ビーッビーッビーッ
「おい、何事だ!」
「左舷より未確認機接近!例の新型です」
乗組員の悲痛な叫びとは裏腹に、男はニヤリと口角が上がる。
「ようやくオレにも手柄を立てる出番が回ってきたか」
「言ってる場合ですか少佐!退避の指示を!」
「退避?いやいや違うな」
男はわざと大ぶりに手を振るう。
「全速前進!現在より例の敵を最優先目標とし、第一種戦闘配置にて迎撃する!」
それが男の最期の言葉となった。
○☓△□
「将来の夢?いつか空を飛んでみたい!」
無邪気だったあの頃は、作り物の空を見て本気でそう思っていたものだった。
「おうぃ、そろそろ休憩に入れ」
「……了解」
船外作業用ヴィクトールを操縦して、コロニー内部へと戻る。
プシュー
機体の外の空間が酸素に満たされる音を聞き、ヘルメットを外す。加圧式スーツの中がまるで仕方がない。
「はぁ、さっさとシャワーを浴びよう」
危険な船外作業の仕事なだけあって休憩時間は長い。汗を流す時間も取れるのが良いところだ。
「……ん?」
機体のハッチを開けようとしたときだった。虫の知らせとも言うべきか、肌がゾワリと寒気だった。
ドーン
ドーン
ドーン
ドーン
ドンッ
連鎖的な爆発音が聞こえたかと思ったら、目の前から灼熱の炎が飛び出してきた。
「う、うそでしょ!?」
そんな悲鳴も虚しく、機体とともに宇宙空間へと逆戻りしていった。
○☓△□
ビーッビーッ
「……んん、いつつ」
ぼんやりとするまぶたをこすれば、目の前にはアラートウィンドウがこれでもかというばかりに表示されていた。
「左腕部大破、右半身破損、ブースターは……なんとか生きてるみたい」
機体の状況からして、爆発に巻き込まれた後にさらに何かにぶつかったらしい。辺りを見回せば様々な破片たちが宇宙を漂っている。
ビビーッビビーッ
一際違うアラート音が鳴る。これは……酸素濃度低下警告だ。
「ま、まずい!」
酸素ボンベの配管がダメージを受けていたようだ。急いでヘルメットをかぶり直し、スーツの酸素供給ボタンをオンにする。
プシュー
「はぁはぁ、なんとかなった」
なんともなっていない。スーツの中の酸素供給量は雀の涙だ。このままではどのみち窒息死である。
「なにか、なにかないか?」
獣のように目を鋭くして左右を見回す。
刹那、視界の端でキラリと何かが光った。
「あそこだ!」
なぜと言えば、ただの勘だった。しかし何か底しれぬ自信がそこにはあって、確信に近い感情を持っていた。
「ブースター点火、姿勢制御をマニュアルモードに」
私の特技の一つ、マニュアル運転。ヴィクトールのシステムに頼らないため、破損しきったこの機体でもジユウに動かすことができる。
かすれた振動音とともに、機体が向こうへと動き出す。
近づくにつれ、不明瞭な勘はいずれ確信に変わった。
「機体だ。動くかな」
奇跡的にほぼ無傷のヴィクトールだ。見たことないデザインで2脚型のそれは、まるで特撮のヒーローが乗るロボットのようだった。
「どうせ死ぬかどうかの瀬戸際なんだ!」
私はハッチを開いて機体の外に出る。遠くに見えるコロニーの光が、ヘルメットのバイザーに反射する。
「きっとここらへんに緊急開放レバーが」
手探りに探せば、回転式スイッチが手に触れる。えいやと回せば、しゅっと機体の抜ける音ともにハッチが開く。
「せ、セーフ!」
身を滑り込ませてハッチを閉じる。プシューという音を確認し、酸素計の表示を見てため息をつく。
どうやら私は助かったらしい。
「しかし、見たことない操縦機器がいっぱい」
画面に目をやれば、機体の状態が細々と表示されている。どうやら実験機のようだった。
「vctrx?へんな名前」
ヴィクトールXというのが、この機体の名前らしかった。
ヴィーッヴィーッヴィーッ
突如、生理的に嫌悪感を抱くアラームが鳴る。たいていこういうのは、緊急性のより高いものに使われる。
「なになに、デブリ接近!?」
私の視点に合わせてカメラがズームする。コロニーの破片がものすごいスピードでこちらに向かってきている。
「まずいまずい!」
持ちうる知識を総動員してパネルを叩く。初めてみた操縦系といえど、レバーを握ればこう動くというのはヴィクトールの共通事項だ。あとは厄介な起動シーケンスが動いてくれるかだ。
「動け動けぇ!」
スイッチ系を手当たり次第にオンにして、パネルに数値を適当に打ち込む。壊れたらゴメンなんて思いつつ、エンターキーを高らかに押した。
グォォォォォン
「動いた!」
操縦桿をめいいっぱい左に回す。その瞬間、体のスレスレをデブリが通り抜けていった。
「はぁはぁ、なんとかなった」
息を吐きながらシートに体重を預ける。シートもいいものを使っているのか、柔らかく反発してくる。
「しかしこれ……」
パネルでいろいろな情報タブを開く。
「船外作業用のヴィクトールよりも出力は高いし、反応性も良い。なにより……」
パネルに映る一つの文字列。それが私の不安を加速させる。
Weapon
「もしかしてヤバいのに乗っちゃったかな私」
答えはどう考えてもイエスだった。
要望あれば続き書くかも書かないかも