Monte Carlo Mally   作:Yaris Margatroid

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ついに幕を開けたWRC-H開幕戦・ラリー・モンテカルロDAY1。
公式戦初出走となるメリー(マエリベリー・ハーン)と蓮子(宇佐見蓮子)は、
銀灰色のランチア・デルタS4とともに、本番ステージへと踏み出す。

試されるマシン、答えを探すドライバー、
“翻訳者”としての自分と向き合うコ・ドライバー――

滑りやすい路面、跳ねるステアリング、癖の強い挙動。
それでもふたりは、何度もステージを重ねる中で、
少しずつ“言葉”を見つけ、マシンとの“会話”を成立させていく。

一方、霧の向こうに現れる謎の黒い影――トヨタ・222D。
その異様な速さと静かな存在感は、明確な言葉こそ発さずとも、
メリーたちの背後に確かな“意志”を刻み始めていた。

教授・岡崎夢美は語る。
このデルタS4は、ただのレプリカではない。
過去と現在をつなぎ、“亡霊”と共に生きるための“語り部”であると。

“語りかける者”としての責任。
“応えてくれるマシン”としての信頼。
そして、“未知なる敵”との邂逅――

亡霊は、いま確かに目を覚ました。
これは“過去の続き”ではなく、“いまの物語”として。



LEG9「風が裂く、その名は黒き222D」

モンテカルロ、DAY2。

午前6時、夜明け前の空はまだ群青に染まり、街はひんやりとした空気に包まれていた。

 

海風に乗って潮の匂いが流れる中、デルタS4のシルエットが静かに浮かび上がっていた。

車体に霜が薄く張り、吐息のように白く煙る排気だけが、そこに“鼓動”の存在を知らせていた。

 

メリーはボンネットに手をかけたまま、静かに呟く。

 

「……今日は、昨日よりもっと深く、君に届く気がする」

 

「話しかけるだけじゃだめ。“聞く”だけでもだめ。今日は“応え合う”のが目標だね」

 

隣に立つ蓮子も、まだ薄暗い車内にノートを抱えたまま立っていた。

その手元には、夜中に書き直された走行メモと、わずかな補足の走行補助記号が並ぶ。

 

「路面情報、スタートから3キロはほぼドライ。けど、その先で霜の再凍結あり。

2速ホールド、トルク抜けすぎたらリアが滑る」

 

「了解、今日は前よりブレーキ早めに入る。浮かせずに、抑えて、耐える走りをする」

 

「デルタ、きっと分かってくれるよ」

 

空が少しずつ明るみ始め、薄くオレンジが混ざり始めたとき――

遠くで低いエンジン音が響いた。

 

「……あの音、昨日の……」

 

蓮子が言い終えるより早く、霧の向こうから黒いシルエットが姿を現す。

 

トヨタ・222D。

黒一色のミッドシップ、無音に近い排気。

車高は異様なまでに低く、タイヤだけが路面を蹴り上げていた。

 

「止まらない……」

 

その通過は、まるで風のようだった。

 

メリーと蓮子が会話を交わす隙もなく、222Dはそのままリエゾンを抜けていく。

振り返ったふたりの視界に残ったのは、霧と、黒の余韻だけ。

 

「今の……完全に“気配”を消してた」

 

「でも、いた。……確実に“こっちを見ていた”」

 

デルタのエンジンが唸る。

亡霊は、再び目を覚まし、“風”を追いかけようとしていた。

 

『風が裂く、その名は黒き222D』

Part.2(修正版)

 

ステージ出走1分前。

デルタS4の車内は、深い静けさに包まれていた。

 

メリーはステアリングを握ったまま目を閉じ、呼吸を整えていた。

隣の蓮子は、ノートを確認しながら静かに声をかける。

 

「……準備、できてる?」

 

「うん。車も、私も。今日の目標はただ一つ――“あの黒いマシン”に近づくこと」

 

「222D……」

 

「リエゾンで先に出てた。だから、今は前にいる。

いいよ、後ろから追いかける。今度は、ちゃんと“見て”走る」

 

蓮子は、黙って頷いた。

 

「ペースノートも調整済み。とくに後半、ギャップの読み直し済んでる。

今度は“差を詰めるためのノート”で行く」

 

「頼りにしてるよ、通訳さん」

 

「どこまでも翻訳するよ、亡霊語」

 

係員がフラッグを掲げた。

 

「5、4、3、2、1――GO!」

 

クレストを越え、デルタS4はステージ中盤のテクニカル区間へと踏み込んだ。

谷間の道は、左右にくねりながら斜面を縫い、霜の残る路面が静かに牙を剥く。

 

「次、Left 2、出口ギャップ! 内側跳ねるかも!」

 

「了解、ライン残す!」

 

リアをやや振りながらも、車体は狙ったラインをなぞっていく。

ステアとブレーキの連携はすでに“会話”の域に達し、挙動のすべてが予測の範囲内だった。

 

「次、Right 3……あっ!」

 

クレストを抜けた先、霧の切れ間に――

黒い影がいた。

 

「……222D、見えた!」

 

「距離、200……いや、もっと近い。詰まってる!」

 

だがその動きは――異様に落ち着いていた。

 

滑らず、跳ねず、荒れもせず。

速い、けれど――“速すぎない”。

 

メリーはステアを握りしめたまま、唇を引き結んだ。

 

「……違う、昨日の222Dじゃない」

 

「うん。たぶん、あえてペースを抑えてる。

“見せてる”んだよ、あの子たち、私たちに」

 

「牽制……いや、“対話”? なんでそんなことを……」

 

蓮子の声に、メリーが低く呟く。

 

「……知ってるんじゃない? このチームの“指導者”が、誰かってこと」

 

一瞬、車内に静けさが満ちた。

 

「……夢美さんに?」

 

「そう。だから今、あの子たちは――“待ってる”のかもしれない」

 

デルタS4がアクセルを踏み込み、再び距離を詰めていく。

 

「よし……分かった。だったらその“対話”、受けて立つ。

全開で、君と“正面から追いつく”!」

 

銀灰色のマシンが唸りを上げる。

 

“亡霊”は、いま確かに“生者”の速度で、その背を追っていた。

 

ステージ後半。

クレストを越えた先には、連続する急勾配のダウンヒル――

 

「Left 3、下りでR2、ギャップ小さく! ライン崩れると外落ちる!」

 

「了解、早めに前荷重入れて、減速!」

 

デルタS4が、傾斜を斜めに滑り落ちる。

タイヤが地面を離れないよう、ステアリングはほんの僅かな動きで方向を制御する。

 

「……ブレーキ残して、リア浮かないように、メリー……」

 

「わかってる、浮かせない、押さえ込む……!」

 

その先、崖沿いのタイトターンの出口――

前方に、222Dのテールランプが再び見えた。

 

蓮子が声を低く落とす。

 

「……いる。すぐそこ」

 

「でも……動きが、妙に落ち着いてる」

 

その黒い車体は、まるで路面を滑るように走っていた。

跳ねない。跳ねるべきポイントでも、まったく乱れない。

“重さ”がないかのように――あるいは、“別の重力で走っている”かのように。

 

「なんだろう、あれ……あんな滑らかに下れるマシン、初めて見た」

 

「車じゃなくて……人間の入力そのものが、変なんだと思う」

 

「入力が……“最初から最後まで決まってる”みたいな?」

 

「うん。この先でどうなるか全部わかってる、って動き。まるで、地形を“覚えてる”みたいな」

 

222Dは、ステアもブレーキも“迷いがない”。

 

それはすなわち、リスクを見ていないということ。

その走りには、まったく“保険”が存在していなかった。

 

「……普通はそんな走り、できない。

でも、あの子たちは――“やってる”。」

 

「ほんとに“人間”が乗ってるのかな、あれ」

 

冗談とも本気ともつかない蓮子の声に、メリーは短く笑った。

 

「だったら、“私たち”がその答え、引きずり出そうよ」

 

「亡霊で、“生きてる”方が強いって証明しなきゃね」

 

銀灰と漆黒。

急傾斜を駆け下りるふたつのマシンは、もはや別々の存在ではなかった。

お互いを“認識した上で”、その走りを預け合っている。

 

亡霊と、異形の獣。

その交差は、次のコーナーで――“言葉になる”。

 

「この先、Right 2 short! 立ち上がり、路面ドライ!」

 

「了解、ここで一気に詰める!」

 

デルタS4が滑るようにラインをなぞり、加速のタメを作る。

下り勾配とわずかな逆バンクを活かし、タイヤのグリップを極限まで使い切る。

 

「次、Left 3、すぐクレスト、その先が……!」

 

その瞬間――

 

「……並んだ!」

 

コーナーの立ち上がり、視界の左端に漆黒のサイドボディが現れた。

 

「222D……! 横にいる!」

 

メリーはステアをぶらさず、アクセルを踏み抜く。

デルタS4の排気音が、222Dのエンジン音にかき消されることなく響き合う。

 

「この速度差……互角!? いや、ほんの少しだけ、こっちが勝ってる!」

 

「ほんとに……詰めたんだ……!」

 

わずかな距離――

ほんの数秒間だけ、デルタS4は222Dの横に並んだ。

 

まるで“向こう側がこちらの存在を許した”かのような、その時間。

 

だが次の瞬間、222Dは――音もなく姿勢を変えた。

 

「あ……!」

 

「ライン、変えた!?」

 

一切のスキール音もなく、222Dはほんのわずか外へ膨らみ、

その動きで――デルタS4の加速を、わずかに封じた。

 

「……譲った?」

 

「いや、“位置を調整された”」

 

蓮子の言葉に、車内が一瞬凍りつく。

 

「見せたんだ。“ここまでなら、来てもいい”って」

 

「……私たち、“許されてた”だけか……」

 

222Dはそのまま、ラインを守りながら再び前へ滑っていった。

まるで風が抜けるように。

そして、そこには――何の敵意も、勝負の熱も、残っていなかった。

 

「……あの車。

こっちの速度もラインも、何もかも……全部分かってたみたいに動いてた」

 

「“本気じゃない”。完全に、手加減されてる」

 

蓮子の声は悔しさに震えていた。

でもそれと同じくらいに、メリーの中にも熱が渦巻いていた。

 

「……なら、いい。

次は、“許されなくても”並んでやる。強引にでも、隣に出る。

今度は“自分の意思”で、勝負しに行く」

 

デルタS4のエンジンは、その言葉に呼応するように、静かに唸った。

 

ステージを終え、デルタS4がリエゾンへと滑り込む頃。

陽はすでに傾き始め、光が街の石畳を柔らかく照らしていた。

 

車を降りたメリーは、ヘルメットを脱ぎ、濡れた前髪を払った。

その目には、まだ興奮と、微かな悔しさが残っていた。

 

蓮子もノートを胸に抱えたまま、しばらく口を開かなかった。

ふたりの間には、222Dと並んだ“あの数秒”の感触だけが、焼き付いていた。

 

「……本気じゃなかった」

 

最初に口を開いたのは、メリーだった。

 

「こっちが並んだ瞬間、すぐに“間合い”を変えられた。

あれは反応じゃない。“計算”だった」

 

「動きだけじゃない。ブレーキのタイミングも、アクセルの戻し方も……全部、まるで“こっちの操作”を知ってたかのように合わせられてた」

 

「完全に、“遊ばれてた”……って言うと悔しいけど、そんな感じ」

 

ちゆりが、黙ってふたりの言葉を聞いていた。

そして、メンテナンスエリアの奥から、夢美がゆっくりと現れる。

 

「――どうだった。黒い獣の背中は、見えたか?」

 

「ええ。……でも、“触れなかった”。

手を伸ばしたけど、指先すら届かなかった」

 

「それは、向こうが止まってたからだ。

振り返ってくれることはなかった。……だが、“背中を見せた”こと、それがすべてだ」

 

「教授、あれは……手加減ですよね。

私たちが届いたんじゃなく、“届かせてもらった”」

 

夢美は、答えずにしばらく空を見上げていた。

そして、ゆっくりと言った。

 

「そうだ。あの222Dは、まだ本気を出していない。

――だが、それでいい。“今の君たち”が見せた走りを、向こうが“認めた”ということだ」

 

「認めた……」

 

「“試している”のは、向こうも同じ。

向こうの指導者は、おそらく私の存在を知っている。

だからこそ、“君たちがどこまで来るか”を、見ているんだよ」

 

蓮子が目を細める。

 

「教授……向こうの指導者って、誰なんですか?」

 

夢美は、それには答えなかった。

 

ただ、ふたりに背を向けて歩きながら、ぽつりと呟いた。

 

「――過去を知る者が、未来を測るとは限らない。

だが、過去と向き合える者だけが、“次の言葉”を紡げる」

 

その意味を、メリーも蓮子も、まだ完全には理解できていなかった。

 

けれどふたりの中には、たしかに新たな感情が芽生えていた。

 

“この車となら、まだ先へ行ける”。

 

モナコの夜。

サービスエリアに設けられた整備ブースでは、ランチア・デルタS4がジャッキアップされていた。

 

ちゆりが作業灯の下、インナーフェンダー奥に手を伸ばしながら、独り言のように呟く。

 

「ブレーキの熱、均一。前後バランス、文句なし。

右リアの減衰、午前より明確に“整ってる”。……まるで、走りながら馴染んだみたいだな」

 

蓮子が、その隣でタブレットのデータを確認していた。

 

「姿勢制御、リアの浮き上がり、午前より40%減少。

跳ねも、段差ごとの反動が抑えられてる……」

 

「“乗られてる”んじゃなく、“走ってる”んだな。今日のデルタは」

 

「うん、今日はほんとに……一緒に走ってた感じがした」

 

「で、“黒いやつ”は?」

 

「……手加減されてた。たぶん、それが一番悔しかった」

 

ちゆりは工具を置いて、ふっと息を吐いた。

 

「でもよ、相手が手加減するってのは、“無視してない”ってことだぜ」

 

「うん……だから、次は――正面から行く」

 

蓮子はペースノートを開き、そこに“新しいページ”を作り始めていた。

 

数字や記号だけじゃなく、走行中に感じたわずかな感覚――

ラインの揺らぎ、アクセルの抜き加減、ブレーキの余白。

 

それらを、“言葉”として紡いでいく。

 

(まだ届かない。でも、もう“何が足りないか”は分かってる)

 

明かりの下で、メリーが静かにデルタS4の前に立つ。

 

「……今日、君と走って、分かった気がする。

“速さ”だけじゃない。大事なのは、“言葉を交わすように走ること”」

 

エンジンが冷えていく音だけが、ブースの中に響いていた。

 

夜のサービスエリア。

奥の簡素なブリーフィングルームで、メリー、蓮子、ちゆり、そして教授・岡崎夢美がステージマップを囲んでいた。

 

テーブル上には、翌日のSS予定ではなく――“特別ステージ”の案内図。

 

「これが……」

 

メリーが目を細めて覗き込む。

 

「F1モナコGPと同じ、市街地コース……?」

 

「そう。明日――モンテカルロ最終日は、“スーパー・スペシャルステージ”として、

モナコ市街地を使用した並走形式の決戦ステージが行われる」

 

夢美が指でなぞるそのルートは、ローズヘアピン、トンネル、ヌーベルシケイン、ラスカス……

見覚えのあるコーナー名が並ぶ。

 

「市街地のコートダジュールを、2台同時に3周走る形式。

コース幅の関係上、追い越しも接触も“高度な管理下”で行われる。

だが――勝負はリアルタイムで観衆に晒される」

 

蓮子が、資料の上から口を開いた。

 

「……並走する相手、まさか――」

 

「――トヨタ・222D。篠原澪組だ」

 

室内の空気が一瞬止まった。

 

「嘘……そんな、“いきなり直接対決”ってこと……?」

 

「ありえると思っていた。今大会の上位2台を並べるなら、この組み合わせが当然だ」

 

ちゆりがぼそりと呟く。

 

「フランスの聖域、モンテカルロの市街地で、亡霊と影が並ぶってわけか……熱いねぇ」

 

メリーは、しばらく黙っていた。

 

けれど、その視線は迷っていなかった。

 

「……やるよ。今度は、“正面から”。

隠された背中じゃなく、並んで、戦う。今度こそ」

 

蓮子が微かに笑う。

 

「ようやく、言ったね。その言葉」

 

夢美は無言のまま、静かに頷く。

 

「いいか。あそこは、君たちのような“人とマシンが会話しているコンビ”にとって、

これ以上ない“公開舞台”だ。……全てを見せろ」

 

その言葉が告げられた時、

メリーと蓮子は、すでに戦いのビジョンを胸に描いていた。

 

亡霊と獣。

その並走が、ついに“真正面から”始まる。

 

 

 

深夜0時を回った頃。

港の一角、静まり返ったトヨタ・222Dのサービスエリア。

高い透明シートに囲われたその空間には、走り終えたマシンの冷却音だけが残っていた。

 

澪はレーシングスーツの上にパーカーを羽織り、マシンの横にしゃがみ込んでいた。

指先で黒いフェンダーの輪郭をなぞる。そこに“疲労”は見当たらず、むしろ“緊張の抜け殻”のような静けさがあった。

 

「――どうやら、明日は並走になるらしいぞ」

 

その声に、澪は顔を上げた。

 

宇佐見菫子。

自らの過去を語らず、それでいてすべてを知っている――その姿は、相変わらず影のように柔らかく、鋭い。

 

「……並走、ですか」

 

「F1と同じコートダジュールの市街地コース。3周。観客もメディアも集中する見世物ステージだな」

 

澪は少しだけ眉を寄せる。

 

「……222Dは、本気で走っていいんですか?」

 

「それはお前が決めろ。

ただ――お前の隣に並ぶのは、ランチア・デルタS4。

向こうのドライバーは、“夢美の娘弟子”だ」

 

その名前に、澪の目がわずかに動いた。

 

「……岡崎夢美」

 

「夢美のデルタだ。“かつての亡霊”が、いまの若い命を借りてもう一度走る。

その“復活戦”に対して、お前がどうするか――私は干渉しない。だがひとつだけ、伝えておく」

 

菫子の声が低くなる。

 

「……お前の走りは、もう“私の模倣”じゃない。

自分で感じ、自分で決めたラインを走っている。

だから――“譲る必要はない”。このレースは、お前のものだ」

 

澪はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと立ち上がる。

 

「……わかりました。

手を抜く気は、最初からありません。

ただ、今日は“背中を見せた”だけです。明日は、“並んで走る”番です」

 

「なら見せてやれ。“黒き獣”の牙を」

 

その言葉に、背後の仮眠スペースからエレナが顔を出した。

 

「えっ、ちょっと待って、今なんて言った? 明日って市街地コース? 並走?

ねぇ、それって、全世界生中継のやつで、リプレイが全方向から来るやつじゃないの?」

 

「そうだぞ、エレナ」

 

「やだー! 髪直してから寝る! 澪、ちょっとブラシ取ってー!」

 

「……これが、私のコ・ドライバーです」

 

冷静と騒音のコントラスト。

けれど、それでもこの222Dチームは、着実に準備を整えていた。

 

明日、亡霊と獣が正面から並び立つ――

それが、誰にとっても“本番の始まり”だった。

 

 




舞台は整った。
F1の栄光とラリーの誇りが交錯する――コートダジュール3周。
かつて“戦いを終えた者たち”のマシンと、今“勝ちを知らぬ天才たち”の走りが並ぶ。

「ようやく正面から向き合える。今日だけは、もう“背中”じゃない」

「でも油断は禁物だぜ。奴ら、たぶんまだ“本気出してない”」

夢美と菫子。
交わらぬままにすれ違ったふたつの記憶が、
今、弟子たちのステアリングを通して火花を散らす。

「勝つためじゃない。話すために、私は走る。
この車と一緒に、伝えたい“言葉”がある」

銀灰の亡霊と、黒き獣が――
栄光の街で、語り合うように並び立つ。

Monte Carlo Mally LEG10
『亡霊と獣、並び立つ朝』
開戦は、すぐそこだ。
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