スネーク・エイリアン   作:竜鬚虎

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序章

 この世界の何処かにある亜熱帯地方の森の中。天空からは炎のように明るく熱い太陽の光が降り注いでいるが、森の中は無数の大木から生え出る大量の葉がそれを遮り、森の中は薄暗い。

 地面には落ち葉が積み重なって絨毯のように広く覆っており、所々にシダ植物が細々と生えている。鳥や動物の鳴き声などは一切聞こえず、森は不気味な静寂に包まれている。

 その森の中に、突如ガサガサと落ち葉を踏み砕く足音が聞こえてきた。

 

 近辺に最近創設された村に住んでいる2人の若者が、その森の中を歩いている。2人はこの森に使えそうな資源がないかを調べるために、ここ数日この森を探索していた。

 

「なあ、やっぱりおかしいよな?」

「そうか? たまたま見かけないだけじゃないか」

 

 数日間、村の近辺を探り回った2人は、かなりの違和感を感じていた。この森には生き物が全く居ないのだ。

 よく調べれば小さな虫などは時々見かけるのだが、それ以上の大きさの動物の姿を全く見かけない。普通の森なら当然聞こえるはずの、鳥の鳴き声すら全く聞くことが出来ない。

 

 彼らが以前住んでいた近くの森では、動植物が豊富で、鹿や猪・大蜥蜴などの動物を頻繁に目にすることが出来た。なのにここではそういった生命の息吹を全く感じ取ることが出来ない。

 国を跨ぐほど遠く移住したわけでもないのに、このあまりの差はいったい何なのか?

 

「まあ、動物がいないって事は虎や狼を怖がらなくて済むからいいんじゃないか?」

「そのかわり食料にできる獲物もいないけどな・・・・・・うん?」

 

 1人の村人が不意に何か妙な音を聞いた気がした。

 

「おい何か聞こえなかったか?」

「いや何も・・・・・・待て! 聞こえた! 確かに聞こえたぞ」

 

 木々に隠れた森の奥から、ガサガサと落ち葉を砕く音が聞こえる。それは2人の足音とは明らかに違っていた。

 

「何だ? 他の奴が入ってきたのか?」

「村とは全然反対側だぞ? それに人間の足音にしては・・・・・・何だあれは!?」

 

 森の奥から足音の主が姿を現した。それはとても大きく、木々の間からこもれる光を遮って、2人の驚愕した顔を影で覆い尽くす。

 

 この日、2人の村人は二度と戻っては来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 何日かして。

 

「なんというか・・・・・・それは災難だったな」

『災難どころじゃないよ。もう何度死ぬかと思ったか。まあクシュウのおかげで、いい再就職先が見つかったのはラッキーだったけどさ』

「ふむ。しかしまさかお前が近衛隊とはな・・・・・・」

 

 とある民家の中で1人の大柄な男性が、電話で誰かと話している。どうやら相手は若い女性のようだ。

 

「しかし妙な話だな。そんな魔物、俺も全く聞いたことがないぞ」

『やっぱりそうか? うぅん、じゃああいつはいったい何だったんだ?』

「新種であろう。研究所と言うからには、色々と俺たちも知らないものがあるだろうしな」

 

 男性はしばらく電話の相手と会話をし、やがて別れの言葉を言って電話を切った。

 

 ジリリリリリリリリリッ!

 

 電話を切って僅か1分後に、電話が鳴った。

 

「一体何だ。今日は騒がしいな」

 

 最初はうっとおしそうにしていた男性だが、電話を取って僅かに数秒後に、男性は少しだけ険しい顔をした。

 

「仕事か? それなりに金は取れるんだろうな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらにその数日後。

その森は数日前から、人の侵入を完全に禁じられた場所になった。だがこの日の朝日が昇りきった時刻に、決まりを破って侵入してきた来客がいた。

 

 その来客は15・6歳ぐらいの端正な顔立ちをした美少女だった。黒いローブに黒い三角帽子、そして先端の緑色の宝珠が取り付けられた大型の魔法杖を持った、いかにもな風貌の魔法使いの少女である。

 この高気温の森の中で、その装束は熱くないのかと思ったら、案の定少女の首筋から特に運動しているわけでもないのに、ダラダラと汗が流れている。このままだと熱中症を引き起こしそうだが、あいにく彼女を説得してくれる者は、この場にはいなかった。

 

「よし準備完了と」

 

 そう言った少女の眼前には、地面に置かれた直径2メートル程の、円形の黒いシートが敷かれていた。

シートの上には、複雑な幾何学方程式のような文様が、無数に混ぜ描かれた魔法陣が描かれている。

 

 少女はその魔法陣のすぐ外側に立ち、魔法杖の先端を魔法陣の中央部分にかざし、何やら呪文のような言葉を唱え始めた。

 しばらくして魔法杖の宝珠が淡く輝きだし、それに呼応するかのように魔法陣全体が、蛍のように淡く輝きだした。

 

 少女が行おうとしているのは召喚魔法である。異世界から魔物等を呼びだすそれは、魔法の中ではかなり使いこなすのが難しい技だ。

 この少女はまだ未熟で、この魔法を成功させられる確率は極めて低い。だが少女には早急に強い力を必要としており、駄目だしでこの儀式を行っていた。

 

(やってやるわ。もの凄い奴を召喚して、あのクソ蛇をぶっ殺してやる)

 

 ちなみにこの儀式を、わざわざ彼女の村から離れたこの森の中で行っているのは、また何か失敗をしでかして、騒ぎを引き起こしてはまずいからだ。彼女は過去に何度かそれを経験していての判断である。

 だからといって立ち入りを禁止された場所に入り込むのは、もっと駄目だろうと思うが。

 少女は当然それを知っていたが、特に問題にはせず、堂々と禁則事項を破っていた。

 

 しばらく詠唱が続くが、何も起こらない。

 失敗したかと思われたが、突然脈絡もなく今まで光だけを放っていた魔法陣が、ボン!と風船を破裂させたかのように爆発した。

 

「フギャ!?」

 

 爆発事態はそれほど大きな物ではなかった。発生した衝撃波で、周囲の落ち葉が舞い上がり、驚いた少女は後ろ向きにすっ転んだ。

 

「うぐぅ~、やっぱり駄目か」

 

 魔法の失敗に落胆しながら少女が起き上がる。すると少女の視界に奇妙な物が置かれていた。少女の目は、それに釘付けになる。

 

「なにこれ?」

 

 魔法陣の上に、数秒前までは存在しなかったそれは、瞬時に判断すると卵のような物体だった。少なくとも少女が期待していたような“強くて格好いい魔獣”ではない。

 

 それらは魔法陣の上に4つ、整列するかのように縦に置かれている。

 大きさは高さ数十センチ程で、鶏のような普通の動物の卵ではないだろう。表面は沼のような濃い緑色で、卵の最上部には三叉のような切れ込みが入っている。何だか不気味な印象を受ける造形だ。

 

(これは召喚獣の卵? でも卵じゃあねえ・・・・・・私は今すぐ使える奴が欲しいのに・・・・・・)

 

 そう思いながら卵の一個に顔を近づけた途端、卵に謎の動きが起こった。

 

(もう生まれるの!? でもあれ?)

 

 通常の孵化前の卵のように、グラグラと揺れるのではない。上部の謎の切れ込みがパクリと割れ、まるで花が咲くかのように卵が開いたのだ。

 

「なにこ・・・・・・!??」

 

 中身を確かめようとした少女の目が、突然何も見えなくなった。

 顔全体に何かが張り付いた奇妙な感覚と共に、視界が闇に包まれる。声も発せられなくなり、首からロープで縛り付けるかのような凄まじい苦痛が脳内へと走る。

 

「(何よこれ!? 苦しい、痛い・・・・・・だれか助けて・・・・・・)」

 

 卵から出てきたのは白い蜘蛛のような生物だった。

 人の顔面程の大きさで、蜘蛛と呼ぶにはあまりに巨大である。その蜘蛛には腹部が無く、変わりに頭胸部の後ろからは、縦筋がついた、蛇のように長い尻尾が生えている。頭胸部は目や口が全くない、のっぺらぼうであり、食事などはどうするのか謎である。

 

 そんな謎の生物は、卵の一個から勢いよく飛び出した途端、卵に近づいていた少女の顔にベタリと張り付いたのだ。

 長い八本の脚で少女の頭をガッチリと掴み、尻尾を首に巻き付けて締め付けるように拘束する。

 

「~~!!!???」

 

 少女は訳が判らぬままに、その生物を顔から引き剥がそうとするが、生物の力はとてつもなく強く、少女の非力な力では全く動かせない。

 

 やがて首を絞められて呼吸困難になったのか、少女はさっきと同じ姿勢で後ろ向きに倒れ、全く動かなくなった。

 張り付いた生物もそれ以上の動きはない。死んだのか全く動かない少女。森の静寂さが、不思議と不吉な予感を増大させていた。

 

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