不老不死。
誰もが一度は憧れ、目指すものじゃろう。
何しろ人にとって、死とは恐ろしいものじゃからのう。
死から逃れる術など、それこそ喉から手が出てしまうほどに欲しかろうて。
じゃが、常人にとって不老不死はあまりにも遠すぎる。
我が『山河の国』に伝わる最も有名な不老不死に成る方法といえば仙人と化すことじゃが、そのためには世俗の全てを捨て去って何十年と山に籠り、過酷な環境で生き延びつつ修行を繰り返す必要がある。
そして最終的に本人に才能が無ければその全てが徒労に終わる故、余程の奇人変人か、現世に絶望した者でも無ければ試みることすらせぬ。
成功例自体は4人ほど確認されておるが、しかし今までの『山河の国』の万年の歴史の中でたった4人だけと考えれば、如何に仙人への道が険しいか知れるというものじゃ。
故にこそ、であるのじゃろう。
愚父は不老不死に仙人に至るとは異なる形で『あぷろぉち』した。
そしてその異なる『あぷろぉち』の方法こそが、呪術であった。
何故そこで呪術に走ったかと不思議にも思うじゃろうが、そこでこう考えるが良い。
そも、不老不死とは一体何であろうか、と。
まぁ当然じゃが、不老不死とは呼んで字の如く『老いず、死なぬ』事じゃ。
故に、不老不死の探究とは『老いず、死なない方法の探究』と言い換える事ができる。
であるからして不老不死は、別に仙人へと至る方法でなくとも、他に老いず、死なない方法さえあればそれを目指せば良い。
そこで愚父が思いついたのが、呪術であったというわけじゃ。
呪術の特性を利用し、自らに降りかかる老いと死を他の者に肩代わりさせようという腹積りだったらしい。
まぁ、理論的に言えば可能なのじゃろう。
可能なのじゃろうが……まぁ、いわゆる机上の空論と言うやつじゃの。
理論的には出来るものの、実現に至らせるまでがあまりにも困難すぎるものじゃった。
何せ単純に『相手を呪う』だけではなく、『相手に肩代わりさせる』わけじゃからのう。
まともな方法でやろうとすれば、途中で打ち返されてより酷い目に遭うのが関の山じゃ。
……しかし逆に言えば、まともな方法でないならば正しく使用することも不可能ではないと言う事。
そこで愚父は自らの皇帝としての強権を振り翳し、無理矢理にでもその計画を実現させるべく行動を開始した。
まず手始めに、愚父は国中の呪術師の女を片っ端から集めた。
生娘じゃろうが人妻じゃろうが関係ない。10歳未満と40歳以降以外の全ての呪術師の女を宮殿に集め……そして、孕ませた。
一体どのような手段を用いたかはわからんが、数ヶ月のうちに集められた百余人の女を全員孕ませたようじゃ。
そうして全員を孕ませ終えた後、愚父は胎に子を抱えた女達を地下に押し込め……そして、互いに互いを殺し合わせた。生き残った最後の一人は胎の子の如何も含む、全ての自由を許すと、そう唆してな。
『山河の国』の呪法の一つに【蠱毒】なるものがあるが、それを彼女らで再現しようとしたのじゃろうよ。
それからどうなったかは……まぁ、ほぼ想像通りじゃろうのう。
3日経って地下室へ降りた時、そこはもう惨憺たる有様だったそうじゃ。
地下室はもはや呪いの坩堝とでも呼べるような状態であり、生き残った最後の一人に関しては、もはや呪いそのものとすら呼べる存在と化しておったらしい。
まぁ、ただの毒虫を用いたものですら、超が付くほどに強力な呪いになる呪法じゃ。
呪術師の女が、胎に忌まわしい子を抱え、それでも帰る場所を持ち、最後の希望にかけて呪い合ったのじゃから、そうもなると言うものじゃろう。
……で、まぁ、当然じゃが、生き残った女にも自由が与えられることはなかった。
彼女は拷問にかけられ、ありとあらゆる曰く付きの呪物を飲まされ、果ては殺し合った女達の……否、直接的な言及は避けるべきじゃろう。
兎にも角にもそのような事があり、漸く臨月を迎えた頃には、彼女はもう人ならざる怪物にすらなりかけておったようじゃ。
そして、その胎から生まれた子供こそが、センじゃった。
そうしてセンの母親はセンが産まれたとほぼ同時に殺され、その肉体は……これもまた直接的な言及を避けさせてもらう。
兎にも角にも、そうして産まれたセンは、産まれながらにして呪いの煮凝りと呼べるような存在であった。
勿論、そのような存在が危なくないわけがない。
赤子は無邪気であるが故にそこかしこに劇毒の如き呪詛をばら撒くセンを、当然ながら宮殿に置いておくわけにはいかぬ。
そこでセンはとある将の屋敷の地下に隔離され、厳重な管理の下育てられたようじゃ。
そうしてゆくゆくは呪いをある程度制御できるようになったセンに、自らの老いと死を肩代わりさせるつもり……だったわけじゃが、まぁ、結果としてこの通り。
センは地下から脱出し、愚父は妾の手によって滅された。
悪は滅んだ、と言うわけじゃな。
そしてそれからは……まぁ、あまりよく分からんが、センの装いを見る限り、龍と何か縁があったのじゃろう。
ちなみに妾は話の途中で出てきた【蠱毒】の際に、とある女を哀れに思ったとある将がこっそりと匿った女の娘に当たる。
で、皇帝の血を引く正当な後継者として叛逆の旗頭に立ったというわけじゃ。
さて、これにて妾の知る限りのセンの生誕に関する話をしたが……む? どうした
何? わざわざそこまで呪いを強めた理由がわからない?
それは…………ふむ、妾も同じことを考えたが、どうにも良い考えが浮かばなくてのう……もしやすれば、これこそが今回の件と何かしらの関係にあるのかも知れぬな。
しかし、それにしても、最初の頃は役に立ちそう程度にしか思っていなかったあの男が、よもやこのような……
まぁよい。何にせよ、あの男はもう十分以上に苦しんだ。苦しみすぎた。
妾もその苦しめた側の人間に他ならぬが……そろそろ報われても良い頃合いじゃろうて。
……のう? ノイ=ヌーフ。
またセンを殺すなどと言うことほざいたら、その瞬間妾が貴様を殺すからな。
妾の国民と言うのもあるが、妾の兄でもあるが故な。不敬罪は適応できるぞ。
……っと、そろそろ『山河の国』に着く。
皆の者、用心せよ。
山河の国(クーデター前)……この世の地獄。ロアナプラとかキヴォトスがマシに見えるレベル。
ちなみに今回の話、普通に書いたらR18Gの方に引っかかりそうだったからだいぶ削ったしマイルドにした。
アレってどこら辺までセーフなんだろうね?
あとFANBOXの方にも次話投稿しときました。