初期実装☆2盾キャラ(人権)の話   作:POTROT

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怨敵と相対する話

 総力戦。そう呼ぶに相応しい戦いが浮上した陸地の上では繰り広げられていた。

 セインツの戦闘員、各国の能力者たちが立ち並び、持ちうる限りの全てを以て舟を死守するその光景は壮観の一言に尽きる、が。

 それ以上に、瘴気を巻き散らしながら濁流の如く押し寄せるエイリアン共の軍勢を前に、じわじわと後退を余儀なくされていた。

 当然と言えば当然の話だろう。向こうは無尽蔵の体力に、不死の肉体を持ったエイリアンであるのに対し、こちらは有限の体力と常命の肉体を持った人間である。

 怪我をすれば回復せねばならないし、疲弊すれば休まねばならない。

 世界中の状況を鑑みるに、援軍など来ようはずも無い。

 このまま戦い続ければ敗北は必至であるなど、考えるまでもなく自明であった。

 

 だからこそ、オペレーター率いる俺たち主力部隊が早急にこの騒ぎの元凶を滅する必要があった。……が、お世辞にも順調とはいえない状況が続いていた。

 あまりにも敵の数が多すぎたのだ。

 

「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああッ!!」

 

 衝動のままに呪詛を叫び、エイリアンの一体から瘴気を奪い去ろうにも、その体を引き裂いて何体ものエイリアンが現れ、一歩たりとも目に進めない。

 このようなことがもう何度も繰り返されていて、不気味な青が一面を埋め尽くしていたはずの神殿の内壁はグロテスクな赤とピンクで染まり、床は分厚い肉の絨毯で覆われていた。

 

 それ程までに戦ってなお、我々が進行できていたのは入り口から少し進んだ廊下の中ほど辺りまで。

 これは単純に僵尸と化したエイリアン共が硬すぎるというのも、数が多すぎるというのもあったが、またそれと同様に。

 

()()だッ! 耐えろッ!!」

 

 定期的に脳を軋ませる、冒涜的な波動も、我々の侵攻を遅延する要因の一つであることに間違いなはい。

 神殿に突入するより前から周期的に放たれていたこの波動……世界中の人々を悪夢に誘ったものであろうそれに対し、セインツの戦闘員は当然のように耐性を持っていた。

 しかし、この神殿内に入ってからというもの、その耐性さえも貫通しかねないほどの波動が俺たち一行を襲い、その度に我々を襲う強烈な頭痛や眩暈に行動の遅延を強いられる。

 その間にせっかく侵攻した分を押し返されてしまい、結果的に3歩進んで2歩下がるようなことを数十分ほど繰り返していた。

 

「退けッ、雑兵共ぉぉぉぉぉぉッ!!」

「生命の冒涜者どもがッ!! 神妙に、ひれ伏し、滅せよ!!」

「いい加減に鬱陶しいのよ……ッ!!」

 

 誰も彼もが余裕をかなぐり捨て、汗を額に滲ませながら必死の形相で力を振るう。

 女帝も、ホルルも、フィルも、カイも、オペレーターも、当然、俺も。

 その上で、一向に前に進めない。

 今までの長きにわたる戦いで長期戦には慣れていた我々だったが、しかし明確な刻限を設定されているというのにここまで先の見えない足踏みを強いられては、次第に冷静さを失ってくる。

 脳に手を突っ込まれるような不快な感覚も合わさり、もはや目の前のことに必死な戦闘員たちは、確実に体力を削られていた。

 

「おおおおおおおおおおおおおおあああああああッッッ!」

「待って、そんなに前に出ちゃダメ……み、ミコトッ、フォローを……ホルル! まだ!?」

「まだだッ、今暫し耐えよッ!!」

 

 そして、そんな戦闘員たちの乱れは、オペレーターの指示にも陰りを産んでいた。

 齢13にして完璧と言って差し支えない指示を常に下し続けていたオペレーターだったが、それは当然だが彼の指示を受ける戦闘員たちが、彼の指示通りに動くことが前提である。

 しかし今、精神に直接作用する術の効果を受け、オペレーターの指示を聞く余裕さえも奪われていた戦闘員たちを制御することは彼にとっても難しく、超許容量(コストオーバー)状態に近い感覚を覚えさせていた。

 

「…………ッ、セン……っ!」

 

 そんな彼が、必死な眼差しで俺を見る。

 何とかして欲しい。助けて欲しい。そんな思いの詰まった目が、俺を射抜く。

 

「……いいだろう、任せろッ!」

 

 最前線で力を振るい続ける女帝を押しのけ、前へ。

 自らにできる限りの全てで以て、より広範囲の瘴気を今まで以上の勢いで吸収する。

 当然、そんなことをすれば俺の体内に流れ込むのは夥しい苦痛だ。

 

 慣れたとはいえ、痛いのは嫌だ。苦しいのだって勿論嫌に決まっている。

 だが、世界を救うために必要なことを、個人的な感情で無視するわけにもいかない。

 

 そもそも、俺は大人で、アイツは子供だ。

 子供が必死で頑張ってるのに俺が命を張らないというのも、おかしな話だろう。

 

「……ッグゥ……!!」

 

 俺の目の前にいた数十体程のエイリアン共が、糸が切れたように倒れ伏す。

 そして俺も、その場に膝を突いた。

 

「おい、センッ!?」

「いきなり何してんのアンタ!? 死ぬわよ!?」

「今更だろうが……ッ、それにまだ死なん…………ッ!!」

 

 などとフィルに啖呵を切るが……結構ヤバいな、これは。

 これなんかよりもずっと多くの量が俺の中に入っていたなど、信じられない。

 まぁ、その辺は俺の体が器として生成されたものだから、というのが大きいのだろう。

 この点に関しては、俺はあの先帝に感謝せねばならないらしい。

 …………いや、こうなった全ての原因もアレなのだが。

 

「起動:『フィールドスタン』!! 穴が空いた、一気に突破するよ!」

 

 俺の行動によって一気に減った連中の補充が追い付かず空いた穴を、オペレーターがすかさず固定。そこを全力疾走で駆け抜ける。

 

「動けますか!?」

「正直キツイ……!」

「では私が背負います!」

 

 その後ろを、ミコトの肩を借りて俺も走り出す。

 

「……オペレーター!!」

 

 半ば引きずられるようにして移動しながら声を張り上げれば、オペレーターの方がビクリと跳ね、恐る恐るといった様相でこちらを覗いた。

 俺はそんなオペレーターに対して笑顔を返し───

 

「素晴らしい、いい判断だった!」

「ッ!」

 

 どうにもアイツは俺が未だに色々と恨んでいる思っていたらしい。

 ここに至るまで、アイツの指示はどうも俺に対して遠慮がちだった。

 いやまぁ確かに舟の中で説教まがいのことはしちまったが、流石に俺も大人。

 いつまでもそんなことを引きずるつもりはない。

 

「……優しいですね?」

「そう思うか?」

 

 合理的な判断だよ。ただの。

 彼には常に適切な判断を下してもらわねば、世界全体が困るのだ。

 俺なんかに気を使われては、困る。

 だから気にするなと伝えた。それだけだ。

 

「そういうものですか」

「ああ」

 

 それから少しして、体の操作権を取り戻し、ミコトから離れて走る。

 神殿内部を走り、走り、走り……そして、トビが叫ぶ。

 

「オイオイオイオイオイオイ、水生類前提か、ここは!?」

 

 事実、神殿内部の構造は、元々人間向きに作られた構造ではないのだろう。

 横にではなく、上下に連なった分かれ道から見ても、水中にあることが前提として作られていることは明らかだった。

 既存の知識が全く通用しないその構造は、意図の有無はさておき、確かに迷路と言えるだろう。

 が、トビはこういう時にこそ真価を発揮する男だ。

 

「……OK、だがもう()()()()()。こっちだ!」

 

 情報部リーダーの名は伊達ではない。

 立体的な道を持った迷路でさえ、彼にとって把握と予測は容易いことだった。

 そして、その発言は決して見栄などではない。

 

「ッ、アレだ!!」

 

 わらわらと出てくるエイリアン共を無視し、或いは蹴散らしつつ、神殿内を縦横無尽に駆けるトビを追いかければ、例の波動もより強く感じられるようになってくる。

 さらに近づけば、確かにそれらしい扉が閉ざされているのが見えた。

 

 間違いない、ここだ。

 

「遂に……遂に辿り着いたぞ、クソゴミめがァ!!」

 

 扉を蹴破るように押し開ける。

 すると現れるのは広大な広間。

 仄暗い蒼で構成されたその空間は、悍ましくも厳かな空気を纏っていた。

 

 例に漏れず瘴気に溢れた空間の奥。

 壁に面するように据えられた玉座……否、祭壇の上に、それは腰かけていた。

 

『……やはり言葉を持たぬ畜生共に我が精鋭の真似事は無理か』

 

 髭のような触手を不機嫌に揺らし、奴は言う。

 

「運用が稚拙過ぎただけの話であろうが。兵法を知らぬのか」

『黙れ。朕は天帝であるぞ』

 

 だからなんだ。

 それがこの場の総意であった。

 だが、誰一人としてそれを口にする者はいなかった。

 いよいよこのクズとは会話をするだけ無駄だと学んでいたのだ。

 ホルルの先程の言葉とて、目の前の怪物に向けたものではなく、聞くに堪えない発言に対してつい漏れ出てしまった独り言とでも言うべきものだ。

 

『まぁ、よい。朕とて、心の底ではこの肉体を直接動かす機会を待望していたことを否定せん。全力で抵抗するがよいぞ、下郎ども。すぐに死なれてはつまらん』

 

「……………………ふぅ」

 

 あぁ、やはり。

 コイツを目の前にすると、どうにも気分が凪いでしまう。

 周りを見れば、皆俺と同じ状態らしい。

 先程まで憤怒で顔を赤黒く染めていた女帝でさえ、今や無表情に近かった。

 思う事は、きっと一緒だろう。

 

「「「「「「殺す」」」」」」

 

 完膚なきまでに、その痕跡さえも一片残らず。

 お前は、この世にいてはならない存在だ。




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