初期実装☆2盾キャラ(人権)の話   作:POTROT

8 / 23
そろそろ疲れた話

『丘の国』の、とある村の奇妙な儀式。

 その正体は現地住民によって『封印種』の再封印のために行われていたものであり、その阻止を決行した俺たちのせいで、『封印種』は復活を遂げてしまった。

 

「■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■!!」

 

 空は黒く染まり、あまりの存在感に村人達は発狂する。

 俺達の失敗が、地球の上にまた一つ地獄を作り出してしまった。

 

「総員! 戦闘態勢!」

 

 やってしまったものは仕方がない。

 やってしまった以上、責任を持って俺達が対処しなければならない。

 オペレーターの指示に合わせ、俺達は戦闘態勢につく。

 

 先頭に立つのは俺と、天使の装いに身を包んだカイ。

 俺たちのすぐ後ろには女帝とミコト。更にその後ろにはホルルとレナ。

 オペレーターの両隣にはいつの間にか着替えたマーリンとフィル。

 実にいつも通りの布陣だ。

 

 そして、俺が今からやる事もいつも通りの事だ。

 

「センさん!」

 

 いつも通りに俺は【被害集約】を発動させる。

 

 その瞬間、俺は地面から生えてきた触手に掴まれ、潰される。

 

「が、あああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 ぼきぼき、ぐちゃぐちゃと。嫌な音が脳内に響き渡る。

 全身の骨という骨が砕け、肉という肉が捻じ切れ、内臓という内臓が破裂する。

 俺は肉塊に成り果てる。

 

 だが、それでも俺は生きてしまう。それでも俺は動けてしまう。

 

 痛い。とても痛い。

 いつまでも慣れることのない痛みが、俺の体と精神を蝕む。

 何も見えない。何も聞こえない。痛覚以外の全ての感覚がない。

 

 しかし。しかし。しかし。

 俺の体は動いてしまう。俺の体は動けてしまう。

 俺の体は拳を握ってしまう。俺の体は地を駆けてしまう。

 俺が、俺自身の意思で動いてしまう。

 そうして、もはや肉の触手と化した腕を、俺は我武者羅に突き出した。

 

「─────────ぁ」

 

 命中の衝撃が全身を走り、一気に力が抜ける。

 ぐちゃぐちゃと、嫌な方向に落ちて、べちゃりと地面に広がる。

 そしてまた、いつも通りに俺は意識を失った。

 

 

 ■

 

 

 

 そして、目覚める。

 粉々になったはずの骨も、ペーストのようになった肉も、割れた風船のようになった内臓も、全てが元通りになって、ベッドの上で起き上がる。

 

「……はぁ」

 

 全身の骨をペキペキと鳴らしながら、俺は全身に接続された器具を外し、ベッドから立ち上がる。

 相変わらず良い仕事をしてくれる。

 今回は殊更に酷くやられたが、それでも元通りになってしまうとは。

 この分ではいよいよミキサーにかけられても元通りになれるのではなかろうか。

 

「………アンタ」

「っ!? びっくりしたなオイ。居たのかよ」

 

 デスクの方に居なかったので居ないものだと思っていたが、どうやらベッド傍に居たらしい。

 明らかに医務室の雰囲気とミスマッチを起こしている、浮かれた色合いの水着姿で腕を組んで立っていた。

 その視線は、何と無く険しい。

 

「逆に何で居ないと思ったのよ。いつもアンタを復活させてるのは誰?」

「本当にいつも世話になっている」

 

 彼女にはどうにも頭が上がりそうにない。

 彼女が居なければ、今頃俺は何度死んでいただろうか。

 今回の村の調査だけで考えても、都合10回以上は彼女の世話になっている事だろう。

 

「……アンタ」

「ん? どうした?」

「…………いや、何でもないわ」

 

 そう言うのが一番気になるのだが……まぁ、言いたくないのならば仕方あるまい。

 

「ところで、あの『封印種』は?」

「一応倒したわよ。村人達にも被害は無いわ。まぁ多少のメンタルケアは必要だったけれど……とにかく、今回の件は大体解決。『封印種』が例によってまた復活するらしいから、暫くはアレと戦いまくる事になるけど」

「……そうか」

 

 前回の魚人のような『封印種』も、倒してから何度も復活を繰り返していた。

 それは今回のヤツも同様であるらしい。

 と言うか、きっと封印種はそう言うものなのだろう。

 

「む」

「ん」

 

 と、そこに、医務室に取り付けられていた受話器が鳴った。

 フィルがデスクに駆け寄って、受話器を取る。

 そうして一言二言話をするとすぐに受話器を置き、こちらを振り返った。

 

「……オペレーターがすぐ来てって。すぐ行くわよ」

 

 そう言って彼女はくるりと踵を返し、医務室の扉の方に向かうと、実に健康的な背中と尻がこちらに向き、彼女の歩行に合わせて揺れる。

 それを見て、俺は思わず吹き出してしまった。

 

「……何よ」

「いや、何。そろそろその格好も板についてきたと思ってな」

 

 最初の頃はあれほど文句を垂れて恥ずかしがり、そろりそろりと猫背で移動していたと言うのに、今となってはもはや堂々としてしまっている。

 これが慣れと言うやつだろうか。

 

「ぶっ殺すわよ?」

「やめろ。今の俺はお前にも殺される」

 

 目尻の涙を拭って再びフィルの方を見てみれば、フィルは怒りの形相で拳を振り上げていた。

 今の彼女の基礎スペックは後衛にも関わらず俺のそれ以上。

 力では負けるし、体力でも負ける。

 本気の殺し合いになれば、いくら俺に前衛としての一日の長があるとは言え、回復の力のある彼女に軍配が上がるだろう。

 

「…………………………………………アンタ」

「いや本当に申し訳ない。そんな事よりもオペレーターが呼んでいるのだろう。早く行くぞ」

 

 彼女の隣を通り抜け、医務室を抜ける。

 そうして、オペレーターの所へ向かい─────

 

 

 ■

 

 

 まただ。

 また潰される。

 また触手に掴まれ潰され、肉塊になる。

 また肉塊のまま走って、殴って、そして意識を失う。

 そうしてまた医務室で目覚める。

 

「……異常はないかしら?」

「無いな。いつも通り、良い仕事だ」

「そう。ならいいわ」

 

 また潰される。

 また触手に掴まれ潰され、肉塊になる。

 また肉塊のまま走って、殴って、そして意識を失う。

 そうしてまた医務室で目覚める。

 

「……あのやられ方は嫌いだ」

「…………そうね。私もよ。……何とかならないの?」

「ならないだろう。これが一番効率がいいらしい」

「……………………………何よ、それ」

「さ、行くぞ」

 

 また潰される。

 また触手に掴まれ潰され、肉塊になる。

 また肉塊のまま走って、殴って、そして意識を失う。

 そうしてまた医務室で目覚める。

 

「…………痛くないの?」

「痛くないわけがないだろう。あの状態でも殴って倒れるまでは意識があるからな」

「…………………辛くないの?」

「辛いに決まっているだろう。その場にいる全員の辛さを受け入れるのが【被害集約】の本懐だ」

「…………行くわよ」

 

 また潰される。

 また触手に掴まれ潰され、肉塊になる。

 また肉塊のまま走って、殴って、そして意識を失う。

 そうしてまた医務室で目覚める。

 

 何度も。

 何度も。何度も。

 何度も。何度も。何度も。

 何度も。何度も。何度も。何度も。

 何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。

 何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。

 

 今回もまた、医務室で目覚める。

 

「異常よ」

「何がだ」

「アンタ。異常よ」

 

 しかし、今回はいつもと違う点があった。

 フィルが入り口に立ち、俺がオペレーターの下に行こうとするのを塞いでいるのだ。

 

「あんなものは到底人間に耐えられるものではないわ。そろそろ自分が壊れかかっている事を自覚なさい。もう壊れるわよ」

「……そう言われてもな。今更だろう」

 

 普段からこんなものだ。

 まぁ、もうこんなのは嫌だとは思うが。

 

「……ええ。今の今まで忙しすぎて、何も知らずに言われたままにアンタを治して来た身だけどね。こうして戦場に立って、アンタが倒れる様を何度も見るようになってようやく分かったわ。アンタはもう休むべきよ」

「それが出来れば苦労はしない。そんな事よりもさっさと行くぞ」

「ダメよ。許さないわ」

「オペレーターの命令だ」

「私がここの医療リーダーよ。その私が権限を行使して貴方にドクターストップをかけるわ」

 

 そう言う彼女だが、オペレーターの権限は医療スタッフのそれを上回る。

 彼女のドクターストップも、オペレーターの命令の前にはすぐさま消えるのだ。

 

「行くぞ」

「………………………………………………セン」

「…………ほら、行くぞ…………………俺だって、疲れたのは理解しているんだ」

 

 だが、オペレーターは、世界は俺達を必要としている。

 なら、俺は喜んでこの身を差し出そう。

【彼女】だってそうしたのだ。【彼女】を受け継いだ俺も、そうするべきなのだ。




セインツの医療技術……肉体ならどうにでもなるが、精神はどうにもならない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。