新エリー都で如く   作:ゴランド

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よぉ、1年ぶりだな…!と言う訳で久しぶりこちらの小説を投稿していきます。



6話 抜け落ちた牙は穿つ

 

 眼前に広がる黒い半球体の虚空であるホロウ。入った事があるのは一度や二度ではない。それは新エリー都のみならず、この世界がホロウと密接な関係だと言う事を表している。故に人探しや失せ物探しでホロウの中へ入るケースは珍しくないのだ。

探偵である加賀美は今回も同様に依頼達成の為、ホロウに向かって足を進める……。

 

「……あの、失礼ですが何故貴方がここに居るんですか!」

「え、なんですか朱鳶さん。俺は"正式"な理由でホロウへ行こうとしているだけであって別に変な事をしてる訳ではないですよ?そうですよね先生?」

 

 そんな彼に近くに居た朱鳶が止めに入る…が、加賀美には入る為の大義名分がある。そんな探偵の肩を持つように青衣が言葉を紡ぐ。

 

「然り。朱鳶よ、そう青筋を立てるでない。坊は正式な理由と資格を持ってここにおる。加えて事前に連絡を取ってここのホロウに入る事を伝えてあるのだ」

「それはそうなのですが…!」

「まぁ落ち着くと良い。それに探偵資格については知ってるだろ?」

 

 青衣が言う探偵資格、それは民間人が探偵業務を行う際に取得する事を推奨されている資格の事である。彼女の言葉に対して朱鳶は「はい」と相槌を打ちながら答える。

 

「分かってます。民間のホロウ調査員としての資格も与えられ、一般の調査員よりグレードは落ちるものの、緊急時の民間人救出、ホロウレイダーの捕縛の許可が降りると言う事を…」

「やれやれ、このように探偵と調査員を兼業できる仕事を何故皆はしないのか不思議でならないのう」

「ははは、それを俺の前で言うか先生(半ギレ)」

 

 彼が青筋を立てているのには理由がある。それは探偵資格は何もかもが中途半端な内容であるのだ。

探偵業務は懐に入る報酬額は低収入かつ不安定。加えてホロウ内での調査業務はできるが一般の調査員と比較して満足な装備やサポートは与えられない。そもそもの話、探偵はホロウ内部で活動する事を視野に入れた仕事ではない。故に表だって探偵業務をするならもっとマシな仕事に就く。危険なホロウでの活動をするなら調査員として働いた方が良いと言うものなのだ。

………そもそもの話、探偵業務を行うにあたって探偵資格は別に取る必要はなかったりする。

 

「もっと探偵資格でできる権限を増やしてくれたらいいんだけどなぁ…」

「それは上に言うべきであろう…と、来たか鏑木よ」

 

 還暦間近の男が「よぉ」と気さくに挨拶した後に書類を手に探偵の元へ歩み寄る。

 

「ほれ確認取れたぞ。これでお前さんはこのホロウでの活動を大々的に認められるぜ」

「サンキューナベさん」

「と、言うわけで朱鳶さん。悪いけどこれから俺仕事行かないと」

「…差し支えなければその仕事の内容をおしえてもらっても…?」

「えぇ…しょうがないなぁ」

 

 ここまで朱鳶が食いつくのには理由がある。彼女は加賀美が元赤牙組だと言う過去を知る人物の1人だ。彼の事を信用してない訳ではない、寧ろ公務でなければ彼の手伝いをするくらいの付き合いの長さがある。このホロウ内にシルバーヘッドが落ちた…それは例外を除けばエーテリアス化と言う名の死を迎える事と同義になる。

 

つまり加賀美はもうこの世に居ないシルバーヘッドを探す為に延々と捜索、または無茶な行動を取る事が想定される。不規則に内部構造が変化するホロウにてそれは高い危険性を誇る。故に彼女は加賀美の行動を制限したかった。

 

「…と、連絡が付いた。今回俺がこのホロウに来た目的は偶(・)然(・)にも、このホロウで行方不明となった姉を捜索して欲しいと言う依頼があったからなんだ。そうだろ?依頼主さん」

 

 端末を操作しながら加賀美がそう言うと掠れて今にも泣き出してしまいそうな声のみが聞こえてくる。

 

『はい、そうです……ううっ、探偵さん。ホロウに迷い込んだたいちょ…お姉さんは無事なのでしょうか?』

「任せてください。俺がなんとかして助けてみせます」

『探偵さん…!姉さんは…姉さんは私の憧れで、眩い光で…!ぐすっ、姉さん…どうして私を置いていったの……』

「……最大限努力します。連絡をお待ちください」

 

 ピッと端末を操作する探偵は、ふと朱鳶の方に向く。

 

「いやぁ、困ったなぁ!ホロウ内部で迷い込んでしまった姉妹捜索の為に助けを求めてる子の依頼をこなさいとなーーー!このままじゃ依頼してきた子が可哀想だなぁーーーーーッ!」

「くっ…ぐうううううッ!」

 

 わざとらしく叫ぶ加賀美に対し朱鳶は葛藤の声を漏らす。そして遂に彼女は加賀美甲斐へのホロウ探索許可を出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「チョロいぜ」

『カス』

 

 彼の呟きに先程まで泣きそうな雰囲気を醸し出していた少女が罵倒を浴びせる。

 

「流石の演技派だったなツイッギー。じゃ、案内よろしく」

『別に、貴方の為じゃないわ。お互いに利害が一致したに加えて貴方がどうしてもって言うから協力してあげてるのよ』

「あのなぁ、俺は仮にも所長だぞ?お前社員。俺の部下である訳でな…」

『私が居なければ満足に依頼を取れない癖して?ああ、いいわ。今後貴方が依頼を一つも取ってこれないヘボ探偵として生きていく自信があるなら私が』

「分かった…分かったから!」

 

 ツイッギーと呼ばれた女性の声。彼女は数年前、裏の依頼にて関わり紆余曲折を経て探偵事務所に所属する事となった人物だ。なんとこの人物だがアンビーの妹らしい…。

加賀美は彼女の過去を詮索してないものの、エーテル侵蝕にてダメになった両腕両脚からロクでもない事があったのだと察していた。ちなみに金銭的な問題故に一時期義足がキャタピラになってた事があるが、その話はまた別の機会。

 

『ああ、待っててね隊長…今私がそちらへ向かうから…♡』

(こいつ、アンビーの話になると気持ち悪くなるよな…)

 

 ねっとりした感情を向けられているアンビーを哀れに思いながら彼はホロウ内を走る。最優先事項はシルバーヘッドの捕獲、次いでそして行方不明となっている邪兎屋従業員のビリーとアンビーの捜索だ。

そんな彼がツイッギーの指示を受けながらホロウ無いの通路を通ると……。

 

「……んあ?」

「ん?」

「お?」

「あっ!?」

 

なんと言う事だろうか。3人綺麗に揃った邪兎屋フルメンバーが居るではないか。

 

「は?ニ、ニコ?どうしてここに…ってかビリーとアンビーまで!?」

「よーーーう甲斐!お前もここに来てたんだな!」

「待ってビリー。前に見た映画ではこう言うタイミングに知人を装って相手を襲うクリーチャーが出ると相場が決まっている。質問させて、ニコが貴方から金を借りたらどう対応する?」

「殴る(即答)」

「よし、甲斐で間違いないわ」

「ちょっと待ちなさい!色々と言いたい事あるけどこれだけは言わせてちょうだい!アンタが渡してくれたあのカード、調べてみたらとんでもないプレミア価格付いてたんだけど!?どうしてちゃんと教えてくれなかったのよ!!!おかげで一攫千金のチャンスが無くなっちゃったじゃないの!」

「言いたい事ってそれでいいのか?」

 

 予想よりもショボいニコの言葉に加賀美は呆れの表情を浮かべる。そんな中、アンビーは彼のサポートをしていた声の主に気まずそうな表情を浮かべていた。

 

『ああ…っ♡ また会えたわ隊長…♡』

「………隊長と呼ぶのはやめてちょうだい」

 

 デバイス越しに響く音声に対してアンビーは気不味そうに目を逸らす。

 

「相変わらずアンビーに対して態度が変わるな。すっごい猫撫で声になるし」

『貴方には分からないでしょうけど、隊長は貴女が思ってる以上に数十倍の功績を残した…』

 

 そこから先は数分に満たない台詞だったが全体的にねっとりと生々しい感じのするものであった事をここに記す。それに対して加賀美の感想はと言うと…。

 

「なんかキモいな」

「…加賀美。そこは否定できないけど言葉はもう少し選んで頂戴」

「不快感をくすぐるな」

「言い方を丁寧にと言う意味じゃないわ」

『隊長…なんて優しいの…!』

「なぁ、言っちゃ悪いと思うんだけどな?妹への接し方もう少しどうかならなかった?」

「……検討に検討を重ねておく」

 

 要は今後も変わらないと言う事だろう。ツィッギーとアンビー、歪んだ間柄の姉妹を見てため息を吐いた後、ふと加賀美は足元に居たポンプに気づく。

 

「そこに何か居るけど……ボンプか?アミリオンじゃないよな?」

 

 邪兎屋が連れているアミリオンは黄緑カラーの目立つボンプであり、戦闘中は何処から出したがガトリングガンで支援してくれる優秀な子である。しかし言語モジュールに関してはニコがお金を節約している為か、変な口調になっている。しかしそんな邪兎屋だからこそ新しいボンプを買うお金は無い筈だ。

そう思ってるとニコが自信満々に声をあげる。

 

「ふっふーん、分からないのも無理は無いわよね。これこそ私が前に言っていたパエt「あーーーーっ!そういやスタライの特装版ビデオがもうすぐで入荷されるって聞いたかよ甲斐!」ちょっと、急にどうしたのよビリー!?」

 

 ニコが話している最中にビリーが割り込んだかと思うとアンビーの手が彼女の口を塞ぐ。そして足元にいたボンプが小さな声で話しかけるだろう。

 

『ニコ、甲斐は確かに味方ではあるけど治安局と行動を共にしている事が多い!なるべく僕らの事はあまり喋らないようにして欲しい…!』ヒソヒソ

「そ、そうよね。気をつけるわ…!」ヒソヒソ

 

 加賀美甲斐は曲がりなりにも探偵だ。プロキシであるア(・)キ(・)ラ(・)達(・)の正体がバレないように気を引き締めるのだった。

 

「………あれ?もしかしてイアスか?』

『んなっ!?』

「なぁ臥龍さん。こいつイアスじゃないか?」

『ンナナナ(そうか?アイツと同型のボンプなら何体だって居る。それにビデオ屋なんかには18号や20号みたく沢山いるだろう)』

「んー、だってなぁ……ほら。このスカーフのところ。01って書いてる。これイアスがいつも付けてるスカーフっぽいぞ」

『…ンナ(確かに。よく見るとそうだな…となると本当にイアスか?)』

 

 不味い…!と邪兎屋とパエトーンの兄妹達は思う。まさかボンプの特徴からビデオ屋との繋がりを見つけしまった事に動揺する。

 

『(彼は治安局との繋がりを持っている!ここで僕達がパエトーンとバレると情報が流れる可能性がある…!)』

『(お兄ちゃん!ここは…)』

『(分かってるさリン、パエトーン秘奥義が一つ…!)』

 

 イアスの体に意識を宿すアキラは行動を開始する。

 

『ン…ンナンナ。ボク悪イボンプジャナイヨ』

「イアス…じゃなそうだなヨシ!」

『ンナ(それで良いのか?)』

 

 これぞパエトーン秘奥義が一つ、しらばっくれる!相手がバカであればある程有効的な技である!つまりこれが聞いた甲斐はバカと言う証明となるのだが探偵本人はその事を知らない。

ホロウ内で遭遇した迷子の野良ボンプと結論付けた加賀美にニコは声を掛ける。

 

「んんっ!ところで甲斐。建設的な話し合いをしましょう?貴方の目的って多分だけどシルバーヘッドでしょう?」

「……お見通しか。その通り、あれこれ治安局に言い訳しながらツィッギーの力を借りてこのホロウに来た」

「ふふん、それなら話は早いわね。甲斐、私達と協力しましょう?」

 

 ニコの持ち掛けた協力とは自分達がこのホロウ内に落とした金庫の捜索とシルバーヘッド探しを互いに協力し合う事だ。

 

「それなら文句は無い、いいぜニコ。それで良いかツィッギー?」

『隊長と一緒に居られるんだもの願ったり叶ったりだわ…!ねぇ?隊長…!』

「……私もツイッギーと一緒に居られるのは嬉しい」

『隊長!』

「でもちょっと煩い」

『隊長!?』

 

 ホロウを騒がしくしながら彼らはパエトーンであるボンプと知識豊富なツィッギーの案内の元、奥へと進んでいった。

 

『甲斐、前方に敵エーテリアス反応よ!』

「了解!オラァッ!」

『馬鹿!誰が突っ込めと言ったのよ!』

「殺せば死ぬから良いだろ!」

「何あれ(ドン引き)」

 

 邪兎屋一向は酷いものを見た。ツィッギーの的確な指示を途中まで聞いた甲斐が発見したエーテリアスの頭部コアに向かって膝蹴り、踏み付け。最後にジャーマンスープレックスの凶悪コンボを決める。

 

「おい甲斐!後ろにエーテリアスが居るぞ!」

「任せろ、オラァァァッ!」

「なんでお前、掴んだエーテリアスを武器代わりにしてるんだよ!」

 

 掴んだエーテリアスでエーテリアスを撲殺。効率的だが、まずエーテリアス相手にやろうとする者は居ない。否、ここに居た。

 

『もしかして彼って、人相手にしてた時はかなり手加減してた…?』

「と言うよりも人が相手じゃない分、倫理的なブレーキが外れているわね」

「…ちょっと、既に犯罪に手を染めてる訳じゃないでしょうね?」

 

 ニコが加賀美に訝しみの感情を込めた言葉を投げかける。この感じから傷害罪を越えて死人が出てる可能性のある暴力を一般人相手に振るってるのではないか?と彼に問いただす。

 

「安心してくれ皆!」

 

(エーテリアスを殴る音)

 

「そんな事俺がすると思うか!?」

 

(廃棄トラックの扉にエーテリアスの頭を挟み込む音)

 

「誓って殺しはやってません!」

 

(エーテリアスを高所から落とす音)

 

「な?」

『「「「何が!?」」」』

 

 グシャァ!とコアが砕ける音をバックに言う加賀美。あまりにも慣れた手つきでエーテリアスの撃破を行う姿と言ってる事に差がありすぎる。

 

『(朱鳶さんの気持ちが分かった…)』

『(そりゃ逮捕した方が良いんじゃないか?って気持ちになるよね)』

 

 パエトーン兄妹は察する。暴力への躊躇いが無い彼の危険性、それ故に治安官である朱鳶は常に目を光らせているのだと…一度金色の変態から救って貰った身ではあるが遠慮なく爪ペンチをした経歴から、そのうち犯罪に手を染めてしまう将来を想像してしまう。

 

『ンナナ(安心しな、アイツはそんな事をする程バカじゃない)』

『(そうかな、そうかも?)』

『ンナ(ただ…弁護の準備はしておくが)』

 

 それはつまり逮捕からの裁判コースになる可能性はあると言う事ではないのか?そんな疑問を他所にアンビーが「あれを見て」と皆に告げる。

 

「目的の金庫があそこにあるわ」

「おおっ、でかした!これで任務完了!スターライトばりの解決速度……って訳にはいかなそうだな。そこの物陰に隠れてる奴!さっさと出て来な!」

『…ビリーの言ってる事は本当だ。誰かが居る』

 

 ビリーは金庫のすぐ傍に何者かが隠れている事を察するだろう。パエトーンも何者かがそこに居る事を知らせてくれた事からビリーの言葉が真の物だと分かる。

その隠れていた人物がビリー達の言葉で観念したのか、姿を現す。その者はニコや甲斐達にとって見覚えのある顔だった。

 

「オヤジ…いや、ミゲル!」

「アンタ、何でこんなところに!?」

『どう言う事かしら甲斐。貴方が言うには彼はエーテル耐性は常人と同じ、もしくはそれ以下だった筈よね?』

「ヤツが虚偽の申告さえしてなきゃだけどな…で?実際どんな感じだ」

『臥龍に搭載してある多機能カメラからだけど、エーテルへの適性が高い。それも高水準レベルにまで達しているわ』

 

 ツイッギーが分析した結果、眼前の男のエーテル耐性が常人よりも遥かに上回る物となっている。抗侵蝕薬により外部からのエーテル汚染を軽減させる事は可能だが個人が持つエーテル耐性・適応体質は簡単に変える事は困難だ……一体彼に何が起きたと言うのだろう。

 

「何でここに居るか不思議って顔をしてるが…決まってるだろ。裏に出回ってる薬さ」

『薬だって…?』

「……聞いた事あるわ。噂程度だけどエーテルへの適性を大幅に上げる薬を」

 

 アンビーがミゲルの言う薬に心当たりがあるのか呟く。ホロウ災害によって希望になり得る存在だが映画のご都合主義の如く、そのような美味しい話がある訳じゃない。

 

「けどその原材料は……人間」

「おっ、そりゃ新しく見た映画か?……って、顔じゃなさそうだよな」

 

 あくまで噂に過ぎないがそのような薬を使っているミゲルに対し甲斐は怒りの籠った目を向ける。

 

「そんな物を使うまでに落ちぶれるなんてな…」

「そう言う事を言うな。おかげでこんなホロウでお前と再会できたんだからな」

 

 その一言と共に全員が臨戦体制を取る……が、甲斐は落ちている金庫に四足歩行のエーテリアスが近づいて来てることに気づいた。

 

「あ、野生のハティだ」

『グルゥ…』

 

 するとハティは金庫を咥えて駆け出していった。おお、なんて元気な姿なのだろう。まるで新しい玩具を与えて貰った子犬のようにエーテリアスはその場を後にしたのだった……。

 

「って、金庫がぁ!?」

「野郎!逃げやがった!」

「私の金庫を持っていくんじゃないわよ泥棒!」

「いや泥棒してたお前が言うなよ」

 

 逃げたエーテリアスを追う邪兎屋。それに続いてシルバーヘッドも駆け出す…その瞬間、背後から甲斐のドロップキックが炸裂した。

 

「ぐっ、テメェ…!?」

「へへっ折角会えたんだ。もう少しゆっくりして行けよ」

「この野郎…上等だ殺してやるぞ甲斐ぃ!」

 

シルバーヘッド

 

「おらぁッ!」

「くっ!?」

 

 シルバーヘッドは得物である杖を振るう。それに対して甲斐は身体を捻りながら回避すると、そのまま拳を振るい攻撃する。一発、二発と拳を撃ち込み回し蹴りに繋げてミゲルへダメージを蓄積させる。

対して痛みに怯みながらもミゲルが杖を振るうだろう、それに対して甲斐を腕を交差させてガードする…が。

 

「う、おおお!?」

「しゃぁっ!」

 

 防御しているにも関わらず、シルバーヘッドはそのパワー任せの一撃で甲斐を吹き飛ばし壁面に叩きつけたのだ。

 

「が…っ、なんだこの力…!」

『甲斐……恐らくだけどアイツが接種した薬の影響よ!』

 

 ツィッギーは考えを語る。その薬物を接種した事によりエーテルに対する耐性を上昇させると同時に副次的な効果として身体能力が激増している。

 

「そんなのありかよ…!」

「ありなんだよ…お前らぁ!来い!」

 

 直後、周囲からシルバーヘッドの部下達が現れる。ビルの爆破に巻き込まれアンビー達も共に落ちてきた者達なのだろう。だがそれにも関わらず甲斐と臥龍ボンプは互いに背を預け戦闘続行の意思を示す。

 

「はぁっ!」

『ンナァ!』

 

 同時に駆け出し、眼前の敵達に向かって猛襲を仕掛ける。一人を掴み豪快に投げる事で他を巻き込む甲斐に対してボンプの方は小さな身体を活かした回避、体内に搭載された武装を利用して戦いを繰り広げるだろう。

…そんな彼等の元にシルバーヘッドは自身の得物である杖を両手で掴むと本来の武器である『仕込み杖』を展開。その暗器を甲斐に向かって突き刺そうと迫る。

 

『ンナァ!(後ろから来るぞ!)』

「うおッ!?」

 

 咄嗟に足元にあった廃材の鉄パイプを拾い上げ、迫る刃を寸前の所で逸らす。安堵するのと束の間、赤牙組の構成員達は彼等に隙を与えないように襲い掛かってくる。

 

「くそっ、キリがないぞ…!ツイッギー、なんか突破する策とか秘密兵器とか無いのか!?」

『あるわよ秘密兵器』

「あるのかよ!?」

 

 その直後、ピロンと甲斐の有するデバイスにアプリがインストールされる。遠隔で操作したツイッギーが説明を行う。

 

『デリバリーヘルプエーテルよ。代金を払う事によりホロウ内外問わず助っ人を呼ぶ事ができるわ』

「何だよそのシステム…と言うか金取るってか!?」

『肖像権と手数料の分よ。でも安心しなさい、初回は無料サービスになってるからディニーは次回以降から掛かるわ』

「そりゃありがたいな!よし、呼ぶかデリヘル!」

『最低な男ね』

「うるせぇ!(反論)」

 

 甲斐はデバイスを起動すると高らかに叫ぶ。

 

「デリバリー…よろしくぅ!!!」

「「「「「「急にどうした!?」」」」」」

 

 赤牙組の困惑と驚愕、少々の恐怖が入り混ざった声をかき消すように局所的にエーテルが活性化し、それは徐々に人の形を作っていく。ホロウには特殊なエーテリアスとして『ドッペル・ゲンガー』と言う個体が存在する。それは人の形だけでなく戦闘能力すらも模倣する妖魔が如く恐怖を具現化する特徴を有する。

それを参考に人工的に人を再現する力によって今は此処にいない存在が姿を露わにした。

 

 

ミスター・デリバリーヘルプ

ゲイリー・バスター・ホームズ

 

「即死と腹上死、オ好ミハ?」

「なんだこいつ!?甲斐、テメェがやったのか!?」

「なんだこいつ!?」

「いや何でお前も驚いているんだよ!?」

 

 突如現れた筋骨隆々の黒人に戸惑う一同。それに対してツイッギーが冷静に解説を挟んだ。

 

『彼はゲイリー・バスター・ホームズ。悪名高い郊外の地下闘技場で名前を轟かせている猛者よ』

「なんでそんな猛者がこれ(デリヘル)の無料サービスで出てくるんだ!?」

 

 そんなツッコミを他所にゲイリー(の幻影)は棘付きグローブを装備した両手を振るう。その空気を穿つ衝撃波を何度も撃ち込むとシルバーヘッドの部下達は吹き飛ばされていく。

 

「な、馬鹿なっ!?」

「フィーニッシュネ!!!」

 

 咄嗟に杖を盾代わりにするミゲル。だがそれにも関わらず全身に強い衝撃が走り、彼も部下同様に吹き飛ばされてしまう。それを見た甲斐はチャンスと感じ、彼に向かって駆け出す。

 

「この野郎ぶさけやがって!…うおっ!?」

『ンナナナ!(させねぇよ!)』

 

 臥龍から放たれたワイヤーがシルバーヘッドの仕込み杖を絡め取る事で刃を振るう事を阻止する。その隙を逃さず甲斐は顎に向かって蹴りを放つ。すると相手はフラフラとその場で膝を付いた。それに対して顔面を掴むと後方の壁面に向かってシルバーヘッドの後頭部を叩きつけた。

 

△極『壁面打撃の極み』

 

「ぐあああっ!?」

 

 頭を強打した事で床に伏して悶絶する。だがそれを見過ごす程に加賀美は甘くなかった。彼は脚を相手の頭部に向かって振り下ろす。

 

△極『追い討ちの極み』

 

「ごっ…あ……」

「これで終わりだよ…オヤジ」

 

 ゴシャァッ!と鈍い音を鳴らし、シルバーヘッドは地面の上で意識を手放す。息を切らしながら加賀美は自身の勝利、そして赤牙組をこの手で終わらせた事実を噛み締めるのだった。

 

 

Zenless Zone Zero NowLoading…

 

 

「赤牙組の構成員並びにリーダーのシルバーヘッドの確保。協力感謝致します」

 

 戦闘が終わった後、治安局部隊が到着。倒れ伏した赤牙組の構成員達は無事に拘束されたのだった。荒事が終わり一息ついている加賀美の元に朱鳶が労いの言葉を掛けてきた。

 

「朱鳶さん…なんて言うか、意外だな。アンタの事だから一言目には嫌味か注意のどっちかが出てくると思ったんだが」

「貴方の事ですから、こうなると予想していました」

 

 きっと此処に依頼で来たと言うのも建前で自分の手で捕まえたい。そう考えての行動を朱鳶は見抜いていたのだ。

 

「…その、悪い。朱鳶さん」

「…意外ですね。貴方の事ですから一言目には言い訳が出てくると思いました」

「朱鳶さん根に持ってるだろ!?…その、セスにも言われた通り本来なら治安局に頼るべきだったのに」

 

 加賀美は自分のした事を改めて謝罪する。今や市民に過ぎない自分だからこそ治安局である皆に頼るべきだった…でもそうしなかったのは自分なりのケジメだったのだ。

結果がどうあれ、自分が行動してミゲル達を止めようとしなければ自分は後悔していただろう。これは納得の問題だ、納得した行動がなければ自分の人生は褪せてしまう。だからこそ彼はこうして動いたのだ。

 

「…朱鳶さん、ミゲルを…オヤジをお願いします」

「ええ、任せてください」

 

 そう言う朱鳶はその場から離れていく。そんな彼女を見送り加賀美は溜息をこぼす。

 

「なぁ"猫又"…俺はお前にどう伝えればいいんだろうな…」

 

 かつての友人の名前を口にし、捻れ歪んだ景色を眺める。君ならどう言うか、君ならどうするか…君は何処で何をしているのか。そんな事を加賀美は思い耽るのだった。

 

……が、突如としてパァン!と乾いた音が響き、彼は現実に引き戻される。音の発生源を見ると、そこには手錠をされながらも治安官の銃を奪ったシルバーヘッドの姿があった。

 

「こんな所で終われるかよッ!」

「待ちなさいミゲル!」

「クソ、おい撃たれた治安官は俺が処置する。だから加賀美、お前も行け!」

「…ああ!」

 

 治安官全員が駆け出す中、加賀美はその全員を追い抜く程のスピードでミゲルに迫る。相手がこちらに発砲して来るが銃口は定まらず命中する事は無い。

 

(オヤジ、今までありがとう。アンタのお陰で俺はこうして正しく生きようと足掻く事ができた)

 

 ホロウ災害により親を亡くした自分を孤独から救ってくれた。仁義と人を助ける事の意味を教えてくれた。そんなミゲルに加賀美は心の中で感謝を述べる。

だからこれ以上の無様な姿を晒させない。そう心に決めた彼は脚に力を込めて、腹の底から声を上げた。

 

「オヤジありがとう…それはそうと死ねぇ!」

(((死ね!?)))

「は?……うごぉっ!?」

 

 加賀美甲斐が放った渾身のドロップキックはミゲルの背中にクリティカルヒット。そして吹き飛んだ先に偶然存在していた裂け目に飲み込まれていった。

 

「「「「あっ」」」」

 

 その場に気不味い空気が流れる…そんな中、青衣が咳払いをしながらフォローを入れる。

 

「安心せい、奴が入ったのはホロウの外に繋がる裂け目。それにもしもの時に備えて発信機も取り付けておる」

「マジかよ先生!ああ良かった…」

「その割には掛け声が思い切り"死ねぇ!"だったのですが!?とにかく先輩、シルバーヘッドの移動先は何処ですか!?」

「そう急ぐな朱鳶よ。地図に載ってある此処に奴は移動したと思われる」

 

 地図の場所を確認し、治安官達がすぐに行動を開始しようするが加賀美が"待った"を掛けた。

 

「不味い…オヤジの奴。よりにもよって『あの場所』に行ってるなんて…」

「あの場所とな。坊は何か知っておるのか?」

「加賀美君。あの場所と言うのは一体?」

「ええと…権田原組事務所です」

 

 

Zenless Zone Zero NowLoading…

 

 

 シルバーヘッドは意識を取り戻す。ホロウ内の裂け目に飲み込まれた自分だったが運良く外へ脱出できたらしい。これはきっと神が自分にチャンスを与えてくれたのだろうと考える。部下達が捕まったのが痛いが、また新しく作れば問題ない。赤牙組を立て直し、裏切り者である加賀美に復讐する…そう頭の中でまとめて前を向くと常識から逸脱した景色が広がっていた。

 

……赤ちゃんである。

 

「…は?」

 

 それもただの赤ん坊ではない。赤ん坊の格好をした大人だ。良い歳をした赤ん坊達が大人のお姉さんにお世話されているのだ。

 

「なんやワレェ!急に飛び出してきおって何処のモンじゃぁ!」

「カチコミかぁ!上等じゃぁ!」

 

 不味い…!ミゲルは両手を手錠で拘束されている。なんとかしてこの地獄の空間から脱出しなければ。そう思っているとこの変態達の中でリーダー格なのだろう。歳を重ねているであろうオムツ一丁の男が声を上げる。

 

「落ち着かんかいお前等!ワシらの事務所(パラダイス)に来たと言う事は…ワシの高尚な趣味に理解を示してわざわざ来てくれたと言う事に違いない!」

「高尚な…これが!?」

 

 何処が高尚なのか理解できないミゲル。そんな彼に権田原組組長である権田原進がにじり寄って来る。

 

「安心せぇ。ワシらがじっくりと"良さ"を教えてやるからのう…」

「や、やめろ…ち、近づくなぁあああああッ!?」

 

 その後、治安局はお楽しみ中の権田原組事務所にて保護(?)されたシルバーヘッドを連行。虚ろな眼でオムツを履いた状態の彼の格好を指摘する人間は誰も居なかったと言う…。

 

 

 





これでゼンゼロ1章は終わりとなります。こんな終わり方で許されるのか…!?


【登場人物紹介】
○ツィッギー
放送特番『シルバーソルジャーの歌』より登場。アンビーが所属していたシルバー小隊の一員。過去に両腕両脚がエーテル浸蝕された事により機械仕掛けの四肢を取り付ける事となった。
かつて裏のシノギに関する依頼で甲斐と出会い、解放される事となる。良さげな義肢を提供してくれる人物を探していたところ、試作品の性能を試すと言う建前で白祇重工のあるエンジニアからオリジナル義肢をいただく事となった。その結果、両腕ドリルと脚キャタピラと言うやばいのが生み出される事となった。

○権田原進
龍が如くシリーズにて登場。サブストーリー限定の人物ながらもその赤ちゃんプレイをこよなく愛するインパクトが凄まじい人物。趣味を馬鹿にされると激情するヤバい人ではあるが、義理人情を溢れる古風な極道気質を持っている人格者である。性癖以外はマトモなのである!

○ミゲル
シルバーヘッドこと赤牙組のヘッド。ゼンレスゾーンゼロ本編では亡き人となったがこちらは生存する事となるが最後に権田原の毒牙に掛かる事となった…。


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