エイジ778年───
星々が巡る広大な宇宙の果てに浮かぶ、逆さにしたピラミッドのような物体上に巨大な宮殿がそびえ立つ一風変わった惑星──ビルス星では、ここ数十年間続いていた静寂を破るかのように巨大な爆発音が響いていた。
「………」
爆発の発生地は宮殿内のとある一室からであり、もくもくと大量の煙が部屋の入口から流れ出ていた。
煙が蔓延する中、コツンコツンっと音を立てながら部屋へ続く螺旋状の階段を無言で登って行く一人の男性。
「………」
彼は心なしか呆れたような表情を浮かべながら慣れた様子で部屋の中に入っていく。
そのまま足を進めると彼の視界には室内をぷかぷかと浮かぶ複数個の巨大な砂時計が映る。
今も尚時計の中でサラサラと美しい砂が落ちていく様はどこか幻想的な光景だが、特に気にした素振りを見せずに砂時計に紛れて浮かぶ主人が眠るベッドに向かって呼びかける。
「起きて下さい、
「……」
主人の特徴である長い猫耳がピクッと動くが、起きる気配がまるでなく時間だけが過ぎいく。そんな主人に彼は眉を挟ませながら再び呼びかける。
「二度寝はいけませんね。目覚まし爆弾をこの時代にセットしたのはあなたですよ。早く起きないと予備の目覚ましが──」
部屋中に浮かぶ砂時計──もとい、目覚まし爆弾が彼の口を遮るように大爆発を起こすと衝撃で近くの爆弾も起爆し連鎖爆破が起きる。
追加の爆発で大量の煙が立ちこもる中、彼の主人がようやく反応する。
「…わかってるよぉーー……」
「………はぁ…」
わかっていると言いながらそれでも起き上がろうとしない。
寝坊助な自分の主に対して思わずため息をついてしまう。
このままだといつまで経っても起きることはない。そう判断した彼は
「どうしても起きないのでしたら……」
「………」
「
「絶ッ対にやめろぉぉーーーッ!!??」
彼の主──ビルスは今までの態度が嘘のように飛び起きる。
すると酷く焦った様子で自分の従者に人差し指を向けながら声を張り上げた。
「いいか
「オホホ、ビルス様が素直に起きないのがいけないんですよ」
ビルスの従者──ウイスはどこ吹く風で主人の慌てようにしてやったりとした顔を浮かべるのだった。
この日、第七宇宙において最も恐れられている存在、破壊神ビルスは三十九年間の眠りから目覚めた。
これを皮切りに物語の歯車は少しずつ動き出すこととなる。
「ところでウイス、ボクが眠っている間に何か大きな出来事ってあったかな?」
宮殿の一室である食堂にて、ウイスが用意した豪勢な食事を摂りながらビルスはふと思い出したような表情で彼に尋ねた。
「ああ…それでしたらビルス様、一つご報告が」
「なんだ?」
「サイヤ人の母星、惑星ベジータがフリーザの手によって破壊されましたよ」
「え、そうなの?全くフリーザめ…
かつて惑星サダラが滅び、宇宙船で脱出したサイヤ人は惑星プラントと呼ばれる星に辿り着き、数百年の間に異常進化と繁殖を繰り返した後、惑星を乗っ取る為に原住民と戦争を起こした。
長い戦いの末、原住民は滅亡しサイヤ人は惑星プラントを完全に手中に収めた。その後惑星ベジータと名を変え、戦争を指揮した男──ベジータ王を頂点とする専制君主国家が打ち立てられることとなった。
以降は宇宙の帝王──フリーザの配下として活動し、他の星に住む住民を絶滅させては、乗っ取った星を他の異星人に商品として高額な値段で売り渡すことで文明や金銭を得ていた。
しかし徐々にフリーザに対して反感を強めていたところを、元々サイヤ人を危険視し、伝説の超サイヤ人の出現を恐れていたフリーザが惑星ベジータを破壊。
サイヤ人も星と共に消滅し、母星を離れていた僅かなサイヤ人が生き残る形となったのだ。
「あの星の連中はどいつもこいつもろくでなしばかりだったけど、ルージュのこともあるから見逃してあげてたんだけどねぇ」
破壊神の立場からすると悪行を重ねるサイヤ人は破壊の対象になるが、同じサイヤ人であるルージュという自分を楽しませてくれる強者がいるのもまた事実。そういう理由からビルスはサイヤ人のことを大目に見ていた。
「フリーザは便利な奴だったけど、そろそろあいつも破壊しちゃおっかなー」
「それには及びません。彼はもう倒されましたから」
「ん!?あのフリーザが倒された!?誰があいつを……まさかルージュじゃないよな?」
「ルージュさんはビルス様の言いつけをちゃんと守ってますよ。元より彼女はフリーザと関わるつもりがなかったようですし」
悪逆の限りを尽くし、星を破壊するフリーザも本来なら破壊するべきだが、ビルスは彼のことを自分の変わりに破壊してくれる便利な使いっ走りと考え、彼をあえて放置していた。
ルージュにも手出し無用と伝えていたが、何らかの切っ掛けで彼女がフリーザを倒してしまったのではとビルスは疑ってしまうが、ウイス曰く真実は違うらしい。
「あいつじゃないなら誰がフリーザを倒した?」
「彼女と同じサイヤ人ですよ。名前は
「…ほう、サイヤ人か。面白いねぇ」
フリーザを倒したのがサイヤ人だと聞いたビルスは何処か納得した様子で不敵な笑みを浮かべる。
するとウイスの能力で彼の持つ杖から当時の映像が映し出された。そこには最終形態となったフリーザとすっかり見慣れた逆立った金髪と黄金のオーラを纏う男が熾烈な戦いを繰り広げており、最強と恐れられていたフリーザを圧倒していた。
「超サイヤ人か…。子供の頃のルージュを思い出すな」
「どうやら孫悟空を含め五人のサイヤ人が超サイヤ人に目覚めているようです」
「へぇー…じゃあそいつらなら知っているかもね」
「何をです?」
「
今から三十九年前、ビルスは超サイヤ人ゴッドと自分が戦う夢を見た。さらに同時期にこの星に住む予言魚から三十九年後に強敵が現れると予言され、これを聞いた彼はこの時代まで眠りについていた。
因みに以前はルージュに気を遣って五年周期で眠っていたが、後にある事実を知ったビルスは眠る期間を十五年に増やしていた。
ところがいつもはビルスが眠る時が来ると残念そうな様子を見せるルージュが予知夢と予言のことを聞かされた瞬間、どうぞ三十九年寝てくれと態度を一変させ、半ば押される形で眠っていたという経緯がある。
「予言魚の予言とボクの予知夢。間違いなく現れる筈なんだ、超サイヤ人ゴッドがね!」
「随分大袈裟なネーミングですねぇ、そもそもルージュさん以外に強敵と呼べる者がいるとは考えにくいのですが…」
「まあ、確かに強敵というのは大袈裟かもしれないが、あいつ以外にも強者がいるのなら見てみたいじゃないか」
今やルージュの実力はビルスとウイスが太鼓判を押すレベルに成長した。
しかしその域に到達したのは類稀な努力と才能、そして長い時間があってのもの。その彼女と並び立つ程の実力者が突然現れるとはウイスは考えられなかった。
ビルスもそれはわかっているがルージュという前例がある以上、予言された人物にどれ程の実力があるのか興味が尽きなかった。
「だからウイス、その五人のサイヤ人がいる星に行くぞ。そいつらなら何か知っている筈だからね」
「それはいいのですが…超サイヤ人ゴッドでしたらルージュさんに可能性があるのでは?」
「いや、あいつは今回の件とは無関係だ。ルージュのことは既に未来視で見ているし、予知夢で見た奴は完全に別人だったよ」
「…なるほど」
「そう言えば、ルージュはどこだ?いつもはボクが起きれば直ぐ駆けつけて来るのにさっきから一度も見てないけど」
「彼女でしたら
一方でビルス星から遥か遠くの彼方に存在する地表が金属で覆われた機械生命体が住む星───惑星M2には一人の来訪者がいた。
「なあ、悪いけど引いてくれないか?」
この星に住む生命体は全ギャラクシー征服を目論む宇宙の天才科学者──ドクター・ミューによって生み出されマシンミュータントと呼ばれている。
惑星M2は彼等の本拠地であり宇宙征服を掲げるだけあってその戦闘力は非常に高い。
しかし突然現れた来訪者の手によって今は至る所に彼等の残骸が転がっていた。
「あたしは別にこの星を攻めに来たわけじゃないんだよ」
襲ってきたマシンミュータントを意図も容易く無力化し、うんざりとした様子で話す来訪者。その姿は凛々しい顔付きに
「あたしは
「フフフ…それはできない相談だな」
女性に対し不敵な笑みを浮かべる大男はドクター・ミューによって肉体改造を加えられ誕生した最強のマシンミュータントでこの惑星M2の総指揮官を務めている。その名をリルド将軍。
彼は部下のメガキャノン部隊と合体することでハイパーメガリルドに強化変身できる能力があるが、今はさらなる変身のメタルリルドに変身しており身体が液体金属になっている。
その戦闘力は
「貴様のその尻尾…サイヤ人だな?それにその力…。貴様の身体はまさに
「あたしの身体はあたしだけのものだ。他の誰かにくれてやるつもりはない…これが最終通告だ。この星の元締め、ドクター・ミューを出せ」
「応じないと言っている!」
「……そうか」
全く話しに応じないリルドに彼女はやれやれと呆れた様子で軽くため息を吐く。既に戦闘態勢に入っている彼を前に焦る素振りも見せず、変わらぬ口調で告げた。
「ならば…容赦はしない」
彼女の身体から
魔人ブウ以上の力を持つリルドに対し女性は怖気付くこともなく、それどころか彼を何の脅威とも認識していなかった。
その美しい碧眼には絶対の自信で満ち溢れており、自分が負けるとは毛頭思ってない。
それもその筈、彼女こそ破壊神の元で長きに渡る修業で逞しく成長し絶大な力を身に付けたサイヤ人──ルージュなのだから。
「死なない程度に痛めつけてやるよ、ツルピカ野郎」
「ほざけぇーッ!!」
今この時、