スネーク・エイリアン   作:竜鬚虎

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第一話 傭兵団

 事件が起きた同時刻に、そことは大分離れた位置に、別の来客が森の中を訪れていた。

 

「ああ~だる。ヘビはまだ出てこないのか?」

 

 人数は16人。全員が屈強な男性で、剣・槍・銃などといった、各々の得意な武器を装備している。中には高価そうな甲冑を纏っている者もいた。彼らの後ろに三羽のカルガモが付いてきている。

 

 カルガモと言っても、それは明らかに普通のカルガモではない。いや、それ以前に鳥類として異様である。

 それは、外見は普通の水鳥のカルガモと何も変わらない。違うのはその大きさである。三羽とも明らかに人間よりも大きい。軍馬に匹敵するほどの体格だったのである。

 

 このカルガモ=ジャイアントダックは、大分飼い慣らされているようで、首を繋がれていなくとも、迷わず彼らの後をついていく。

 

 三羽は後ろにソリを引いていた。サンタクロースが乗りそうな大きなソリには、巨大な箱が運ばれていた。

 その箱の中には、二つには食料と仕事用具が、残りの一つには水筒程の大きさの銀色の筒が大量に積み込まれている。その筒の側面には“危険 爆発物”という物騒な文字が書かれていた。

 

 この筒の中には火の魔法力が圧縮して封印されており、筒の上辺のスイッチを押すと、一定時間後に封印が解放されて大爆発を起こす、魔術式の爆弾である。

 側面には時計のようなダイヤルがついており、それによって起爆までの時間を調節できる。

 

 そんな軍隊のような大層な武装をした彼らは、昨日この森の近くの村に雇われた傭兵である。

 彼らが請け負った依頼は、この森での生息が確認された魔物を狩ること。彼らはその魔物と戦うのは初めてだったが、事前に聞いていた情報による対処で、この大量の爆弾を持ち寄ってきたのだ。

 

 途中森の中で、樹木の密集率が少なめの広い空間に出た辺りで、先頭を歩いていた傭兵の一人が足を止める。それに反応して後ろを歩いていた者達も一斉に立ち止まった。

 

 先頭を歩いていたリーダーと思しき傭兵は、彼らの中でもとりわけ体格が大きい。2メートルにも及ぶ高身長で、鍛え抜かれた筋肉で覆われた手足はとても図太い。背中には全長180センチの大太刀が差されていた。

 その人物に一人の傭兵が話しかける。

 

「サローン、この辺りで良いのか?」

「ああこの辺りでよかろう。ここは見通しがとても良さそうだ。リッチ、臭いを頼む」

 

 傭兵達のリーダー=サローンは、色黒の肌の大きな片刃式の戦斧を持った傭兵=リッチにそう命ずる。

 リッチがソリの中から取り出した水筒(ソリの中の爆弾と違って、こちらは表面が赤い)の蓋を開ける。

 

 傭兵達が四方を警戒しながら武器を構え、円陣を組むように一箇所に集まる。リッチはそんな仲間達の周りをグルリと一周し、通った箇所に水筒の中の液体を撒き散らす。

 水筒の中は血のように赤い液体だった。否、これは比喩ではなく、本物の動物の血液だ。血に飢えた獣を狩るのに、彼らはよくこれを使っていた。

 

 水筒4つ分の血が撒かれて、傭兵達の周囲に大きな赤い円が描かれる。

 血で描かれた大きな円の中で、傭兵達は武器をかまえた格好のまま、石像のように動かない。余計な思考は一切持たずに、ただひたすら周囲の気配に気を配り続ける。

 

 どれぐらいの時間が流れただろうか、1時間か2時間か、この森の中では正確な時間は判らない。鳥の鳴き声などは聞こえなくなり、森は不気味なほど静かだ。

 立ちっぱなしにも疲れたのか、音を上げかける者が現れようとしていた。

 

「来たぞ!」

 

 だがその静寂は実にあっさりと破られる。いち早く相手の気配に気がついたサローンが声を上げた。

 

 数秒後に、鍛えていない凡人でも判るほどのざわめきが、四方の森から聞こえてきた。

 この森は元々静かすぎるぐらいだったゆえに、この音はよく耳に届く。地面を擦るような音が複数、こちらに近づいてきている。

 

「恐れるな。事前に対処法を覚えておけば、十分に倒せる相手だ」

 

 それは大量の木々の間を潜り抜け、馬にも匹敵するほどの速度で接近してくる。そして彼らの肉眼にも映る距離と位置に辿り着いた。

 

「「ギシャァアアアアアアアアアアッ!!」」

 

 姿を現したそれらの正体は、十匹程のヘビの群れだった。もちろん普通のヘビに、これほど森を騒がせるような力はない。

ゆえに血の臭いに誘われてやってきたこのヘビ達は、普通ではなった。

 

 外見は普通の茶色い鱗を持ったヘビだが、その大きさはいずれも人間よりも遙かに巨大だ。中には体長20メートルにも及ぶ個体もいる。

しかもそれだけの巨体に関わらず、彼らの動きは、小型のヘビに勝るぐらいに俊敏だ。ここまで行けば完全に怪物と言い切れるだろう。

 

 傭兵達と共に、円陣の中にいるジャイアントダックも、その規格外の大きさから怪物と言えなくもないだろう。だが草食動物と肉食動物の違いによる危険度の差は、あまりに大きく開いている。

 大蛇達は傭兵達を取り囲むようにして接近し、飢えた鳴き声を上げながら一斉に傭兵達に襲いかかってくる。

 

「いくぞぉおおおっ!!」

 

 サローンの声と共に、傭兵達は怯むことなく円陣から踏み込み、大蛇達に向けて武器を振るった。

 

 

 

 ある傭兵は手に持つロングソード型の魔道剣から、氷の魔法を放った。白く光る剣身から強烈な凍てつく風が放たれる。

 それを顔面にくらった大蛇が、今まで感じたこともない感覚と痛みに驚き、苦痛の鳴き声を上げながらのたうち回る。

 変温動物のヘビは低温に弱い。しかもそれがこれだけの冷気の嵐は喰らえば、たとえ大蛇でも一溜まりもない。

 

 その隙に傭兵は剣に思いっきり魔力を込め、そして斬りかかった。魔力によって増大した白く輝く刃が、ヘビの大木のように太い胴体を、野菜のようにバッサリと両断した。

 大蛇の長く巨大な胴体が、丸太のように地面に倒れる。切断面は一瞬で凍り付いており、血の一滴も流れていない。

 

 

 

 ある傭兵は武器を向ける前に、黒いボールのような物体を、かかってくる大蛇に投げつけた。

 ボールは大蛇の首元に命中する。するとボールはパン!と気持ちの良い音を立てて、風船のように破裂した。

 破裂と同時に薄く白い蒸気のようなものが、命中したヘビの身体一帯に撒き散らされた。

 

 その蒸気からは、人間の感覚では大した臭いは感じ取れなかったが、大蛇には感じたようだ。突然の刺激臭に大蛇は驚き、苦しみ始める。

 

 傭兵は一瞬無防備状態になった大蛇めがけて、装備していた大型の銃を発砲した。

 幾つもの鈍い銃声と共に、大型の弾丸が見事な腕前で、大蛇の肉体に命中していく。最初は胴体の3発。それによって相手が弱って動きが鈍くなったところを、頭部目掛けて二発。

 大蛇は頭部から血と脳汁を噴水のように飛び出し、そのまま絶命した。

 

 

 

 ある傭兵は、鎖という珍しい武器を持って大蛇と戦った。

 長い金属製の鎖は、大部分が傭兵の背中に、とぐろ状に巻いて背負い、そこから彼の手の所まで伸びていた。鎖の先っぽには、成人男性の拳ほどの大きさの鉄球が取り付けられている。

 

 彼はその鎖を投げ縄のようにブンブンと振り回し、自分に牙を向けている大蛇に向けて、勢いよく投げつけた。

 先端の鉄球が後ろに伸びる鎖と共に、矢のような速度で大蛇目掛けて飛んでいく。

大蛇はそれに素早く反応し、身体を左に曲げて、その鉄球を回避した。だがここでおかしなことが起こった。

 

 鉄球を重心として、前方へと勢いよく飛ばされた鎖が、大蛇の首の辺りを通り過ぎたとき、慣性の法則を無視して大きく方向転換したのだ。

鎖は横にいる大蛇のいる向きに、方向を変えて飛び、まるでそれ自体が意思を持っているかのように、蛇の首に巻き付いたのだ。

 

「!!!???」

 

 これには大蛇も驚く。だが彼は悲鳴を上げることができなかった。

大蛇の首に巻き付いた鎖は、蛇が捕らえた獲物を絞め殺すように、強靱な力で大蛇の首を圧迫したのだ。

 

 この鎖はただの鎖ではない。全体に魔力を伝えやすいように加工されており、魔力を送った持ち主の意思に従って、自在に不規則な動きをとることができる“魔道縛鎖”と呼ばれる品物だ。

 これの力に大蛇は呼吸困難に陥り、暴れ出す。傭兵はそれを何とか捕らえようと、鎖を思いっきり引っ張った。

 

 そうしている内に鎖使いとは別の傭兵が、大蛇に向かってきた。彼は2本の片刃の短剣を所持している。その短剣は、持ち主から風の魔力を注がれており、緑色に発光していた。

 

「たりゃぁああああっ!」

 

 傭兵は双剣をハサミのように交差して、大蛇の胴体を、渾身の魔力と腕力で斬りつけた。鎖で動きを抑制された大蛇は、それをよけることなどできない。

 大蛇の胴体は真ん中から見事に切断され、二つに分離した大蛇は、トカゲの尻尾のように地面に跳ね飛びまくる。

 

 

 

 一人の槍を持った傭兵は、突進してくる大蛇の前で何を思ったか、槍を自分の足下に深々と突き刺した。そのまま彼は精神を集中し、自身の魔力を、槍を伝って大地に注ぎ込んでいく。

 

(さあ、来い!)

 

 大蛇は彼のすぐ目の前まで迫ってきた。だが未だに彼は槍を地に刺したままだ。もう間に合わないと思われたそのとき、大蛇の身体が地面に沈んだ。

 

「シャア!?」

 

 落とし穴にはめられたかのように地面が陥没し、それによってできた穴に大蛇の身体が落ちる。

 別にあらかじめ穴を掘っていたわけではない。彼の土の魔法の力で、地面の形を変化させたのだ。

 

 虚をつかれた大蛇だが、すぐに地上へ這い上がろうとする。そして穴の上に顔を出したとき、傭兵の槍が炸裂した。

 槍の先端は、開かれた大蛇の口の中に入った。そして大蛇の上口蓋を貫き、脳へと刃を食い込ませる。

 槍が引き抜かれると共に、一旦穴の外に出た大蛇の頭は、再び地面へと落ちていった。

 

 

 

 囮用の血をばらまいていたリッチという傭兵は、ソリを引かせていたジャイアントダックに騎乗して戦闘を行っていた。

 巨大な戦斧を持った大柄の男性であるリッチの体重は、かなりのものの筈だ。だがそのダックはそんなことはいとも介さず、驚くほど俊敏な動きで、大蛇の攻撃に対応している。

 

 大蛇は首と前部胴体を鞭のように動かして、リッチに噛みつこうとするが、彼を乗せたダックは紙一重のタイミングでそれらを避けていく。

 やがて大蛇の攻撃に僅かな隙が出来ると、ダックは一気に踏み込んで大蛇に急接近し、右足を軸にして全身を独楽のように大回転させる。その回転にと共に、リッチは戦斧を勢いよく振った。

 

 ダックの身体能力によって威力を増大させた大振りの斬撃は、大蛇の胴体を横から斬り裂いた。胴の切断面から血しぶきが上がり、大蛇の前部胴体が地面に落ちる。

 

 大蛇の前部胴体が、陸に上げられたウナギのようにのたうち回る。

リッチはダックから下馬し、大蛇の頭に二回目の戦斧の一撃を与えて止めを刺した。

 

 

 

 サローンは他の者達と違って、魔法や小道具などは一切使わなかった。背中から刃渡り125センチの大太刀を抜き、1匹の大蛇に向けて正面から構える。

 

 群れの中で最も巨大な大蛇が、野獣のごとく牙を向けて、サローンに向けて突進した。

 

「てい!!」

 

 サローンは、大口で一気に自分を噛みちぎろうとする大蛇に対して、避けようとは一切しなかった。

 ゴリラのように太い筋肉の腕を振るい、突進してくる大蛇に長い刃を衝突させた。

 

 グチャッ!

 

 “斬る”というより“潰す”という形容に近い、嫌な音が聞こえた。

 大太刀は、ワニよりも巨大な口を開けた大蛇の顔面を、縦向きに実に深くめり込んだ。刃は大蛇の頭蓋骨を真っ二つに割り、刀身は大蛇の首の後ろにまで食い込んでいる。

 

それと同時に大蛇の動きが止まり、うねっていた長い胴体が地面に落ちる。

 サローンは柄を両手で持ったまま、豪腕を再び振るい、刀身をずいぶん乱暴な手つきで大蛇の肉体から抜き取った。

 

 その衝撃で大量の返り血が、彼の顔と鎧に大量に降りかかる。何とも単純で力任せな剣術だろうか。

 

(ぬっ!?)

 

 背後から何かの気配を感じたサローンは、その場で一気にしゃがみ込んだ。

1秒前まで彼の頭があった位置に、牙を向けた大蛇の頭と胴体が通り過ぎる。いつのまにか別の大蛇が背後に回っていたのだ。

 

 サローンは瞬時に腰を上げ、全身を回転させて再び大太刀を振った。大太刀は彼のすぐ後ろで立ち上がっていた大蛇の胴体を、豪快に切断する。

 

「ギャァアアアアッ!」

 

 立ち上がっていた蛇の前部胴体が、悲鳴を上げながら地面に落ちる。

 サローンは即座に接近し、大太刀の突きで大蛇の脳天を貫いた。悲鳴は一瞬で止み、蛇を貫通した刀身をサローンはゆっくりと持ち上げる。

 

 焼き鳥のように持ち上がられた蛇の全身が、サローンの常人離れした力に支えられ、ダランと垂れ下がっていた。

 

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