「不味いぞブルマ。フリーザが兵士を連れて地球にやってくるぞ!」
「え…?」
それは突然の知らせだった。
自宅で過ごしていたブルマの下に友人にして銀河パトロール隊員であるジャコが来訪し、かつて悟空や未来から来たトランクスによって倒された筈のフリーザが復活を遂げ、千人の兵士を連れて地球に向かってきているという驚愕の事実を告げたのだ。
「それで、フリーザはいつ来るの?」
「そうだな……あと一時間くらいだな」
「バカ!! もう直ぐじゃない! 急いでみんなにも知らせないと」
残された猶予はたったの一時間。
事態を重く受け止めたブルマは、すぐさま地球の戦士達に連絡を入れ、ことの深刻さを伝える。悟空とベジータという地球の最大戦力が不在の今、彼等だけが頼みの綱なのだ。
「当然、アンタも戦うんでしょうね?」
「なにを言っている、私は逃げるぞ。何故ならまだ若いので死にたくないからな」
「アンタね! それでも誇り高い銀河パトロール隊員なの? スーパーエリートとか言っておきながら逃げる気?」
「……ッ。仕方がない…では兵士の方を担当してやる…。
フリーザの相手はごめんだからな…!」
その後、連絡を受けた悟飯、ピッコロ、クリリン、亀仙人、天津飯が合流し、助っ人のジャコを加えた六人でフリーザ軍に対抗することになった。
一方で、ブルマはビルス星で修業している悟空とベジータにも知らせる為にウイスを通して連絡を試みていた。しかし、一向に返事がなく、無情にも時間だけが過ぎ去っていった。
───そしてついに。
「……来たぞ!」
待ち構えていたピッコロの一声と同時に、空の彼方から巨大な宇宙船が出現した。
そこから感じる背筋が凍りつくような邪悪な気配。かつて闘った経験のある悟飯、ピッコロ、クリリンにとっては未だに記憶にこびりついている悪夢の象徴。
───悪の帝王、フリーザの襲来だ。
「…間違いない。これはフリーザの気だ」
「嫌な記憶を思い出すぜ…」
「怖気付くな。後を追うぞ!」
宇宙船は悠々と飛行し、やがて海に囲まれた孤島に着地した。船内からはフリーザ軍の兵士がワラワラと蜘蛛の子を散らすように出てくる。
しかし、千人の兵士と言えば聞こえはいいが、一人ひとりの戦闘力は大したことはなく、練度も低い。
司令官であるフリーザが不在の間、フリーザ軍の戦力が大きく削がれてしまった影響だ。
言ってしまえば彼等は寄せ集め、烏合の衆というヤツだ。
「ふむ、兵士だけならワシらでもなんとかなりそうだが…」
「ああ、奴らの親玉は別だ。出てくるぞ…」
宇宙船に続いて島に辿り着いた一同が警戒した面持ちで見つめる中、宇宙船の上部のハッチが開かれる。すると中から小型ポッドに乗ったフリーザが現れ、悟飯達に存在に気づくやいなや、ニヤリと口角を上げた。
「おやおや…皆さんお揃いで。孫悟空の姿が見当たらないようですが…彼は来ていないのですか?」
「ご、悟空は……」
「孫君はまだ来ないわよ」
言い淀むクリリンを遮り、悟空とベジータに連絡が取れないことを知らせにやって来たブルマがきっぱりと答える。フリーザ相手に臆することなく話す様を見た一同が、『こいつマジか…』といった目を向けているとは露知らず、ブルマは堂々した態度で口を開く。
「アンタ、ホントにしつこいわね! 一体どうやって復活したのよ!」
「おや、あなたとは初対面の筈ですが、私のことを知っているところをみると、あなたもナメック星にいらしてたようですね。
お友達の孫悟空さんはどこでしょうか?」
「フン、みっともなく復讐しにきたっていうの?
だとしたらお生憎様。お目当ての孫君はここにはいないわよ」
「ブルマさん、もう少し丁寧に…」
「それは困りましたね…。ご本人がいなければ私の復讐は完遂できない。
…ですが、あなた達を殺し、遅れてやって来た彼が悔しがる様を見るのも一興かもしれませんねえ…」
「な、なによ、やる気なの? 言っておくけど、こっちには悟飯君達がいるんだから、アンタなんて敵じゃないんだからね」
「…ブルマさん、それは難しいと思います」
意気揚々と語るブルマだったが、悟飯は険しい顔つきで難色を示す。
確かにナメック星で闘った時のフリーザであれば、今の悟飯でも十分に勝機はある。しかし今のフリーザは、以前とは比較にならないほどに力が増しており、この場にいる戦力だけで勝つのは困難──いや、不可能というのが悟飯達の見解だ。
はっきり言ってしまえば、悟空とベジータが来るまでの時間稼ぎぐらいしかできないのだ。
「そ、そんな…」
「どうやら、今の状況を理解していただいたようですね。私にかかればこの場にいる全員を皆殺しにするのは簡単なこと。ですが…それではあまりに面白くありません。
あなた達はじっくりと痛めつけ、私に歯向かったことを後悔させながら…死んでもらいますよ」
「くっ…!」
「…と、その前に」
悟飯達が身構えると、フリーザは何かを思い出したような顔を浮かべ、人差し指を海の方へ向けた。その不可解な行動にピッコロは眉をひそめる。
「貴様、一体なにを…」
「いえね、折角はるばる地球に来たんですから、地球人の皆さんにも
「──ッ!」
ピッコロはハッとした表情を浮かべ、フリーザが指差す方角に目を向ける。広大な海を跨いだ先にあるものは、多くの人々が住まう大都市───"北の都"だ。
「よ、止せ…ッ!!」
「フ…」
フリーザの狙いに気づいたピッコロが声を張り上げるも、フリーザは嘲笑うように口元に弧を描き、指先から紫色の光弾を放つ。光は音を置き去りにしながら一直線に北の都へ向かい、その軌跡だけで海面が大きく割れた。
「なんてことを…!」
数秒後には巨大な爆発が起こり、街は炎に包まれる。
誰もがそう思った。
「……ん?」
だが、爆発は起こらなかった。水平線の向こうには、高層ビル群が変わらず立ち並び、黒煙も、閃光も、衝撃波も見えない。
街は何事もなかったかのように静かなままだった。
「…おかしいですね」
指先から放った光弾は、確かに北の都へ向かった。街一つなど跡形もなく消し飛ばせる威力だった。
それなのに何も起きない。
フリーザは困惑した声で呟き、ブルマ達も状況を理解できず、ただ呆然と海の向こうを見つめていたその時、街から紫色の光点がきらりと輝く。
「──不味い! 離れろ…!!」
状況をいち早く察知したピッコロが声を上げ、一同は即座に空中に退避する。
一方で、フリーザ軍の兵士達はわけもわからぬまま右往左往していた。
「そ、総員退避──」
軍の指揮官であるソルベが退避命令を出すも、判断があまりにも遅すぎた。
高速で迫る紫色の光はソルベの指示とほぼ同時に飛来。その刹那、光を起点に強烈な爆発が発生した。爆風はフリーザ軍の兵士を瞬時に飲み込み、悲鳴すら上げる間もなく蒸発していった。
千人に及ぶ軍勢は、一瞬にして消滅したのだ。
「ちょ、ちょっと! なにが起きたのよ!?」
悟飯に抱えられたブルマが混乱した様子で口を開いた。
フリーザが街を攻撃したかと思えば、逆にフリーザ軍が消し飛んだのだからその疑問は尤もだ。
わけがわからないと呟くブルマにピッコロが冷静な声色で答える。
「……誰かは知らんが、フリーザの攻撃を打ち返したんだろう。
連中は自分の上司の攻撃を食らう羽目になったんだ」
「でもピッコロさん。今の爆発…なにか変じゃないですか?」
「ああ…街を破壊しようとした割に爆発の規模が小さすぎる。
だが、フリーザが手加減したとは思えん。あいつは本気で街の人間を皆殺しにするつもりだった筈だ」
「それに戻ってきた弾からは、微かにフリーザ以外の気を感じました。打ち返した人がなにかしたんでしょうか?」
「わからない…。そもそも今の地球にはフリーザに対抗できる奴はいない筈だ。ましてやそんな芸当ができる奴は──ッ!?」
一連の出来事に訝しんでいたその時、今まで感じたこともない強い気配が忽然と現れた。反射的に目を向ければ、爆発を防いだフリーザの真横に見たこともない黒い髪の女性が、まるで初めからそこに居たかのように立っていた。
「一体、なにが…」
「よお」
「─ッ!? グボォアッ!! 」
フリーザが振り向いた瞬間、顔面に女性の正拳突きが炸裂。ドゴォンッ!と鈍い音を立て、ぐにゃりと顔を歪めたフリーザは、そのまま砲弾のような速さで岩壁を突き破り、島の反対側まで吹っ飛んでいった。
「なっ!?」
目を疑う光景に一同は言葉を失った。以前よりも遥かにパワーアップしているフリーザが、拳一つで殴り飛ばされるなど一体誰が想像できただろうか。
思わぬ乱入者に唖然とするピッコロ達を他所に、黒髪の女性は、殴りつけた拳を下ろし、凛とした顔付きで口を開いた。
「ひとまず、あたしの休日を邪魔した件については、これでチャラにしてやるよ、フリーザ」
時はフリーザが襲来する少し前。
地球の食べ物を一通り堪能(腹六分目)したルージュは、北の都の海辺に広がるビーチでトロピカルジュースを片手に寛いでいた。
「はあ…ご飯は美味しいし、海風は気持ちいいし、他所よりも静かで平和だし、地球マジサイコー」
寛ぎすぎるあまり、語彙力を失っていた。
何処ぞの大人のお姉さん好きの親父ィが、"宇宙の中で一番環境が整った美しい地球"と評するだけあって、この第七宇宙の地球は非常に居心地が良かった。
これまでいくつもの星を訪れてきたルージュでさえ、どの星が一番良かったかと聞かれれば、ぶっちぎりで地球がナンバーワンと答えるほどに。
今後暇な時があれば絶対に地球に遊びに行こうとルージュは心に決めるのだった。
「折角だしあとで泳ぐか……ん?」
しかし、そんな憩いの時間に水を差す不届者が現れた。
積年の恨みを果たす為にのこのこと地球にやってきた招かれざる客。
「……おいおい」
フリーザの襲来。
それは原作で言うところの『復活のF編』が始まったことを意味する。それ自体は別に問題ない。
フリーザ軍の残党がドラゴンボールでフリーザを蘇らせ、後にトレーニングを積んだ彼は、復讐を果たすべく地球にやって来る。原作通りの流れだ。
「なんで今なの…?」
だが、タイミングが悪い。悪すぎる。
復讐するのは結構だが何も今来る必要はなかった筈だ。
機会なんていくらでもあっただろうに何故この日を選んだのか。
あと一日くらい待てなかったのか。
そう思わずにはいられなかった。
「しかも街の近くで止まったし……あーあ、台無しだよ」
宇宙船が現れたことで街は混乱の渦に陥り、大パニックが起きていた。こうなってしまえば観光どころではない。事態が終息しない限り、憩いの時間が戻らないのは言うまでもなかった。
「とはいえ…どうするかなぁ」
ここでルージュには二つの選択肢がある。
一つは、原作通りに悟空とベジータに任せて自分は静観する。もう一つは、自分がフリーザの相手をして事態を終息させる。
だが、フリーザとの因縁を考えれば前者を選んだ方が良いのかもしれない。最後はフリーザの秘策でとんでもない事態になるが、その場合は自分が介入して阻止すればいいし、万が一失敗してもウイスの力で元に戻せる。結果だけを見れば誰も犠牲にならず、彼等の因縁に水を差さずに済む。
ここまで考えると、もう静観一択なのでは?と思い始めていたその時──。
「──は?」
思わず間の抜けた声が漏れた。
宇宙船から出てきたフリーザは、あろうことかこちらに目掛けてエネルギー弾を撃ってきたのだ。
大方、彼なりの挨拶のつもりで撃ってきたのだろう。街の人間を皆殺しにし、今頃対峙している悟飯やピッコロ達に見せしめる為に。
流石は悪の帝王。その残虐性は、あの世で幽閉されてもなお健在だったようだ。
「…あー、そういうことしちゃうのか」
フリーザは自分の存在に気付いていない。標的はあくまで街の人間達であってこちらに対する攻撃ではない。それは理解できるし、まだ許せる。
しかし、その範囲に自分も含まれているというのなら話は別だ。本人に自覚がないのは百も承知だが、そんなのは知ったことではない。巻き込んでいる以上、敵対行為と同義だ。
こうなっては二人の因縁を優先している場合ではない。ここまで好き勝手されて黙っていられるほど寛容ではないのだ。
それ故に、ルージュは後者を選択した。
「それがお前なりの挨拶なら…」
ルージュは飛来するエネルギー弾を見据えると、地面を軽く蹴った。
空中で身体をしなやかに捻り、軸足を畳むと、もう片方の脚が流れるような軌道を描く。その動きは格闘技というより、一流の競技者が放つ芸術的なフォームに近い。
腰の回転。体幹の安定。つま先まで一直線に伸びた脚。
すべてが完璧に噛み合った瞬間、ルージュの足の甲が紫色のエネルギー弾を正確に捉えた。
「こっちも返さないとなあ…ッ!」
パァン!と乾いた衝撃音が響く。
接触した瞬間に
挨拶には挨拶で返す。
幼少期から教わるごく普通の一般教養である。
「まずは一発ぶん殴る!」
手始めにあの不届者の顔に拳をぶち込む。
そう決意したルージュは、初となる本格的な原作介入を始めるのだった。
ルージュ
フリーザからの挨拶(物理)をちゃんと返した礼儀正しいサイヤ人。
フリーザ襲来時は悟空達の因縁を優先して静観する構えでいたが、悟空とフリーザの対決をこの目に焼き付けたいという下心もあった。
エネルギー弾を蹴り返す際は、自分の気を薄い膜のように覆わせて、フリーザ軍のみが巻き込まれるように爆発の威力を調整するという中々器用なことをしている。
フリーザ
あと一日待てなかった宇宙の帝王。本来であれば正史通り悟空と闘えた筈なのに、調子に乗って北の都を攻撃した結果、虎の尾を踏むことに。
殴られた際はギャグのような顔で吹っ飛んでいき、最後は犬◯家ポーズで地面に突き刺さった。
フリーザ軍の兵士
上司がやらかした所為で特に活躍することもなく消えていった名も無き兵士達。恨むなら余計なことをしたフリーザ様を恨みましょう。
親父ィ
言わずと知れた伝説の超サイヤ人の親父。MAD動画では劇中の台詞を余すことなく素材として利用され、もはや知らない台詞の方が少ない。
当然ではあるが大人のお姉さん好きという公式設定は存在しない。しかし、劇中で「ベジータ星の王などと、その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ」という有名な台詞があり、このうち「ベジータ星の王などと」の部分を逆再生すると「おとなのおねえさんいいねぇ」と聞こえることからMAD動画内では熟女好き、ハレンチな変態親父として扱われるようになった。