朝になって傭兵達は森へと再出発した。
当初は16人いた傭兵達は、現在10人に数を減らしている。一人は昨夜のトカゲ怪獣との戦いで死に、5人は当初の予定にない敵の出現に危機を感じて脱退している。
村人達にはすぐに村から出るようにいったが、サローンはどうにも不安を感じていた。
昨夜の様子から見ても、避難の準備をしている様子があまり感じられなかった。
(ここへの移住と家屋の建設に、財をかなり削ったはずだから、気持ちは判らなくもないが・・・・こちらに期待しすぎないで欲しいものだ。俺たちだって勝ち目が低いと見たら、速攻で逃げる算段だしな・・・・・・)
10人の傭兵と、三羽のカルガモが未知の存在が蠢く森へと入っていく。
森の奥深く、そこに蘭の花畑があった。前に傭兵達が、沼の側で見つけた花畑の5倍の数の蘭が咲いている。
希少種と呼ばれている不死の蘭であるが、この年は随分発育がよく、例年を遙かに凌ぐ数の蘭が咲き乱れ、その結果大蛇の発生・成長を大きく促していた。
大蛇達が新たな開花に気付き、蘭畑に近寄ってきた。
総勢7匹の大蛇が、蘭の花の臭いに誘われて、飢えた鳴き声を上げて蘭畑に頭を突っ込もうとする。だがすぐに引っ込めた。
「「シュルルルルルルッ!」」
後ろを振り向き、一斉に威嚇の唸り声を上げる。蘭畑には大蛇以外にも珍客が来ていたのだ。
「シーーーーーー!」
それもまた低い威嚇の声を上げて、背後から大蛇達に迫ってきた。
それは20メートルを超える細長い胴体を持ち、手足はない。全身をくねらせながら地面を滑るように移動している。その体型は眼前の大蛇ととてもよく似ている。
だが似ているのは体型だけで、それ以外は全くの別物だった。
黒い体色。目・鼻・口のない光沢のある滑らかな顔。突き出るように長い後頭部。尾の先端には槍のような突起が付いている。それはあのトカゲ怪獣と酷似していた。
ただし顔は三角に尖っており、口に切歯が生えておらず、上顎にとても長い犬歯が二本伸びている。その体型と特徴は、大蛇とトカゲ怪獣を足して2で割ったような姿だ。
そのヘビ怪獣は、全部で2匹いた。
牙を向いて、涎のような粘液を口から垂れ流しながら、大蛇達に向けて明確な敵意を発している。
何が合図になったのか、両者は一斉に相手に向かって突撃した。
大蛇の中でとりわけ大きい、ヘビ怪獣と同じぐらいの20メートルぐらいの体長を持つ固体が、一匹のヘビ怪獣にかかっていった。
そして残りの一回り小さい6匹の固体が、残りの一匹に群がっていく。
「シャァアアアアアアアアッ!」
「ピギャァアアアアアアアッ!」
一匹の大蛇と一匹のヘビ怪獣が、真正面から突進し、お互いの眉間目掛けて頭突きを打ち合った。
激しい衝撃と共に、お互いエビのように前部胴体を後ろに跳ね、後退する。だがすぐに体制を立て直し、噛みつきにかかった。
双方が相手の喉下の胴体に、牙を突き刺し、かぶりつく。大蛇の胴からは赤い流血が、ヘビ怪獣の胴からは黄色い流血が垂れる。
両者はしばらく胴体を力ませ、力比べをしたが、先に大蛇が音を上げた。
力で負けたのではない。前のトカゲ怪獣と大蛇の戦闘と同じ展開だった。このヘビ怪獣もまた、トカゲ怪獣と同じ、その身に流れる血液は酸だったのだ。
焦げるような音と共に、牙と両顎が溶けた大蛇は、慌ててヘビ怪獣の胴体から口を離した。
ヘビ怪獣は己の長い胴体を、縒ったロープのように、大蛇の胴体に巻き付ける。そのまま思い切り、大蛇の肉体を強靱な胴の筋肉で締め付けた。ギシギシと肉の軋む音が聞こえてくる。
大蛇もそのまま絞め殺されてやるつもりはない。自身も渾身の力を込めて、ヘビ怪獣の身体を締め上げようとする。
ヘビ怪獣の側では、力を入れているのは胴だけではない。大蛇の胴に噛みついた牙にも、大きな力で圧迫している。傷口からはますます赤い血がほとばしる。
しかも先程大蛇に噛まれて出来た傷は、もう既に治癒し消えかけている。何故かは不明だが、このヘビ怪獣には、大蛇と同じ強大な再生能力があるようだ。
大蛇の溶けた両顎は、強靱な再生力で治りかけているが、タイミングが遅すぎて、相手の身体に噛みつくほどの力は発揮できない。
できたとしても、またさっきと同じように自身の肉体を溶かすことになるだろうが。
締め付け合戦は長く続かず、ヘビ怪獣の胴体が、大蛇の胴体を損壊し始めた。
大蛇の肋骨が次々とへし折れる音が聞こえ、細長い胴体がグチャッ!と潰れる。
大蛇の口から大量の嘔吐が吹き出る。内臓に致命的な損傷を受けた大蛇は、ついに息の根を止められてしまった。
大蛇が煮干しのようにグシャグシャに曲がった姿で倒れ、ヘビ怪獣はもう一匹の仲間の方に顔を向ける。
「シャァアアアアアアアアアッ!」
「ジャァアアアアアアアアアッ!」
「ピギャァアアアアアアアアアアッ!」
戦況は数に任せた戦法で、大蛇が圧倒的に優勢に見えた。
六匹の大蛇全員が、ヘビ怪獣の身体に絡みついて動きを封じ、その胴体に何度も噛みついている。
噛みつく度に大蛇の口は溶けるが、すぐに再生してまた噛みつく。それを繰り返してヘビ怪獣に傷を負わせていく。
だがヘビ怪獣にも再生能力はある。傷を負ってもすぐに傷口は塞がってしまう。
結果的に互いの動きを封じ合い、すぐに治る傷を付け続ける。これでは日が暮れても勝負が付かない。
もう片方のヘビ怪獣は、しばらく様子を窺っていた。だが同じ事を繰り返してばかりの攻防に飽きが来たのか、自らも動き出した。
仲間の元に近づいていくヘビ怪獣A。大蛇達はそれに気付いていたが、ヘビ怪獣Bを拘束するのに全力を注いでいるため、何の対処も出来ない。
ヘビ怪獣Aは尾をしねらせ、先端の鋭い突起を一匹の大蛇に向けた。そして勢いよく突き出す。
その尾先は、大蛇の身体を捕まえているヘビ怪獣Bの胴体ごと貫いた。
「シュアアアアアアアアアアッ!」
「ピギィイイイイイイイイイッ!」
双方の悲鳴が森の中に鳴り響く。ヘビ怪獣Aは迷うことなく、貫通させた尾を引き抜いた。
ズボッ!と強引に尾先が引き離され、その余波でヘビ怪獣Bの身体から黄色い鮮血が飛び散る。それはすぐ下の地面と、共に貫かれた大蛇の体中にまとわりついた。
「ジャァアアアアアアアアアアッ!」
引き抜かれた拍子に胴体を引きちぎられた上に、全身に酸の血を浴びた大蛇は、二つに割れた胴体をジタバタと暴れさせる。
そうしている間にその肉体は、どんどん黒く染まって溶けていく。
ヘビ怪獣Aは全く同じ動作で、次の段の胴体に巻き付いている大蛇を、尾で貫いた。
敵の身体ごと貫かれ、凶器を引き抜かれた大蛇は、先人と同じように大量の酸の血を浴びて、苦悶の声を上げる。
更に3匹目、4匹目の大蛇にも同じ攻撃が加えられ、のたうち回る。
この時点で最初に貫かれた大蛇は、身体の殆どを酸の血に浸食されて死んでいた。
一連の行動に残りの2匹の大蛇が、ヘビ怪獣Bの身体から離れる。そして今度はヘビ怪獣Aの身体に巻き付き拘束しようと、襲いかかった。
それに対しヘビ怪獣Aは、自身の太く長い尾を、薙刀のように盛大に振った。
バチン!と痛そうな音と共に、2匹の大蛇が尾で払いのけられる。ヘビ怪獣の体格は、大蛇達よりも遙かに大きい。重量の違いによるパワー差で、大蛇達は後方に吹き飛んだ。
「ギャギャァ!」
ヘビ怪獣は更に尾を振って、倒れた大蛇達に更なる鞭打ちを与える。一発ではなく、何度も何度も休むことなく、リンチのごとく大蛇達を打ちのめしていく。
叩きつけられる内に、大蛇達の皮と肉は裂け、血がしぶき、骨と内臓が露出し始める。
あまりの猛攻に大蛇達の再生能力が間に合わない。やがてその胴体も、幾度もの激しい衝撃によって千切れ始めた。
やがて全身が、魚の切り身のように細切れになる。ヘビ怪獣の猛攻は止んだ。ここまでやられた結果、大蛇達は2度と動くことはなかった。
一方仲間の手で串刺しにされたヘビ怪獣Bは、4度も内蔵は太く貫通させられたのが致命傷になったようで、すでに動かなくなっている。
どうやら弱点も大蛇と同じようになっており、なおかつ再生能力は幾分か大蛇よりも劣るようだ。
「グギャァアアアアアアアアアアッツ!」
ヘビ怪獣は勝利の雄叫びを上げた後、ゆっくりと当初の目的だった蘭の花畑に寄っていく。
そして大口を開けて、蘭の花を茎ごとかぶりつき、食べ始めた。巨大な口から次々と、ヘビ怪獣の腹の中に収まっていく不死の蘭。
やがて全ての蘭が食い散らかされ、花畑がただの荒れ地と化する。
「ギャギャァ! ギャァアアアアッ!」
大量の蘭を取り込んだヘビ怪獣は、何やら先程の戦闘時以上に興奮しているようだ。
あの蘭は取り込んだ者の生命力を活性化させ、成長を大幅に促進させる力がある。その効力を持った花の成分は、普通の生き物には毒だが、何故かヘビには無害だ。
そしてこの大蛇に似通った謎の生物にもそうであるらしい。もの凄い勢いで成長・巨大化させられようとしているヘビ怪獣の肉体。
だがそれには肉体の材料となる栄養が足りなすぎた。
大蛇はその辺に転がっている、殆どの部分が溶けた大蛇の死骸をむさぼり始めた。そしてそれらを全て食べ尽くすと、更なる餌を求めた森の外へと走っていった。