スネーク・エイリアン   作:竜鬚虎

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第四話 襲撃者

「人だ! 人が倒れてるぞ!」

「村の者か!? 生きているか!?」

 

 帰り道、辺りが暗くなり始めた頃の村のすぐ近くの森の中で、傭兵達はまた新たな特異物を発見した。

 それは一人の少女の遺体だった。魔法使い風の衣装を着た、見覚えのある少女が仰向けになって倒れている。

 

「ぬう・・・・・・」

 

 サローンは顔をしかめた。寄ってみれば、少女は既に絶命していた。腹に内側から裂けたような穴が開いており、すぐ側にあの白い蜘蛛の死骸がある。そしてもう一つ。

 

「これは何だ? 卵か?」

 

 少女の遺体のすぐ側の、魔法陣の上に置かれた四つの卵。すぐにそれも調べたが、中身は既に空っぽであることが判った。

 

(卵は全部で4つ。あの大蛇の所の死体も含めれば、全て数があう。これは・・・・・・)

 

 サローンが考え込む中、リッチが少女の亡骸に手を添える。彼らはこの少女のことを知っていた。自分たちが契約した村にいた魔法好きな子供だ。

 

「何があったか知らんが、村に連れて行ってやろう。全く何でこんな・・・・・・」

 

 既に冷たくなった少女の遺体を抱え、一同は村へと歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大蛇の森の外にある新築の村“シリシャマ”。

 開拓の際に伐採した樹木から建てられた家々と、田畑がこの開かれた土地に広がっている。

 

 元々それほど規模の大きな集落ではなかったが、大蛇の被害が原因で、村人の大半がよその村に避難しているため、この村は新設早々に随分と寂れてしまった。

 

 その村の一角、隣に大きな鶏小屋が建っている家屋の中で。

 

「何だか小屋が騒がしいな」

 

 この家の主人が、鶏小屋から聞こえてくる喧噪に顔をしかめた。

 つい先程から鶏の鳴き声が騒がしく聞こえてくるのだ。朝の寝覚めの時間ならまだしも、この夜更けに鳴かれても迷惑なだけである。

 

 徐々に主人に不穏感が沸き上がってきた。

 

(まさか大蛇か!? いや村の囲いには確か蛇除けの結界があるって話だよな・・・・・・? となると、あのじゃじゃ馬娘がまた何かやらかしたか?)

 

 主人が護身用に購入していた銃を持ち、恐る恐る外に出て、小屋の様子を見に行く。

 靴を履き替えたときには、鶏の悲鳴のような鳴き声は何故か止んでいた。

 

「これは!?」

 

 小屋の中は惨劇だった。内部の囲いや檻はバラバラに破壊され、鶏達が血まみれになって死んでいる。

死骸は何者かに噛みちぎられたようで、大量の羽毛と共に内蔵が散りばめられている。

 

 主人が村長に伝えようと振り向いた途端、そこには何かがいた。

 

「へ?」

 

 主人がその人生の最後に見た光景は、何者かの大きな口から、もう一個の口が自分目掛けて飛んでくる光景だった。

 

 

 

 

 

 

 村に帰還後に、傭兵達は宿に使っている民家に入っていた。大蛇の件が原因で、この村には寝床に使える空き家がたくさんある。

 

 ただ一人サローンだけは、雇い主である村長の家で、事の次第を報告していた。

 

「そうですか・・・・・・アマンダが・・・・・・」

 

 大きなテーブルの上で、サローンと向かい合う四十代の黒鬚の男性、村長=マードックは重々しく息を吐いた。

 テーブルの上には回収した白蜘蛛の死骸と、空の卵が置かれている。

 

「何が起こっているのかは、俺たちにも全く判っていない。判るのは森の中に正体不明の卵があり、一人の人間と三匹の大蛇が死んだ。そしてその側に、これもまた奇妙な生き物が死んでいたと、それだけだ」

「判りました。追加金は払いますゆえ、この蜘蛛の調査も含めて、引き続き大蛇の掃討をお願いします。」

 

 サローンは、卵の下に敷かれていた召喚魔法の陣に関しては、マードックに伝えていない。

 深い理由はないが、15の娘に何かしら重い責任がかけられるのには、なんとなくつらいものがあったからだ。勿論これが深刻な事態をもよおすと決まった訳ではないが・・・・・・。

 

「アマンダのことは村人にはどう説明するつもりで?」

「あの子のことは・・・・・・大蛇に殺されたということにしておきます」

 

 その回答に、サローンは僅かに眉をひそめる。

 

「そんなことでいいのか? さっきも言ったが、まだ事態は何も判っていないのだぞ」

「しかし、卵から出てきた者は、この通りもう死んでいるのでしょう? これ以上、村の者達に不安感を煽るわけにはいきません」

「仮にも自分の娘が殺されたというのにな・・・・・・」

 

 サローンは一つ息を吐くと、少し非難するような口調で言葉を続けた。

 

「雇われの身の俺がこんなことを言うのも何だが、この村はもう諦めたほうがいいぞ。蜘蛛の件は別にしても、この辺りの土地は危険すぎる。避難した村人の中には、この村には戻る気のない者もいるそうじゃないか」

「そんな決断が簡単にできたら、我々のようにいつまでも居残っている者がいたりはしませんよ」

「お前らの生活がどうかなど知らないが、いつ大量の死者が出るか判らない所に居座るよりはマシだろう。今回の契約で大蛇を全滅させられたとしても、またいつ新しいのが発生するか・・・・・・いや、やはりいい。こんな所で議論するのはやめよう」

 

 サローンは重い腰を上げて立ち上がる。

 

「俺たちは言われたとおりに契約を果たす。お前は今の忠告をきちんと頭に入れた上で、これからのことを考えろ」

 

 そう言ってサローンは、出口の扉を開けた。その途端外から、悲鳴のような喧噪が聞こえてきた。

 

「大蛇だ! 大蛇が出たぞ!」

 

 

 

 

 

 

 サローンを含めた傭兵達が、大急ぎで現場へと走った。

 

 この村の周囲には、大蛇探知用の結界が張り巡らされている。結界と言ってもそれは魔法の壁などの、特殊な力によるものではない。

 大蛇などの魔物の嫌いな臭いを放つ液体を、村の周辺に濃くばらまいていたのだ。効果の程は不明だが、これをまいて以降は、大蛇がこの村に侵入したことはない。

 

(それが破られたということは、敵はあの臭いに馴れてしまったと言うことか?)

 

 サローンはそう推測したが、答えは全く別だった。

 

 現場へとたどり着く。とある民家の庭で、住人と思われる男性にトドメを刺したばかりの敵に遭遇した。

 三日月が空に浮かぶ薄暗い闇の中で、一人の傭兵が光の魔法で、その敵の姿を照らし出した。

 

 グシャッ!グシャッ!と肉を何かで引き裂く音を立てるそこに、敵の全貌が明るみに出た。

 

「あれは大蛇じゃないぞ!?」

「何だ、あいつは!?」

 

 傭兵達の間で動揺が走る。それは森の中で一匹の大蛇と死闘を演じた、あのトカゲ怪獣だった。

 

 上乗りになった犠牲者の身体を、第二の口で八つ裂きにしている(捕食している訳ではないようだ)。

 そして長い尾を、犬のようにふりふりと動かしている。村人達は、この動きを見て大蛇と誤認したのかもしれない。

 

「あれは・・・・・・まさか・・・・・・?」

 

 傭兵達の中で、サローンがとりわけ困惑した表情を見せていた。

 

「何でもいい! ぶっ殺せ!」

 

 サローンの命令を待たずに傭兵達が、魔法や銃弾でトカゲ怪獣を攻撃した。いくつもの攻撃弾が、吹雪のように大量に敵に向かって飛んでいく。

 トカゲ怪獣は身軽に動いてそれを回避し、民家の中へと逃げていく。

 

「奴には遠距離攻撃だけで対処しろ! 間違っても接近戦を行ってはいかん!」

「はい! ・・・・・・って何で?」

「何でもいいから言うとおりにしろ!」

 

 傭兵達は民家の周囲を取り囲んだ。

 接近戦が駄目となると、内部へ追跡するわけにはいかない。しばらく相手の出方を待つつもりだったが、待ち時間はそう長くはなかった。

 

 ガシャン!と軽快な音と共に窓ガラスが破られ、窓の向こうからトカゲ怪獣が外へと飛び込む。そして一人の長銃を持った傭兵目掛けて突進してきた。

 

 不意をつかれて、他の傭兵達の対処が遅れた。

 

「喰らいやがれ!」

 

 狙われた傭兵は、トカゲ怪獣に何かを投げつけた。前の戦闘で大蛇を苦しめた、刺激臭を放つ黒ボールだ。

 

 それを攻撃と判断したトカゲ怪獣は、身体を右横に反らして黒ボールをよける。

 トカゲ怪獣から見て、彼の左横の地面に黒ボールが着弾した。そして着弾と同時に黒ボールが爆発し、臭いを発する蒸気が一帯に振りまかれる。

 

「よし!」

 ボールは投げた傭兵は、うまくいったと思った。

 相手が大蛇のような普通の魔物だったら、この臭いにやられてもがき苦しんだだろう。実際にこの臭いは村の結界にも利用されているのだ。

 

 だがトカゲ怪獣は、それに何の反応も示さなかった。大量の蒸気など、まるで初めから無いかのように、再度突撃する。

 

「なっ、何で!? があっ!」

 

 慌てて銃を構えようとするが、遅すぎた。

 トカゲ怪獣の尾が槍のように真っ直ぐと飛び、尾先の棘が彼の腹を突き刺す。それなりの強度を持つ鎧はたやすく貫かれ、彼の肉体が団子のように串刺しとなった。

 

「おのれぇ!」

 

 近くにいた仲間達が、次々と魔法や銃弾を、トカゲ怪獣目掛けて撃ち放った。

 トカゲ怪獣は、重しでしかない彼の身体から、尾を引き抜いて離脱しようとするが、その隙に傭兵達の攻撃が次々と命中した。

 

「ピギィイイイイイイイイイイイッ!」

 

 火球・風の刃・銃弾、様々な殺傷力をもった力が、トカゲ怪獣の黒い皮と肉を破壊する。そしてその度に、黄色い不気味な体色の血が、周囲に雨のように降り注ぐ。

 

「何だ!?」

 

 攻撃を繰り返す傭兵達に新たな動揺が走る。トカゲ怪獣の血が飛び散った周囲の地面から、ジュワッ!と肉が焼けるような音と共に、白い煙が立ちこめ始めたのだ。

 

 闇夜で何が起こっているのかははっきりしないが、先程の黒ボールの蒸気とは明らかに違っている。

 

「攻撃を止めるな! 撃ち続けろ!」

 

 サローンの一括により、攻撃は更に加えられる。

 百発以上の魔法や銃弾の嵐を受け続けたトカゲ怪獣の身体は、全身の肉が抉れ、見る影もなくズタボロになって倒れた。

 

 

 

 

 数分後、仕留めたトカゲ怪獣の死骸の周りに、傭兵達の他に数十人の村人が野次馬よろしく騒いでいた。皆、大蛇とは違う異様な生物の出現に、驚き戸惑っている。

 

 だがみんな周囲から遠巻きに見ているだけで、誰もその死骸に近寄ろうとしない。

 死骸から数メートル一帯の、トカゲ怪獣の血が飛び散った箇所が、強酸を撒かれたかのように溶解しているのだ。

 雑草は微塵もなく消滅し、地面にはポツポツと小さな穴が開いている。死骸が倒れている場所は特にひどく、大量に流れ出た血が原因で、地面が抉れるように溶解・蒸発し、死骸は大きな陥没場所に沈んだ状態になっている。

 

 この怪物の襲撃によって、村民7名と傭兵一名が犠牲となっている。

 

「これでアマンダの件も誤魔化せなくなったな・・・・・・」

 

 大量の目撃者を出したトカゲ怪獣の死骸を見て、サローンは嘆息した。隣には嘆くような表情のマードック村長がいる。

 1人の傭兵が怪訝な顔をしてサローンに問いかける。

「なああんた、この変な生き物のこと知ってたのか?」

「どういうことですか?」

 

 側にいた村長も、この言葉に反応した。傭兵達もサローンに疑惑の目を向けている。

 

「確かにこいつに接近戦でいったら、返り血でこっちもお陀仏だ。あんたはこれを知っていたのか?」

「ああ、そうだ。あの大蛇と同様、直に見るのは初めてだが。俺は以前に、この魔物に関して聞いたことがある気がする」

「何ですと?」

 

 サローンのこの言葉に、その場の全員が僅かに驚く。

 

「ずっと北の国に住んでいる俺の姪から、これに似た特徴の怪物に会ったと聞いた。こいつだけでない、あの蜘蛛のような生き物もだ。どこかの研究所に現れて、複数体で内部の人間と実験動物たちを虐殺したという」

「研究所? そこの奴らが実験か何かで造ったのか?」

「さあな。中には竜のようにでかい奴もいたそうだ。とても素早く強く、何でも溶かす酸の血を持っている。それはあの蜘蛛にもあるそうだ。試しに解体しなくて良かったよ」

 

 聞いたこともない種類の魔物の話に、誰もが疑問符を彼に投げかけた。

 

「いや・・・・・・そもそも何でそいつらがこの森に?」

「んなもん知らんわ」

 

 サローンは周囲を見回した。村人達は皆、サローンの話を聞いて震えていた。そんな彼らに命令口調で叫ぶ。

 

「よく聞け! こいつらに蛇除けの臭いは効かん。そしてこの魔物は最低でも、まだ後3匹いる! もう村内にこもっても安全はない!全員朝日が昇ったら、すぐに村を脱出しろ!」

 

 トカゲ怪獣がまだ他にいるという言葉に、村民達は動揺する。

 

「あんたらはどうするんだ?」

「さて、どうするかな? 一応俺たちが契約したのは大蛇狩りで、この大トカゲは契約の範囲外だが・・・・・・」

 

 サローンはマードック村長に顔を向ける。

 

「・・・・・・追加金を上げておきます。どうかよろしく・・・・・・」

 

 村長は力なく頭を下げる。

 

「了解した。どのみち奴を野放しにするわけにはいかん。こいつに仲間を一人殺されたしな。負ける気は無いが、万一ということもある。向こうの街に出たら、軍にも事の次第を伝えておけ」

 

 傭兵達は、難易度を増した明日の戦いに備え、ねぐらにしている家屋へと足を向けた。

 

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