スネーク・エイリアン   作:竜鬚虎

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第七話 戦火

 リッチが殺された後、彼が乗っていたダックは、即効で逃げ出した。ヘビ怪獣はダックには興味を示さず、別の方角に顔を向けた。

 

「ううっ・・・・・・やっと出られた。あれ?」

 

 倒木の下敷きになった鎖使いの傭兵の一人が、ようやく木の下から這い出てきた。全身に強い衝撃を受けたもの、重傷ではなかった。

 だが彼は立ち上がってヘビ怪獣に目を向けた途端、既に近くに来ていたヘビ怪獣の尾に串刺しにされた。大量の鮮血が彼の背中から飛ぶ。

 

「うっ、うわぁあああああああああっ!」

 

 鎖が溶かされた反動で倒れた傭兵=バイロンがさすがにこれ以上は限界と、背を向けて逃げ出す。

 遅れて立ち上がった最後の一人のすぐ近くに、ヘビ怪獣の顔があった。

 

「ちくしょうが! ただで喰われてたまるか!」

 

 傭兵はやけくそ気味に、持ち運んでいた水筒型爆弾のスイッチを押した。そしてそれを掲げて、ヘビ怪獣を挑発する。戦士としての最後の意地、敵を巻き添えに自爆する気だ。

 

「来やがれ! 喰ってみろよ、こら!」

 

 大蛇が自分を喰うか、尾で刺されるかすれば、必然的に爆弾は大蛇の目と鼻の先に来る。もし前者でいけば、この爆弾でヘビ怪獣の体内から爆弾で粉々にできただろう。

 

「あれ?」

 

 だがヘビ怪獣はひと睨みしただけで、彼を無視して全く別の方向に走っていった。

 

「何で?」

 

 そう言う先に、爆弾の起動時間が過ぎた。爆音と共に、彼は何の成果も上げられずに爆死した。

 

 

 

 

 

「ちょっと!? 何で追っ来るんだよ!?」

 

 ヘビ怪獣は、逃げるバイロンを追っていた。

 死にものぐるいで走るバイロン。その後をヘビ怪獣の巨体が、多くの木々を薙ぎ払いながら、迷うことなく真っ直ぐに追ってくる。

 

「バイロン! その袋をこっちに投げろ!」

 

 サローンの声が響く。実はバイロンは、先程採集した不死の蘭を入れた袋を背負ったまま、戦闘に参加していた。

 バイロンは迷わず袋を、サローンの声がした方向に投げる。だがその時に、ヘビ怪獣の口がすぐ背後に迫っていた。

 

「ぎゃぁあっ!」

 

 ヘビ怪獣の口から、第2の口が飛び出した。それはあのトカゲ怪獣よりも長く伸び、バイロンの腹を貫通し、そこに大穴を開ける。

 

「くそっ!」

 

 サローンは近くに落ちた袋を拾い上げる。

 見るとヘビ怪獣は、バイロンの亡骸を放り投げ、こちらに首を向けていた。

 よく見ると、先程リッチに負わされた大きな傷は、ほとんど傷口が塞がっており消えかかっている。

 

(何なんだこいつは!? 大蛇なのか!?)

 

 蛇除けの臭いや冷気が効かなかったことと、傷から酸の血が流れたことから、これは大蛇とは全く別種の魔物かと思われた。

 だがこいつは大蛇しか好まないはずの不死の蘭を追いかけ、更には大蛇同様の驚異の再生能力を持っている。こいつは本当に何者なのだろうか?

 

「ジョンソン! 結界魔法の準備を!」

 

 共に森に入った最後の仲間=ジョンソンにそう指示し、サローンは拾い上げた袋を思いっきり投げつけた。

 彼の巨漢と豪腕によって投げられた袋は、高々と空中へと舞い上がり、遙か彼方へと飛んでいく。

 

「ギュアッ!」

 

 ヘビ怪獣はそれを、フリスビーを投げられた犬のように追いかけていく。

 その間に彼は、いつのまにか持っていた水筒爆弾のスイッチを押した。見ると彼の肩には、爆弾をたくさん詰めた袋が背負わされていた。

 

 不死の蘭が入った袋は、森の中の開けた土地(先程の戦闘で木々が薙ぎ倒され、あちこちに火の手が上がっている場所)に落下した。

 

 ヘビ怪獣は袋に追いつき、それを袋ごと呑み込んだ。

 その直後に、さっきまで袋が落ちていた位置に、ナイスヒットで何かが投げつけられて落ちてきた。

 

「?」

 

 ヘビ怪獣が不思議そうに視線(目はないが)を向けたそれは、傭兵達が持ち込んできた水筒型爆弾だった。

 ヘビ怪獣がそれの意味を理解するよりも先に、それは目を覆う光を放って消滅する。

 

ドゥン!

 

轟音が響き、大蛇の死骸を粉々にしたあの爆発が、ヘビ怪獣を襲う。

 

 言うまでもないが、その爆弾はサローンが投げつけた物だった。

 爆風が吹き荒れ、土や落ち葉など様々な物が飛び散り、それらはサローンの方に飛んでいく。

 

「障壁!」

 

 側にいたジョンソンが、サローンの前に出て魔法を行使した。

 ジョンソンの持っている薙刀の刀身が白く光る。そして二人の前に半透明な白い光の壁が現れて、飛んでくる様々な物体をはね除ける。

 

「ピギャァァアアアアッ!」

 

 煙と土埃の中から、耳に付く怒りの声が響き、そこからヘビ怪獣が顔を出し、二人に向けて走り出した。

 爆弾の威力が効いたようで、ヘビ怪獣の顔からは、自身の黄色い血が垂れ流れている。

 

「ジョンソン!」

「判っている!」

 

 ヘビ怪獣が姿を現すと同時に、ジョンソンは結界魔法を解除した。二人を守っていた光の壁が、一瞬で消滅する。

 

 実はこの間にサローンは、二つめの爆弾のスイッチを押していた。そしてそれを再びヘビ怪獣に投げつけた。

 結界が張られたままの状態だった場合、それが壁になって爆弾を前方に投げることは不可能だったろう。そのために結界を解いたのだ。

 

 爆弾は突進してくるヘビ怪獣の頭にクリーンヒット。その瞬間にジョンソンは、再び結界魔法を発動させる。

 爆弾は衝撃で、ヘビ怪獣から見て前方に跳ね返った。その物体の意味を、身を持って知っているヘビ怪獣は、慌てて後退しようとする。

 だが十分な距離を取れる前に、それは起爆した。

 

 森の中で今日3回目(1回目は自爆した同士)の爆音が響く。

 だが今回爆風で飛んだのは、砕けた木・土埃・葉だけはなかった。

 

 煙の中から、大量のカラフルな黄色い液体が、花火のように周囲に飛び散ったのだ。無論これはあのヘビ怪獣の血である。

 それらは付着した石・木・土を溶かし、あちらこちらから白い煙と、ジューー!という溶解音を一斉に奏でる。

 血はサローン達の所にも飛び散ったが、ジョンソンが結界魔法で全て防御したおかげで、二人とも無事だった。

 

 サローンは更に袋から新たな爆弾を取り出し、スイッチを押す。

 煙は更に濃くなっており、ヘビ怪獣の姿は見えないが、痛みに震えている鳴き声は聞こえてくる。

 サローンはその声を頼りに、敵がいるだろう位置に爆弾を投げる。再度爆風と共に敵の血が飛んでくるが、ジョンソンがまたうまいタイミングで結界を張って、酸血が自分たちにかかるのを防いだ。

 

 二人の連携で、サローンは次々と爆弾を投げつけた。

 何度何度も酸血が飛び散る。やがてヘビ怪獣の悲鳴が聞こえなくなってきたが、サローンは勘で敵の位置を推測して投げつける。やがて飛び散る血の量も減ってきた。

 

 サローンは爆弾を投げるのを12個目で一旦止める。

 黒煙と粉塵が辺り一面を霧のように覆い尽くし、二人は周囲の様子がほとんど判らない。所々に赤く輝く光が見える。火災が広がっているのだ。

 

「まったく見えないな。お前、風の魔法は使えたか?」

「いや、できないな。黙って晴れるのを待つしかないな」

 

 二人は周囲の気配に警戒しながら、武器を構えてその場で待ち続ける。

 やがてゆっくりと煙が晴れていく。その場に動く物体はなかった。

 変わりにバラバラになったヘビ怪獣の死骸が転がっていた。流れ出た血が地面に染みこみ、各所に大量の深い穴が出来ている。

 

 ここまでやられれば、例え大蛇の同類であっても生き返ったりすることはありえない。二人は敵の撃退に、ホッと肩を落とす。

 

「・・・・・・しかしどうしたものか」

 

 敵は倒したが、こちらの犠牲は多すぎた。そして確証はないが、あれと同系の魔物はあと2体いると、2人は確信していた。根拠はあの3匹の大蛇の死骸だ。

 そして今の人数ではまずそいつらを撃退することは不可能だ。契約は完全に失敗である。

 

「俺たち傭兵の力だけでは、解決不可能な事態だったようだな・・・・・・。悔しいがこれは軍に全てを委ねるしかない・・・・・・」

 

 サローンは周囲に倒れている仲間の死体を見渡す。

 彼らのほとんどが、今回の仕事で初めて会った者達だったが、それなりに胸は痛んだ。

 

「グワッ!」

 

 いや、生き残りはまだいた。いつのまにか逃走していた二羽のダックが、戦いが終わったことに気付いて走り寄ってくる。

 リッチが連れていたダックだけは、逃走した後どこに行ったのかは不明だ。

 

「助かった。お前達よく戻ってきてくれた」

 

 ダック達に、サローンは1羽ずつ頭を撫でる。二羽は犬のように尾羽をフリフリと振る。

 

 2羽の内1羽は、サローンが元々飼っていたものだった。

 もう1羽は別の仲間が連れていたのだが、彼は先程の戦闘で死んでいる。彼の家族の連絡先など判らないとなると、ジョンソンが、自分が貰い受けると言い出した。

 

 少々問題がある気がしたが、サローンは一々議論するのも面倒なので、言うとおりにさせた。

 ちなみにジョンソンは戦死した仲間の懐からも、金を取り出そうとしていたが、広がった炎の煙に巻かれてむせかえり、いちいち物色できる時間はないと断念した。

 

「これからどうするんだ?」

「俺はこれから村に戻る。もう無人になっているだろうが、色々と私物を置いていっているのでな。それからマードックさんの所に報告する。あの大蛇もどきの事も、軍に報告する必要があるしな。ジョンソンはどうするんだ?」

「俺はこの物騒な所からは、そうそうに退かせてもらうぜ。金が入らないんじゃ、ここにいる意味はない」

「そうか、達者でな。大分煙たくなったし俺も早めに出る」

 

 周囲を見ると火災は時間と共に更に拡大し、火の手が彼らの近くにも寄ってきている。いつまでもここにいては焼死してしまうと、二人はダックに乗って飛び立った。

 

 最初は荷物と一緒に大勢の仲間と動いていたため、陸を移動して仕事をしていたが、もうそんなことをする必要はない。

 身軽になった彼らは必要外の道具は全て捨てて、ダックの手綱を引く。ダックを大きく翼を羽ばたかせ、水かきのついた足で地面を蹴って、空へと飛び上がった。

 

 ジョンソンは適当な方角に向かって飛んでいき、サローンは村のある方角へと向けて飛んでいった。

 上空から森を見ると、山火事がどんどん強く広がっているのが見える。

 

(あれはかなりの範囲が焼けるな。雨の恵みが早く来るのを祈るか)

 

 燃えさかる森の地面には、幾つかの荷物と共に、あの水筒型爆弾が数個置き去りになっていた。

 

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