誹謗中傷ってなんでなくなんねえんだろうな。
平日の午後、今日は普通に学校のある日なのだが……東京ブレイドの収録があるので、お昼頃に早退することになった。
そういえば、最近は今ガチを観てないなと思って移動中の電車の中で観てみる事にした。そういえば今日の夕方頃に新しいのが更新されるし、今のうちに観てしまおう。
「ゆきさん凄いなぁ。完全にこの番組の主役と化している。兄貴はこのまま安全圏でやり過ごすきか?」
ま、仕事だからガチで恋愛する気はないってこの前家で言ってたしな。観る側の人達がどう思うかだけど、じゃあ何でこんな仕事なんか受けたんだろう。本当に兄貴の行動は先が読めないし、何を考えているのかも分からない。
そして、この番組内で唯一目立っていない人物がいる、それは黒川あかねさんだ。役者みたいだけど、そもそも恋リアには台本がないらしい。自分の中にキャラがあれば別だが、カメラの前で自然体の自分を出すって結構大変だろう。
それに声からも、焦りと不安。自分はどうすれば良いのだろうか……そう言った感情が随所に感じて取れる。
焼肉屋で会った感じだと誠実で真面目そうな人だし、裏でスタッフさんとかにアドバイス貰ってそうだな。そのアドバイスが良い方に進むか悪い方に進むかは黒川さん次第なのだろう。
「黒川さん、暴発しなきゃ良いけど……っと、もう到着か」
ガチ恋を観終わった頃には、スタジオがある最寄駅の市ヶ谷駅に到着していた。兄貴達も心配だが、今は僕の仕事に集中集中! 良い演技をして、劇場版を楽しみにしている人たちのために今日もお仕事、頑張りますか。
僕は急いで駅から出て、スタジオまで歩いて向かった。健康とお金のためにタクシーなどは使わず歩きで十分だ。
「監督さん、こんにちは!」
「充瑠くん、今日も元気があって良いね。結構結構!」
「頑張って映画完成させたいですからね。映画は僕もすごーく楽しみにしてますし」
「あ、充瑠くん。こんにちは」
「石見さん! 本日もよろしくお願いします!」
「内山さんと潘さんももう直ぐ来るって、今日も頑張ろうね!」
「はい!」
こうして数十分後に内山さんと潘さんがスタジオ入りして、アフレコスタート。今作の映画も原作の名シーンを沢山やるので誠心誠意、心を込めて刀鬼を演じた。
僕がもしも何かのインタビューで、自分の中で演じたキャラの中で1番印象に残ってるキャラは? と聞かれたら、真っ先に刀鬼って言うな。初めてのメインキャラってのもあるし。因みに漫画で1番の推しキャラはつるぎです。
特に鞘姫が蘇って、その喜びで涙するシーンは本当に好きだった。そのシーンを演じ切った瞬間は、僕の中では宝物だと思っている。
「鞘姫様の為に……この命尽きるまで……」
「刀鬼、あまり無理しないでね」
「つるぎか、お前に言われるまでもない」
楽しい! キャラクターに命を吹き込むこの瞬間が、楽しい! 僕は母さんに誓う。アニメが大好きな皆に笑顔を届けられるような声優になるって。そうすれば、天国の母さんも喜んでくれるはずだ。
「星野くん、一発OK! そしてこれにてオールアップです!」
「ふぅ……終わった……」
「お疲れ様、充瑠くん! よくやった〜!」
「あ、ありがとうございます、潘さん。いや〜大変だった……」
「お疲れ。1期の時からかなり成長したな」
「内山さんのアドバイスもあってこそでした。僕、これからももっと自分に磨きをかけます!」
「その調子だよ! 私ももう直ぐでアップだから。しっかり見ててね!」
「はい! 石見さん!」
こうして長くにわたって行われた東京ブレイドの収録は全キャストのアフレコが終了した。大変だったけど、オールアップした瞬間が達成感がある。
「ほら、星野くんの好きなクリームソーダ」
「え? あ、ありがとうございます」
ブレイド役の内山さんから好物のクリームソーダをご馳走してもらった。この人が演じたキャラのどれも好きなんだけど、初対面の時は雰囲気が怖かったんだけど、めっちゃ優しい人だったし、面倒見のいいお兄さんでした。
「そう言えば星野くん。東京ブレイドが近々舞台化するんだって。さっきスタッフさんが話してるのコッソリ聞いちゃった」
ここでまなてぃこと石見さんの口からまさかの情報が!? ナニソレ初耳学なんですけど。
「そうなんですか! いやぁ〜遂に舞台になるまで来たんですね。僕の刀鬼は誰がやるんだろうか……」
「大変! 大変だよ、充瑠くん!」
クリームソーダを飲みながら2人と話していると、潘さんが大慌てで僕らのところにやって来た。こんなに慌ててる潘さんは初めて見たので、一体何があったんだろう。
「君のお兄さん、今は恋リアに出てるって前に言ってたよね?」
「はい、今ガチって番組ですね。その番組が何かあったんですか?」
「実は……さっきまでTwitterを見てたら、その番組が炎上してるの!」
「何!? 一体何が……」
僕は大慌てでTwitterを開き、今ガチ関連の検索ワードを調べた。案の定、僕の悪い予感が的中してしまった。
ネットでは黒川さんに対する憎悪と批判のコメントが溢れていた。どうやら、映像の中に黒川さんがゆきさんに怪我をさせたシーンが放送され、それがソースとなって今の炎上へと繋がっているようだった。
「マジか……。何で燃えるって分かってて、この映像使うんだ!」
ここの現場の奴らは正気なのか? 見せ物になれば何でも良いと思ったら大間違いだぞ。
「そう言えば、恋リアで炎上して自殺したってケース、私聞いたことあります。この黒川さんって人、まだ高校生なのに……心配ですね」
「その娘。見た感じ批判に耐性が無さそうに見えるな。これは心にかなり来るだろうね」
「僕の兄は、演者同士は世代が近いから仲が良いって聞きましたよ」
「掲示板も黒川さんのことで沢山書かれてるよ」
潘さんは次に、いかにも2ちゃんねるみたいな掲示板を見せてくれた。こりゃ取り返しのつかない事になってんな。
おそらく傷つけられた側のゆきさんは許してるんだと思うが、見ていたネットが許さなかったのだろう。
そして石見さんが自殺のケースに関して言ってたけど、恋リアは世界各国で50人近くの自殺者を出しているらしい。
恋愛リアリティーショー恐ろしすぎるだろ。なんか恋リアに対する見方が変わってきちゃった。
「次の撮影まで、周りの目やネットを気にしながら学校生活をしなきゃいかないなんて、想像しただけでキツそうですね」
「リアリティーショーは自分を曝け出す番組だからな。叩かれるのは作品じゃなくて自分。そりゃキツいよな」
僕が好きなヒーローが言っていたある台詞を思い出した。正義のためなら人間は何処までも残酷になれる……今の現状がまさにネットにいる奴らだ。
何も知らないくせに、自分の勝手な憶測や正義を振り翳し、イキってる奴らは見ていて本当に気持ちが悪い。
誹謗中傷は、辞めようと呼びかけても永遠に無くならない。まさに厄介以外の何者でもない概念だ。
「充瑠くん、もし君が同じ状況になったら耐えられる?」
「まぁ僕は大丈夫ですよ。ただの文字だけの人達に何言われても、冷静に対処して行きたいですね。そもそも僕に罵詈雑言は効きません」
「無敵だね、充瑠くんは」
ま、僕のこと好き勝手言ってみてください。僕への悪口は良いけど、家族や友人のこと馬鹿にしたらそん時は許さんぞ。
おっと、ついつい長話をしてしまった。黒川さんのことは心配だが、今後どうするかは彼女と兄貴達、そして番組側の行動に賭かっている。今の僕には、ただ見ることしか出来ない。
数分後にスタジオを出て、石見さんと電車に乗って帰る事にした。
数十分後、石見さんが乗り換えのため電車から降りたので、今度会うときは舞台挨拶かな? 劇場公開が楽しみだ。
「じゃあね、星野くん。天気予報だと明日か明後日かで台風が接近してるみたいだから、気を付けてね」
「はい! 石見さんも気を付けてくださいね!」
この時期にしては珍しいな……台風って。だいたい8月か9月が多いイメージだけど。
こうして僕は、台風と今ガチの行く末を心配しながら苺プロへと帰宅したのであった。
最後まで読んだ人へ、何と原作キャラ出ませんでした(次回は流石に出す)