Monte Carlo Mally   作:Yaris Margatroid

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LEG17 「アルゼンチンを越えて」

アルゼンチン・ビジャ・カルロス・パス。

まだ薄闇が残る早朝、特設ステージには強い照明が灯され、観客たちの歓声が響いていた。

 

「……寒い……」

 

メリーは、肩をすくめながら蓮子に小声で漏らす。

 

「ねぇ、これ、まだ夜じゃない?」

 

「たぶん、朝だと思う。……たぶん」

 

ふたりは、厚手のジャケットを羽織りながら控えエリアに並んでいた。

だが、その列の中央には、自分たちの名前はなかった。

 

当然だった。

 

あれだけのトラブルを乗り越え、

フィニッシュこそ果たしたものの、順位は――最下位。

6台中6位。

 

だけど、不思議と悔しさはなかった。

 

ただ、静かな誇りが胸にあった。

 

⸻

 

表彰式は淡々と進む。

 

1位、2位、3位の表彰が終わり、

ステージ横に控えていたスタッフが、マイクで呼びかけた。

 

「そして――」

 

「このアルゼンチンのタフなステージを、すべて走り切ったすべてのチームに、拍手を!」

 

わっと、観客席から大きな拍手が湧き上がる。

 

その中で、ふたりの名も呼ばれた。

 

「ランチア・デルタS4チーム!」

 

⸻

 

メリーと蓮子は、顔を見合わせた。

 

「……行こう」

 

「うん!」

 

ふたりはステージへと歩み出る。

 

与えられたのは、順位ではない。

小さな完走記念の盾と、満場の拍手だった。

 

司会者が短くコメントを促すと、

メリーは、微笑んでマイクを取った。

 

「私たちは、勝ったわけではありません。

でも、最後まで、諦めずに走りました。

このデルタS4と一緒に、ここまで来られたことを、誇りに思います」

 

短い、けれど、強い言葉だった。

 

また、拍手が沸いた。

 

⸻

 

ステージを降りたふたりを、夢美とちゆりが迎える。

 

夢美は無言だった。

 

ただ、ふたりをじっと見て、そしてうなずく。

 

「よく帰ってきたな」

 

それだけだった。

 

だが、その短い言葉に、すべてが詰まっていた。

 

⸻

 

ちゆりが照れ隠しのように笑う。

 

「ま、結果は最下位だけどな」

 

「でも、走り切ったもんね」

 

蓮子が胸を張る。

 

「そりゃあ、あの状態からよく走ったぜ。

普通ならとっくにリタイアだったからな」

 

ちゆりの言葉に、メリーも頷いた。

 

「……次は、もっと完璧に走れるように、がんばる」

 

「当然だ」

 

夢美が即答する。

 

「次は日本だ。お前たちのホームだぞ」

 

「はいっ!」

 

ふたりは声を揃えて答えた。

 

⸻

 

空は、ゆっくりと明るくなり始めていた。

 

冷たい空気の中、

デルタS4のボディに、朝の光が淡く反射していた。

 

傷だらけでも、

折れ曲がっていても、

このマシンは、ふたりとともに戦い抜いたのだ。

 

(次も、必ず――)

 

メリーと蓮子は、心に新たな決意を灯した。

 

⸻

 

Monte Carlo Mally、次なる戦場へ。

 

目指すは、

遥かなる祖国――日本。

 

表彰式を終えた後、チームMonte Carlo Mallyは速やかに撤収作業に入っていた。

 

「……タイヤ、これ全部持ち帰るの?」

 

蓮子が呆然としながら、パドックに積まれた大量のスペアタイヤを見上げる。

 

「当たり前だ。高かったんだぞ」

 

夢美はきっぱりと言い放ち、手際よくパーツをクレートに詰めていく。

 

その隣で、ちゆりはパーツリストをチェックしながら指示を飛ばしていた。

 

「割れたアンダーガードは廃棄、予備のダンパーも修理送りだな。あと、左リアのアームは……っと、記念に取っとくか?」

 

「いらないよ!!」

 

メリーと蓮子が即答する。

 

「だよなぁ!」

 

ちゆりは爆笑しながら壊れた部品をぽいっとスクラップ用コンテナに投げ込んだ。

 

⸻

 

デルタS4も、ダメージチェックを終え、コンテナに積み込まれた。

 

ボロボロになった車体を見上げながら、メリーはぽつりと呟いた。

 

「ありがとう。帰ったら、ちゃんと直してあげるからね」

 

それを聞いたちゆりがにやりと笑う。

 

「修理ってレベルじゃねぇけどな!……まぁ、任せとけ。何とかしてやるさ」

 

⸻

 

すべての荷物をまとめ終えたころ、

ホテルへの帰路につくために、チームは夢美のランサーエボリューションVに乗り込んだ。

 

「ほんとにこれで帰るんだ……」

 

「いいじゃないか。四駆だし速いし、空港までは快適だぞ」

 

「快適……?」

 

蓮子は助手席に乗り込みながら、かすかに不安そうに呟く。

 

(……まぁ、デルタS4に比べれば、何でも快適だよね)

 

そう自分に言い聞かせる。

 

⸻

 

アルゼンチンの国道を、ランサーは軽快に走る。

 

窓の外には、乾いたグラベルと、牧草地が広がっていた。

 

遠くに低く連なる山々。

 

その向こうには、遥かに広がる空と雲。

 

メリーは後部座席から外を眺めながら、ふと呟いた。

 

「……次は日本か」

 

「うん。次は、どんなステージなんだろう」

 

蓮子が助手席で、少しだけ引き締まった顔つきで答える。

 

夢美はバックミラー越しに、そんなふたりを見て、低く笑った。

 

「今回の日本戦はな――基本はターマックだ。舗装路だけだが、楽だなんて思うなよ」

 

「え……?」

 

メリーが思わず聞き返す。

 

「苔の生えた旧道、ひび割れた山岳路、濡れた舗装、急勾配……。

ターマックだからってグリップするとは限らない。

むしろ、アルゼンチンよりシビアな場面もある」

 

ちゆりも後部座席で、真顔で付け加える。

 

「雨が降りゃ、苔でスケートリンクだぜ。あと、道幅も狭い。コンクリ壁にタイヤ擦ったら終わりだ」

 

「ひぃ……」

 

蓮子が小さく悲鳴を上げ、

メリーは肩をすくめて苦笑した。

 

「……やっぱり、やるしかないんだね」

 

「うん。絶対に、走り切ろう」

 

窓の外には、飛行機雲がひと筋、空を横切っていた。

 

その先に、

ふたりが目指す未来がある。

 

⸻

 

こうして、Monte Carlo Mallyは

アルゼンチンを後にし、次なる戦場――日本へ向かう。

 

デルタS4とともに。

そして、確かに育まれた絆とともに。

 

日本、成田空港。

 

まだ陽が昇りきらない早朝のターミナルビルに、

夢美たちチームは降り立った。

 

「……やっぱ、湿気あるねぇ、日本は」

 

ちゆりがスーツケースを引きながら、しみじみと言う。

 

「空気が重い……」

 

蓮子も苦笑する。

 

一方、メリーは空港ロビーを見渡しながら、静かに深呼吸した。

 

(……帰ってきた)

 

でも、そこに安堵はなかった。

待っているのは、さらなる挑戦だ。

 

⸻

 

夢美は手短に指示を出す。

 

「荷物を受け取ったら、すぐに拠点へ向かう。時間はないぞ」

 

「えっ、休みとかないんですか?」

 

「ない。今日から次戦の準備に入る」

 

あまりにも即答だった。

 

蓮子はがっくり肩を落とし、メリーも苦笑いを浮かべた。

 

(……まぁ、想定はしてたけど)

 

⸻

 

空港からチームのベース地までは、

夢美のエボVに加え、輸送トラックが荷物とデルタS4を運ぶ形になっていた。

 

帰国直後から、動きは慌ただしい。

 

⸻

 

チームベース(工房兼ガレージ)に到着すると、

すでに先行して整備を進めるためのスタッフが、最低限の準備を整えて待っていた。

 

その中央には、

海を越えて戻ってきた、ランチア・デルタS4の姿。

 

傷跡だらけのボディ。

補修だらけのアンダーガード。

仮止めされたサスペンション。

 

メリーは、そっとその車体に手を添えた。

 

「……帰ってきたよ」

 

誰に向けた言葉でもなく、自然にこぼれた。

 

⸻

 

夢美がすぐに、今日からの方針を宣言する。

 

「まず、デルタの完全分解。フルオーバーホールだ」

 

「わかりました!」

 

ちゆりが即答する。

 

「そして――」

夢美はふたりを見た。

 

「次戦に向けて、マシンのアップデートも進める。

お前たちは、その過程にも立ち会ってもらうぞ」

 

「アップデート?」

 

蓮子が首をかしげた。

 

夢美は、ごく淡々と言った。

 

「デルタS4を、最終進化型――ECV仕様に引き上げる」

 

⸻

 

メリーと蓮子は、思わず息を呑んだ。

 

あのデルタを、さらに高める。

さらなるスピード、さらなる領域へ――

 

でも、それは同時に、

さらなるリスクと向き合うことも意味していた。

 

「……ほんとに、できるんですか」

 

メリーが問う。

 

夢美は、ためらいなく頷いた。

 

「できる。ただし――」

 

「?」

 

「お前たちが、デルタともっと深く“対話”できるようにならなければ、意味がない」

 

静かに、だが強い声だった。

 

「いいか、機械は進化する。でも、進化を使いこなすのは人間だ」

 

メリーと蓮子は、互いに目を見合わせた。

 

⸻

 

デルタS4は、ここからまた、新しい姿を目指していく。

 

そのためには、自分たちもまた、進化しなければならない。

 

(――やろう)

 

メリーは、心の中で強く拳を握った。

 

次のラリー、次の戦いに向けて。

 

⸻

 

工房の天窓から、

春めいた日本の空が、淡く光を注いでいた。

 

「――始めるぞ。デルタS4、ECV仕様への改修だ」

 

夢美の宣言とともに、チームMonte Carlo Mallyの新たなプロジェクトが動き出した。

 

舞台は、拠点である工房。

天井の高いガレージに、戻ってきたデルタS4が静かに佇んでいた。

 

⸻

 

【作業開始】

 

まずは徹底的な分解から。

 

「まずリアアームからバラしていくぞ!」

 

ちゆりの掛け声に、メカニックたちが一斉に動き出す。

フレームジャッキアップ、サスペンション分離、ドライブシャフト取り外し――

手際よく、けれど慎重に、作業は進んでいく。

 

「すごい……ほんとにバラバラにするんだ……」

 

蓮子が目を丸くしている。

 

「当然だ。損傷が目に見える箇所以外も、すべてチェックだ」

 

夢美は腕を組みながら、厳しい目で作業を見守っている。

 

(何か小さな見落としがあれば、次は命取りだ)

 

それを、彼女は痛いほど知っていた。

 

⸻

 

【エンジン周りの点検】

 

続いて、エンジン。

あのツインチャージャー搭載のモンスターエンジンも、すべてばらされる。

 

「ここはオーバーホールに加えて、少し手を加える。ECV仕様の出力特性に合わせるぞ」

 

「出力、さらに上がるんですか?」

 

メリーがたずねると、

夢美は淡々と答えた。

 

「ああ。アルゼンチン仕様でだいたい500馬力超。

日本仕様では、さらにターボ特性を最適化して、最大550馬力近くを狙う」

 

「……ひぇ」

 

蓮子が小さく悲鳴を上げた。

 

だが、メリーは、微かに目を輝かせた。

 

「やれるなら、やりたいです」

 

「なら、やるしかないな」

 

夢美が口元だけで笑った。

 

⸻

 

【変更点】

• エンジンブースト圧制御の改良

• 冷却系統の強化(日本の湿気対策)

• 足回り剛性の最適化

• そして――ボディ各部のECV仕様化(軽量化+エアロアップデート)

 

これが、今回のアップグレードプランだった。

 

(ただでさえ暴れ馬だったデルタが、さらに速くなる……)

 

蓮子は、正直言って怖さも感じていた。

 

だが、同時に――

 

(……乗り越えなきゃいけない)

 

メリーの隣に立ちながら、改めてそう思った。

 

⸻

 

【決意】

 

作業の手を止めた夢美が、チーム全員に向かって告げた。

 

「これは、単なる修理じゃない。

進化だ。デルタS4を、もう一段高い場所へ連れていく。

それに見合う走りができなければ、意味はない」

 

だから――

 

「お前たちも、ここから“別人”になれ」

 

それは、ドライバーだけではなく、メカニックにも向けた言葉だった。

 

ちゆりも、メリーも、蓮子も、

そして工房にいるすべてのスタッフが、緊張した面持ちで頷いた。

 

⸻

 

Monte Carlo Mally、再始動。

 

デルタS4とともに、新たな高みへ。

 

すべては、

次のラリー、勝つために。

 

春の気配が漂い始めた日本の某所、プライベートテストコース。

 

Monte Carlo Mallyのメンバーは、早朝から準備を進めていた。

 

新たに生まれ変わった――

デルタS4・ECV仕様。

 

その初めての“目覚め”を迎えるために。

 

⸻

 

ちゆりがエンジンフードを閉めながら、親指を立てた。

 

「整備完了。いつでも行けるぜ!」

 

「問題ないか?」

 

夢美が確認する。

 

「もちろん。オイル、冷却水、配線、ブレーキ、サス。全部チェック済みだ」

 

「よし」

 

夢美は短く頷くと、メリーと蓮子に目を向けた。

 

「ハーン君、宇佐見君。準備はいいか」

 

「……はい」

 

「はい!」

 

メリーと蓮子は、互いに小さく頷き合う。

 

緊張はしている。

だが、それ以上に、期待と高揚感が勝っていた。

 

(このデルタと、また新しい走りができる)

 

そう思うだけで、体の内側から力が湧いてきた。

 

⸻

 

【搭乗】

 

2人はレーシングスーツに身を包み、

デルタS4のドアを開ける。

 

メリーがドライバーズシートに、

蓮子がコ・ドライバーズシートにそれぞれ収まる。

 

6点式ハーネスを締めると、

ふたりは同時に深呼吸した。

 

「……行こう」

 

「うん」

 

メリーがスターターボタンを押す。

 

キュルルル――バウッッ!!!

 

低い、だが鋭い咆哮とともに、ECV仕様のエンジンが目覚めた。

 

そのサウンドは、アルゼンチン仕様よりも一段と鋭く、レスポンスが鋭敏になっていることを明確に告げていた。

 

「……音、変わったね」

 

「うん、すごい鋭い……」

 

蓮子もシート越しにそれを感じ取っていた。

 

⸻

 

【走行開始】

 

コースに出ると、

メリーは慎重にクラッチを繋ぎ、デルタを走り出させた。

 

最初はゆっくり、各部の異常がないかを確かめながら。

 

だが、2速、3速とギアを上げるごとに、

デルタはまるで別物のような加速を見せ始めた。

 

「っ……すごい、伸びが違う!」

 

「気をつけて、トルクの立ち上がりが早い!」

 

蓮子がすかさず警告する。

 

アクセルペダルにわずかに力を込めただけで、

車体は一気に牙を剥くように前へ飛び出す。

 

それに伴うトラクション感覚も、明らかに違っていた。

 

「リアが……重たくなった?」

 

「いや、違う。トラクションが強くなったんだ!」

 

メリーはステアリングを握り直し、体でデルタの変化を受け止めようとする。

 

ブレーキングも、レスポンスが鋭い。

 

わずかな踏み込みでノーズが沈み、

そこから一気に回頭する。

 

「おおお……これ、すごい!」

 

「メリー、次、Left 4 minus、路面ラフ!」

 

「了解!」

 

蓮子の指示に合わせ、メリーは素早く姿勢を作り、

デルタをコーナーへ滑り込ませる。

 

バンプに乗った瞬間、

かすかに浮く感覚――だが、

着地でサスペンションがしっかり受け止めた。

 

(……すごい!)

 

デルタS4は、確かに進化していた。

 

単に速くなっただけじゃない。

 

より鋭く、より正確に、

ドライバーの意志に応えるようになっている。

 

(これなら――戦える)

 

メリーは心の中で確信した。

 

⸻

 

【ピットへ帰還】

 

5周ほどのシェイクダウンを終え、

デルタはピットへと戻ってきた。

 

エンジンを止め、

ヘルメットを脱いだメリーは、大きく息を吐く。

 

「……すごい、ほんとに生まれ変わってた」

 

「うん。別の生き物みたいだった」

 

蓮子も、興奮気味に頷く。

 

夢美がふたりに歩み寄り、

静かに、しかし満足げに言った。

 

「デルタは進化した。

あとは、お前たちがそれに追いつく番だ」

 

「はい!」

 

ふたりは声を揃えて答えた。

 

工房内のミーティングルーム。

ホワイトボードとプロジェクターを使って、簡易な作戦会議が開かれていた。

 

参加者は、夢美、ちゆり、メリー、蓮子。

 

空気は静かだが、どこか張りつめている。

 

テーブルの上には、日本戦のコースマップと、過去データのプリントが広げられていた。

 

「――さて。次の日本戦は、今まで以上に“総合力”が問われる」

 

夢美が口を開く。

 

「路面は基本ターマックだが、油断するな。

旧道、苔、割れたアスファルト、狭い峠道……。

ラインのミスひとつで即リタイアだ」

 

「ですよね……」

 

メリーが苦笑する。

 

蓮子も、手元のノートにびっしりと書き込んでいる。

 

⸻

 

【天候と路面について】

 

「日本の山岳部は天候が変わりやすい。

突然の雨、霧、湿気による路面悪化――どれも想定しておけ」

 

夢美がプロジェクターで映し出したのは、過去のラリージャパンの映像。

 

そこには、

雨で苔むした道を滑るラリーカー、

視界ゼロの霧の中を疾走するマシン――

 

「これ……モンテカルロよりヤバいんじゃ……」

 

蓮子がぼそっと呟く。

 

「……ラリーって、こんなだったっけ……」

 

メリーも若干顔色を失っていた。

 

⸻

 

【戦略立案】

 

「お前たちへの指示は、シンプルだ」

 

夢美は、ホワイトボードに太い字で書いた。

 

『ミスをするな』

 

「……それって」

 

「“ミスをしない”だけで、勝てるラリーだからだ」

 

ちゆりが、横から補足する。

 

「日本戦は、トップスピードよりも安定性重視。

どんなにペースが落ちてもいい、完走することを最優先にしろってことだ」

 

「なるほど……」

 

メリーが唸る。

 

(確かに、滑る路面で攻めたら命取りだ)

 

「ちなみに、途中リタイアは一発アウトな」

 

夢美がさらりと爆弾を投げ込んだ。

 

「えっ、そんな……」

 

「ポイント制だからな。

ここで取りこぼせば、シーズン全体に響く」

 

「……絶対に、完走します」

 

メリーが拳を握る。

 

「ノートも、もっと精密に仕上げる」

 

蓮子も静かに宣言した。

 

⸻

 

【作戦まとめ】

• ターマック路面だが、超シビア

• 速度よりも、安定性最優先

• 天候悪化・視界不良を常に想定

• とにかく「ミスをしない」

• 完走=最大の勝利条件

 

⸻

 

【会議終了後】

 

夢美は資料をまとめながら、ふたりに言った。

 

「デルタは進化した。

だが、道とマシンを制するのは、最後は“心”だ」

 

「……はい!」

 

「はい!」

 

ふたりは揃って答えた。

 

彼女たちの目に、迷いはなかった。

 

朝靄の漂う日本・中部山岳地帯。

 

標高1000メートルを超える峠道に、早朝特有の静けさが支配していた。

しかし、その静寂を切り裂くように、

ひときわ甲高いエキゾーストノートが山間に響き渡る。

 

――ランチア・デルタS4 ECV仕様、始動。

 

Monte Carlo Mally、いよいよ日本戦開幕である。

 

⸻

 

スタート地点、サービスパーク。

 

メリーと蓮子は、フル装備を身にまとい、

スタート前の最終準備に追われていた。

 

ちゆりはタイヤウォーマーを外し、

トルクレンチ片手に最終確認を続ける。

 

夢美は腕を組み、チーム全体を見渡していた。

 

「焦るな。日本は長丁場だ。まず“今日を完走”だ」

 

「はい!」

 

「了解!」

 

メリーと蓮子は、気合い十分に答える。

 

⸻

 

【コース概要】

 

DAY1は、主に中部山岳部のターマックステージ。

ただし、路面状況はバラバラだ。

• ドライな舗装路

• 割れたアスファルト

• 湿った苔むした区間

• 霧の出やすい峠越え

 

「絶対に油断するなよ。目の前の“道”だけ見ろ」

 

夢美が静かに言い聞かせる。

 

メリーは頷きながら、シートベルトを締める。

 

(大丈夫。デルタも私たちも、ちゃんと準備してきた)

 

(“ミスをしない”こと。それだけを考えよう)

 

⸻

 

【スタート】

 

「Monte Carlo Mally、ランチア・デルタS4――スタート!」

 

公式アナウンスが響く。

 

グリッドを離れ、

デルタS4は静かにスタートラインへ向かう。

 

「……いこう」

 

「うん!」

 

メリーがクラッチを繋ぎ、アクセルを開ける。

 

――バウウウンッ!!

 

短く吠えたデルタが、

霧の中へと飛び込んでいった。

 

⸻

 

【SS1:クイックレポート】

 

スタート直後、乾いたターマック。

 

グリップは良好。車体も素直。

 

「Right 3、ブラインド、すぐLeft 2!」

 

「了解、Right 3……から、Left 2!」

 

メリーのステアリングさばきは、

以前より格段にしなやかだった。

 

ECV仕様で強化された加速性能に、まだ全開は使わない。

あくまで“安全マージン”を持ちながら、

慎重に、丁寧に、ラインを刻んでいく。

 

「……悪くない」

 

蓮子も、コクピットの中で呟く。

 

(今の私たちなら、いける)

 

そう思えるだけの一体感が、確かにそこにあった。

 

⸻

 

【SS1ゴール】

 

無事にステージを走破。

 

タイムは――

 

「暫定2位!」

 

無線越しにちゆりの歓喜の声。

 

「よっしゃあ!!」

 

「落ち着いて次行こう!」

 

ピットも、ふたりも、笑顔だった。




初めて訪れる日本――。

馴染みのない街並み、行き交う人々、溢れる匂いと音。

トヨタ・222Dの若きコンビ、澪とエレナは、
短いオフの時間を使って、日本の空気を感じるために街へ飛び出していく。

言葉は通じる。けれど、文化は違う。
思わぬハプニングに、ふたりは笑い、驚き、時に困惑しながら、
ひとつずつ日本を肌で知っていく。

「澪、これ見て! 日本って、ホントに何でもあるんだね!」
「……別に、普通だと思うけど」

すれ違いながら、重なり合うふたりの時間。

そして、再び戦いの日々へ――。

次回、Monte Carlo Mally LEG19 『異国の国で、ふたり旅』
ふたりだけの、日本の物語が始まる。
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