申し訳ありません!
新エリー都にて様々なギャングや治安局並びに公的機関を出し抜く人材派遣会社【Gentle House】と言う極小組織が存在する。
通称【邪兎屋】と呼ばれるそこは構成人数が社長1名、従業員2名の合計3人しか居ないにも関わらず裏社会に名を知らぬ者は居ないとされる。兎と舐めてかかった者はその悪辣なる小賢しさにより痛い目を見る事が多くいだろう、狡猾であり大胆な兎達は現在、ルミナ区域に足を運んでいた……!
「分かってるわねアンビー、ビリー!今回こそ賞金首を捕まえて報奨金ゲットよ!」
「もちろんターゲットの詳細は把握済みよニコ。容疑者は男性、190cm、髪は茶、筋肉モリモリ、マッチョマンの変態」
「アンビー。もしかして昨日見たB級映画の情報と混同していない?」
旧時代文明をモチーフにした痛快スーパーアクション映画を視聴したアンビー。弾けろ筋肉!飛び散れ汗!がウリの作品内容はハンバーガーを片手に観るのはピッタリであった事はここに記載しておこう。
「確かにあの映画は頭空っぽにして見るのに最適だったな!けど俺としては次の鑑賞は『劇場版スターライトナイト』か『劇場版キャプテン・ポリス』のいずれかを推していきたいぜ!」
「それは無理よビリー。次の視聴作品を決定するジャンケンはまた私が勝つもの」
「やってみなくちゃ分かんねぇだろ!」
2人が闘志を燃やしていると社長であるニコが「話を戻して良いかしら?」と釘を刺した後に言葉を紡いだ。
「いいかしら2人とも!今ウチは経営難、家賃や水道代、電気代を誤魔化して破産一歩手前までの来ているわ!」
「いつもの事だな!」
「これが実家の安心感と言うものかしら」
「安堵してる場合じゃないわ!このままだと邪兎屋はろくに営業なんかもできない!従業員への給料は全て100%OFFに踏み切らざるを得なくなるわ!」
従業員への待遇はホワイトを謳うはずの邪兎屋。社長が言う事はとどのつまり給料無しのタダ働き。これは労働基準監督署も黙ってロケットランチャーを撃ち込むレベルである。
「ままままま、待ってくれよニコの親分!そりゃ困るぜ!次回発売予定のファンクラブ限定のスタライのフィギュアがかなりの高額なんだ!このままじゃ内部パーツを売り出さなきゃ行けなくなる!(スタライファンの鑑)」
「うちの会社にそんな闇金融システムは無いわよ!それにわざわざそんな事してなくても指名手配犯を捕まえれば報奨金が出るんだから!そこら辺分かってるわね2人とも!」
と、言うニコの言葉に2人は意気揚々とした態度を見せるだろう。狙うは金色のタイツを纏った怪人、そして報酬の大金。手を抜く必要性など何処にも無い。派遣会社邪兎屋は己が将来の為にルミナ区へと足を運んだのだった……!
「悪いな、それ先日捕まったばかりなんだ」
「はぁーーーーー!?」
ニコの声が木霊する。治安官に話を聞くとこの間、ゴールドボンプマンなる指名手配犯は既にお縄についたとのこと。これから手に入る予定だった大金の資産運用計画が白紙になる幻覚を見ながらニコはその場で崩れた。
「もしかして指名手配狙いだったか?嬢ちゃん運が無いねぇ。前に探偵の坊主が捕まえちまったんだよ」
「たん……てい…?」
「そ、探偵だ」
刹那、ニコの脳裏に浮かび上がる『加賀実探偵事務所』の忌まわしき所長の姿。加賀実探偵事務所と邪兎屋は互いに貴重な客を奪い合う商売敵の関係にあった。
片や万年貧乏探偵、片や万年赤字会社。似たり寄ったり五十歩百歩の関係である双方の収入状況は拮抗しているように思われていた…!だが、今は違うッ!
「通りで羽振りが良いと思った。いつもならハンバーガー単品を半分にカットしたのをご馳走してくれるところをビッグベーコンエッグバーガーをセットで奢ってくれたわ」
「は?」
「おいアンビー、それ親分の前で言うのは不味くねぇか!?」
「でもビリー。貴方も加賀実にオイルをご馳走して貰ってたはず」
「おう!あれは絶品だったぜ!なんでも臥龍用に買った専用オイルに付属していた割引品だったらしいけどよ、今月史上当たりの部類に入る味わいだったなアレは!」
「は???ビリー、アンビー……ちょーーーっと、話を聞こうじゃないの」
即座に問いただすニコ。2人から話を聞くに前々から加賀実とはプライベートで良く交流する仲だと言うのだ。ゲームセンターやレンタルビデオショップで顔を合わせれば作品の感想やスタライ造形について語り、金に余裕があればごく稀に食事をご馳走させてもらえる。
なんと言うことだろうか、従業員達は既に憎き商売敵の手に堕ちつつあったのだ(言い掛かり)
「なんて事なの…!うちの従業員が知らない間に餌付けされていただなんて……いや、あの鬼畜貧乏暴力探偵の事よ。やりかねないわね……!」
「相変わらず敵視されてるな加賀実の奴」
「ニコが言うには彼は商売敵。馴れ馴れしくしたくないそうよ」
「ああ〜〜〜〜〜ッ!もう!!!許さないッ!許さないんだからアイツゥ!次あった時はこの仕返しをしてやるんだからァァーーーッ!」
「……なぁ、それわざわざ
結局のところ、わざわざ準備して行う予定だった金策は無に還った。それと同時に桃色髪を靡かせながらニコは探偵への敵愾心を益々強めるだろう。そんな一連の行動を眺めていた治安官の鏑木は辟易とした表情を見せるのだった。
赤牙組が縄張りとしている地域周辺。そこは一般市民に扮した治安官達によって囲い込むように陣形を張り巡らされていた。
パンパンに膨らんだ風船の如く治安官達が緊張を張り巡らす現場。その中で加賀実と鏑木は新エリー都の喫茶チェーン店である『COFF CAFE』にて待機していた…!
「あ゛ーーーっ、他の治安官達が働いてる中で飲む珈琲は格別だねぇ!」
「治安官の面汚しみたいな事を言わないでくれるかなぁ…で、ナベさん。わざわざ俺をこんなところに呼び出して何の用?」
赤牙組摘発の為にコンディションを整えて来た加賀実。正直なところコーヒーショップでくつろいでる暇は無い。さっさと手元にあるコーヒーを飲み干し店から出ようと画策していた彼だったが、ふと鏑木が鞄をテーブルの上に置いた。
「なんだこれ?」
「プレゼントだ。中を見てみろ…あ、コッソリとな?」
「そう言うのはギフトボックスとラッピングしてから言ってくれよ……!?」
無造作に置かれた鞄の中を覗く加賀実は驚愕の面持ちとなる。その中には球状の機械が入っていた。素人目でも分かる丁寧かつ重厚に作り込まれたデバイス、それを目撃した彼はすかさず送り主に問いを投げかけた。
「おいナベさん!………どう言うつもりだよ」
思わず出した声量を抑える。中身の正体について加賀実は心当たりがあった。それは【音動機】と言う名のホロウ内にて活動するためにか必須と言っても過言ではない物だ。
しかし本来ならば音動機は調査員や治安局員達に配備され、一般人には手を出す事が叶わないツール。朱鳶のように正式に持って良い立場で無ければセスのように"上"へのコネクションがある訳でもない。そう考えると………。
「これアングラのだろ?お巡りさんが犯罪者作ろうとすんなよ…!」
「バーカ、そりゃ俺が昔使ってた
「やっぱりアングラじゃねーか」
「まぁ、待てって。いいか?これは今回の作戦とお前の今後に関わってくるもんなんだよ」
ナベヒラは話す。今後の探偵業務を行なっていく上でホロウ内での活動は必要となる事が多い…と。この点に関しては彼も同意の意を見せる。加賀実は必ずしも高いエーテル適性を持っている訳ではない。
ホロウ内での活動はできるものの、活動制限時間はある。今まで手を出してなかったが、音動機はそんなホロウ内での活動時間を延ばす魅力的な効果が備わっているのだ。
「そして今回の作戦。治安局は赤牙組を包囲こそしてるが、そう言う時にギャングや裏の奴等は決まって"とあるルート"を使う」
「…ホロウか!」
「正解。今回に関しては音動機はお前さんに必要不可欠な物だ。有り難く受け取っておけよ?」
至れり尽くせりとはこう言う事だろう。加賀実は鞄を手にしようとする…直前にナベヒラに向かって再び問いを投げかけた。
「何が目的だ?」
「ほう、目的?…さて、何のことやら」
「とぼけなくて良い、どうせあんたの事だ。俺になんか手伝わせたいんだろ。しかもこうやって公にできない贈り物までして来てるんだ…俺に何をさせようって言うんだ?」
「………それは」
その瞬間、遠くから響く爆音。そして『赤牙組』が逃げたとの通信が入った。
「クソッ、どうなってやがる!まだ突入するなんて聞いてねぇぞ!」
「俺達がハブられたか…それとも何らかのトラブルがあった感じか?とにかくナベさん!前の車を!」
「分かってる!耳元で叫ぶな!」
目の前には赤牙組が所有する車両群、ナベヒラと加賀実はパトカーに乗りそれらを追跡する。
先程セス達と連絡を取ったのだが、本来の作戦は赤牙組達が所有する幾つもの建物へ同時に奇襲を仕掛けて摘発する……その筈だったのだが、こちらの動きを察知したのか?それとも偶然なのか赤牙組の構成員達は一斉に外へ出て逃走するような動きを見せたのだ。
「…おいおい、アイツら街中で銃を取り出してるぞ!しかもマシンガン!」
「正気かよ………ん?ナベさん、ちょっと奥の方に何か居ないか?」
「奥の方って……あ」
車両群の隙間からチラリと映る。それは赤牙組達を挟み、先頭を走る一台の車だった。メンバーがその車両に銃口を向け、怒号を浴びせている様子から目的はあの白い車なのだと分かる。
「アイツら、あの車が狙いか!」
「……ん?おいナベさん!後ろから奴等が来ている!」
「なんだと!?」
追跡していた加賀実達はいつの間にか自分達が挟まれる形になってしまっていた。後方より迫る数々の車から身を乗り出し、構成員達は鉄パイプや銃を取り出す。敵とも言える治安官の所有するパトカーが眼前にあるのだ、こちらを害する気があって可笑しくない。
「まずは後ろの奴等からだな!おい、コレ使え!コレで奴等を倒すんだ!」
「ああ、分かっt……って当たり前のように拳銃渡すなよ!やるけど!」
加賀実はそう言いながら窓から身を乗り出し手にした銃口を後方に迫り来る敵達へ向けるのだった。
敵を撃ち倒せ!
迫る車両の一つから構成員の1人がこちら同様に身を乗り出し銃を構えるが、加賀実は相手の手に狙いを定めてゴム弾を放つと、こちらに向いていた銃を弾き飛ばすことに成功した。
すかさず車両のタイヤに狙いをつけて弾丸を1.2発撃ち込む。するとタイヤのフレームが歪み、真っ直ぐ進んでいた車はハンドル操作を受け付けなくなり、後方に続いていた2、3台の車両を巻き込んで動けなくなる。
「反対側近づいて来ているぞ!」
「っ、臥龍!」
『ンナァ!』
反対座席側より接近してくる車両。構成員の一人が鉄パイプを片手に直接攻撃を加えようとしてくる…しかし臥龍ボンプから放たれたワイヤーが相手の手と車両のボディを絡め取り固定させる。
「そこっ!」
「ぐええっ!?」
眉間にゴム弾を撃ち込まれた構成員は白目を剥きダウン。更にナベヒラが反撃と言わんばかりに相手車両の後輪タイヤ部分に体当たりを仕掛けスリップさせた。
「ナイスだよ臥龍さん」
『ンナ(どうって事ねぇ)』
「よし、このまま前の車も……ってオイオイ!そりゃねぇだろ!?」
「どうし…うおっ!?」
『ン?……ンナ!?』
後ろを振り返る3人(その内は一体である)は驚愕する。なんと3台もの大型トレーラーが迫って来たのだ。
「嘘だろそんなのアリかよ!」
「クソッ、挟み込まれたぞッ!」
トレーラーはそれぞれ後方、左右の挟み込む形に位置につく。前方に逃げ道こそあれどそもそもマシンスペックの関係でトレーラーの速度から逃げるのは難しいだろう。
直後、三方向よりこちらを押し潰すような形で衝撃が走る。ギャリギャリとボディから火花を散らし、タイヤが擦れ煙が上がる。このままでは中身諸共圧縮されたスクラップにされてしまうだろう。
「こいつは…やべぇ!」
「くっ……この野郎ッ!」
「あ、おい!」
一方的に攻撃されている事実に対し怒髪天に達した加賀実は無理矢理運転席を奪う。3台のトレーラーが距離を空けて再び衝突しようとした瞬間を見計らうと一気にギアを何段階も下げ、急制動を掛けると同時にトレーラー同士の間を潜り抜けて脱出した。
直後、攻撃対象を失ったトレーラー達はガガガガ!と激しくぶつかり合いながらバランスを崩して横転し始めるだろう。このままでは自分達までも巻き込まれる…しかし、加賀実は敢えてアクセルを目一杯踏み込んだ。
「ここだぁッ!」
「おい馬鹿何考えてやがる!?」
『ンナナナァーーー!?』
△極『秘技・漢気ドライブ』
トレーラーにぶつかる…と思った次の瞬間、車体が斜めに傾くとトレーラーの間を走り抜け、一気に前へと出たのだった。
「おおおおおおおッ!」
R2『アクセルを踏め』
ギャリギャリと車体とタイヤが抉れるような音を響かせながら道路を前へ前へと進む。ひとまずの危機を脱した車内の者達は安堵の表情を浮かべるだろう。
「ったく…お前、何つー運転しやがんだ!?生きた心地しなかったぞ!?そのドラテクどこで学んだんだよ!」
「ゲーセンとバイトだよ」
「どんなバイトだそりゃ!」
一向が車を走らせているとホロウと隣接しているビル前に何台もの車が乗り捨ててあるのを目にする。加えてビルの入り口には構成員2人が見張りとして立っている。
「どうやら奴さん等はあの中に入って行ったみたいだな」
「車も停まってるし間違いない…でも見張りが邪魔だ」
鏑木と加賀実は互いに目を合わせた後、お互いの考えが一致したのか頷き合う。見張りにバレないよう2人とボンプ一体は車の陰から陰へと移動し、そのままこっそりと近づいていく。
すると鏑木はポケットの中からディニー硬貨を取り出すと見張り達が居る方向へ投げる。
「ん、なんだアレ」
「コイン…いやディニーか?どっから…」
見張り達の意識が逸れた瞬間を狙い、男2人は駆け出す。こちらの存在に気付いた見張りは加賀実の蹴りによってコンクリート壁に頭を打ちつけて気絶。もう片方は鏑木が背後から首を絞め、意識を落とす。遅れてやって来たボンプはそのまま戦闘不能状態に陥った2人をワイヤーで拘束した。
「ふぅ、ざっとこんなもんだな…にしてもお前やり方雑だなぁ」
「放っておいてくれよ…で、どうする?」
「まぁこう言うのは治安局に連絡して増援を待つ……だが、そう言うタマじゃねぇだろ?」
現在この地域にはホロウ災害が発生している。ここを治安局が突入するには住民の避難や作戦立案。様々な要因によって時間を要するだろう。鏑木が言うには治安局航空部隊による作戦が進行している…が、それを待っていられる程に加賀実は優等生ではない。
……それに中にいるヤツと決着を付けなければならないのだ。
「それじゃ行って来るよナベさん」
「……おい加賀実!」
ナベヒラは1人潜入しに行く探偵へ告げる。
「『シルバーヘッド』には気をつけろよ!」
シルバーヘッドの名を聞いて彼はより一層の気を引き締める。全てはかつて所属していた組織と決別するために。
ビルの中を捜索しろ!
ビルの中に入った彼は階段を駆け上がり、上へ上へと移動する。
恐らく赤牙組の狙いは先頭車両に乗っていた人物、もしくはその者が有していた何かと推測する。あの数の赤牙組メンバーを動員する程の何かがあると確信めいたものがあった加賀実はなんとしてでも赤牙組よりも先にそれを手にしようと画策していた。そう考える理由は単純。それが赤牙組の弱点になり得るものだと言う事と、これ以上の赤牙組が被害を出すのを防ぐため。
治安局のように頭が回り、全てのメンバーを確保するなんて事はできないが…その一助になる事はできる。
「……!」
ふと階段を上がる足を止めると、すぐ近くに数人の足跡が響いて来た。咄嗟に身を屈めて物陰に潜みながら耳を澄ませる。
「こっちだ!追え!」
「アイツら良くも俺達の物を…!見つけ出せ!」
「あの三人組は上に居るはずだ!」
話振りから察するに加賀実が来ている事は気付かれてないようだ。それならば…と言わんばかりに近場の窓からこっそり身を乗り出すと壁面に設置されたパイプや室外機を伝って上の階層へ向かう。
彼が目指すは赤牙組から逃げている三人組。道中の構成員とはあまり会わないようにルートを選びながらとにかく進んでいく。
「……ここら辺か?」
外壁を自力で登る途中で響く銃撃音や足音。それらを推測して加賀実は一室の窓から再び屋内へと侵入する。こっそりと周囲を見渡しながらビルの中を捜索していく。争った形跡は今の所見当たらず、物が散らかっている様子もない。まだここに誰も来ていないのだろうか…そう思った直後、視界に不自然に開いた扉を捉える。
(この部屋…ちょっと怪しいな…)
どの部屋とも異なり、ここだけ扉が開いている。ドアノブに手を掛けようとした瞬間、"目の前から刃が飛び出して来た"。
「ーーーーッ!?」
咄嗟に上半身を逸らす事で刃を寸前に躱す。それと同時に扉に向けて渾身の蹴りを放つ。それにより扉越しの敵対者ごとドアを吹き飛ばす事に成功するだろう「くっ」とダメージを受けた声を漏らしながら部屋の奥へ飛ばされていく。
追撃を仕掛けようと部屋に足を踏み入れた瞬間、目の前が白に染まる。相手の目眩し…否、これは粉塵だ。
「前が見えない…!」
何も視界に捉えられない状況。1箇所に留まっていれば危険と判断し、その場を駆け出す。するとその行動が正しかったと裏付けるように銃声が響き渡った。加えて着弾地点が無作為かつ複数聞こえる事から相手はマシンガン系統の武器を扱ってるのだろう。
今は何とか逃げられてはいるが、加賀実は自分が誘導されている事に気づく。マシンガンで攻撃を行いながら自身に一手を与える為に何か罠を仕掛けている…そのような巧妙な手口を使っているように思えた。
そしてその直後、煙の奥からカチャリと銃口が向けられた。狙いは己の脳天かつ確実に当てに来る至近距離。
「これで終わりだ」
銃の持ち主であろう人物が呟き、引鉄にかけた指を引く……その直前に加賀実は鉄拳を相手の顔面にあると思われる場所へ叩き込む。相手が至近距離に居ると分かれば自身の攻撃だって届く筈だ、と一か八か攻撃を行ったのだ。
その結果、ガァン!!!と鋼鉄の如き甲高い音が部屋内を響き、銃口が明後日の方向へ逸れる。
「「いっでぇ!?」」
そして何故か襲撃者と探偵の声が重なる事となった。
加賀実の拳による攻撃は手応えがあった…しかし殴ったものはまるで鉄のように固く、己の手を痛める事となった。銃を向けて来た相手にもダメージが入っているのかその場でゴロゴロと悶えるだろう。
「おいおい!銃を向けられてるってのに殴って来るってどんだけ胆力あるんだよ!まるでスタライみたいに格好良かったぜ!」
「今の状況で相手を褒めるって中々できない事だぞ…まるでビリーみたいな事を言って……ん?」
目を凝らして良く見てみると薄らとだが赤いジャケットと二丁拳銃。そしてその姿はまるで人とロボットのハイブリッドと言われてもおかしくない知能機械人だ。お前まさか…と呟こうとした瞬間、首元に冷たい物を添えられる。
「動かないで、動けば貴方の首が飛ぶわ。これが映画なら貴方の背後には」
「恐ろしく強い映画のボスとかだろ?…その例えするって事はアンビーだろ」
「……貴方、もしかして加賀実?」
首に添えられた凶器を仕舞うアンビーと言う少女。プライベートでハンバーガー単品を奪い合う又はシェアしたことのある加賀実と彼女はしばし見つめ合い、臨戦態勢を解いた。
「お?おおおおおお!良く見たら加賀実じゃねーかッ!なんだよ敵かと思ったらお前だったのかよーー!」
続けて白い逆立つ髪の形状をしたパーツと赤いジャケットが特徴的な機械人のビリーがコミカルな動きでこちらに近寄って来る。こちらもまた同様にプライベートではよく会う仲であり、つい先日、六分街のゲームセンターにてポケカーバトルを繰り広げていた。尚、途中からポケカーを極める修行と称して見覚えのあるキツネのシリオン少女が乱入して来た事は言うまでもない。
そんな3人の元に桃色の髪を靡かせながら、女性が口を開く。
「で、なんでアンタがこんな所にいるのかしら?ねぇ、商売敵のクソ暴力探偵ィ……!」
「…なんか俺に当たり強くないかニコ?」
探偵の眼前に立つ女性こそ邪兎屋の女社長であるニコ・デマラだ。彼女と加賀美は新エリー都の住人同士かつ似たり寄ったりの商売する仲の為、ある程度の交流を持っている…が社員2人を除いてこのニコは加賀美を商売敵として一方的に敵視している。しかも今回はいつにも増してバチバチと火花を散らしている。それは何故か?
「何で社員達には奢って、私には何もないのよ!!!」
思ったより小さい理由だった。社員達とプライベートでどうこうしてもニコにとっては問題無い。商売敵とは言えタダでモチベーションの維持やメンタルケア等をしてくれるのだ、そこに文句は無い。
だがしかしこの探偵は社長である自分だけを省いたのだ。許せなかった…自分だけには何も奢らないだなんて…!
「だってニコ、俺の事敵視してるから別にいいかなって…」
「お黙りッ!…ふん、こんな所に居るって事は私達の商売の邪魔をしようって魂胆なんでしょう!」
「商売って……まさか赤牙組のところから何か盗んだのか?」
その一言を告げた途端、ニコの表情が一瞬だけ歪んだ事を加賀美は見逃さなかった。恐らく彼女が手に持っている小さな金庫らしき箱。それこそ赤牙組が何としてでも取り返そうとしているものだろう。
中身は一体何が入ってるのだろうか…?思考の海に沈むかけていたその時、コツコツと複数人の足音が部屋の中に響く。
それは銃火器を手にしたギャング達が部屋に入ってきた証拠だろう。邪兎屋達と探偵がそれぞれ臨戦態勢を取るが、先頭の白髪が特徴的な男が「待て」とその場の全員に制止の合図を出した。
「折角の再会なんだ。少しは会話するくらい良いだろう?……なぁ、甲斐」
「……オヤジ」
シルバーヘッドのミゲル。現在、赤牙組の面々を束ねる組長が直々に出てきた事にニコ達は気を引き締める。緊張が高まる中、そんな空気に耐えられなかったのかビリーが加賀美に声を掛けた。
「なぁ甲斐、もしかして知り合いだったりするのか?」
「……まぁな」
そう一言、ぶっきらぼうに答えるのに対しミゲルが目元から雫を垂らす。
「そんな事言うなよ甲斐…長年俺達と一緒にやって来た仲だろ、なぁ?俺は赤牙組所属していたお前なら確実に幹部になれたんだぜ?だって言うのに……」
うぅ…とハンカチで涙を拭うミゲルに加賀美は冷ややかな視線を送る。彼はこの仕草が相手に油断や隙を作らせる為のモノだと理解していた…理解はしている筈だが、彼は少なからず考えてしまった。
もし本当にそう思っていたら?もし本当に心を入れ替えてたら?もし本当にカシラが本心で告げているのなら?
僅か1秒程の思考に陥った直後、加賀美の眼前に振り下ろされた鉄パイプが迫っていた。
「危ないッ!」
「うっ!?」
当たると思われた瞬間、ニコが襟首を掴み、後方へと引き寄せる事で鉄パイプの直撃が回避する事に成功する。そんなやられそうになった彼にニコは告げる。
「ボケっとしないで、相手はあのシルバーヘッドよ!…アンタと奴に何があったかは知らないけどね、そんな情けを掛けてくれるような相手じゃないって事は分かってるんじゃないの?」
「……ああ、悪かった。ありがとう」
「お礼は結構、後で救助費用を請求しておくから」
加賀美はニコの隣に立ち、改めて戦闘態勢を取る。そんな彼等に対してミゲルを筆頭とした赤牙組の面々も同じように武器を構えて戦闘の意思を見せる。
「悲しいぜぇ…お前等がそんな態度取るなんてよぉ……いい加減にしてもらおうかァ!散々イラつかせやがってよぉ!お前ら痛めつけてやれぇ!」
襲い掛かる赤牙組メンバー達。そんなギャング達に対して加賀美探偵事務所と邪兎屋の共同戦線が張られる事となった。
【登場人物紹介】
○ニコ・デマラ
邪兎屋の面々を束ねる金にがめつい女社長。加賀美とは客を奪い合う切っても切れない商売敵の関係(自己申告性)。
○アンビー
実は沢山姉妹が居た悲しき過去持ち元軍人系ヒロイン。属性が渋滞を起こしており、そこから更に映画とハンバーガー好きの側面を併せ持つ。加賀美とは社長を差し置いてプライベートではよく合う仲。
○ビリー・キッド
未だ謎多き機械人。プライベートでは社長を差し置いて加賀美と仲が良い。最近ゲームセンターに設置されたアーケード版の昆虫女王メスキングを見て新エリー都の行く末が心配になって来た。
○ミゲル
赤牙組の首領、シルバーヘッドの異名を持つ。まだ善良だった頃にストリートチルドレンだった加賀美を拾い赤牙組に入れた過去を持つ。昔は子供のように可愛がっていたが今は組織を抜けた裏切り者として殺意を抱いている。
龍が如くや番外作品でありそうな関係性。ゼンゼロ本編ではエーテリアス堕ちしたがこの作品では……?
ゼンゼロの顔とも言える邪兎屋(1人を除く)参戦ッ!そして何故か挟まれるクソ難易度カーチェイスを添えて。
どうしてそんなミニゲームを入れた!言え!