転生したらサイヤ人だった件   作:ウイルス・ミス

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プロローグ 下

 

ビルス達が向かった先は生物が全く住んでおらず、見渡す限り荒地が広がる小さな星だった。ポッドが不時着した場所を探すこと数分、巨大なクレーターの中心地に煙を上げて転がるポッドを発見するや否や、ビルスは眉間にしわを寄せながら真っ先に降り立った。

 

 

 

 

「こいつか。オイ!サッサと出てこいッ!」

 

「……………」

 

「出てこないとは本当にいい度胸をしているな。ウイス!無理矢理でもいいから開けろ」

 

「はーいはい。では失礼して」

 

 

 

一向に出てこないことに苛立ちを募らせるビルスを他所にウイスが前に出ると手に持っていた杖をかざす。するとポッドのハッチがまるで意思を持っているかのようにギチギチと音を鳴らしながら開き始めた。

 

 

 

 

「開きましたよビルス様………………まあ!」

 

「あ?どうした?」

 

「見て下さいビルス様。とぉーても元気な女の子ですよ」

 

「あう!わあうー!!」

 

 

 

 

ビルスが目を向けるとウイスの手には元気にはしゃぐ赤ん坊が抱き抱えられていた。ぶつかってきた無礼者が一体どんな姿をしているのかと思えば、人畜無害そうな愛らしい幼な子だったという想定外の事態に流石のビルスも目を丸くする。

ついでにやたらと慣れた様子であやす己の従者に、なんでそんなに手慣れているんだと内心ツッコンでいたりもする。

 

 

 

 

「はぁ?赤ん坊?」

 

「乗っていたのはこの子だけのようですね。それにしても愛らしいですねぇ、おーヨシヨシ」

 

「うー!あうあう!」

 

 

 

 

ウイスのあやし方がいいのか赤ん坊はニコニコと笑顔を浮かべ彼に向けてプックリとした小さな手を必死に伸ばしていた。

その様子に流石のビルスも毒気が抜かれ、さっきまで沸々と募っていた苛立ちもすっかり鎮まっていた。赤ちゃんパワーは時に破壊神の怒りすら鎮めるのである。

 

 

 

 

「ところでビルス様。まさかとは思いますが、こんなかわいい子に文句を言う訳ありませんよね?」

 

「あ…当たり前だろッ!ボクは寛大な破壊神なんだからね、子供が起こしたことぐらい大目に見るさ」

 

「うーー?あう!あーーう!!」

 

「んあ?」

 

 

 

 

ビルスの声に反応して、そのクリッとした黒い瞳を向けると彼にも興味を持ったのか、バタバタと短い両腕を必死に伸ばし始める。すると彼女の身体がぷかぷかと浮くとビルスに向かってゆっくり飛び出した。

 

 

 

 

「まあ!こんなに小さいのに既に舞空術を会得しているとは…」

 

「オ…オイ、呑気に言っている場合か!やめろ…こっちに来るんじゃない!ボクは赤ん坊のあやし方なんてわかんないんだッ!」

 

「あーう!!」

 

「のわッ!?」

 

 

 

 

ビルスの制止を振り切ると赤ん坊は彼の顔面に抱き付ついたかと思えば、笑いながら顎を蹴ったり、頬や耳を引っ張ったりと彼の顔で遊び始めた。やりたい放題にされている様子は何とも痛快で破壊神の威厳はかけらも無く、最早幼児にじゃれつかれている猫である。

 

 

 

 

「ヤメローッ!!!鼻を蹴るな!あと耳も引っ張るな!この破壊神に対してなんて無礼な奴だ」

 

「オッホホ、良いではありませんか。寛大な神様なのでしょう?」

 

「お前も笑ってないでサッサとこいつを引き剥がせ!」

 

「あきゃ!えへへ」

 

「だから顔を引っ張るなぁッ!!!こんのガキンチョめ!」

 

「うーー?」

 

 

 

 

散々顔をイジられとうとう我慢の限界に達したビルスは己の気を放出しその衝撃で無理矢理引き剥がした。勿論、最小限の気しか開放してないので彼女に怪我はない。散々顔を好き放題されてイライラしていたが、何や感や言ってそういう配慮はできていた。

 

 

 

 

「おー?あう、わあーう!」

 

「全く…これ以上付き合っていられるか。ウイス!こいつをどっかの星に送って帰るぞ」

 

「おや、あなたのことですからてっきりここに置き去りにすると思ってましたよ」

 

「フン!どうせ置いていってもこんななんも無い場所じゃ死ぬだけだしね。元々ここに落ちたのはボクが原因だし、それぐらいサービスしてやるさ」

 

「寛大な破壊神というのも強ち嘘ではないみたいですね。少し見直しました」

 

「喧しい!ほらサッサと──」

 

「うわぁーーう!!」

 

「コラッ!また来るんじゃない!早くウイスに──ッ!?」

 

「ビルス様?」

 

 

 

 

再び彼に抱き着こうする赤ん坊を払いのけろうとするが、彼の手がピタリと止まる。突然の異変に首を傾げるウイスの目には、瞳孔を開いてまるで時が止まったかのように固まるビルスが映っていた。

一方でビルスの視界には全く違う光景が映し出されていた。

 

 

 

 

(──何だ………これは?…)

 

 

 

 

それは到底信じられない、我が目を疑う光景だった。

 

どこか見覚えのない土地で己と闘う()()()()()()()()()。破壊神である自分が一切の手加減をしていないにも関わらず、赤い人影は押されるどころか互角に──否、それ以上に渡り合っていた。対して己も負けじとさらなる力を開放すると光速で畳み掛けていた。

 

一方で赤色の人影は洗練された立ち振る舞いで全ての攻撃を捌いていた。その一つ一つの動作は荒々しくもあり、同時に美しさも兼ね備えており、卓越した技量はビルスが思わず舌を巻くレベルのものだった。

 

 

───この人影は間違いなく神々(自分達)と同じステージに立っている。

 

 

ビルスがそう確信すると同時に視点は元の景色に戻る。

 

 

 

 

(…今のはまさか……"未来視"か?)

 

 

 

 

ほんの一瞬の間に見えた不可解な光景。

その正体についてビルスは未来視なのではとあたりをつける。

彼は時折、未来で起こる出来事を夢を通して見る──所謂"予知夢"を見る能力があった。しかし、今回のように夢を通さずに見るパターンは何億年という悠久の時を生きてきた彼にとって初めての体験だった。

 

 

 

 

「……あれは───()()()()()()

 

「うう?…えへへ」

 

 

 

 

余りの衝撃に思わず抱き抱えた赤ん坊にビルスは問いかけるが、当然言葉がわかる訳もなく彼女はコテンっと首を傾げニコニコと笑い声を上げる。

しかし、彼にはあの未来視で見た人影と目の前で無邪気に笑う幼な子がダブって見えて仕方が無かった。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

───こんな子供が、いずれ自分と互角以上に闘う?ただの人間が絶対的な力を持つこの破壊神に?

 

 

 

 

「…ククク──面白い」

 

 

 

 

余りにも突拍子もないことに思わず口角が上がる。

人間ごときが神に立ち向かうなど烏滸がましいにも程がある。なんと浅はかで傲慢なことか。礼儀知らずの愚か者──だが同時に見てみたくなった。その愚か者が為す人間の可能性というのを。

 

 

 

 

「さっきからどうしたんですか?急にニヤけだして気持ちが悪いですよ」

 

「ウイス!こいつは僕らで面倒をみる!」

 

 

 

 

だからこそ、自分達が目の届く環境で彼女を育てることにした。

生意気な人間が織りなす軌跡をこの目で見届ける為に。

 

 

 

 

「…は?いきなり何を言っているんですか。ペットじゃないんですよ?」

 

「見たんだよ…」

 

「何をですか?」

 

「未来でこいつがボクと互角以上に闘うところを!」

 

「予知夢の次は未来視ですか。それ程的中率は高くないでしょうに…単なる幻覚ではないのですか?」

 

「幻覚じゃない!あれはきっと遠い未来で起こることなんだ。なあ、お前もそう思うだろう?」

 

「うぁーう!」

 

「ほぉらな」

 

「いや絶対意味わかっていませんよ。ハァ…わかりました。では直ぐに帰宅しましょう。色々と準備しなければいけませんし」

 

「よし!───あっそうだ」

 

 

 

 

先程までの嫌がる態度はどこへやら、上機嫌に赤ん坊を抱えるとウイスの肩に捕まり彼の高速飛行で帰還しようとする。と、その時ビルスが唐突に待ったをかけた。

 

 

 

「今度はなんですか?」

 

「いつまでもお前とかこいつとか呼ぶのは不便だし名前を付けてやろう」

 

「ほう…名付けですか。まさかあのビルス様が子供に名前を付ける日が来るとは……私、ちょっと感動しております」

 

「『あの』とはなんだ!一言余計なんだよ、全く。───さて、お前の名は………………」

 

 

 

 

これまでの長い長い人生…いや神生において初の名付けの為に思案するビルス。しかし、待てども待てども一向に決まらず、赤ん坊を抱えたままウイスの周りをぐるぐると歩き回るだけで時間だけが無駄に過ぎていった。

いつまで経っても名前が決まらない彼の様子に痺れを切らして眉をひそめたウイスが口を開く。

 

 

 

 

「いい加減決めて下さい。いつまで待たせるつもりですか?」

 

「しょ…しょうがないだろ。名付けなんて今まで一度もしたことが無いんだから」

 

「どうしても決まらないのでしたら私が代わりに付けて差し上げますが…」

 

「いいや、こいつはボクが名付ける!……何か…何か無いのか………クソッ!全然思い付かん…」

 

「ハァ…それなら私達の星に帰ってから考えましょう。時間を無駄にし過ぎですよ」

 

「だーーーもうッ!わかったよ。名前は帰った後に……いや待てよ?…星……星………ッ!そうだ、星だ!」

 

 

 

 

ウイスの提案を一蹴し、意固地なって目間に皺を寄せながら必死に思案するも一向に名前が決まらず頭を抱えるビルスだったが、彼が口にした"星"という単語を聞いた瞬間、彼の脳裏に一筋の名案が閃いた。

 

 

 

 

「ウイス、この星の名前は何という?」

 

「少々お待ちを……………どうやら人間達の間では『惑星エルタージュ』と呼ばれているようですねぇ」

 

「エルタージュか。ンー………………………よぉしッ!決めたぞ」

 

「わうあーう?」

 

 

 

 

星の名前をヒントにようやく納得がいく名前を思い付いたビルス。その様子を不思議そうに見上げる幼な子を、彼はニヤリと口角を上げながら高らかに抱き上げると、彼女のその真新しい魂に刻み付けるように告げる。

 

 

 

 

「今日からお前の名は()()()()だ!この破壊神ビルス様が直々に名付けてやったんだ。精々、ボクの期待を裏切らないでくれよ?」

 

「えへへ…あうわう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひょんなことから破壊神の元で育てられることになったルージュと名付けられた幼いサイヤ人。これはそんな彼女が描く原作(正史)とは少し異なる歴史を辿った、有り得たかもしれないIFの物語である。

 

 

 

 

 

 

 

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