新エリー都で如く   作:ゴランド

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モチベーションが高いので比較的早く投稿です。よろしくお願いします



1章 猫の落とし物
7話 猫との戯れ


 

「金欲しいなぁ……」

 

 ボソリと呟きながら男は言う。加賀美探偵事務所社長は現在、工事現場のバイトに精を出していた…!探偵業を営む彼だがどうにも収入はイマイチ。なので今現在日雇いの工事現場作業員としてバイトを受けていたのである。

そんな彼の元に二人組のチンピラが現れた。

 

「いたぞ!親分の仇…ぃっ!?」

「クソ加賀美!てめぇを倒してや…ごぶぁっ!?」

「工事現場に入ってくるな。バイト中くらいはちゃんと働かせてくれよ…」

 

 二人に対してスコップを巧みに扱い制圧する加賀美。そんな騒ぎに気付いて他の作業員達が駆け付けて来た。

 

「何だコイツら!俺等の縄張りに入って来やがって!」

「こいつら赤牙組か!何の用だオラァ!」

 

 だいぶガラが悪いが歴とした建設会社の社員達である。そんな彼等の中から整った顔立ちをした女性が紫色の髪を靡かせ歩み寄って来る。

 

「この人達は誰なのです?」

「あー…知らない人?多分」

「何だかフワフワしているのです」

 

 バイト仲間である少女が呆れたような視線を向ける。昔から何故か喧嘩を売られやすい体質である加賀美は一々チンピラの顔を覚えるつもりはないのである。その為、目の前の二人組が何者であるか見当も付いてない様子だ…。

そんな最中、ドスの効いた声が現場作業に響く。

 

「なんや騒がしいのう…おう加賀美、お前の知り合いかい」

 

 

真島建設会社 社長

真島吾朗

 

 

「あっ、お疲れ様です親父……痛ぁ!?」

「アホか西田!ワシの事は社長と呼ばんかいボケッ!…で、誰やコイツら?」

 

 部下の西田をヘルメット越しに殴った後、そう問い掛ける真島。そんな社長に対して加賀美は複雑そうな表情で答える。

 

「恐らく知り合い…多分?」

「いや何で疑問形やねん」

「単純に知らない相手なんで…でもこの服装や喋ってた内容から察するに恐らく赤牙組の残党だと思います」

「ほぉん?」

 

 すると真島は元赤牙組の2人に近づくとそれぞれに思い切り腹を蹴り付け、手にしたバットを何度も振り下ろす。

 

「ぐあっ!?」

「あがっ!」

「おうおう、仕事中の現場は危ないから入っちゃ駄目と教わらなかったんかぁ?お前等ぁ!事務所に連れていけやぁ!」

 

 従業員達は倒れ伏した二人組を無理矢理起こし連れて行く。そんな恐怖映像に加賀美と西田がヒソヒソと話す。

 

「なんかピリピリしてますね真島さん」

「実はヴィジョンコーポレーションに仕事取られちゃいまして…」

「成る程そう言う事ですか…」

 

 ヴィジョンコーポレーション。真島建設の競合相手の一人であり、新エリー都にて大手の建設会社として知られている存在だ。真島建設会社は白祇重工と旧地下鉄の工事請負を競っていたが、低コスト短期間による完成を約束した影響でヴィジョンに落札されてしまった。その為か社長の真島は先程から不機嫌な態度を見せているのだ。

 

「…ふぅ、ところで加賀美。お前そろそろ良い時期じゃないんか?」

「時期?」

「せや、お前のランクアップの時期や!」

「ランクアップ!?」

「まぁ!それは凄いのです!」

 

 バイト仲間である少女、ビビアンが感心したような声を上げる。そんな彼女の様子を前にテンションを上げるかの如く社長は話を続ける。

 

「加賀美、今後からお前は真島建設会社の現場監督に任命するでぇ!お前は優秀で将来的にも見込みがある!儲からない探偵なんかよりこっちで働いた方がガッポリやでぇ!」

「バイトからランクアップし過ぎじゃないすかね親父…じゃなくて社長」

「俺もそう思うんですけど」

「じゃかしぃ!そこは素直に喜ぶところやろがい!」

 

 西田と加賀美の言葉にそう言い返す社長。だがそれに対して昇級を言い渡されたバイト(本職探偵)はイマイチ乗り気ではない様子を見せる。

 

「社長ありがとうございます。でも俺は探偵が本職なので気持ちだけ受け取っておきます…ただバイトでならいつでも出来る限りヘルプに入るので!」

「そうか、なら気が向いたらいつでも言ってくれや。待ってるからのぅ!ヒーッヒッヒッヒッ!」

 

 どう考えてもカタギとは思えない笑い声が響く。その後、加賀美は給料を貰い探偵事務所の帰路を歩く。彼の頭の中はヴィジョンコーポレーションについてが大半を占めていた。

 

「ヴィジョン…工事か…」

 

 テレビニュースを見ていた彼は所属していた赤牙組が誕生した場所であるカンバス通りが爆破解体されてしまうと言う事実を知ってしまった。その事を刑務所に入られているミゲルや猫又は知っているのか?

そんな複雑な思いが彼の中で湧いてくる。

 

「カンバス通り、見ておけば良かったなぁ……ん?」

 

 そんな言葉を漏らしていると、自分の事務所前に何か落ちているのに気付く。何かが絡まった小汚い布、赤牙組残党の嫌がらせか?と思っていると風がその中身を露わにした…なんとソレは人だった。

それを見た加賀美は目を見開き"その人物"の傍に駆け寄ると声を掛ける。

 

「お前、猫(・)又(・)なのか…?」

「甲斐ぃ…」

「どうしてこんな所に!?一体なにがあった!」

 

 赤牙組に居た時、背中を預けられる程の仲だった友。そんな彼女が自身の事務所前に倒れていた事実に固唾を飲む。

 

「お腹痛いぃ……」

「ええ…(困惑)」

 

 猫又こと猫宮又奈(ねこみやまな)との久しぶりの出会いはとても感動的とは言えないものであった。

 

 

Zenless Zone Zero NowLoading…

 

 

「助かったぞ甲斐。薬ありがとうね」

 

 

元赤牙組

猫宮又奈

 

 

「しかし腐ったサバ食って食中毒起こしたって…お前なぁ」

「うぐぐ、しょうがないでしょ…折角のご馳走なんだから!」

「もうそれだとご馳走じゃなくて生ゴミの段階に突入してるんだよ」

 

 事務所に猫又を連れて行った彼は看病する事にした。紅茶(出涸らし8回目)に微妙な顔をしていたが市販の胃薬ですっかり体調を回復させた。

 

「それにしても体調良くなって来たらお腹も空いて来ちゃった。なんか食べるものある?」

「図々しいなお前?」

『ンナナ(鰯(イワシ)のリゾットだ。胃に優しいだろうから安心して食え)』

「おおお〜、良い匂い!」

「臥龍さん?何で勝手に戸棚のレトルト食品出してるの?」

 

 いただきます!と高らかに声を上げ、眼前の料理を美味しそうに食べて行く。貴重な食料が…と嘆きながらも加賀美は何処か嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「なんだろうな…こうやってお前と再会したってのに。前と変わらない感じがするな」

 

 二人が赤牙組だった頃。それとなく食事を共にする機会があった。回数を重ねる内に彼女は加賀美に食事をたかりに来る頻度が多くなっていったのだ。そんなかつて在りし日に既視感(デジャヴ)を覚える。

きっと再開する事はない…そう思っていたからこそ、彼はこの瞬間が愛おしく感じたのだった。

 

「ふぅ…いやー助かった!やっぱり困った時に頼れるのはかつての相棒だぞ!」

「そう思うなら少しは遠慮するのも覚えてくれよ…まぁ、いいや」

 

 満足そうにする猫又を前に加賀美は考える素振りを見せた後、口を開く。

 

「なぁ、オヤジの事なんだが…」

「…うん、分かってるよ。私も赤牙組から抜けた身だけど、その事は耳に入ってるよ」

「…そうか」

 

 短く応える。加賀美が組から抜けた後、彼女も同じように見限ったのだろう。だがそれでもミゲルから受けた恩を忘れてはいない…心の整理もしたかったからこうやって会いに来たのだろうと探偵は考える。

 

「あのさシルバーヘッドは治安局に捕まったんだよね」

「ああ、そうだ。俺も協力した」

「それで甲斐は納得してるの?」

「……」

 

 そう言われて加賀美は口に出そうとした言葉が詰まる。自分は決して悔いが残るような行動はしてなかった筈だ…そう己に言い聞かせる。だがそれでも『こうすれば良かったのではないか?』そんな思いが湧いて出てくる。

 

「そうだな、納得した行動はやった後悔はしていない…けど、心残りはあるよ」

「甲斐…」

 

 自分の手でかつての居場所を壊した。他の構成員達を巻き添えにしたのだ。加えてその選択肢は他の犯罪者集団達の糧にするかもしれない。結局の所、自分自身にどれだけ言い訳をしても愚かであった事には変わりないのだ。そんな自罰的な考えが見透かされるように猫又は言葉を紡いだ。

 

「…あのさ、ちょっと出歩いてみない?」

「え?」

 

 

Zenless Zone Zero NowLoading…

 

 

 ここはルミナスクエア。加賀美の事務所であるプレハブ小屋からしばらく歩けば喧騒や煌びやかな光が集いし都市へ繋がる。そんな場所に二人組が歩いていた。

 

「やっぱり此処は人が沢山居て騒がしいゾ…」

「大丈夫か猫又?耳も強い方なんだからこう言う場所は苦手なんじゃないのか?」

「おっと、こう見えても都会暮らしは慣れてるんだ〜。よーし、早速遊びに行こう!」

「遊びかぁ…依頼も入ってないし気晴らしとして丁度良いかもな」

 

 

ルミナスクエアを満喫しろ!

 

 

 二人は互いに同じくらいの歩幅で歩きながら街の景色を楽しむ。日に照らされた海が輝き多数の自動車が行き交う事により寂しさを消してくれる。そんな雰囲気を楽しんでいると彼等はとある施設に注目した。

 

「なんだろうこの店?」

「最近できたカラオケって言う店だな。好きな曲を時間毎に歌い放題の施設なんだ」

「へぇ、面白そう!じゃあここに入ってみようよ!」

「そうだな…よし、歌うかぁ!」

 

 彼等はカラオケ店に入るとそのまま部屋へ案内される。初めてのカラオケに猫又は目を輝かせている。

 

「おお〜〜!結構中は広いなぁ!」

「よし、初めての猫又に俺が手本を見せてやろう」

「ほう?それじゃお手並み拝見!」

 

 加賀美は手元にあるタブレット端末を操作すると自分がこれから歌う曲を選択。対して猫又はソファに座りこれから起きる出来事に胸を高鳴らせる。

 

 

ばかみたい

 

 流れて来たのは哀愁漂うメロディー。猫又は折角気分転換しに来たのにわざわざこう言う曲歌うの!?と若干驚き気味だ。そんな彼女を他所に加賀美はマイクを手に口を開く。

 

「馬鹿みたい子供なのね 夢を追って傷ついて 」

「 嘘が下手なくせに笑えない笑顔みせた」

 

 いつもの激しい彼からは考えられない優しく繊細な歌声が部屋の中に満ちる。そんな加賀美の放つ声に反応してか猫又は幻覚を見る。

 

(…え、何処なの此処!?私達さっきまでカラオケに居た筈だよね!?)

 

 彼女は謎のバーで加賀美がウィスキーを片手に持つ姿を目にする。猫又の困惑する中、彼はサビに突入した曲を熱唱する。

 

「だめだねだめよだめなのよ 」

「あんたが好きで好きすぎて」

 

 そんな彼はカウンターテーブルに置いてあるシルバーヘッド、猫又と共に撮った写真に哀しみの籠った視線を送る。

 

「どれだけ強いお酒でも」

「歪まない思い出が馬鹿みたい」

 

 ウィスキーを飲み干し、切ない声で歌い切る加賀美。その哀愁漂う背中を見て猫又は何も言えずに居たのだった…。

 

────────────────────

 

曲名:ばかみたい

ユーザー名:加賀美甲斐

    得点

92.850点

あなたの最高得点 93.760点

 

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「くぅ〜ッ、やっぱり一曲歌うとスッキリするなぁ!」

「あの曲でスッキリする事あるんだ!?と言うか今の何!?なんか変な幻覚見えたんだけど!」

「ああ、カラオケに熱中すると高確率で幻覚を見るらしいぞ?」

「いや当たり前に言われても!カラオケってそう言うものなの!?」

 

 間違った認識を植え付けられそうになる猫又。そんな彼女に加賀美は「ほら次歌えよ」とマイクとタブレットを渡してくる。

 

「え、ええ…?それじゃ…これで」

 

 

KONNANじゃないっ!

 

 流れて来るのは先程まで加賀美が歌っていたものと打って変わって可愛らしい曲調のものだ。そんな前奏が部屋の中を楽しい雰囲気に盛り上げ、猫又と加賀美の二人はテンションを上げている。

 

「うおおおおおおお!ブチ上げて行くぞ!」

「!?」

「タイガー!ファイヤー!サイバー!ファイバー!ダイバー!バイバー!ジャージャー!」

 

 訂正、テンションをブチ上げ過ぎていた。いや情緒どうなってるんだ!?そう問いただしたくなる彼の合いの手にビクッとしながらも猫又はマイクを手に歌声を披露する。

 

「アノユメもアコガレも落書きのまま」

「ボヤけて消える寸前」

\ハイ!/ \ハイ!/ \ハイ!/ \ハイ!/ \Go!Go!/

「「コレガイイノ?」「コレデイイノ?」」

\ヒューッ!/ \フッフゥーウ!/

「ふてくされてる鏡に何度も問いかけた」

\ハイ!/ \ハイ!/ \ハイ!/ \ハイ!/ \Go!Go! Let's Go‼︎/

 

 猫又が歌う曲に喧しい合いの手が炸裂する。そんな彼女だったがメロディーを声に出すにつれ自然と曲そのものに引き込まれる感覚を覚える。先程見た幻覚同様に猫又達の居る空間が…猫又の纏う衣装が変化する。

そこは多数の観客集うステージ。そんな舞台で猫又はアイドル衣装で身を包み踊り奏でるのだった。

 

「 Are you ready GO! 走り出そう!」

\ヒューッ!/ \ヒューッ!/

「取り急ぎ さぁスタート!」

\ス タ ア ト!/

「うつむかない!ふりむかない!」

\ヒューッ!/ \ヒューッ!/

「明日は絶対もっとShiny!」

\Go!Go! Let's Go‼︎/ \Let's Go‼︎又奈!/

「ジブン次第! 掴め未来!」

\ヒューッ!/ \ヒューッ!/

「今すぐスタートボタン押してみよう」

\ハイ!ハイ!ソレ!ソレ!/ \フッフゥーウ!/ \Push‼︎/

「私はこんなんじゃないはず!」

\ッヘーイ!/ \こ ん な ん じゃ ッ!/ \イェ〜〜〜イッ!/

 

 加賀美による合いの手とタンバリン、マラカスが最後まで響き渡り猫又は最後まで歌った事による充実感を味わう。これがカラオケ、この達成感こそがカラオケの醍醐味なのかと猫又は頭でなく心で感じたのだった。

 

────────────────────

 

曲名:KONNANじゃないっ!

ユーザー名:猫宮又奈

    得点

89.163点

あなたの最高得点 89.163点

 

────────────────────

 

「これがカラオケか〜!とても気持ち良かったぞ!甲斐もハマる訳だ」

「そうだろ?猫又も初めてにしては上出来じゃないか」

「へへへ〜、あたしには才能があるのかもね」

 

 猫又は「あ、そうそう」と付け加えて彼に向かって告げる。

 

「合いの手が鬱陶しいから今度からしないでね」

「なんだとぉ」

 

 カラオケ店を楽しんだ二人は店を後にする。しばし都市を歩いていると彼等の前を何かが横切る。

 

「うわっ、なに!?キックボード!?」

「いやそれにしては形が違うな?あれは…」

 

 見た目はキックボードに近いが、タイヤが並列に配置されている乗り物だ。そんなマシンに乗っていた男性は申し訳なさそうにこちらへ向かって来る。

 

「申し訳ありません!お怪我はありませんでしたか!?」

「ちょっとびっくりしたけど大丈夫だよ」

「ああこっちも平気だ。それにしてもそれは何なんだ?」

「興味がありますか?これは『OKAサーファー』と言うんです」

「「OKAサーファー?」」

 

 

サイドストーリー

『夢へ走れOKAサーファー』

 

 

「申し遅れました。私は丘と申します」

「ああこれはどうも加賀美甲斐です」

「猫宮又奈だよっ!」

 

 眼鏡を掛けたスーツ姿の男性、丘は自身が乗っていたマシンについて紹介する。

 

「こちらのOKAサーファーは昨今人気となっているエーテルバッテリー式のキックボードや自転車と比べて安定性が高く、乗っているだけで足を動かさず進む事ができるんですよ!」

「へぇ、乗るだけで」

「そりゃ便利だ!漕がなくて済むって楽で良いぞ!」

「そう言っていただけて何よりです」

 

 そう呟く丘であったが表情は何処か暗い。一体どうしたのか?た考えていると彼等の背後から女性の声が響いて来た。

 

「丘さんOKAサーファーの調子はどうかな?」

「グレースさん。ええ今の所は回路がオーバーヒートせずに安定して走行できています」

「グレース…って、もしかして白祇重工のグレースさんか?」

「おや!?そう言う君は加賀美じゃないか!臥龍はいるのかい!?」

 

 

白祇重工 エンジニア

グレース・ハワード

 

 

「なに、甲斐の知り合いなの?」

「ああ。一応は信頼できるメカニックだよ」

「"一応"をつける所に変な予感をさせられるんだけど」

 

 工業用ゴーグルを頭に付けた黒髪の女性、グレース・ハワードは興奮気味に言う。彼女とは白祇重工での依頼や臥龍、ツイッギーの義肢メンテナンスで度々顔を合わす仲である。

そんなグレースはショックを受けたような表情を浮かべる。

 

「ええっ!?臥龍を連れていないなんて…!くぅ、今度から私にいつでも会って良いように24時間常に連れて来てくれないかい!?」

「な?こう言う人なんだ」

「大体理解できたぞ…それはそうと白祇重工って噂の自律思考型の重機を作ってる所でしょ?なんでこんな所にいるの?」

 

 白祇重工と言えば加賀美がバイトで働いていた真島建設と同様に旧地下鉄道工事の利権をヴィジョンに取られてしまった筈だ。そんな白祇重工の一員である彼女が何故ここに?そんな疑問に答えるかのように彼女は言う。

 

「趣味」

「趣味!?」

「ははは、正確には彼の作る"子"に凄い興味を持ってね。何十年ほぼ一人の力で試乗実験を重ねると言う情熱を注いだOKAサーファーにトキメキを感じたんだよ!」

「はい、それでグレースさんに声を掛けていただき個人的な共同開発に携わってもらっているんです」

「しかし丘さん。億を超えるトライ&エラーで此処までの子を作り出すのは苦労したでしょう」

「いえいえこれも私の夢の為ですから」

 

 夢の為。そう聞いて加賀美達はかつての自分達を思い起こす。人を助けると言う目標の為にがむしゃらに走っていた赤牙組時代、今は散ってしまったものだが夢を追いかけていた自分達はきっと今の丘のように輝いていたに違いない。

 

「そうだ加賀美。もし良かったらOKAサーファーの試乗体験をしてみないかい?」

「OKAサーファーの?」

「こちらも様々なお客様からの走行データや感想を取り入れてアップデートをしていきたいのですが…その、過去の失敗やバグが尾を引いておりまして」

 

 丘の言う失敗はOKAサーファーの走行中に起きた爆発、炎上事故だ。現在のマシンは度重なる修正によりそのような事態は無くなっているが、やはり過去起きた影響をすぐに拭う事は出来ない。それ故にグレースは信頼出来る人物に協力を求めたのだろう。

 

「そこまで言うなら折角だし試乗してみるか」

「おお、ありがとうございます!」

 

 加賀美は用意された一台のOKAサーファーに乗る。初めての操作に戸惑いを覚えるが少しすると慣れて来たのか楽しさが増し、走行も先程と比べて格段に上手になって来た。

 

「中々快適だな…!一台欲しいくらいだ」

「それは良かった!でしたら少し遠出してみるのはいかがでしょう?」

「え、でも試乗なんだろ?初対面の相手に言うのはちょっと早計と言うか…」

「君ならそんな事しないだろう?それに丘さんの子を笑わない君だからこそお願いしたいんだよ」

「そうか?それじゃ…」

 

→少し遠くまで行ってみる

やめておく

 

「走行データも必要だろうし、遠くまで行ってみるか!」

「ありがとうございます!事故を起こさないよう十分に気をつけてくださいね!」

「ああ任せてくれ…うおっ!?」

「待ちなって!私を置いていかないでよねっ!」

 

 OKAサーファーを走らせようとすると背中に猫又が飛び付いて来た。どうやら彼女も一緒に行きたいらしい。

 

「乗る時は一声掛けてからにしてくれよ…まぁいいや。じゃ出発だ!」

「おおー!」

 

 二人が乗るOKAサーファーはスイスイと道を進む。バッテリーについては太陽光発電により気にしないで済む。加賀美はこのマシンを使って何処へ行こうかと悩んでいると猫又が口を開く。

 

「あのさ、折角だしカンバス通り行ってみない?もしかしたらこれで見れるのが最後になるかもだし」

「カンバス通りか…そうだな。よし、アクセルフルスロットルだ!」

 

 お互いに良い思い出もあれば苦い思い出もある区域。だがしかしそれでも全ての始まりである場所の最後は見届けたい…そんな想いを胸に加賀美はOKAサーファーを走らせたのだった。

 

 

Zenless Zone Zero NowLoading…

 

 

「此処から先は立ち入り禁止だぞ」

「「ええーーーッ!?」」

 

 【悲報】爆破解体につき全面的に立ち入り禁止だった件。現在カンバス通り方面はヴィジョンコーポレーションの解体工事が行われる関係上、入る事は出来なかったのである。猫又達はどうにか見るだけでも出来ないか?と問うが封鎖を行う治安官達に冷たくあしらわれるばかりだ。

 

「全くこんな事して暇なのかお前達は」

「へっ、こう言うカップル見るとイラついて仕方ねーぜ」

「に゛ゃ゛っ!?カ、カップルって…!そ、そんなに私達がそんなお似合いに見えるだなんて…!」

 

 顔を真っ赤にしながら言う猫又。そんな彼女の様子を見て治安官達は呟く。

 

「…いや流石に無いか」

「そうだな。こんな貧相な小娘相手にカップルって言ったのがアホらしいぜ」

「悪かったなお前達、どっか行ってもいいぞ」

「ステイッ!落ち着くんだ猫又ステイッ!相手は治安官だから!」

 

 凄い形相でビキッ!ビキッ!と怒髪天を突く勢いの猫又を連れ、OKAサーファーを走らせる加賀美。このままでは彼女は不祥事を起こしてしまう為、その場から離れる事にしたのだった。

 

「全く失礼しちゃうよ!目の前にいる相手に向かってあんな事を!」

「分かってる!お前はとても魅力的だよ!分かったから降りてくれないか?俺の首がもげる」

 

 加賀美の首から上を抱きつく体勢の猫又にそう告げる。人によっては羨ましい光景かもしれないが、彼にとってはいつ転蓮華に移行して頸骨破壊の危機に陥っていもおかしくない状況なのだ。

何とか猫又に機嫌を良くしてもらおうと褒めに褒めちぎりながらグレース達の居る場所へ戻る…が、何か騒がしい事に気付く。

 

「あれは…丘さんとグレースさんか?」

「本当だ、でもなんか変な奴等に絡まれてるぞ!」

 

 

 

「おいおい丘さんよぉ、まだこんな欠陥品のゴミを作ってんのか?」

「ははは!今時流行らねぇよダッセ〜!」

「ぐっ…」

 

 場所が変わり、そこには傷だらけの丘が居た。彼はチンピラに難癖をつけられ、暴行を加えられたのである。そんな丘とチンピラ達の間にグレースが割り込む。

 

「君達、こんな無意味な事は今すぐやめてくれないか!」

「何だ?文句あるのかよ姉ちゃん」

「そうだぜ、こんなガラクタあっても意味ないんだよ!」

 

 チンピラがOKAサーファーを蹴り壊そうとするが咄嗟に丘が身体を滑り込む事で防ぐ事に成功する。

 

「ぐっ」

「丘さん!」

「へっ、ガラクタもガラクタならオッサンもガラクタみてぇな奴だな」

「君達…!いい加減にしろ!これ以上やると言うなら」

「なんだ?やろうって言うのかよ!」

「知ってるぜお前のいる白祇重工も前の社長が金を持ち逃げするようなゴミみてぇな所なんだろ!」

「…っ!」

 

 そう言われてグレースは歯を噛み締める。突きつけられたくない箇所を突かれ彼女は何も言い出せなくなってしまった。前社長であるホルスの夢を継いだ彼女の信じたくない過去。己の父親でもあったホルスが会社の資金を横領し行方不明となってしまった事により白祇重工は倒産寸前にまで追い込まれた。それ故になのか、反論する事が出来なかった。

 

「へっ、黙りやがって。なんとか言ったらどうだ!」

「それは…」

「それは違うッ!」

 

 反論したのはフラフラと起き上がる丘だった。

 

「白祇重工は確かに不祥事があった…だがそれにも負けずに彼等は今こうして立ち上がり成果を出している。確かに失敗はあったかもしれない…けど、そんな彼等は新たに夢を追いかけているんだ!そんな白祇重工をゴミとは呼ばせてなるものか!」

「丘さん…!」

「へっ、ごちゃごちゃうるさいんだよオッサン!」

 

 チンピラの一人がそう言いながら拳を振るった…その瞬間、割り込んだ加賀美が拳を受け止めた。

 

「なんだお前…がっ!?」

「おっとゴメンね〜」

 

 そしてOKAサーファーを踏みつけていたチンピラの一人を猫又が飛び蹴りで吹き飛ばす。チンピラ達に対して加賀美は言う。

 

「悪いな。このOKAサーファーは購入予定なんだ、傷つけられちゃ困るんだよ…それに人の夢を馬鹿する奴はどうも殴りたくて仕方ないんだよ」

「私の方はちょーっと苛々しててさ。グレースと丘には試乗させて貰った恩があるから返さないとなんだよね」

「君達…!」

「悪く思わないでくれよグレースさん、こんな奴等はアンタが手を出すまでもない」

 

 遠回しに格下と呼ばれている事を察したチンピラ達は怒りを募らせていく。

 

「テメェ…上等だ!OKAサーファー諸共、ゴミにしてやるよ!」

 

 

チンピラ達

 

 

 複数のチンピラが加賀美と猫又を囲む。だがこんな状況は彼等にとって恐れる事はなかった。猫又は加賀美を踏み台にするとチンピラの頭上から強襲を仕掛ける。そんな彼女に気を取られたチンピラに対し加賀美もまた同時に攻撃を仕掛けていった。

 

「「はぁッ!」」

「がっ!?」

「1人終わり〜!腕は鈍ってないみたいだね!」

「そっちこそ…な!」

 

 猫又は二振りの小太刀を用いて次々と敵達にすれ違い様の斬撃をお見舞いし、加賀美は殴り・蹴りの実直な一撃を確実に叩き込んでいく。

 

「この…ちょこまかと!」

「よっ、ほっ!はい足元注意!」

「へ?うわっ!?」

「おらぁッ!」

 

 身軽さを活かした猫又は男の1人に足払いを行い、体勢を崩させる。そんな無防備になった相手に加賀美はパワーを込めたラリアットを叩き込む。

 

「今度はそっちの番だ!」

「うおっ、放せっ!?」

「はぁーっ!ニャッ!」

 

 続いて近くにいたチンピラを羽交い締めにすると猫又は駆け出し、顔面に飛び蹴りを叩き込み、更に身体を縦回転させてサマーソルトを撃ち込んだ。

 

「な、なんだコイツら強ぇ!?」

「怯むな!やれッ!」

 

 リーダー格であろう体格の大きいチンピラが残りに指示を出す。しかし猫又達は冷静に対処する。加賀美は1人1人を確実に倒して行き、猫又の方は複数を纏めて翻弄するように混乱させ撃破していく。気が付けば残るはリーダー格のチンピラを一人だけであった。

 

「この…舐めやがってッ!」

 

 拳を振りかぶるが、二人は距離を取り攻撃を回避する。そして猫又は加賀美に提案を持ちかけた。

 

「甲斐、アレやろうよ!」

「アレか!よし!」

「訳の分からない事を!」

 

 そう言いながらチンピラが加賀美に向けて拳を振るう。しかしカウンターの要領で彼は掌底を敵の顎に撃ち込む。

 

△極『ツインキック』

 

「「はぁッ!」」

 

 息を合わせ二人はチンピラの頭部を挟み込むように同時に蹴りを叩き込む。その衝撃により男はその場から崩れ落ちたのであった。

 

 

WIPEOUT

 

 

 戦闘を終えた二人。そんな彼等を心配するように丘は駆け寄って来る。

 

「加賀美さん、猫宮さんお怪我はありませんか!?」

「なぁに大丈夫だよ」

「そうそうこれくらい楽勝だよ!」

「二人共ありがとう。私の代わりに戦って貰って悪かったね」

 

 グレースの言葉に気にするなと二人は返す。彼女は白祇重工のエンジニアだ、何かあればそれだけで自律型重機の研究が遅れてしまう。故に彼等が相手をする必要があったのだ。そんな彼等に丘が口を開く。

 

「ところで加賀美さん、OKAサーファーなのですが貴方に無料で譲りたい」

「えっ、タダで!?いやでも良いのかよ?こんな高そうなのを」

「丘さんが言ってるんだ遠慮なく貰えば良いと思うよ…それにこの子を守ってくれた君だからこそ使って欲しいんだ」

「はい、加賀美さん。私の夢である完全なOKAサーファーの完成の為にどうか貰ってください!「

 

 グレースと丘がそう言いながらOKAサーファーを渡す。猫又に視線をやると彼女は「貰っておきなよ」と目配せをした。

 

「…ならありがたく使わせて貰うぜOKAサーファー!」

 

 

サイドストーリー END

『夢に走れOKAサーファー』

 

♥   グレース・ハワード

デリバリーヘルプエーテルで新しいキャストを呼べるようになりました

 

 

 

 グレース達と別れた後、加賀美と猫又は言葉を交える。

 

「ありがとうな猫又。俺の為に外出に誘ってくれたんだろ?」

「さてね〜?猫って気紛れだから偶然かもしれないよ?」

「はいはい。次は鯖缶奢ってやるよ」

「本当?やったぁ!じゃあ追加でマグロも頼むぞ!」

「図々しいな本当に!…まぁいいや。乗っていけよ送って行くぜ」

 

 そう言うと猫又は目を輝かせ口を開く。

 

「本当!?それじゃ────」

 

 直後、猫又は動きが一瞬止まる。彼女は加賀美に悟られないように表情を取り繕い「ううん」と呟く。

 

「やっぱり良いや。猫は気紛れだからたまには自分の足で帰りたいと思う時があるんだ〜」

「そうか?分かった。それじゃ気をつけてな」

「うん。そっちもねー!」

 

 そう言うと彼女は足を路地へと進め、物陰に身を潜める。加賀美と会話していた際に偶然にも視界に入ってきた人物。それを確認すべく彼女は存在がバレないように顔を出す。

 

「間違いない…邪兎屋のニコだ」

 

 暗殺者の如き表情で目標(ターゲット)を見据える猫宮又奈。彼女がここヤヌス区に来た理由は甲斐に会うだけではなかった。彼女がシルバーヘッド検挙について調べている最中に邪兎屋に行き着いた。

邪兎屋のスレッドに彼女達がシルバーヘッドを倒したと言う情報が載っていた。それを裏付けるかのように赤牙組と治安局の激闘を映すテレビ中継にて邪兎屋の姿が一瞬だが映っていたのだ。

 

(アイツが…アイツらがミゲルをやったのか!)

 

 これは正しくない行いかもしれない、ただの八つ当たりに過ぎないのかもしれない。自分は赤牙組の外道な行為を許せず、裏切り組抜けを果たした…だがそれでもシルバーヘッドには恩があった。

それに報いる為にも…悔いのない行動を彼女は選ぶ。

 

"そうだな、納得した行動はやった後悔はしていない…けど、心残りはあるよ"

 

恐らく彼も同じ心境だったのだろう。だがそれでも止める訳には行かない、自分もまた赤牙組の信念を持っていた者なのだから。

 

「私は…邪兎屋を許さない」

 

 そう呟いた猫又は外套を纏い、ニコ・デマラの後を追うのだった。

 

 

 

 

 一方その頃、チンピラとの戦闘にて傷ついたOKAサーファーを乗り回していた加賀美は治安局の前で爆発。威力業務妨害及び爆発物取締の容疑で逮捕されていた…。

 

 





『TIPS』
デリバリーヘルプエーテルはちゃんと相手の了承を取って登録されているぞ!ちなみに使用した際の料金はモデル本人に還元される仕様だ!


【白祇重工での一幕】
「おチビちゃん、私デリヘルに登録されたんだ」
「!!?!?!??」

【登場人物紹介】
○真島吾朗
真島建設の社長。ことある事に加賀美をスカウトしようとする眼帯の男性。還暦を迎えようとしてるのに凄まじいバイタリティを有しているに加えて、その腕前で豊潤な資金や人材を確保している。噂では平然と空中浮遊したり分身したりするらしい?

○猫宮又奈
元赤牙組の猫のシリオン。赤牙組に所属していた頃は加賀美とは相棒だった。高頻度で加賀美の所に飯をたかりに行っている。彼の肩に乗るのが癖になっているが加賀美本人は首にクソ負担が掛かるのでやめて欲しいと思っている。今作ではシルバーヘッドが生きているが、無様な姿を晒し尊厳破壊された事により怒り心頭となっている。
許さねぇぞ、よくもここまでシルバーヘッドをコケにしてくれたな…!殺してやるぞ邪兎屋を地で行っている。

○グレース・ハワード
ゼンレスゾーンゼロに登場する白祇重工のメカニック。初期キャラながらπは凄まじい破壊力を有しておりバストサイズのインフレに追いついている人。マッドに片足を突っ込んでる疑惑の異常機械愛欲者である。

○丘
龍が如くシリーズより登場するOKAサーファーの製作者。20年もの歳月と5億回もの試乗実験により生まれたマシン。最後に爆発オチになるのはご愛嬌。


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