん♫」
触手ランドキャストエリア、厨房。
るるいえはご機嫌にピンクのエプロンを着けて、なにやらボウルをかき混ぜている。
世の中はバレンタインデー。るるいえも日頃の感謝とイベント大好き精神から、手作りチョコの開発に勤しんでいた。
「上手くできてるといいんですがぁ…」
出来上がったチョコレートをつまんで持ち上げ、電灯に透かして眺めていると、厨房に誰かが入ってきた。
「お、いい匂いすると思ったら園長じゃん!何作ってんの?食わせて〜」
赤い髪に赤い目、赤い服とこれでもかと赤を主張してくる女の子、赤リンゴである。
「おやぁ、赤リンゴちゃん!バレンタインのチョコですよぉ〜 今回は色々頑張ったので自信作なんですぅ!」
「もうそんな時期か…ま、いいや、味見させてよ、第三者の意見、大事じゃん?な?」
チョコレート、と聞いた瞬間持ち前の食い意地なのか、ずいずいと味見の催促をしてくる赤リンゴ。相変わらずだなぁ、と、るるいえは苦笑し、皿に盛ったチョコレートを差し出した。
「仕方ないですねぇ…じゃぁこっからどぉぞ〜」
「お、やった!やっぱ言ってみるもんだわ〜」
得した、とばかりに赤リンゴは皿のチョコに手を伸ばした。茶、緑、ピンクと3種類のカラーに少し迷ったあと、おそらくノーマルの茶色のチョコレートを口に放り込む。
「いいな!美味い!持って帰る!」
続いて緑とピンクもぽいぽいと口に放り込みながら持ち帰るための袋を探そうとうろうろしている赤リンゴ。
なんだかんだ自分の味覚に自信のなかったるるいえはこっそり安堵してピンクの小袋と完成してさいるチョコを大量に取り出した。
「ならよかったですぅ〜!こっから袋詰めですねぇ〜」
「え?この量やんの?」
固まった赤リンゴに何を今更、とるるいえは当然のように返す。
「??これぜぇんぶ渡す分ですよぉ〜?」
チョコの山を2度見した後、赤リンゴはそっと2歩下がった。そのまま扉の方へとそろそろと向かう。
「あー、ちょーっと用事思い出したから帰る…って危な!?園長今包丁投げたよな!?なぁ!?」
赤リンゴの頬の真横に包丁が綺麗に刺さっていた。驚いている隙に?るるいえはしれっと出口を塞ぎ、赤リンゴの腕をしっかりと触手で掴む。
「ただで食べてただで帰れると思いましたぁ〜?手伝って貰いますよぉ…!!!」
「勘弁してくれぇ〜!!」
赤リンゴの悲鳴が厨房に響き渡った。
それから袋詰め作業に従事する事になった赤リンゴが解放されたのは1時間後の事であった。
「つ、つかれた…じゃあ今度こそ帰る…」
へろへろになった赤リンゴが厨房からふらふらと外に出ようとすると、るるいえが出来上がった小袋の1つを赤リンゴに放り投げた。
「あ、待ってぇ〜、これあげますよぉ〜」
「お、さんきゅー!」
中身がさっき味見したチョコレートである事を確認すると、赤リンゴは少し元気を取り戻して去っていった。
「さぁて!配りにいきましょぉかねぇ!…の前にちょっと休憩しますかぁ。」
厨房の椅子にドサリと腰掛け、るるいえは渡す人の反応を楽しみに思いを馳せるのであった。
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2.S.さん
「のわぁーっ!?」
触手ランドでチョコレートを完成させて幾許か、るるいえは休憩にと開いた本に吸い込まれていつの間にか野外へと来ていた。時刻は夜、煌々と月が自然豊かな大地を照らし出していた。
「あれぇ、お外ぉ…?」
「………何故……?」
ふと、訝しげな男性の声が聞こえた。
るるいえが声に振り返ると、そこにはエステレラにて煌星の剣帝と呼ばれるS.がそこにいた。
困惑した顔で丁度剣先を下ろしたところを見ると、突然でてきたるるいえに驚いて剣を構えていたらしい。
「おやぁ、S.さんじゃないですかぁ!…え、ということはぁ、ここ、エステレラですぅ!?」
S.は基本的にエステレラからは出ない事を思い出し、るるいえはただただ驚愕した。
最北端にある触手ランドと最南端にあるエステレラではかなりの距離があるはずだったからである。
ひとつ頷いてS.が言った。
「久しいな…あぁ、確かにエステレラだが……アイツの仕業か……」
るるいえの手にしている本にS.には心当たりがあったようだ。そういえばこの本をくれた子もエステレラの住人だったとるるいえは気づく。
旅行に行くには遠い、というボヤきを聞かれていたのかもしれない。
「ぴかいあちゃんに貰った本、これワープ出来るやつだったんですねぇ!休憩がてら読んでみようと開いた矢先だったのでびっくりしましたよぉ〜!ここ、Sさんのおうちですかぁ?」
「……あぁ、俺の家だが……どうしたものか」
かなり頭を悩ませているようだ。時間も遅くはあるので、心配してくれているのかもしれないと思うとるるいえは少し嬉しくなった。
「んふふ、まぁ…歩いて帰れない距離では無いのでぇ!何とかなると思いますよぉ!夜通し歩くのは慣れてますぅ!」
「慣れているという問題では………」
とうとう頭を抱えだしたS.にるるいえは努めて明るい声を出した。
「あぁ!でもその前にぃ、Sさん、甘いものお好きでしたよねぇ?」
突然の話題転換に少し困惑しながらS.はそれでもしっかりと答えた。
「…甘い物?………嫌い、ではないが……。」
「えへへぇ、ちょうど良かったぁ!お世話になった人達に配る予定のチョコが運良くありましてぇ!」
目を瞬かせてよく分かっていない様子のS.にるるいえは続けてまくしたてた。
「味はお墨付きですよぉ!…タコだけにぃ?バレンタインデーって事でぇ、何かの縁だと思って受け取ってくれると嬉しいですぅ!」
「なるほどな……では有難く受け取るとしよう……」
少しS.は微笑んだ。
恐らく故意では無いが、ちょっとしたダジャレを思いっきりスルーされたるるいえは少しだけ恥ずかしくなってまくし立てを続ける。
「そのまま食べてもよし、ミルクに溶かしてもよし、たこ焼きの具にするもよしですぅ!」
頷きながら説明を聞いていたS.が袋の紐を解いた。そのまま1つ、チョコレートを取り出して口に運ぶ。お気に召したのか、表情が柔らかくなったのが目に見えてわかった。
「……美味いな。」
ぽろりと思わず零れたような感想に、るるいえはにやける頬に手を当てて抑えた。
「んふふ…そんなに美味しそうに食べてくれるならばっちり成功ですねぇ!よかったぁ…」
「……これなら誰に渡しても喜ぶだろう……いい出来だ……。」
安堵するるるいえに自信を持って欲しいのか、それともただ味が気に入ったのか、チョコレートをまた1つ、口に運ぶS.。
その様子をにこにこと見守りながら、ふとるるいえは空を見上げる。美しい月が随分と高いところまで登っていた。
開演準備等があるため、朝になるまでにはさすがにランドに帰らないといけない。せっかく来たのに少し名残惜しいが、るるいえはランドに帰ることにした。
「甘いもの好きな人に言って貰えると自信になりますねぇ!無事に渡せたことですしぃ、帰りまぁす!朝までにランドにたどり着けそうですしぃ、また改めて旅行に来ますねぇ!」
「……そうか、フフ…楽しみにしていよう……」
手をおおきく振りながらるるいえが去っていく。その姿が森に消えていくまで、しっかりとS.は見送るのであった。
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3.てーらさん
「ま、迷いましたぁ…」
エステレラからランドに帰る道すがら、途中の森でるるいえは迷子になっていた。時刻も深夜、もやもやとした霧がかかった森はなんだか不気味な雰囲気が漂っている。
朝までに帰れるかと心配になってきた時、不意に目の端にキラキラとした鱗粉のようなものが写った。
と、ほぼ同時に後ろから声がかかる。
「おー!たまにくるにゅるにゅるした人ー!こんな時間に珍しいね〜?何しに来たの?迷子?」
振り返ると、両手に収まるサイズの、朝焼けのような色の羽の生えた妖精がふわふわと浮かんでいた。
クレオメの妖精にしてこの森の主、てーらであった。
るるいえは苦笑しつつも正直に答えた。
「いやぁ、確かに迷子ですぅ…おうちに帰りたいのですがぁ」
「任せてっ!案内してあげるよー!」
両手を胸の前で握りしめ、てーらは自信満々に請け負った。
「助かりますぅ!!」
慣れた足取りで先導していくてーらに感心しながら森の中を進んでいく。
夜中の森は暗く、霧も出ていて不気味以外のなにものでもなかったが、キラキラした可憐な光を撒きながら元気に飛ぶ妖精1人がいるだけで、大分と幻想的な雰囲気に変わって見えた。
30分歩くか歩かないかで、森の入口らしきものが見えた。
「着いたよー!ここが入口!」
「ありがとうございますぅ!!!あ、お礼と言ってはなんですがぁ、これ、差し上げますぅ〜」
るるいえはお礼にと、自分の両手に収まる程の、そしててーらにとっては体の3分の2程の大きさの袋を渡す。
しっかりとてーらは袋を抱えた。
「おっきい袋!開けていい〜?」
「勿論ですぅ!」
快くるるいえが返事をすると、鱗粉を使って器用に袋を宙に浮かせ、袋の口を解く。
中にはタコの形をした可愛らしいカラフルなチョコレートが見えた。
「甘くて美味しいやつだ!こんなに沢山!甘いの大好きだから嬉しいよー!」
「ならよかったですぅ!…でもサイズ大きくないですぅ?大丈夫ぅ?」
るるいえは食べにくくないかどうか少しだけ心配に思った。
チョコのサイズ自体は小ぶりに作ってはいるが、それは通常の人間にとってである。
「いっつもこの袋より大きい剣と一緒に戦ってるんだからね!?問題ないよっ!」
どこから出したのか、不意に2本の妖精とは不釣り合いの大きさの武器を出現させ、てーらは腰に手をあてて胸を張った。
「ほへぇ…凄いですねぇ…」
素直に感心していると、てーらは気を良くしたのか鱗粉を振り撒いて笑った。
「ふふ、せっかくだから私と剣の舞、見せたげる!!びっくりして腰抜かしても知らないんだからねー!」
「おぉ〜!ぜひ是非ぃ!」
願ってもない事、とるるいえも快諾する。
それを聞いた瞬間、てーらは2本の武器を自在に動かし、舞うように滑らかに動き出した。
「準備はいいかな〜?それそれそれそれっ!」
武器を両方投げたかと思うと投げた先に飛び、剣をキャッチしもう一方の武器を受け流すように反転させ、飛ばし返す。
一連の動きを全く止まることなく、流麗に行うその姿は、キラキラと振り撒かれる鱗粉と相まってとても幻想的で美しかった。
「綺麗ですねぇ…」
見蕩れていることどれだけたったであろうか。
るるいえは木々の隙間から朝日が漏れ出ている事に気づいた。
「え゙ぇ、あ、朝ぁ!?わわ、てーらちゃん、私帰るねぇ!!!」
「あれ、もう帰るの〜?まったねー!」
慌てて森から走り出したるるいえに一瞬きょとん、としたてーらであったがすぐに元気に手を振って訪問者を見送る。
朝焼けが辺りを照らし出し、てーらの羽を艶やかに煌めかせるのであった。
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4. あるくさん
「ふふ、捕まえましたよぉ〜!」
触手であるくの手足を絡めとってるるいえは嬉しそうに言った。
きのこ型の帽子を深くかぶり、真っ黒な肌を日に晒しながらじたばた暴れながらあるくは叫んだ。
「何するのだ!マーも装備も渡さんのだ!」
「そんな追い剥ぎみたいなぁ…」
恐らく自分を捕まえているのが誰かも確かめていないようで、あんまりにもな言い分にるるいえは呆れて触手の力を緩めた。
「え?違うのだ?」
触手の拘束から逃れたあるくはいそいそとズレた帽子を被り直しながらきょとん、とした。
「よく見て下さぁい!私ですよぉ!私ぃ!」
ずいっと目の前にまで顔を近づけて主張すると何事もなかったかのようにあるくは喋りだした。
「あ、るるいえさんなのだ。なんか用なのだ?」
待ってましたとばかりにるるいえは意気揚々と用件を話し出す。
「今日バレンタインなのでぇ…「渡すチョコ持ってないのだ!悪いネ!!!!!」
最後まで聞かずに走り出すあるく。また少し呆れてるるいえは走り出したあるくの腰を触手で掴んだ。
「私が渡す予定だったんですがぁ?」
るるいえの言に一瞬止まるが、あるくは再びじたばた暴れる。今度はるるいえが相手だと分かっているのか、力に加減がない本気のじたばたである。
「あるくさん騙されないのだ!これは巧妙な罠なのだ!この後莫大なマーを請求する流れまで見えてるのだ!!!!!」
大声で喚き散らすあるくに、負けじとるるいえも声を張り上げて反論した。
「そんな事しませんがぁ!?大体、あるくさんいっつもマーナイなんだからぁ、毟るマーなんて無いの知ってますぅ!」
「はぁ〜????そっちだって最近あるくさんよりマーナイな事多めなの知ってるのだ!!!!」
「そんな事言って大して私と所持金変わらないの知ってるんですからねぇ!!!!」
そこまで2人で喚き散らし続けていたが、お互い疲れたのかぜぇはぁと肩で呼吸をしながら罵りあいが止まる。
先に息を整えたあるくが沈痛そうな面持ちで宣った。
「…この話やめるのだ、お互い虚しくなるだけなのだ。」
「そうですねぇ…」
停戦の後のどんよりした雰囲気の中、ふと思い出したようにるるいえはピンクの小袋を取り出してあるくに差し出した。
「あ、はい、これチョコですぅ〜タダであげますよぉ〜」
タダと言う言葉に反応したのかにこにこした雰囲気を纏わせてあるくは受け取った。
「有難く受け取るのだ!」
しっかりと受け取ったのを確認してるるいえはあくどい笑みをニヤリと浮かべて言った。
「じゃ、ホワイトデーのお返し、楽しみにしてますよぉ〜!3倍返しとか巷では言うみたいですからねぇ!」
「謀ったな!!!この触手!!!!!」
怒鳴ったあるくを見て、るるいえはしてやったりときゃらきゃらと笑った。
「なははぁ!嘘ですよぉ〜!美味しく食べてねぇ〜」
返事を待たずにるるいえは今度こそ去っていった。ぽつんと1人残されたあるく。手持ち無沙汰に貰った小袋をがさごそとあけて、中のチョコレートを1つ口に入れた。
「あ、美味いのだ。」
ぽつりとした呟きが、青い空に吸い込まれていくのだった。
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5. 九十九さん
親竜国家バハムートへの道のりはかなり険しかった。周りに活発な国家が多いせいか、少し歩けば大抵誰かとぶつかる羽目になった。
その大抵の相手が実力者のため、るるいえはかなり疲れ切っていた。
「ぜぇ…はぁ…だいぶんかかりましたねぇ…お散歩勢が活発のなんのぉ…」
「あ、いましたぁ!竜王ちゃ…竜王様ぁー!」
声掛けに件の竜王、九十九怜は振り返った。
るるいえの方を見留めると直ぐに銃を抜き、戦闘態勢になる。
「…敵か。彼我の実力差も分からぬ愚者に竜の裁きを」
慌てたのはるるいえの方である。あたふたとしているうちに銃弾が数発飛んできた。
「待ってぇ!?敵じゃないで…あぶなぁい!?竜王ちゃぁん!敵じゃないですぅ…ぉわぁぁ!?ごはぁっ!?」
回避に失敗して一発ぶち当たった後、ようやく竜王が銃を下ろした。どうやら敵対の意思がない事に気づいたらしい。
珍しいものをみた、と言うような顔で竜王はるるいえに話しかける。
「…触手の遊技場の盟主か。光と影が交叉するこの時分、俺に何の用だ?」
ここまでに来た疲労と先程の事で息も絶え絶えのるるいえはやっとの事で答えた。
「ぜぇ…ぜぇ…そのぉ…バレンタイン…なのでぇ…」
あまりにも聞き取りにくいそれに眉をしかめた竜王は一蹴した。
「呼気を整えてから発言しろ。こうも聞き取りにくいと二度手間にしかならん。」
「へへ…ありがとうございますぅ…すぅ…はぁ…」
「……。」
じっと待つ竜王、肩で息をするるるいえ。暫し奇妙な沈黙が山中に広がった。
ようやく一息つけたるるいえが口を開いた。
「よぉし!竜王ちゃ…」
言いかけたるるいえの頬を銃弾が掠める。
口を開けたまま硬直したるるいえを尻目に、いつの間にか抜いていた銃を仕舞って竜王は目線を流した。
「ちゃん付けを許した覚えは無いぞ、触手の盟主。」
「ダメですぅ…?そこはこぉ、お慈悲的なあれはぁ……なさそうですねぇ!撃たないでぇ!」
再び構えられた拳銃に撃ち抜かれては堪らないと、るるいえは今度こそ本題を喋りだした。
「おほん、…んーっとぉ、竜王様、本日はぁ、バレンタインデーという事で贈り物をご用意いたしましたぁ〜!お受け取りいただけると恐悦しご…くぅ?のぉ…」
るるいえが首を捻りながらどうにかこうにか畏まった口上を述べようとして失敗しているのをため息で遮って竜王は手を突き出した。
「御託はいい。貴様の貢物、受け取ろうではないか。」
「えへへ、ベタにチョコレートにしましたよぉ〜」
にへにへと笑ってるるいえは竜王の手の上にピンク色の小袋を置く。中身はデフォルメされたタコ型のチョコである。
「…甘味?竜の王への貢物にしては随分と可憐な形だが…まあいい。王として貢物には礼をせねばな、感謝しよう。」
ぶっきらぼうに謝礼を述べながら懐にチョコをします竜王に、るるいえはつい嬉しくなってひょこひょこと飛び跳ねた。
「やったぁ〜!」
「で、だ。俺は借りを作りたくない主義でな。」
「へ?」
脈絡のあるようなないような、そんな話の切り出し方に首を傾げるるるいえ。
「聞けば貴様、ヴォイドコアを未だに倒せてないようだな?」
「え、へへへぇ…ちょぉっと最近事故気味でぇ…」
ポリポリ頬を書きながら言い訳するるるいえ。
事故気味とは言っても面倒臭いのが一番の理由であるのは内緒の話ではある。
そんな内心を知ってか知らずか、竜王はニヤリと不敵な笑みを浮かべて言った。
「連れて行ってやろうではないか。」
怠惰で傲慢と噂に流れる竜王からそんな提案をされると思っていなかったるるいえは、慌てて遠慮した。
「えぇ?いやぁ、ほら、竜王様も忙しいでしょうしぃ?」
竜王は眉を顰め、ずんずんと近づいてくる。あわあわしているるるいえの首根っこを無造作に掴み、引きずりながら8層の方向へと歩き出した。
「借りを作りたくないと言っただろう。俺は恩に報いぬ不義理者では無いぞ。」
至極真っ当な、それでいて竜王らしい言い分にるるいえは抵抗するのをやめて肩を落とした。
「はわわぁ…お供させていただきますぅ…」
山の端に日がかかり、ゆっくりと夜へと移り変わっていく。暮れかけの夕日が2人の影を濃く写し出すのであった。
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6. 銀月さん
時刻は夜、ランドのキャンプ場、川の畔。閉園作業が全て終わったあと、るるいえはそこの警備を担当しているエルフにチョコレートを渡すため、彼女を探していた。
1口に川と言ってもそこそこの長さ、少しの間探し回った後に岩場に座って月見酒を楽しんでいるエルフを見つけた。
「…おや、園長だ〜!、えるふに何か用事かの?」
こんな時間に珍しいとばかりに銀月は言う。
「ばれんたいんって事でぇ、チョコレートを渡しにきましたぁ!きゃわわなタコさん型で自信作ですよぉ〜!」
ピンク色の小袋を揺らしてるるいえは自慢気に言った。
「ふむ、ちょこれーとか!この前旅行に行った国でも作って食べた記憶があるのぅ…」
旅行へボコスカの傭兵へと、あちらこちらへ出かけている銀月はこの前どこへ行っていただろうか、と少し考え、思い出す。
「おぉ、エステレラでしたっけぇ?」
それかティルナノグか…と、るるいえが宙を睨んでいると銀月は鷹揚に頷いた。
「うむ。その時にばれんたいん…の事も聞いてな?せっかくなのであっちでちょこを作ってみたのじゃよ」
「ほぉ〜!銀月ちゃんもでしたかぁ!」
偶然に喜んでいると、銀月が懐から小さな箱を取り出した。
「上手くできた自信があるのでな、園長にもぷれぜんとなのだ。」
パカりと小箱を開けると茶色いタイル型のチョコレートが見えた。
生チョコのようで、初めて作った、と聞いたはずだがかなり見た目は綺麗に見える。
「わぁい!ありがとうこざいますぅ!…早速食べてもいいですぅ?」
「口にあえばよいのだが…どーぞ。」
るるいえがひょいと1個摘んで口に入れると、口の中に滑らかなチョコレートの味が広がる。
上品な甘さのそれを転がして転がして楽しんでいるとふと、チョコレートでは無い味を口の中に感じた。
覚えのある味だったので眉間に皺を寄せて考えていると、ふと銀月の持っている瓶に目がいき、得心がいった。
「…?お酒入りですぅ?」
「よく分かったのぅ…良い組み合わせじゃろ?」
なるほど、と納得した。ウィスキーボンボンがあるように、銀月の酒が何かはわからないがチョコレートとかなり合う。
銀月と同じ無類の酒類好きであるるるいえもまた、気に入ったと顔を綻ばせた。
「美味しいですねぇ!このチョコ!」
「酒とチョコの組み合わせにハズレはないからのぅ。」
もうひとついかがと差し出された小箱から、また1つチョコを美味しそうに食べるるるいえ。
その様子を見て銀月は機嫌良さそうにぐいっと手持ちの瓶から1口酒を飲む。
3個目のチョコを口の中に放り込んだ後、るるいえは本題を忘れている事に気づいた。
「あ、私の方が銀月ちゃんに渡すの忘れてましたぁ…。はい、どぉぞぉ〜!」
気を取り直してピンクの小袋を銀月に渡するるいえ。中をごそごそと探り、小さなチョコのタコの群れに微笑みを浮かべる。
「おぉ、ほんとに可愛いタコちゃんじゃのぅ。せっかくなのて食べたいところ…。して、園長。」
「なんですかぁ?」
首を傾げるるるいえにニヤリと銀月は笑って言った。
「お酒。飲みましょ。ほらほら。」
寄越せとばかりに手を差し出してくる銀月。
まるで自分が持っているかのような言い分に、るるいえは大袈裟に驚いた。
「え゛!?…あ、ありませんよぉ???」
「園長。えるふは園長が酒を隠してる事を知ってるのだ。」
「なんの事ですかねぇ…」
分かりやすく目を逸らするるいえ。銀月は全てお見通しだとばかりに差し出していた手を閉じてるるいえの懐を指さした。
「その蜂蜜酒をこっそり作ってはこっそり楽しんでおるのを知ってるのだ。酒についてえるふに隠せると思わない方がいいぞぃ。」
「し、仕方ないですねぇ…じゃ、一緒に飲みましょうかぁ〜!」
がさごそとるるいえの懐から出てきたのは綺麗な金色をした蜂蜜酒であった。
どこから出したのか、ちいさなグラスを2つ取り出して1つを銀月に渡す。
「他の人達に言わないでくださいよぉ…あんまり量はないんですからぁ…」
「心配ないぞ。えるふは賢い。」
酒を注ぎながらも眉を垂らして心配そうなるるいえに銀月は自信ありげに答える。
その返答に考えるのが馬鹿らしくなったのか、るるいえは吹っ切れたように笑った。
「うぅん…まぁ後のことは後で考えるとしますかぁ!とりあえずかんぱぁい!」
その言葉と共に金の酒が注がれたグラスがカチン、と音を立てたのであった。
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7.デコポンさん
遠目からでもハッキリわかる見慣れたオレンジ色のまぁるいフォルムを見つけ、るるいえは声をかけた。
「お、いたいたぁ!おぉい!デコポンさぁん!」
一見蜜柑のようだが、ぷるぷるしたスライム状のボディを持つ探し人…デコポンが振り返った。
「ん?るるいえさん?どしたの?なんか用?」
「今日はバレンタインって事でぇ、お世話になってるお礼にチョコレートあげますぅ!」
可愛くラッピングされたピンク色の袋をデコポンに手渡した。
嬉しさを体で表すようにぽよぽよと跳ねながらデコポンは受け取る。
「わぁ!ありポンね︎ ︎開けていい?」
「いいよぉ〜!自信作ですぅ!」
手が無いはずの体で器用にリボンを解くと、茶色、ピンク、緑の沢山の、小さなタコ型のチョコレートが袋の口から覗く。
「ちっちゃいタコがいっぱいだ!可愛いね!」
素直な感想に嬉しくなったのか、るるいえはふふん、と胸を張った。
「でしょでしょぉ?味も3種類あるのでぇ、飽きることないですよぉ〜!」
「いいね!子デコポン達と分けて食べよーっと!子デコポン達、集合〜!」
「ヤッター!!!!!!!」
「ワァイ!!」
「フトッパラー!!!!!!!」
デコポンが声をかけると、デコポンをそのまま小さくしたような子デコポン達がわらわらと集まってきた。
デコポンの群れをにこにこと見ながらるるいえはふと、疑問に思った。
遠慮するような仲ではないため、ぷよぷよと子デコポン達と交流しているデコポンに聞いてみる。
「渡した私が言うのもなんですがぁ、デコポンさん口ありましたっけぇ?食べれますぅ?」
途端にデコポンの目頭がキッ、と吊り上がり、ぽよぽよ跳ねる動きが抗議するような跳ね方に変わった。
「失礼な触手!!!ちゃんと口くらいあるよ!…見えづらいけど」
「んん〜?」
そんな事を言われてもわからないとばかりにるるいえがデコポンの回りをぐるぐる回る。
デコポンは少し体を伸ばし、ここにあるよ!と言わんばかりの主張をして見せた。
「ほら!ここ!」
示された場所をよくよくみてみると口のようなものがあった。確かにお喋りの動きに合わせて開閉を繰り返しているため、口のようである。
るるいえは納得したような納得していないような顔になった。
「おぉ、ほんとですねぇ〜!確かに見えづらい…かもぉ…」
「困ってないからいいの!」
元気よく跳ねるデコポンの口を観察していると、るるいえの鼻腔を仄かに、熟れた柑橘のような匂いがくすぐった。
ふと、るるいえは記憶を漁る。確か元の世界の、外国辺りになにかこう、柑橘のチョコがあったようななかったような。
「うむむ…?そういえば柑橘とチョコってぇ…」
デコポンそっちのけで思案し始めたるるいえ、その呟きを聞いてデコポンは硬直した。
「わ!嫌な予感!!子デコポン達、撤退ー!!」
「ニゲロー!!!!!!!」
「クワレルー!?!?」
「ワー!!!!!」
小さく砂埃をあげながら跳ね去っていくデコポン達。だいぶん距離が空いたあと、るるいえが思い出したかのように顔を上げた。
「デコポンさぁん…ちょっと試したいことがぁ…あれぇ?」
遠くの方に砂煙の名残のようなものが見える。既にデコポン達は遠くに立ち去ったようである。
「逃げられましたかぁ…勘のいい柑橘ですねぇ…」
そんなことを言いながらも微塵も残念そうな素振りを見せず、くすくすと笑いながらるるいえは次の探し人を目指して歩みを進めるのであった。
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8. ニドさん
「「おや」ぁ?」
ばったりと、本当に偶然道の角で見知った顔に会った。しろい月の国に所属しているニドという旧知の人間である。
探していた顔の1人ではあったのでちょうどよかった。
彼女とはかなり色々あって旧友のような、腐れ縁のような、そんな変な関係性である。
そのためバレンタインのチョコレートを渡そうと、探していた所であった。
「奇遇ですねぇ〜」
「そちらこそまぁ珍しい事で。こんな所まで干からびる危険性を背負ってまで何故お越しに?」
早速皮肉でお出迎えしてくれた彼女にピンク色の小袋を突き出してぷらぷら見せつける。
「バレンタインのチョコレートを渡しにきたんですよぉ〜!…日頃お世話になってなくもないのでぇ。」
「ま、随分と西洋かぶれな催しで。悪くは無いと思いますがね。ちよこれいととは縁遠いものでしたが、頂けるものは頂きましょう。」
ニドはことも無さげな涼しい顔で皮肉と共にピンク色の小袋を受け取ると、中からひとつ、チョコレートを取り出してしげしげと眺める。
「ふむ。蛸ですか。私の知ってる蛸はこんな可愛くなかった覚えが…」
乙女心に疎い言い分にるるいえはぷんすこ怒った。
「でふぉるめってやつですぅ!!!きゃわわにデザインしなおしてるだけですよぉ!」
「ほぉ、でふぉるめ。また面妖な。」
「結構なんでもきゃわわにできちゃいますぅ!」
デフォルメにはあまり興味が乗らなかったのか、そんな事よりといった風にニドはひとつ、提案をしてきた。
「あぁそうだ、どうでしょう、せっかくお越しになられたのですし、ここはひとつサイコロ勝負はいかが?貴方が勝ったらばれんたいんのお返しという事でいい物を差し上げましょう。」
「ほぉ〜?私が賭け事クソ雑魚だと知ってて誘ってますぅ〜?」
何を隠そうこのるるいえ、2択の賭け事はほぼ100%外すとかいう悲しい性を背負っている。
ニドはあくどそうな笑みを浮かべて一蹴した。
「勿論よく存じておりますとも。なぁに、丁半に上手い下手もありませんし、1回だけですから。」
「うーん、じゃあまぁ1回だけぇ…」
あんまりにも楽しそうに手元の賽子を玩ぶニドに、るるいえはつい、1回だけならと頷いた。
が、いつもの個人戦チーム戦の賭け事ならともかく、サイコロを使った賭けについてはぼんやりとした知識しかないため、おずおずと質問する。
「丁半、2個のサイコロの合計値で勝ち負けが決まるんですよねぇ?丁がぁ…奇数?」
「丁が偶数で半が奇数ですよ。10を基準として「丁」度が偶数、「半」分が奇数と覚えれば触手にも分かりやすいかと。」
「ほへぇ…確かに分かりやすいですぅ!」
なるほど、確かに1発で分かりやすい。ふむふむと感心していると、ニドが鼻で笑い出した。
「ま、今適当に考えたんですがね。」
「こ、このぉ…」
いつものおちょくりではあるが素直に褒めたというのにあんまりではないか。
「でも分かりやすかったでしょう?思わず感心した声を出すくらいには。」
「むきぃーっ!!!悔しいですぅ!!」
「さて与太も程々に振りましょうか、さぁ丁半どちら?」
鮮やかな手つきで賽子を振り、壺を伏せるニド。もう後には引けそうにはない。
「うーん…半でぇ!」
こうなればヤケである。ぱかりとニドが壺を上げると出てきたのは2と4の出目。丁である。
「残念、丁ですね。お返しはお預け、残念無念また来年、という事になりましたが今の気持ちは如何?」
「負けた事よりその煽りの方が腹立ちますぅ!!!」
きゃんきゃんと吠えたてているとニドは満足したかのように手をひらひらと振って背を向ける。
「ならばよし。それでは私はこの辺で。帰り道干からびないようにご注意くださいね。」
「ちくしょぉですぅ…」
最後まで皮肉を忘れなかったニドにぐぬぬと唇を噛み締めながらも、用が済んだ事であるし帰路につこうと背を向けるるるいえ。
が、ポケットになにか違和感のある事に気づく。
「んぅ?ポッケになにかぁ…」
中を探ってみると、透明なラッピング袋に包まれた賽子が2つ、丁寧に入れられていた。
「あ、あの愉悦女ぁ…!!!!」
愉しそうにニヤリと笑うニドの顔が、脳裏にチラついて来るのであった。
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9. アシディさん
コンコンコン。
アシディの家の扉がノックされる。
「今出るのだー!」
アシディが玄関の方にぱたぱたと向かっていると、外から大きな物音のような、悲鳴のような音が聞こえた。
「ぐぺっ!?」
「ど、どうしたのだ!?」
慌ててアシディが扉をあけると、いつかみた触手ちゃんがそこにはいた。
めかしこんでいるつもりか、シルクハットのような何かを頭?の上にちょこん、と乗せている。
そんな珍しい触手の装いに不可思議な物音の事をすっかり忘れ、アシディはにっこり笑った。
「触手さんなのだ!こんばんはなのだ!」
「プギュ!!」
元気よく返事する触手。とはいってもこの触手、いつもは特に見かけないためアシディは首を傾げた。
「おうちまで来るなんて珍しいのだ!どうしたのだ…?」
「リリ!!」
得意そうに鳴いて触手が差し出してきたのはピンクの可愛らしい小袋であった。
赤いリボンでラッピングされており、少し膨らんだそれには小粒の何かがぎっしり入っている事がわかった。
「わぁ!貰っていいのだ?」
「ピィ!!!!」
ぷにぷに跳ねる触手に愛着を覚えながらアシディは袋のリボンを解いた。中から茶、ピンク、緑の3種類のチョコレートが出てきた。どれも可愛らしくデフォルメされたタコの形をしている。
「可愛いタコさんチョコレートなのだ…!」
キラキラした目でチョコレートを眺めながらひとしきり喜ぶアシディ。
ふと思い出したようにチョコレートの小袋をそっと棚に置いて奥へと走り出す。
「あ、ちょっと待ってるのだ!!!いいもの持ってくるのだ!!!」
「???」
触手が無い首を器用に傾げていると、すぐにアシディは戻ってきた。
チョコレートの小袋と同じくらいの、透明な袋に入ったクッキーである。
「はい!これお礼なのだ!」
「!!!!」
触手は非常に嬉しかったようで、ぴょん、と跳ねるとアシディの胸元に飛びついた。
「わぁ!急に飛びついてくると危ないのだ…ふふふ、くすぐったいのだ〜」
窘めるように注意はするが、その実満更でもなさそうなアシディに触手も楽しそうにじゃれつく。
暫く2人でじゃれ着いていた後、ひょいと触手を持ち上げてアシディは言った。
「今度はるるいえちゃんも一緒に遊びにくるのだ!!!待ってるのだ!!!」
「!?!?ピギュ…」
途端に気まずげな、何か不安そうな声を出した触手にアシディも少し心配になった。
「??どうして元気なくなったのだ…?るるいえちゃん元気ないのだ…?」
慌てたように触手のうちの1本ををぶんぶんと振る触手にアシディは少し安心した。
そのまま触手を家の戸口にそっと置き、見送ることにする。
「それならよかったのだ!気をつけて帰るのだ!」
元気よく手を振るアシディを名残惜しげに何度も振り返りながら、触手はランドへの帰路へ着くのであった。
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10. うさぎさん
「もしもぉし!うさぎさんいますかぁ〜?」
山奥の隠れ処。年中雪が積もっているそこに、るるいえはleveretを探してザクザクと雪を踏みしめていた。
ぺたりぺたりと新雪の冷たさを直に楽しみながらさ迷っていると、少し離れたところに真っ白な塊がにゅっと生えてきた。1m程の大きなもふもふうさぎ、leveretその人である。
「いるで〜!なんや、るるいえちゃんか。山奥に来るなんて珍しいな。なんかあったんか?」
新雪と見間違う程に真っ白な体躯を軽やかに跳ねさせ、るるいえの前に降り立つ。目前に迫ってきたもふもふにでれでれしながら、るるいえはピンクの小袋をひょい、と取り出した。
「バレンタインという事でぇ!チョコレートをもってきましたぁ!」
無邪気な笑みを浮かべて袋を差し出してくるるるいえに、leveretは鼻をもひもひさせながら少し戸惑ったように告げる。
「おぉ〜!もうそんな時期やったか…。でもなぁるるいえちゃん、普通のうさぎはチョコレート食べれへんで?」
「え、そうだったんですかぁ…知らなかったですぅ…」
初めて知った事実にるるいえの触手が少ししょぼくれる。余談ながら、るるいえは全生物がなんでも食べられると思っているタイプである。
leveretはそんなるるいえを元気づけようとしたのか、きゃらきゃらと明るく笑って続けた。
「ま、ワイは食べれるけどな!有難く頂くで〜!」
「よかったぁ〜!」
露骨にほっとしたるるいえをにこにこと眺めるleveret。
器用に前足でごそごそとリボンを解き、中のチョコレートを確認する。
「ほ〜?タコちゃんの形しとるんかぁ!」
感心したようにチョコを眺めるleveretに、るるいえは嬉しくなって触手髪をわさわささせた。
「きゃわわでしょぉ〜!!!」
「せやなぁ!1個食べてみてもええか?」
「勿論ですぅ!美味しさは保証しますよぉ!」
その言葉に、leveretはひょいと1つ口に入れると、もひもひと頬を小刻みに動かして咀嚼する。
美味しかったのか、目を細めてほぉっと息を吐いた。
「お、美味…いい塩梅の甘さやなぁ…」
「ふふ、いっぱい色々試作しましたからねぇ!」
leveretがもぐもぐ食べているのを嬉しそうに眺めながらもどこか、そわそわした様子のるるいえ。
視線がちらちらと、ふわふわのしっぽや毛皮に向かっている事に気づいたleveretは、仕方ないなぁとばかりに優しく笑って言った。
「あー、せっかくやし、もふってくかー?るるいえちゃん、もふもふ好きやったやろ?」
「わぁ!!!いいんですかぁ!!!」
その言葉を聞き、途端にキラキラと目を輝かせてるるいえはにじり寄ってきた。
「ええで〜!チョコレートのお返しみたいなもんやと思ってや〜」
「えへへぇ…じゃあ早速ぅ……!」
快諾してくれたleveret。では早速とばかりにleveretの毛並みに顔を埋める。真っ白でよく整えられたそれはるるいえをもふっと柔らかく、優しく包み込んだ。
「ふぁぁ…もっふもふですぅ…」
「せやろせやろ!自慢の毛並みやで!」
思わず感嘆の声を漏らしたるるいえにleveretは自慢げに言う。
冬毛なのか、leveretの毛並みは真綿のように柔らかく、細かなふわふわとした毛が沈めた頬を優しくくすぐる。leveretの体温か、じんわりと暖かい毛の中に心地よくなったのか、るるいえは思わず大きく息を吸った。猫吸いならぬ兎吸いである。
「はふぅ……すぅぅぅぅぅ」
leveretが驚いたように飛び退る。
その毛並みはぼわっと逆立っており、おそらく鳥肌も少したっているだろう。さすさすと吸われた辺りを幾度かさすった後、少しだけ不服そうにるるいえに物申した。
「おわ!?!?吸うんやったら一言先に言っといてや!?」
「あっ…えへへぇ、つい…」
飛び退ってから今に至るまできょとん、としていたるるいえが、照れくさそうに、申し訳なさそうに頭をぽりぽり搔く。
そんな様子にやれやれしょうが無いと、leveretは苦笑していたが、ふと気になったのかるるいえへ質問を投げかけた。
「ほんとにもふもふが好きやんなぁ…なんかきっかけとかあるんか?」
「えぇ〜?きゃわわな女の子はもふもふと甘いものが好きなもんですよぉ〜♡」
何を当たり前の事を、とばかりにるるいえが言う。
「うーん、そんなもんか…?まぁそんなもんかぁ!」
再びもふもふを堪能しようと顔を埋めたるるいえに、やっぱりleveretは仕方ないなぁ、とばかりに優しい笑みを浮かべているのであった。
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11. コーラルさん
山奥の隠れ処の一角、小さな木の家。まだまだ雪の残る寒い時分に、るるいえはその家の前に立っていた。
「コーラルちゃん、いますかぁ〜?」
木の扉をノックすると、暫くして家主がひょっこりと顔を出した。
「はーいっっっ!あ、るるいえちゃん?珍しいね?」
珊瑚色の髪と同じ色の狐耳を揺らしてコーラルがにこにこと笑う。
訪問者は目的である小袋をひょいと掲げた。
「バレンタインって事なのでぇ、チョコレート渡しにきましたぁ〜!」
るるいえがそう言うと、コーラルは年相応にキラキラした目で喜んだ。
そそくさと小袋を受け取り、そっと抱くように握りしめる。
「え、いいのーっ!?ありがとうですよーっ!」
いそいそと包みを解き、中身を覗いて歓声をあげるコーラル。
「タコちゃんだっ!可愛いのです…っ!」
中身のタコ型のチョコはどうやら喜んでもらえたようである。
可愛らしい反応に嬉しくなってるるいえは興奮気味に口を開いた。
「そのまま食べるもよし、ミルクに溶かすもよしですよぉ〜!自信作ですぅ!」
それを聞いたコーラルはふむふむ、と言う反応の後、何か考えるように目線を宙にさ迷わせる。
「…?」
首を傾げるるるいえに、コーラルはいたずらっ子のように微笑んだ。
「いい事思いついたのですっ!るるいえちゃん、時間ありますのー?」
「暇ですよぉ?」
るるいえが答えると、コーラルはるるいえの背中を押して自らの家へと招き入れた。
「入って入ってー!ちょっと待っててくださいよーっ!」
るるいえをリビングの椅子に座らせ、自らは奥のキッチンと思わしき場所に引っ込んでいく。
暫く時間が経った後、奥から甘いスパイスの香りと共にコーラルがコップを2つ持って戻ってきた。
「できましたーっ!特製ホットチョコレートなのですっ!」
差し出されたコップには、チョコレート色をした飲み物が確かにたっぷりと入っていた。
オマケなのか、雪のように白いマシュマロが2つ、ぷかりと浮いている。
「わぁ!いい匂いですぅ!」
「でしょーっ!!ハーブとかスパイスとか、色々入れてみましたっ!」
1口飲んでみると、るるいえの口内に甘いチョコの味が広がった。続いてマシュマロと思わしき砂糖の甘さ、そして少しピリッとした引き締まるスパイスの味が続く。
体が芯から温まっていくようなそれに、るるいえは嘆息した。
「暖かくて甘くてぇ、美味しいですぅ…はふぅ」
「ならよかったですのーっ!…あまぁい!」
暫く2人は黙ったままホットチョコレートを飲んでいた。暖炉の火の爆ぜる音だけがパチパチと響く。
ふと突然思い出したかのようにるるいえがコーラルに質問した。
「そういえばこれぇ、何入れてるんですぅ?」
「えーっと、シナモンと、カルダモンと、ちょっとだけ胡椒と………後はいつも使ってるやつ適当ですっ!」
少し考えた後のコーラルの曖昧な返答に、るるいえの眉が少しピクリと動く。
「え、それぇ…ほんとに大丈夫ぅ…?」
心配そうな顔をしているるるいえに、コーラルは薄い胸を張って主張した。
「体に悪いものは使ってないから大丈夫ですよーっ!寧ろ健康になれるかも…?」
「ほえぇ…」
納得したような声を上げると、るるいえはパタリと机の上に突っ伏した。すぐにむにゃむにゃと寝息のようなモノが聞こえてくる。
「あれ、寝ちゃいましたーっ!?」
コーラルはゆさゆさとるるいえを揺するが起きる気配が無さそうなのをみて、パタパタと部屋に戻る。すぐに毛布を持って戻ってくると、るるいえにそっと毛布をかけた。
「おやすみなさいーっ!」
変わらず爆ぜる暖炉の音、触手の寝息と少女のくすくすと笑う声が暖かく響くのであった。
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12. あむろんさん
触手ランドキャストエリア内。るるいえは最後の一人にチョコレートを渡すため、人探しをしていた。時刻はお昼をちょっと過ぎた後、探しているあむろんは丁度休憩時間のはずだ。
「あむろんちゃーん?どこぉ〜?」
きょろきょろと声をかけながら歩いていると、探しているのを見つけたのか探し人自らこちらへと向かってきてくれた。
「「園長」!」
「何かあったー?」
「…こんにちは」
2人組のねず耳のキャスト、あむろんであった。
ビラ配りやデザインを担当している明るく元気な子と、機械整備を主に担当している口数の少ない大人しめな子。
園の創設当初は1人だったはずだが、あんまりにも忙しいのかはたまた転生時の影響か、いつの間にか2人になっていたキャストである。
「そういえば、ここに来るの珍しいね?」
「緊急事態…?」
確かにるるいえはいつもこの時間、ふらふらと園を巡回している。
少し顔を曇らせた2人に、るるいえは慌てて手を振って否定した。
「あぁ、不具合とかじゃぁ無くってですねぇ!日頃のお礼もかねてぇ、バレンタインのチョコレート、渡しに来たんですよぉ!」
その言葉に2人の顔がぱぁっと晴れやかになった。
「わぁ!「嬉しい」!」
「園長のまかない、いっつも絶品だからチョコも絶対美味しいよね!」
「……甘いの、好き。」
「ふふ、そんなに言われるとちょっと照れくさいですねぇ…どぉぞぉ!」
口々に嬉しそうな期待をされて、若干照れながらもるるいえは最後に残っていたピンクの小袋を2つ、それぞれに手渡す。2人はそれぞれ小袋を抱きしめて喜んだ。
「「ありがとう」っ!」
「開けてもいいかなーっ?」
「…包装も可愛い」
「いいよぉ〜!」
にへらと笑って頷くるるいえ。
それを見た2人が袋を開けると3色のカラフルなタコ型チョコレートが出てきた。
片方は早速1個取りだしてしげしげと眺め、もう片方は早速1個ひょいっと口に放り込む。
「「可愛い…」!!」
「ね!すっごく可愛いよね!!」
「うん、とっても…」
「わ、美味しい!抹茶とイチゴとプレーン?味もいっぱいだ!」
「食べるのちょっと勿体ない……かも」
「喜んでくれて何よりですぅ!」
2人が喜んでいるのを微笑ましげに眺めていると、突如2人が顔を見合わせて何やらアイコンタクトで相談をし始めた。
「…ん?どうしたのですぅ?」
当然どうしたのかと心配になったるるいえが声をかけると、2人は息をぴったり合わせてるるいえの方に向き直った。
「「…ちょっと待ってて」!!」
「へ、は、はいぃ!」
走り去っていった2人を見送ってるるいえはその辺に腰掛けた。さて、何をしにいったのだろうかと楽しみに待っていると、程なくして2人が戻ってくる。
「「お待たせしました…」っ!!」
「これっ!園長に受け取って欲しいなって!」
「……せっかくだからお返ししたくて」
2人の手から小包を受け取ってしげしげと眺める。淡いピンク色の小包は、るるいえの両手に収まるよりも少し大きいくらいであった。
「わぁ…!開けてみてもいいですぅ?」
「「もちろん」!!」
「寧ろ開けて開けて!!!」
「開けて欲しい。」
しゅるしゅるとリボンを解き、包装紙を破かないように丁寧に剥くと、中からはオルゴールが出てきた。包装紙と同じ薄ピンクと、ちょっと大人っぽい薄紫を基調としている。
蓋には触手のようなものをモチーフにした飾りが取り付けられているが、見ようによっては蔓草のようにも見える。
部屋の小物として置くのにちょうどいい、可愛らしくお洒落なデザインだった。
「か、可愛いオルゴールですぅ…!これ、2人で作ったのぉ?」
明らかに市販品ではないそれにるるいえが聞くと、2人は得意そうに肯定で返した。
「「うん」!」
「デザインと塗装、デコレーションを私がしたんだ〜!」
「…設計と機械部分は私が。」
ふんふんと感心しながらぱかりと蓋を開けてみると、明らかにるるいえをモチーフにしたであろう人形が音楽とともにくるくるとまわり始めた。
可愛らしい音楽と人形にるるいえの頬が緩む。
「綺麗な音楽ですぅ…人形もきゃわわぁ!大事にしますねぇ!」
暫くオルゴールを無言で楽しんでいた3人だが、あむろんの持っている端末がぴぴぴっと時間を知らせた。
「「あ、休憩終わっちゃう」」
「また閉園の時にねっ、園長!!」
「…今日のまかないも楽しみ。」
2人はひらひらとそっくりな仕草で手を振り、ランドエリアへと向かっていく。
2人を完全に見送って、るるいえもオルゴールの蓋をぱたりと閉じ、立ち上がって伸びをした。
「よぉし、午後の業務も頑張りますかぁ〜!」
オルゴールを懐にしまい、歩き出するるいえ。
今日はどこを巡回しようかと、その足取りは跳ねるような軽やかさであった。
ちょうど一年前のやつを引っ張り出してきましたぁ……
こ、今年もやるかぁ……