星野家弟は幸せな未来を望んでいる   作:通りすがりの邪教徒

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ちょっと過去話


有馬かなの想い

 

 私の名前は有馬かな。

 

 小さい頃は天才と呼ばれ、皆がちやほやしてくれた。でも、今はネットでオワコン子役と呼ばれている。

 小学生辺りでどうやら終わってしまった私だけど、地道にこの業界にしがみついて、今では何故か苺プロでアイドルをやっている。

 

 近々、ジャパンアイドルフェスというライブに出る為に今日も今日とて、アクアとルビーの弟である星野充瑠の付きっきりの指導で、厳しいトレーニングを乗り越えている。

 

 星野充瑠と初めて会ったのは、私が4歳、彼が3歳の頃だ。初めて会った時は、私のことをかなちゃんって呼んでくれてたんだけど、再会した時は私のことを忘れてしまってたみたいで、有馬さんと呼ばれてしまっている。

 

 出会った当時の印象としては上の兄妹よりは礼儀正しかったし、今だってアクアとルビーには歳上扱いされないけど、彼だけは私の事をちゃんと敬語も使って先輩として扱ってくれている。アクアとルビーには弟の態度を見習って欲しいものだ。

 

 アイツにだったら、昔みたいにかなちゃんと呼ばれたい。なんなら呼び捨てでも構わないと思ってる。

 

 正直、再会した時に忘れられてた時はショックだったけど、彼の記憶に関してはアクアと再会して、監督のところまで追っかけて行った時に聞いた。

 

 どうやら彼に何らかのショッキングな出来事が起きて、その影響で生きる気力を無くし、命の危険になる程までに食事も喉を通らずやつれていく彼を見たミヤコ社長が、精神科医にて、催眠療法によって一部の記憶を封印したのだという。

 

 それをアクアから聞いた時は衝撃的で言葉が出なかった。まさか……しばらく会わないうちに、彼の身にそのような事が起きていたなんて。

 

 それでも彼自身は頑張って私の事を思い出したがってくれていた。

 

 充瑠がそう言うのなら、私の事を思い出すまで何度でもアタックしてやる。そう決意し、お互いの時間が空いてる時はいつも何処かへ遊びに連れ回している。

 

 私にとって彼の存在は、この業界で生きる意味をくれた人。それ以外の何者でも無い。

 

 私が初めてアクアと共演した映画で、アイツとの格の差を見せつけられ心が折れた私は、子役なんて……芸能界なんて辞めてやる。そう思っていた時に彼がサイン色紙を持ってやって来た。

 

 私はその当時、彼を突き放すような態度で接したのに、それに全く動じる事なく真剣に私の話を聞いてくれた。

 

 そして彼はもしも悲しくて苦しいと思った時に、僕の顔とこの言葉を思い出して欲しいと言ってくれた。

 

「たとえ君を見てくれる人がいなくなっちゃっても、ぼくが君をずっと応援するよ。かなちゃんは1人じゃ無いよ」

 

 これを胸に、私は現在に至るまで、売れないながらもこの業界に必死にしがみついて来た。充瑠が私を見てくれているかもしれない……そう信じて、必死に争い続けた。

 

 だが、そんな彼は肝心な記憶を失ってしまっていた。再会した時は嬉しいし事情を知ったとはいえ、やっぱり……忘れられるのって悲しいなぁ。

 

「はぁ……」

「何黄昏てるんですか?」

「充瑠」

 

 今日のトレーニングが終わって、私が事務所の外で夜空を見上げていると、充瑠が私のところにやって来た。心配して来てくれたのかな?

 

「別に……何でも無いわよ」

「アイドルになった事、後悔してます?」

「自分で決めた事だし、後悔とかは……。でも、私には向いて無いって思う。全然アイドルやれる気がしないし、センターなんてもってのほか……」

「センターですか……。確かに、グループの顔みたいなこともありますし、大変そうですもんね」

「そうでしょ? 私なんかがいるべきポジションじゃ無いのよ」

 

 そう……私みたいなチョロくて流されやすくて捻くれた女がセンターやったって、誰も見てくれやしない。

 

「言わないで……ください」

「え?」

「私なんかって……言わないでください。僕は有馬さんのこと凄いって思ってます!」

「そうやって、アンタも適当なこと言って……チョロそうな女だと思って私を落とそうとする気? 私の何を知ってるの?」

 

 私の事を忘れてるアンタが今までの私の何を知ってるんだ。ついカッとなって思っても無い事を言ってしまった。

 これには私も彼にキツく当たってしまた事を申し訳なく思った。

 

「確かに、僕は昔の有馬さんの事をあまり知りません。でも僕は、有馬さんが毎日演技の稽古や発声練習を裏で欠かさずやっている努力の人だって事を知ってます。自分よりも自分が出た作品が評価されて嬉しいって思うのも知ってます。あっ、あとピーマン苦手ですよね? これは、僕が今見た……僕が知ってる有馬さんです」

 

 えっ……私の事めちゃくちゃ見てくれてる。充瑠が? 嬉しい……。

 アンタにしては深いところ突いてくるじゃない……やっぱり私は、彼のこう言う所にも惹かれたのかもしれないな。

 

「大丈夫ですよ。例え、有馬さんを見る人がいなくなっても、僕がずっと応援します。有馬さんはもうひとりじゃないんですから」

「ッ!? アンタ……その言葉……」

「どうかしました?」

「いや、何も!」

 

 あの時と同じだ。私はまた、この言葉で救われるのだろうか? 彼は思い出してないみたいだけど、その言葉だけで何だか頑張れそうな気がしてきた。

 

「ねぇ、充瑠。アンタは私の事を見捨てない?」

「見捨てるも何も、有馬さんは僕にとって大事な人です。そんなこと死んでもしませんよ」

 

 ねぇ! これ遠回しに告白してない!? 顔が何だか熱くなって来た。充瑠も充瑠で、気恥ずかしそうに顔を赤くしているし。

 これってもしかして脈アリなのでは? でも、先走ってはいけない。落ち着け! 有馬かな。

 

「そ、そういえば……何で私がピーマン苦手なこと知ってるの?」

「有馬さんとご飯食べにいく時、お皿にピーマン出て来たら必ず避けてましたもんね。あと『ピーマン体操』って曲が店内で流れた時なんて、身体が震えてましたもんね。何でだろうって調べた時には、そう言うことかって思いました」

「もしかして、私が『ピーマン体操』やってる動画観た!?」

「すみません、観ちゃいました。でも……気にしてたっぽかったので、観たことずっと黙ってたんですよ! 嫌な思い出は皆忘れたいですもんね!」

 

 私のために気を遣ってくれてたのね。でも、私の黒歴史の一部を充瑠に観られちゃって恥ずかしさで沸騰しそう。

 

「有馬ちゃーん! ちょっとだけ良いかな?」

「わ、分かったわ。充瑠も来る?」

「いや、僕はまだここに居ますよ」

 

 充瑠と話をしていた私は、途中からメムに呼ばれてライブに向けてのミーティングに参加させられた。

 

「有馬ちゃん、じゅうたんと物凄く仲良しさんなんだね〜」

「まぁね。昔は天使みたいに可愛かったけど、今じゃ立派なオタクくんに育っちゃって……」

「え? 昔からの付き合いなの?」

「まぁ、今年になってから再会したんだけど、アイツは私の事忘れてたし」

「そうなんだ。それはショックだね」

「ま、アイツにも色々あるのよ」

 

 ベランダで何か動画を見て笑っている充瑠を見ながらメムにそう言う。

 

「へ〜……ふぅ〜ん……」

「な、何よ!」

「いや〜、別に〜!」

 

 メムのやつ、何でニヤニヤしてるの? もしかして、私が充瑠対する気持ちに勘づかれちゃったのか? その確率は高そう。

 私、そんな直ぐに顔に出てたの? だとしたら何か嫌だなぁ〜。

 

「2人して何の話してるの?」

「いやね、有馬ちゃんがじゅうたんのこと気になってるんだって〜」

「先輩、そうなの!?」

「そ、そんなこと一言も言ってないんだけど!?」

「そっかそっか……先輩、じゅうくんのことが……」

「ちょっとルビー!」

 

 あーもう! メムってば、ルビーに余計なこと言っちゃって〜! 別に私はアイツのことなんて……まぁ、好きなんだけどさ……素直にアンタらに言うと思う!? 恥ずかしくて言えるか!

 

「先輩。じゅうくんは手強いよ? あの子の恋愛に関しては、正直姉の私から見てもどんな娘がタイプなのかも謎なんだよね」

「確かに。2次元の女の子ばっかり推してるから理想高そうだよね〜」

「言えてる〜!」

 

 そんな事、アンタに言われなくても分かってるわよ。そうね……アイツがどんな女が好みなのか、ライブ終わりにでも聞いてみようかな。

 





有馬かな視点の話を書いてみたよ
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