今回はJIFの特訓回になります
「充瑠。キャッチボールしないか?」
「急に何だ? 兄貴」
とある休日の昼下がり。事務所で漫画を読みながらソファで横になっていると、兄貴から急にキャッチボールに誘われた。
「いや、偶には良いだろうなと思って。それに……こんなに良い天気だし、外出て身体動かさないと勿体無いだろ?」
「別に僕は良いよ。じゃあグローブとボール持って来るから、近くの河川敷でな」
「ああ。外で待ってる」
物置からグローブ2つと野球ボールを持って、兄貴とボールを投げても平気な広さの河川敷へとやって来た。
グローブを手渡し、ボールを投げ合いながら兄貴と会話をする。これぞリアル会話のキャッチボールってか? すみません、なんでもありませ。
「にしても、何で急にキャッチボール? 珍しいな」
「お前と話がしたかったんだ。最近、有馬とはどうだ?」
「どうって、別になんともなく普通に仲良いけど。そっちこそ、黒川さんとはどうなんだよっと!」
「撮影が終わってから会ってない。それに只の仕事相手だし、ガチ彼女じゃないのは前にも言っただろ!」
兄貴、良い球投げるなぁ。仕事相手ねぇ……黒川さんは完全に兄貴を意識してそうだけどね。にしても、何で有馬さんとの近況を聞いて来たんだ? 謎ですな。
「充瑠は、昔のことを思い出したいって思った事はあるか?」
「昔のこと……か……出来るなら思い出したい。有馬さんと高校で初めて会った時からそう思った事はあったよ。でもちょっと怖いかも。もしその記憶の中に怖いものがあったらって思うと頭が痛くなるんだ」
「そうか……」
僕には幼い頃の記憶がパズルのピースのように、欠けている部分が多々ある。
何故かは兄貴たちは言ってくれないけど、いつかは思い出せるだろう。そう自分に言い聞かせながら今までずっと生きて来た。
この僕が、有馬さんの人生にどんな影響を与えた存在なのか……気になってしょうがないのだ。
でも、僕の心にある微かな恐怖心がそうさせてくれない。この先を知ったら後戻りができなくなるんじゃないかってくらい。
「話は変わるが、近々JIFがあるのは知ってるか?」
「たしかジャパンアイドルフェスだっけ? 確か今ガチで世話になったプロデューサーがコネあって、ねじ込んでくれたっとかメムさんが言ってたな」
姉ちゃんが最近、「初ライブがいきなり大舞台で出来るなんてめっちゃ楽しみー!」とか子供みたいにはしゃいでたな。
確か来月あたりにやるとかなんとかミヤコさんからも聞いたし、今はセンターは誰がやるかとか話し合ったりもしたんだとか有馬さん言ってたっけ。
「そうだ。そのJIFなんだが、充瑠に頼みたい事があるんだ」
「僕に? 出来る事なら協力するよ!」
「JIFまでの期間、アイツらの特訓指導をしてくれないか」
「僕が……?」
「充瑠は体力作りの基礎知識もあるし、発声練習なんかもお手の者だろ? それを見込んでの頼みだ。ダンスはルビーが何とかするだろ」
姉ちゃんたちの初の大舞台を成功に導く手伝いか……ちょうど暫く仕事がないから付きっきりで見てやれるな。
「分かった。特訓メニューはぴえヨンに頼んでみるよ。あの人の方が配分もちゃんと考えられるだろうし」
「すまないな。充瑠、アイツらを頼んだ」
「分かった。でも……僕に頼んだ以上、ひとつだけ条件がある」
「何だ?」
「僕にオタ芸を教えてください!」
「ああ、その代わり厳しいぞ」
こうして兄貴との話は纏まり、早速ミヤコさんのところに行き、姉ちゃん達の特訓に付き添いを頼みに行った。
「分かったわ。貴方もルビー達のために何かしてあげたいって前に言ってたものね。あっちもあっちで話が纏まったみたいだし、着いて来なさい」
JIFが終わったら、盛大に打ち上げしたいな。あっそうだ! この前の打ち上げでぶち抜いた金沢旅行を餌にやる気をあげさせるのもひとつの手ではあるが……サプライズで残すことも考えとくか。
ミヤコさんに苺プロのミーティング室に連れられ、姉ちゃん達の指導役として部屋に入れられた。
「じゅうくんが私たちの練習見てくれるの!?」
「ああ、そうだ。僕に出来ることがしたくてな。ジーッとしててもどうにもならないってやつよ!」
「充瑠が付いてくれると何だか心強いかもね。ライブまでよろしく!」
「さっきハワイにいるぴえヨンから、練習メニューのデータを送ってもらったから、その通りにやりたいと思います」
「あのぴえヨンさんから!? あの人って前職はプロダンサーだったし、アイドルの振付師もしてたって動画で見たことある!」
へぇ〜そうなんだ、メムさん詳しいですね。あの人ってそんな事もしてたんだ。ヒヨコの覆面も含めて謎多き人物である。
「話はここまでにして……早速始めるぞ。先ずは基礎体力向上って事で走り込みだ! 着いて来な、お前ら!」
「じゅうくんがいつもと違う熱血くんになっちゃった!」
「これは完全に過去に演じた熱血キャラに没入してるわね。謎に真っ赤に燃える炎のオーラが見えなくもない気がしなくもないわ」
「有馬ちゃん、それどっちなの!?」
こうしてJIFまでの道のりという名の合宿の日々が幕を開けた。
先ずは最初に走り込みをするのだが、身体を動かす前に重要なストレッチから始める。怪我を防止するために大事だから、基本として覚えておこう。
「イタイイタイ! 有馬ちゃん、流石にキツいよ!」
「もっといけるんじゃない?」
「無理無理無理無理! あーっ!!!」
有馬さんに背中を押されて、メムさんの悲痛な叫びが晴天の青空に響き渡る。めっちゃバキバキいってて心配になって来たが、毎日続ければ柔らかくなるし、今は我慢してくだせぇ。
「姉ちゃんは余裕そうだね」
「お風呂上がりにストレッチは良くやってたからね。余裕余裕!」
姉ちゃんは心配ないな。有馬さんも普通にできてたし、ダンスをする為には体を柔らかくしなきゃいけない。
「有馬さん、チェンジで。僕がメムさんの背中を押します」
「分かったわ」
「メムさん、もう一回だけやりましょう」
「じゅうたん。な、何か良い方法でもあるの?」
「先ずは息を大きく吸ってからゆっくり吐いてください」
「スー……ハー……! で、出来た! 少しだけど、前に出るようになったよ!」
「凄いわね。さっきまで微動だにしなかったのに」
「毎日続ければ柔らかくなるので、継続してやりましょう。それじゃあストレッチはこれぐらいにして次はダッシュです!」
次のメニューは坂道10本ダッシュだ。なんかこうして姉ちゃん達の特訓をしてると、リアルアイドル育成ゲームやってる感覚になって来たな。
「有馬さん、結構体力ありますね」
「役者に大事な基本要素だから、これくらいは当然よ」
「キッツぅ〜!」
「2人とも……待って〜!」
「頑張って! これを乗り越えて、ステージの見にくる皆に最高のパフォーマンスを届ける為に!」
走り込みの後に、ダンスレッスンや発声練習など……出来る限りの協力を心掛けた。時々兄貴に様子を聞かれたり、休暇中もハワイにいるぴえヨンに通信でアドバイスをもらいながら、特訓の日々が続いた。
3人とも、キツいながらもちゃんと着いて来てくれているのを見た僕は、絶対に初ライブを成功させて、姉ちゃんの夢を叶えさせたいという想いが膨らんでいった。
「今日はここまで。お疲れ様!」
「じゅうくん、本当にありがとね。普段は声優業とかで忙しいのに」
「ちゃんとスケジュールも調整してもらってるし、監督からも別撮りでアフレコOKしてくれてるから無問題ラ!」
「本当に頼もしいわね。アンタの弟」
「じゅうたんのおかげで、柔軟も少しだけ出来るようになったし、凄く助かってるよ。ありがとね!」
「メムさん、お礼はステージが成功したら言ってくださいよ」
「それもそうだね」
JIF開催まで直ぐそこまで迫っている。それまでに何とか形にして、B小町を最高で最強のアイドルグループとして、皆の記憶に残るような……そんな存在になれるように導いてみせる。
母さん、天国で見ててね。姉ちゃん達の初ステージを。
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