スネーク・エイリアン   作:竜鬚虎

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第三話 エイリアンvsアナコンダ

「ギシャァアアアアァアアアア!!」

 

 謎の蜘蛛に殺された少女の遺体から、そう離れていない位置の森の中で、一匹の大蛇がしきりに警戒の鳴き声を上げていた。

 

 大蛇が睨み付けるその先には、これもまた新顔の謎の生物がいた。

 

 それは、大きさは大柄な人間と同じぐらいで、手足があり、腰を曲げた体制で、二本足で立っている。全身が黒くスマートな体型で、尻部からはトカゲのような尻尾が生えている。トカゲ人間という形容も出来なくもない。

 背中には何のために付いているのか不明な、太く長い突起物が4本生えている。それは左右に2本ずつ、縦に並んで生えていた。

 尻尾には鋸のようなギザギザが生え揃っており、先端には槍のような鋭い棘がついている。サソリの尻尾にも似て無くもない。

 手足の指は四本足で、爪は無いが先端が鋭く尖っている。

 最も特徴的なのが頭部である。その生物は、後頭部がとてつもなく長い。その長さは曲がった姿勢のこの生物の、背中の突起物の辺りまで伸びていた。

 顔には視覚で判別できるような目や耳・鼻はない。顔から細長い後頭部にかけては、磨いた金属のように滑らかな光沢を放っている。

 口と顎の形状は人間のものに近いが、唇が狭く、両顎の歯が剥き出しになっていた。そこから唾液のような粘液が垂れ流れている。歯は人間と同じく切歯と犬歯があるが、犬歯が牙のように取り分けて長い。

 

 このトカゲ怪獣の頭部の特徴は、先程少女の腹から飛び出してきた生物と酷似している。

 いや、こいつはその時の生物そのものなのかもしれない。だとしたら驚くべき成長速度であるが。

 

「ギシャァアアアアアアアアッ!」

「ギュルルルルルルルルルルッ!」

 

 彼らは本能でお互いを敵と判別したのか、殺気だってお互いを威嚇している。

 

「シャア!」

 

 先に仕掛けたのは大蛇であった。長い胴体をくねらせ、もの凄い勢いで間合いをつめてトカゲ怪獣に噛みつこうとする。

 トカゲ怪獣は横に飛んでそれを回避した。だが大蛇はその動きを呼んだのか、外れると同時に前部胴体を折り曲げて、2度目の攻撃を繰り出す。

 

「ギャッ!」

 

 大蛇の頭突きが、トカゲ怪獣の脇腹に命中する。その衝撃でトカゲ怪獣は数メートル宙を舞った。

 空中で体制を立て直し、四本足で地面に上手く着地したが、そこに大蛇の3度目の攻撃が襲いかかる。

 

 飛び込んできた大蛇の胴体が、トカゲ怪獣の脇を通り抜けたかと思うと、胴体を高速でくねらせ、トカゲ怪獣の胴体に巻き付いた。

 

「ギャァ!」

 

 大蛇の太い胴体が、ロープのようにトカゲ怪獣の身体に巻き付き拘束する。そして巻き付いた胴体に力が入り、相手の身体を圧迫する。

 

 大蛇は長い首を動かし、全く動けないトカゲ怪獣の顔面に顔を近づける。お互い睨み合う2体の怪物。ただし片方に目は付いていないが。

 

「ギシャァ!」

 

 このまま大蛇の勝利かと思われたが、トカゲ怪獣が己の尻尾を鞭のようにしねらせ、先端の棘を大蛇の胴体に突き刺した。

 

「シュァ!?」

 

 尻尾の動きは実に機敏で繊細だった。尾の先端が、主を拘束する敵の胴体を突き刺す。何度も何度も、狂うことなく見事命中する。

 

 大蛇の太い胴体に、幾つもの穴が開き、血が漏れ出す。

 大蛇の拘束力が弱まったのを機に、トカゲ怪獣は両手で拘束物を引き離し、そこから脱出した。

 

 今度はトカゲ怪獣の反撃だ。痛みで呻く大蛇の頭を両手で鷲づかみにした。

 その両腕はほっそりとした外見と違って、かなりの豪腕で、大蛇の頭を完全に取り押さえる。

 

 大蛇の眼前に、今度はトカゲ怪獣が顔を近づけ睨み合う。そしてトカゲ怪獣が大口を開けた。

 

 噛みつくのかと思ったらそうではない。何と開かれた口内から、また新たな口が飛び出したのだ。

 トカゲ怪獣の口内には、舌が無い変わりに、長いもう一つの口が内蔵されていたのだ。4本の牙が生えたそれは、トカゲ怪獣の体内にもう一匹の生物が隠れているかのようである。

 その第二の口が勢いよく伸びて、大蛇の眉間に衝突する。その力はとてつもなく強く、第二の口が大蛇の皮と頭蓋を、紙のように砕き、貫いた。

 

「ギャァアアアアアアアアアアァ!」

 

 脳を破壊された大蛇は、そのまま絶命して動かなくなった。

 トカゲ怪獣は勝利の雄叫びを上げた後、その場で立ち去ろうとする。だが・・・・・・

 

「グギャァ!?」

 

 大蛇の死骸に背を向けたトカゲ怪獣の右膝に、何かが噛みついた。驚いて後ろを向くと、絶命したはずの大蛇が、己の右足の膝に深くかぶりついていたのだ。

 

 胴体の穴も、致命傷の筈の眉間の傷も、既に完治している。

 

 大蛇の特質を知らなかったらしいトカゲ怪獣が動揺する隙に、大蛇が胴体を相手の身体ごと持ち上げる。噛みつかれたまま宙に浮くトカゲ怪獣。

 噛みつかれた箇所からは、黄緑色の異彩な血液が流れ出る。

 

 大蛇は胴体を大きく振るい、トカゲ怪獣の身体を近くの木に叩きつけようとする。

 だが何を思ったのか、突然大蛇が口を開いて敵を解放した。

 

「ジャァアアアアアアアアアッ!」

 

 再び地面に落下するトカゲ怪獣と、何故か攻撃されたわけでもないのに悶え苦しむ大蛇。

 

 見ると大蛇の2本の牙が消えていた。それだけではない、大蛇の両顎が先端から白い煙を上げながら、どんどん黒く変色している。いや、腐食し溶解しているのだ。

 

 一方のトカゲ怪獣を見ると、これもまた驚くべき現象が起こっていたのだ。

 傷口から垂れ流れた血液が、地面に落下するとジャワッ!と化学反応の音が聞こえ、落ちた位置の落ち葉と土が見る見る溶けていくのだ。

 

 血液自体が酸のような効果を持つこの生物は、いったい何者だというのか?

 

 トカゲ怪獣は苦しんでいる大蛇に飛びかかった。だが彼は噛みついたり等はしなかった。

 先程大蛇につけられた右膝の傷口を、蛇の胴体に接触させた。長い胴体に、自らの傷口を雑巾がけのように擦りつけ、血を塗りつけていく。

 

 塗りつけられた肉体が、焼けるような音を立てながら、もの凄い勢いで黒くなって溶けていく。

 その溶解力は凄まじく、皮は勿論のこと肉を通り越して、肋骨まで溶かし、大蛇の細い内臓に致命的なダメージを与える。

 

 トカゲ怪獣は、大蛇の胴体の半分以上の長さに自らの血を塗りつけた。この時には、既に右膝の出血は止まっている。

 

 苦しみ未だにのたうち回る大蛇に、トカゲ怪獣は尾先を何度も叩きつけた。半分近くが溶けて、内臓が露出した蛇の胴体が、魚の解体のようにどんどん斬り刻まれていく。

 やがて大蛇の動きが完全に止まり、今度こそ本当に絶命した。

 

 トカゲ怪獣は敵の死骸をしばらく観察し、敵の死を完全に認識すると、2度目の勝利の咆哮を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんじゃあ、これは?」

 

 蘭の焼却を終え、再び探索を始めた傭兵達は、思いもつかないものを発見していた。

 

「何って、蛇ですよね?」

「蛇なのは判っている。その蛇が何故こんな風に死んでいるのかと言っている」

 

 眼前にあるのは、三匹の大蛇の血みどろの死骸だった。やはり先程狩った群れ以外にも、多数の大蛇は生息しているようだ。

 

 だが奇怪なのは死んでいるという事実、あの不死身の肉体を持つ大蛇達がだ。

 サローンは一匹の死骸に近寄ってみる。死ぬ前に相当もがいたのか、辺りの土や落ち葉がめちゃくちゃに飛び散らかされ、側の細い木々がなぎ倒されている。

 

「死因は内蔵の徹底的な破壊か。これでは生き返られないな」

 

 大蛇の白い腹が、横に長く大きく割けている。相当な出血だったようで、辺りは血の海だ。

 不死身の大蛇でも、その細長く華奢な内臓に、大幅な損壊を受ければさすがに復活できない。その傷は、蛇の長い腹の7割近くを、派手に引き裂いていた。

 

 大蛇同士で殺し合いが起こったか? もしくはこの森に、別の傭兵が入り込んできたか? それともこの恐ろしい大蛇に、これほどの傷を負わせるほどの怪物が、まだこの森に住んでいるというのだろうか?

 

 サローンはその腹の傷を注意深く観察する。

 

(肋骨が外側にへし折れている。まるで内側から強力な力で引き裂かれたようだ。何か危険な獲物を呑み込んだか? ・・・・・・うん?)

 

 蛇の死骸の脇に見なれない虫を見つけた。

 

「これはサソリ? いや・・・・・・蜘蛛か?」

 

 白い体色をした、長い尻尾を生やした、大きな蜘蛛のような生物だった。彼らは知らないことであるが、それはあの魔法使いの少女を襲った個体と、全く同じ姿をしている。

 

 サローンは大太刀の鞘の先端で、その蜘蛛を突っついてみる。だが何の反応も示さない。

 次にその長い尻尾をつまんで持ち上げてみる。蜘蛛は自身の尻尾に揺られて、ダランと垂れ下がりながら全く動かない。どうやら既に死んでいるようだ。

 

「あんたも見つけたか」

「何?」

 

 声をかけてきたリッチの手にも、サローンが見つけたのと同じ白蜘蛛の死骸が掴まれていた。

 しばらく探してみると、更にもう一匹の白蜘蛛の死骸が発見された。計三匹の死骸が、同じく三匹の大蛇の死骸の側に横たわっていたのだ。

 

「お前知ってるか?」

「いや、こんな生き物図鑑でも見たことがないぞ」

「この蛇共の死因と関係しているのかね」

「まさかこんなちっこい生き物が、大蛇共を殺したとでも? それはそれで大事件だ。どこから飛びついてくるか、怖くて森の中を歩けねえよ」

 

 傭兵達は口々に言葉を並べるが、誰もこの現状に詳しい推察はできなかった。

 空を眺めると、葉の切れ間から差し込む陽光が、少しずつ赤くなっているのが判った。

 

「日が降りてきた。今日はこの辺で引き上げだ」

 

 サローンの命令により、傭兵達は村に戻るために逆向きの方向に歩き始める。

 

(しかしあの生物の特徴・・・・・・、どこかで聞いたことがあるような? 何だったかな・・・・・・思い出せん・・・・・・)

 

 サローンは何処か釈然としない思いを抱えながらも、村への道を歩き始めた。

 

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